limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

ミスター DB ㊱

2018年08月25日 22時15分06秒 | 日記
Kが、横浜のPホテルへ車で乗り付けたのは、昼前だった。「やれやれ、やっと到着だ。最期に一人でこんな長距離を運転したのは、いつだったかな?機密保持のためとは言え、随分遅れてしまった」地下の立体駐車場へ車を押し込んで、フロントへ行きチェックインを済ませる。部屋の鍵を受け取り、荷物を部屋まで運んでもらうカートの到着をソファーで待った。ただ、その一部始終は、既にミスターJが派遣した追跡部隊の2名によって監視されていた。Kは、まだ全てが「露見」しているとは知る由も無かった。美人の客室係の女性に促されたKは、ご機嫌でエレベーターに乗った。客室係の説明に聞き入っていたヤツは気付かなかったが、追跡部隊の1名はエレベーターの隅に潜り込んでいた。7階でエレベーターは止まり、ヤツは客室係の女性と共に降りて行った。エレベーターは上昇し8階で止まった。透かさず携帯を取り出した追跡部隊の1名は「Kの客室は7階、724号室だ」と囁いた。「気取られずに張り込める位置に居るか?」と応答があり「エレベーターホールのソファーから見える位置だ。張り込みを開始する!」と告げた。「了解、いいか絶対に気付かれるな!危険を察知したら4階へ降りてこい!」と指示が飛んだ。「了解」男はそう言って携帯を切ると、何食わぬ顔で週刊誌を広げてソファーに座り込んだ。

Kの到着は、直ちにY副社長へ伝達された。「7階、724号室だな?了解した。秘書課長、厄介な事を命じて済まない。だが、君達がもたらしてくれる情報が、今後を大きく左右するのだ。今日一日、しっかりと頼む。それから、ミスターJが派遣した追跡部隊の方々に伝えて欲しい事がある。ホテル代と食事代は私が持つとな。秘書課長、例のカードを持っているな?それで清算をしてやってくれ。現金で支払った分は、後で各自に補填する。彼らは命懸けで働いてくれているのだ。カネの心配をさせてはダメだ。それと、ホテルの客室係を至急呼ぶんだ!パスワードは“セブンシスターズ”だ。そうすれば必要な機器が手に入るとな。何をするのか知りたい?それは、見ていれば分かる!だが、秘書課長、そこで見聞きした事は他言無用だ!他の2人にもよくよく釘を刺して置け!深入りし過ぎると、あらぬ疑いが君達に及びかねない!あくまでも彼らの指示に従い、サポートに徹するのだ!また、動きを捕えたらこの携帯にかけてくれ!時間など気にすることは無い。今はKが最優先事項だ。では、宜しく頼む」携帯を切ったY副社長は、社員寮を呼び出した。「私だ。DBはどうしている?まだ、動きは無いか。分かった。そうだ。DBが外出したら、直ちに私に連絡を入れるんだ!時間は関係ない。とにかく直ぐにだ!その際は、服装や持ち物も見ておいてくれ。そっちの方がより重要だ!帰ってきた際も良く観察していてくれ!勿論だ。遅くなっても構わん。では、頼んだぞ!」社員寮への電話を切ると、Y副社長はコーヒーを運ばせてから、デスクの地図に目を落とした。Z病院がある地点だった。「いつ、現れるか?今日か?明日か?まあ、いずれにしてもミスターJが手を回してある。簡単には事は運ばせん!足掻け、もがけ、這いつくばれ!私を甘く見た報いを受けるがいい、K!DB!」微かな笑みを浮かべながら、Y副社長はコーヒーをゆっくりと口元へ運んだ。

