うちの社員事情
この日はボクが早番。
厨房に入ってすぐに異変に気づいた。
コンロの上の棚にピンクの粉がびっしり積もってる。
よく見るとその周辺の壁にもピンクの粉が投げつけられたような形跡が。
フライヤーに油をいれて点火すると、グツグツと泡のようなものが。
なにこれ?
コンロの上の棚は粉まみれやのに、コンロの台は綺麗な状態。
ってことは、粉は棚だけにかけられたんか?
そしてボクが出した答えは・・・
「害虫駆除業者の仕業や!!」
あいつらめ!!
以前も下の倉庫の床が駆除の液体でビチョビチョになってて、ロッカーもちょっと前に移動させたまま駆除終わらせてたからな。
あの時は文句言いにいって、床を拭かせてロッカー元の位置に戻させて終わったけど。
これを気に破門にしたる!!
などと考えながら、仕込みを終わらせて防災センターへ文句を言いに。
「すみません。昨日の夜って害虫駆除はいられました?」
・・・今思えば低姿勢で聞きに行ってよかったと心底思う。
『いや・・・害虫駆除は先週の水曜日ですね~。どうされました?』
「今朝きたら厨房のコンロの上の棚とかにピンクの粉が積もってたんですよ」
『ピンクの粉ですか?・・・ピンクピンク・・・』
「はい。なんなんでしょうか?」
『ひょっとしたら消火剤じゃないですかね?』
「消火剤?」
『はい。煙とかに反応して上から消火剤がふってくるんですよ。確かあれ、ピンクやったような』
「夜中に勝手に作動したってことですか?」
『勝手に・・・ってことはないと思うんですが。昨日の夜に警報器が作動したとか』
「ああ、それはないですね。昨日はうちの社員が最後までやってましたが、そんなこと何も言うてなかったんで」
『ちょっと見に行ってもいいですか?』
「お願いします」
と、店に向かってる間に悪い予感が。
ひょっとしたら昨日の夜に作動したんちゃうか?
あの粉が消火剤やとしたら、コンロも粉まみれになってなおかしいし。
棚の上だけ粉まみれでコンロは綺麗ってことは、誰かが掃除したってことやし。
昨日の夜はどこの業者も入ってないからな。
昨日ラストしたT井さんがいてる時に作動したんやったら、なんか納得いく。
いやいや。でもそんなこと黙ってるはずないし。
昨日の夜にT井さんからメールで受けた報告は【本日の売上】と【明日ナスを買ってきてください】との2つだけ。
と思いながらも一応T井さんに電話をしてみる。
が、何回かけてもつながらへん。
そして防災センターの人に確認してもらったところ、やっぱり消火剤。
調べてもらうと、警報器のボタンが押されてた。
って、分かった時にT井さんから電話が。
『もしもし、T井です』
「あ、休みのところすみません」
『いえ、どうされました?』
「昨日なにか変わったことありました?」
『・・・ありました』
犯人、判明。
「すみません。うちのもんが誤って警報器のボタン押したみたいです」
と、防災センターの人に平謝り。
調べてもらうと、消化器2本分の粉と、なんかわからんけど4袋分の液体が全て空っぽになったんだと。
そのお値段なんと、
にじゅうにまんえん!!
まじか・・・
アイツ、まじか・・・
昼過ぎにT井さんが店にやってきた。
とりあえずやってしまったことに対してうだうだ言うても仕方がない。
問題はなぜ黙ってたのか?
『申し訳ないです。ボクの中で報告するようなことではないと判断したので』
まじか・・・
コイツ、まじか・・・
たぶん警報器のボタンを押して消化器2本分の粉と液体が上から凄い勢いでまき散らされたんやろう。
だって、油とかに点火したやつをも消火できるくらいの勢いがいるもんね。
それを、掃除して「はい!終わり!」で帰ったんかコイツは。
そして何事も無かったかのように寝たんか39才のコイツは。
どんなハートの持ち主の1児の父親や。
たまたまボクが早番やったから対応できたものを、これがパートさんやったらえらいこっちゃぞ、高3の娘を持つ父親よ。
22万円の利益をとるのが、どんだけ大変か。
もう上司に頭上がらへんようになってもうたやん。
ってか、頑張って働いてもらってるパートさんに申し訳ないわ。
T井さんは反省してる(みたいや)から、何も言わへんかったけど。
ガスの遮断弁のボタンと警報器のボタンを押し間違えるなんて安易な仕事の仕方をするようじゃアカンな。
実はうちの店、先月にも別件で窓ガラスを割って修理代20万ほどかかってる。
合計40万円。
どんだけ頑張って利益出しても取り戻せる金額じゃない。
もう笑うしかない。