金曜日の夕方、病室に訪問者が現れた。前回、Kについて知らせに来た看護師さんだった。「明日、Kの配下の者達が病院に来る事が分かりました。貴方が入院している証拠を得るためです。だから、明日は病棟から出ずに立て篭もって下さい。これはミスターJからの伝言です!売店に行くなら今の内に済ませて置いて」「貴方は、ミスターJとどういう関係があるんですか?」私は聞き返した。「遠い昔、私とミスターJは貴方の会社の組合を抑えていたの。組合をひっくり返された後、私は看護師になり今は老年科の副師長をやってるわ。会社のオジサン達も今の私を見破ることは無いでしょうね。安心して、ミスターJが動いている以上心配はいらない。私も院内で見守っている。とにかく明日は病棟から出ない事!そうすればKは手も足も出せないわ」「分かりました。早速買い出しに行ってきます」私はそう言って、財布を取り出した。「私は、Aと言うの。何かあれば呼んでくれればいいわ。明日、明後日は病棟の上に居るから。以外に院内に貴方の味方は多くいるのよ。じゃあお願いね」そう言って彼女は帰って行った。私は売店に行き、2日分の買い物をして病室へ戻った。「籠城戦ですか、兵糧攻めは通用しないが、Kもここには入れない。しびれを切らすのは誰だろう?」私は何が起こっているかは知らなかったが、不安は感じなかった。ミスターJがいずれ私に知らせをよこすと信じて。
Kは、改めて思いを巡らせていた。今までは、関東方面へ私が向かったと言う情報を元にして探索を進めた。だが、あまりにも探す範囲が広大で無駄足ばかりだった。対象を絞る必要があるが、私は何処に潜伏しているのか?「相手はY副社長だ。俺達のウラを突いているに違いない。ひょっとすると足元、大学病院に隠れ失せている事は否定できないな!」Kはうつろ気に呟いた。ただ、気になる事がない訳ではなかった。目の届きやすい範囲にY副社長が匿っている事も否定出来ない。「だとすると、横浜、川崎、町田あたりか?神奈川に絞るべきだな!」だが、まずは大学病院の状況を見極める必要がある。「可能性は低いが、ゼロではない。正面からの突撃は無理だ。搦め手の木戸をこじ開けられれば・・・」その時、電話が鳴った。転げるようにして受話器を掴んだKの耳元にXの声が聞こえて来た。「おう、Xどうだった?」Kは期待を込めて聞いた。「すみません。音沙汰なしです。病棟の入り口とエレベーターホールを中心に監視をしましたが、ヤツの姿は確認できませんでした。明日も張り込んでみますが、病棟に潜入を強行しますか?」Xは結果が出なかった事に対して焦りを滲ませていた。「いや、潜入はマズイ。返って監視が強まるだけだ。それより、仲間内に看護師に繋がっているヤツは居ないか?兄弟、親戚、友人に看護師が居るヤツだ!」Kは興奮しつつXに問うた。「確か2人、友達に看護師をやっているのが居たはずです・・・」「よし、至急そこへ繋ぎを付けろ!看護師繋がりで大学病院へたどり着けるかも知れんし、ウラ情報が取れれば儲けものだ!」Kは興奮していた。Xは「病棟の監視はやりますか?」と聞き返した。「うーん、やるとしても後、半日だろうな。今日で既に逆監視の目が付いている恐れがある。DBの時にやり過ぎたからな!向こうも馬鹿ではない。ともかく半日で撤収しろ!正面はここまでだ。搦め手からの攻撃に期待する」Kはいつになく慎重な姿勢を見せた。「それからなX、横浜近辺の病院のリストを至急揃えてくれ!精神科病棟のある大病院だけでいいから。ひょっとすると我々は、後手を踏み続けている危惧がある!」「分かりました。月曜の夕方までにはお届けに上がります。」Xは神妙に答えた。「看護師の方も出来る限り早く手を付けてくれ。情報が得られるのならば俺は買うぞ!」Kは吠えた。Xは「急いでかかります」と言った。久しぶりのKの咆哮にXも気持ちが高ぶっていた。「1週間以内に成果を出して見せます!」「頼んだぞX!」Kの口元が緩んだ。電話を終えたKは縁側の池に向かった。色とりどりの金魚が泳いでいる自慢の場所だ。「今度こそいぶり出して見せる!ヤツは修行に行くのだ!DBの敵討ち、Kが果たして見せようぞ!!Y副社長、アンタの負けだ!!!」Kは強烈な火の玉と化していた。