秘書課長から話を聞いた男は、早速客室係を呼び出した。「4階の421号室なんだが、パスワード確認をしたい。そうだ、“セブンシスターズ”だ。えっ?!手荷物をまとめて待っていろ?ああ、分かった」男は振り向くと全員に向かって「手荷物をまとめて下さい。部屋を移動します」と告げた。更に携帯で「Kの動きは?まだ何もなしか。済まんがラウンジへ降りて、DBの到着を待ってくれ。こちらは部屋を移動する。場所は追って指示する」男が携帯を切った瞬間、ドアをノックする音が聞こえた。男は慎重に外を伺ってからドアを開けた。一人の女性がドアの前居た。「お待たせいたしました。お部屋へご案内します。荷物をお持ちになって下さい」男は囁くように聞いた。「なぜ、部屋を移るんだ?」女性は静かに小声で「ミスターJの指示です。静かに落ち着いてついて来て」と言った。1フロア上がった5階に案内された一行は、かなり広い部屋に入った。応接スペースが付いたツインルームだ。予備のベッドを出せば、3人は泊まれそうだった。客室係の女性は、慎重に廊下を見てからドアを閉めて話し始めた。「皆様、お疲れ様です。私はミスターJの同志です。ここは、ミスターJが司令部として使われるお部屋です。現在、神奈川全域の同志達が、指定された配置へ向かっています。ですが、まだ完全な展開は完了していません。ミスターJも夕方にはここへ入られます。それまでの間、皆さんでKの部屋を監視するために、このお部屋をお使いください。お食事はあちらにご用意させていただいております。皆さんお腹がすいていらっしゃいますよね?」時計の針は、午前11時を過ぎたところにあった。腹が減っては戦は出来ない。一同は思わず顔を見合わせうなずいた。「それともう一つ。ミスターJの指示でご用意したモノがこちらです」女性の指さす方向のテーブルには、テープレコーダーと無線機の様な機器が置かれていた。男は、はっとして聞いた。「まさかとは思うが、“耳”か?」「そうです。Kが滞在している部屋には“耳”が付いています。昨夜のうちに仕掛けて置いたものです。これで手の内はすべて記録されますし、リアルタイムで聞くことができます」女性がスイッチを入れると、ガタゴトと物音が聞こえた。「Kは部屋の中を調べまくってます。でも、この“耳”は発見できないでしょう。無駄な努力をしてますわ」女性は微かに微笑みながら言った。「どうしてそう言い切れる?」男は女性の自信たっぷりの様子に不安そうに噛みついた。「Kが探知機を持っていない事は分かっています。探知機だって電波を出しますもの。私の実家は小さな電器店を営んでいますので、主人はこうした電波機器に精通しています。“耳”はKに絶対分からない場所で、部屋中の会話を拾える場所に隠してあります。あそこです」彼女は天井の煙探知機を指さしていた。「なるほど、一見煙探知機だが、中身は別物。そう言う訳か」男は感心して頷いた。「はい、ですので気付かれる事はありません。ご安心ください。他に必要なものは私にご連絡いただければ、すぐに持って参ります。番号はこちらです」女性は男にメモを渡した。「恐らくKは、まもなくDBを呼び出すでしょう。ホテルの電話か携帯かは分かりませんが、いずれにしても会話は全て聞き取れますし、テープに録音されます。今のうちに交替で食事を摂られる事をお勧めします。では、皆様ごゆっくりお過ごし下さい」一礼した女性は慎重にドアを開けて下がっていった。「ここも大丈夫。後は引出しとテーブル周りとベッドの周囲だ!」Kの「無駄な努力」の声と音が聞こえていた。秘書課長は男に聞いた。「貴方達の仲間は、どのくらい居るんですか?」「私も正確には知りません。私も彼女とは初対面です。ですが、関東甲信には様々な仕事をしながら、協力を惜しまない仲間が居るのは確かです。そうした仲間達を統率しているミスターJは、文字通り大物なんですよ」男も改めてミスターJの大物ぶりを目の当たりにして、驚いている様だった。「とにかく、彼女の言う通り、まずは昼にしましょう。まだ、先は長いですから」「そうだね、そうしよう。おい、誰かお湯を沸かしてくれ。お茶かコーヒーを淹れよう。局面が動く前に休んで置こう」「私は、ラウンジの連中と交代して来ます。ドアチャイムを2度鳴らしたらドアを開けてください。開ける前に外の気配を伺うのを忘れずに!」男は部屋から急いで出て行った。秘書課長は「俺がまず聞き役になる。その間に食事を済ませてくれ。局面が動く前に万全の準備が必要だ!」他2名は頷いた。“耳”からは、Kの呟きと室内捜索の音が聞こえていた。「ない、ない、あったら怖い」Kはしつこく部屋を嗅ぎまわっていた。

Kは、ホテルの部屋に通されてから、必死になって「あるモノ」を探していた。それは「盗聴器」であった。何しろここは「敵地」である。あらゆる用心に越したことは無いと、部屋のあらゆる場所を見て回ったのである。テレビドラマでは、コンセントの中や電話機の中に仕込まれている場面が多いし、ボタンのような小型のものがベッドやソファーの下側に張り付けてあるのも王道だ。Kは小型ドライバーを持ち込んでおり、部屋中至る所を開けたり分解したり、ベッドやソファーの裏を執拗に見て回った。1時間半かけての捜索の末、盗聴器らしきモノは無い事を確認したKは、ようやく安心して座り込んだのである。「機先を制すと言うが、これだけ調べても無いと言う事は、この部屋は安全だと言う証拠だな。やれやれ、これで何の不安も無くDBと話が出来る。そうだ!DBへ連絡をしてやらないといかん!大捜索に気を取られて、すっかり遅くなってしまった」Kは携帯を取り出し、DBへ電話を掛けた。「DB!着いたぞ!Pホテルの7階、724号室だ」DBは、Kがヘトヘトになっている事に不信を抱いた。「K!どうした?随分とへたり込んでるようだが、何があった?トラブルか?」「いや、ちょっとした老婆心だよ。来てくれれば説明する。これから出てこれるか?」DBはすぐに「もう、行く支度は出来ている。早速ホテルへ行くよ!」と即断した。「分かった。とにかくシャワーを浴びないと汗だくだ。1時間ぐらいか?」Kの問いかけにDBは「もっと早く着くよ。まずは、昼飯を食ってからだな。何か用意しようか?」と返した。「DB、それは俺が用意するよ。とにかく来てくれ。話は山の様にある!」Kは一刻も早く策を練りたかった。DBと相談する事、手筈を決める事、最後の決着までは、まだまだ長いのだ。「分かった。ともかくホテルへ行く。待っててくれ!」DBは寮の部屋を出て、玄関へ急ぎながら電話を切った。その姿をずっと注視している視線には気付かずに。「DBが寮を出た」と言う情報は、3分もたたずしてY副社長の元へ伝えられた。そして、Pホテルの秘書課長と追跡部隊にも急報が飛んだのは、言うまでもない。

DBがPホテルの7階、724号室へ到着した際、Kはバスローブ姿でドアを開けた。「よう、久しぶりだなDB!まあ、入ってくれ。食事が今しがた届いた所だ!」DBとKは固く握手を交わしてから、テーブルを挟んで向かい合わせにソファーへ座った。テーブル上には、昼食が置かれている。「随分早かったな。超特急での到着とは、恐れ入った」Kが言うと「気持ちが先行してね。早く情報を聞きたくて」とDBが返す。「食いながら話そう。腹が減っては、何とやらだ」Kは昼食に手を伸ばして、貪るように食べ始めた。DBも腹ごしらえを始めた。「何で、俺がこんな格好をしているか?それから説明しなきゃならんな。実は、盗聴器が仕掛けられていないかを調べ上げたんだ。ここは敵地だし、何があるか分からん!石橋を叩くのは当然だろう?」DBは「盗聴器?!そんなモノがあったのか?」と驚きの声を挙げた。「大丈夫だよDB、この部屋は安全だ。徹底的に洗ったが何も出てこなかった。