「驚いたよ!なんてクリアな音声だ!これが盗聴の結果とはとても思えん!」I氏は唸るしかなかった。「Xの奥さんの協力の賜物ですよ。K達も足が付くのを恐れて固定電話で連絡を取っているんです。受信機に直接細工をしてあるのですから、雑音も無いクリアな音声が得られるんです」ミスターJは事も無げに答えた。「これでKの動きは確実に分かるが、Xの方の二重スパイ工作はどうするんだ?」I氏はミスターJに詰め寄った。「もう落ちてますよ」ミスターJは素知らぬ風で答えた。「何、落ちてる?!Xは協力するのか?!」I氏は目をむいた。「そうです。もうY副社長との取引も成立しています。身の保証と貶められた地位の回復を条件にね。他の10名はXが説得して上申書を提出してます。Kは丸裸同然ですよ。本人はまったく気づいてませんが・・・」さらりとミスターJが言うのでI氏は声を失った。「詳しい経緯は私も知りません。しかし、XがKに握られていた弱みについて、Y副社長に全てを話して許しを請い、Y副社長もK・DB殲滅に全面協力をする事を条件に折り合った様です。この間、貴方と電話で話した後、すぐにX宅へ行きましてね、奥さんと説得を試みたんです。ヤツも愚かではありませんから、苦しみから逃れられるなら何でもすると言って同意したんです」「じゃあ今の会話は・・・」I氏は恐る恐る切り出した。「そうです。Xは全てを承知で喋ってますよ。良く聞けば分かりますが、Xは必要な事以外は喋ってませんよね。Kが重要な事を話すようにわざと仕向けるようにしているんです。これを教え込むには少々骨が折れましたが」「そうか!そう言う事か!Kから情報を引き出しやすいように、自分を抑えているのか。Kに喋らせる事で必要な情報を得ていると言う訳か」I氏は何度も頷きながら言った。「だが、看護師ルートはどうする?Kに気取られないように切り抜けるにはどうするつもりだ?」確かにI氏の懸念は的を射ている。だが、ミスターJは動じる事も無く平然と言った「看護師ルートを逆探知した所、大学病院へ繋がっている事は確認しました。Kの見込みは当りでした。しかし、大学病院には爆弾が仕掛けてあります。Kがたどり着くのは、貴方もご存じのAなんです。私とAの関係は説明する必要はありませんよね。Aから得られる情報には、彼が神奈川の病院に潜伏していると言う内容です。Kの目は大学病院から神奈川へと逸れる仕掛けです」「Aとは、懐かしい名前だ。彼女が協力するのか?」「そうです。彼女のご主人とご子息も協力してくれます」「Aの家族まで協力するとは、どういう事だ?」I氏は怪訝な表情を浮かべた。「ご心配なく、Aが手渡す神奈川の病院の情報とは、Aのご主人とご子息が勤務している病院なんです。Y副社長も毎回人間ドックで利用されているこの病院には、閉鎖病棟があるんです。患者との面会には警察の留置場と同じ構造の接見室を利用するしかありません。だからそこを選んだのです。後は接見室を包囲すればいい。Y副社長もご満足そうでしたよ」I氏はまたしても沈黙した。「Aも私もそうですが、昔の恩讐でやってはいません。K・DBのやった事は人の道に外れた行為。そんな奴らがぬくぬくと生きて、彼が一身に負の荷物を背負わされる。こんなことは誰が見てもおかしいことです。ある意味Xも犠牲者です。真面目に一生懸命に生きようとしている中、不条理を盾に崖から転がり落される者がいる。こんなことはもうあってはならない。これきりで終わりにしたい。Aも自分の患者に対して、酷い事を画策するK・DBの非道は自分の手で止めると言ってました。私も彼を救うことで間違いを改めたい、改めて欲しい、その一心でやってるんです。ほかの仲間たちもそうです。悪逆非道を止めるためなら、協力は惜しまない。無理を承知でやってくれる。これは、思想信条を超えた人道支援ですよ」ミスターJはよどみなく話すとI氏に「これを密かにY副社長の元へ届けてください。マスターは私が責任を持って管理します」と言ってテープを差し出した。「これは俺からの報告書と共に極秘に送るよ」I氏は懐にテープをしまい込むと「彼を救う事は会社の使命だ。俺だって悪逆非道を黙認するつもりはないよ」と言ってミスターJと握手を交わした。「今度こそ倒して見せる」二人の共通の目標が決まった。
Kは、改めて思いを巡らせていた。今までは、関東方面へ私が向かったと言う情報を元にして探索を進めた。だが、あまりにも探す範囲が広大で無駄足ばかりだった。対象を絞る必要があるが、私は何処に潜伏しているのか?「相手はY副社長だ。俺達のウラを突いているに違いない。ひょっとすると足元、大学病院に隠れ失せている事は否定できないな!」Kはうつろ気に呟いた。ただ、気になる事がない訳ではなかった。目の届きやすい範囲にY副社長が匿っている事も否定出来ない。「だとすると、横浜、川崎、町田あたりか?神奈川に絞るべきだな!」だが、まずは大学病院の状況を見極める必要がある。「可能性は低いが、ゼロではない。正面からの突撃は無理だ。搦め手の木戸をこじ開けられれば・・・」その時、電話が鳴った。転げるようにして受話器を掴んだKの耳元にXの声が聞こえて来た。「おう、Xどうだった?」Kは期待を込めて聞いた。「すみません。音沙汰なしです。病棟の入り口とエレベーターホールを中心に監視をしましたが、ヤツの姿は確認できませんでした。明日も張り込んでみますが、病棟に潜入を強行しますか?」Xは結果が出なかった事に対して焦りを滲ませていた。「いや、潜入はマズイ。返って監視が強まるだけだ。それより、仲間内に看護師に繋がっているヤツは居ないか?兄弟、親戚、友人に看護師が居るヤツだ!」Kは興奮しつつXに問うた。「確か2人、友達に看護師をやっているのが居たはずです・・・」「よし、至急そこへ繋ぎを付けろ!看護師繋がりで大学病院へたどり着けるかも知れんし、ウラ情報が取れれば儲けものだ!」Kは興奮していた。Xは「病棟の監視はやりますか?」と聞き返した。「うーん、やるとしても後、半日だろうな。今日で既に逆監視の目が付いている恐れがある。DBの時にやり過ぎたからな!向こうも馬鹿ではない。ともかく半日で撤収しろ!正面はここまでだ。搦め手からの攻撃に期待する」Kはいつになく慎重な姿勢を見せた。「それからなX、横浜近辺の病院のリストを至急揃えてくれ!精神科病棟のある大病院だけでいいから。ひょっとすると我々は、後手を踏み続けている危惧がある!」「分かりました。月曜の夕方までにはお届けに上がります。」Xは神妙に答えた。「看護師の方も出来る限り早く手を付けてくれ。情報が得られるのならば俺は買うぞ!」Kは吠えた。Xは「急いでかかります」と言った。久しぶりのKの咆哮にXも気持ちが高ぶっていた。「1週間以内に成果を出して見せます!」「頼んだぞX!」Kの口元が緩んだ。電話を終えたKは縁側の池に向かった。色とりどりの金魚が泳いでいる自慢の場所だ。「今度こそいぶり出して見せる!ヤツは修行に行くのだ!DBの敵討ち、Kが果たして見せようぞ!!Y副社長、アンタの負けだ!!!」Kは強烈な火の玉と化していた。