俺達は半年前にYに痛い目に遭わされた。常にYは、俺達の手の内を知り、先手を打たれ、こっちは後手を踏み続けた。何故か?Yは独特の嗅覚を持っているのと同時に、俺達の近所に諜報員を送り込み、情報を統制していたんだ。そして、俺達は情報戦に敗れ下野するハメになった。」「そうだ。Yは先回りして常に優位に事を運んだ」DBも同じように半年前を回想して言った。「何が勝敗を分けたのか?俺はずーと考えたんだが、結論から言うと、つまるところ情報漏れだったんだよ。組織的に動員をかけ過ぎた。人手は多いには越したことはないが、組織的な統制を保つのが難しい。誰がどこまで知っていていいか?機密はどこまでオープンにするのか?前回は機密保持に穴が開いてしまい、そこに付け込まれた。何をやるのかを全員に知らせたが為に、Yが嗅ぎつけてしまった。だからこそ今回は、同じ轍を踏まない為に細心の注意を払った。これが、Xが手に入れたヤツの情報だ。」KはDBに書面を差し出しながら続けた。「今回は、Xだけが全てを知っているのみだ。俺は外部の人間だから、直接手は出せない。だが、情報は工場内部にある。工場での実行部隊の編制や情報獲得の為に、人手を集めたのはXだ。集められた連中は何も知らされていない。Xだけが俺とリンクして動き、情報は徹底して絞ったし、終始隠密に動いた。その結果がそれに書かれている極秘の情報だ」「Z病院?!目と鼻の先じゃないか!」DBが唸った。「木の葉の中に隠れていた訳か!Yの庇護を受けて。俺達は全然別の方向を向いていたのか。足元とは、気付かなかった!」「それがYの切れるとこだよ。足元なんて誰も意識して調べないと踏んだんだろう。ヤツが隠れるには都合がいい訳だ。だが、病状を記した2枚目を手に入れるのにTを動かした。そこが気がかりだったのだ。TはYのお気に入りだ。唯一、危険を冒したのがそれなんだが、TからYへ情報が渡っている可能性が否定できないから、盗聴器を探ったのだ。だが、それも杞憂に過ぎなかった」「この病状ランクBとは、どう言う意味だ?面会は可能なのか?」DBが指摘した。Kは「そこが今一つ分からないんだ。ABCの順にいい悪いを表していると思うのだが、どちらにせよ真ん中と言う事になる。つまり、息も絶え絶えから、スヤスヤお休みになっていると俺は踏んでいるがね。所で、Z病院について何か知っているか?」KがDBに確認をする。「あそこは、人間ドックの指定医療機関になってるよ。Yは毎年、Z病院でドックを受けている。地域の一大拠点病院だ。横浜本社から車で10分もあればたどり着く。外来棟へは入った事はあるが、病棟には行ったことは無い。経路は知っているが。確か、外来棟の入院係の前に、病院のフロアガイドがあったはずだ。それを見れば概要は掴める」DBは記憶を手繰り寄せながら言った。「どの道、偵察には行かなきゃならん!Z病院へはここからどのくらいかかる?」Kが尋ねた。「地下鉄とバスを乗り継いで、そう40分ぐらいだろう。車を出すと返って時間がかかる。市内を突っ切って北へ出るのに渋滞にハマる。交通機関の方が早い!」「よし、まずはZ病院へ様子を伺いに行こう!今日はフロアの偵察と突入・脱出経路の確認だ!2人なら目立つことも無いだろう。その為に、実働部隊は我々だけに絞ったのだ。俺は着替えて来るから、最短経路を考えてくれ。DB、道案内は任せる」そそくさとKは着替えに消えた。DBは路線図を開いて経路を調べ始めた。2人は気付いていなかったが、階下の司令部ではそれぞれに配置への移動が開始されていた。「急げ!何としても先回りして、頭を押さえるんだ!ヤツらの動きを見逃すな!」散っていく急造部隊も必死に情報を掴むため、喰らい付こうとしていた。いよいよ、舞台の幕が上がったのだ。