「驚いたよ!なんてクリアな音声だ!これが盗聴の結果とはとても思えん!」I氏は唸るしかなかった。「Xの奥さんの協力の賜物ですよ。K達も足が付くのを恐れて固定電話で連絡を取っているんです。受信機に直接細工をしてあるのですから、雑音も無いクリアな音声が得られるんです」ミスターJは事も無げに答えた。「これでKの動きは確実に分かるが、Xの方の二重スパイ工作はどうするんだ?」I氏はミスターJに詰め寄った。「もう落ちてますよ」ミスターJは素知らぬ風で答えた。「何、落ちてる?!Xは協力するのか?!」I氏は目をむいた。「そうです。もうY副社長との取引も成立しています。身の保証と貶められた地位の回復を条件にね。他の10名はXが説得して上申書を提出してます。Kは丸裸同然ですよ。本人はまったく気づいてませんが・・・」さらりとミスターJが言うのでI氏は声を失った。「詳しい経緯は私も知りません。しかし、XがKに握られていた弱みについて、Y副社長に全てを話して許しを請い、Y副社長もK・DB殲滅に全面協力をする事を条件に折り合った様です。この間、貴方と電話で話した後、すぐにX宅へ行きましてね、奥さんと説得を試みたんです。ヤツも愚かではありませんから、苦しみから逃れられるなら何でもすると言って同意したんです」「じゃあ今の会話は・・・」I氏は恐る恐る切り出した。「そうです。Xは全てを承知で喋ってますよ。良く聞けば分かりますが、Xは必要な事以外は喋ってませんよね。Kが重要な事を話すようにわざと仕向けるようにしているんです。これを教え込むには少々骨が折れましたが」「そうか!そう言う事か!Kから情報を引き出しやすいように、自分を抑えているのか。Kに喋らせる事で必要な情報を得ていると言う訳か」I氏は何度も頷きながら言った。「だが、看護師ルートはどうする?Kに気取られないように切り抜けるにはどうするつもりだ?」確かにI氏の懸念は的を射ている。だが、ミスターJは動じる事も無く平然と言った「看護師ルートを逆探知した所、大学病院へ繋がっている事は確認しました。Kの見込みは当りでした。しかし、大学病院には爆弾が仕掛けてあります。Kがたどり着くのは、貴方もご存じのAなんです。私とAの関係は説明する必要はありませんよね。Aから得られる情報には、彼が神奈川の病院に潜伏していると言う内容です。Kの目は大学病院から神奈川へと逸れる仕掛けです」「Aとは、懐かしい名前だ。彼女が協力するのか?」「そうです。彼女のご主人とご子息も協力してくれます」「Aの家族まで協力するとは、どういう事だ?」I氏は怪訝な表情を浮かべた。「ご心配なく、Aが手渡す神奈川の病院の情報とは、Aのご主人とご子息が勤務している病院なんです。Y副社長も毎回人間ドックで利用されているこの病院には、閉鎖病棟があるんです。患者との面会には警察の留置場と同じ構造の接見室を利用するしかありません。だからそこを選んだのです。後は接見室を包囲すればいい。Y副社長もご満足そうでしたよ」I氏はまたしても沈黙した。「Aも私もそうですが、昔の恩讐でやってはいません。K・DBのやった事は人の道に外れた行為。そんな奴らがぬくぬくと生きて、彼が一身に負の荷物を背負わされる。こんなことは誰が見てもおかしいことです。ある意味Xも犠牲者です。真面目に一生懸命に生きようとしている中、不条理を盾に崖から転がり落される者がいる。こんなことはもうあってはならない。これきりで終わりにしたい。Aも自分の患者に対して、酷い事を画策するK・DBの非道は自分の手で止めると言ってました。私も彼を救うことで間違いを改めたい、改めて欲しい、その一心でやってるんです。ほかの仲間たちもそうです。悪逆非道を止めるためなら、協力は惜しまない。無理を承知でやってくれる。これは、思想信条を超えた人道支援ですよ」ミスターJはよどみなく話すとI氏に「これを密かにY副社長の元へ届けてください。マスターは私が責任を持って管理します」と言ってテープを差し出した。「これは俺からの報告書と共に極秘に送るよ」I氏は懐にテープをしまい込むと「彼を救う事は会社の使命だ。俺だって悪逆非道を黙認するつもりはないよ」と言ってミスターJと握手を交わした。「今度こそ倒して見せる」二人の共通の目標が決まった。