limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

ミスター DB ㉟

2018年08月24日 23時03分37秒 | 日記
月曜日、DBは福岡空港へ降り立った。久々の帰国にDBの表情は緩み切っていた。新幹線の切符を買う際「どうせならグリーン車に乗るか」と自分への褒美のつもりで、カネを惜しまなかった。ケチをしなくても「手当」がガッポリ入るのだ。このくらいのは「贅沢」とは思いもしなかった。定刻通り新幹線は東へ向かって走り出した。「おっと、携帯の電源を切りっぱなしだ」DBは携帯を引っ張り出して、電源を入れた。すると、着信履歴がズラリと並んだ。「なんだこりゃ?」ここ3日の間に20件を超す同一着信がある。それは、Kの自宅からだった。「何事だ?」DBは不審に思い、デッキへ移動してKの自宅へ電話を掛けた。するとKの興奮した声が届いた。「DB!!今、どこに居る?」「今、韓国からの帰りで新幹線の中だが、どうした?何かあったのか?」Kは興奮を必死に抑えて「DB!良く聞け!遂に、遂にあの憎らしいヤツの尻尾を掴んだぞ!ヤツの潜伏先が分かったのだ!!」「何!!それは確かか?!」DBは雷に打たれたような衝撃を受けた。「ああ、間違いない!Xが必死に働いた成果が実ったのだ!夕方には居場所を突き止めた書面を持ってくる手筈になっている。今度こそ、捕縛して修行に送り込んでやる!」DBとKには万感の思いが込み上げていた。「Kよ、どうやって突き止めたんだ?!あれだけ手を尽くしても見つからなかったヤツをどうやって燻りだしたんだ?!」DBは不思議そうに言った。「大学病院の搦め手口を当たったのだ!看護師を買収して、転院先を聞き出した。情報は疑う余地はない。100%ヤツはそこに潜んでいる!それで3日前から連絡しようとしていたんだ。喜べDB!今度こそヤツを打ち取れるんだ!我々の勝利は確定した!!早速、祝杯を挙げようじゃないか!!所で、お前の休みは何時だ?」「明日から2週間の休暇だよK!何と言う幸運だろう。俺も早くヤツの潜伏先を聞きたくてウズウズしているよ!当然、すぐに乗り込むんだろうな?!」「いや、偵察をしてからだ。急いては事を仕損ずるからな!どっちにせよ、俺は明日の朝、横浜へ向かう。伊勢佐木町のPホテルを予約してあるんだ。アンタと合流してから、段取りを組もう!ここからは、2人でやらなきゃならん。慎重に計画を練ろうじゃないか!」DBの焦りを抑える様にKは言った。「K殿御自らのご出馬とは、恐れ入る。X達はどうするんだ?手が足りないぞ!」DBはKの言葉に些か驚いた。手は多いに越したことは無いのにどうして?「DBよ、X達には手を引いて貰う事にする。半年前に多大な犠牲を出して、彼らは貶められた。今回の計画にこれ以上加担すれば、X達は失職するよ。彼らには生活が懸かっているし、まだ先の人生がある。俺は会社とは関係ない身分だ。何があっても問題は無い。だが、もし万が一にも失敗した場合を考えると、若いX以下の連中にはリスクを負わせる訳にはいかない!既に危ない橋を幾度も渡らせた。だから、あくまでも主犯は俺で、手を貸すのがDB、アンタの役割だ。いざという時は俺に全てを被せて、アンタも逃げられるように考えを巡らせる必要があるんだ!それが俺の思いだ!」Kはよどみなく話した。「K、命を賭けると言うのか?!」DBは茫然と聞いた。「そうだ。今回に全てを賭ける!恐らく2度とこんなチャンスは無いだろうよ。だからDB、アンタにも腹を括って貰いたい。K一世一代の作戦に乗るには、相応の覚悟がいる。いいな!主犯は俺でアンタは協力しただけだ!そうすれば、逃れる術はある。どうする?DB、乗るかね?」Kは決断を迫った。「勿論、乗る!この機を逃す訳にはいかない。俺も全てを賭けようじゃないかK!」DBは断を下した。「分かった。2人でやろうじゃないか!ヤツを今度こそ殲滅するんだ!」Kも同意した。「ともかく、まずは落ち着いて話す必要がある。明日Pホテルで落ち合おう。まずは、横浜に無事に帰るんだ。」「承知したよ。Pホテルに着いたら連絡を入れてくれ。それまでにすべての仕事を片付けて置くよ」「背中にはくれぐれも用心しろ!明日、Pホテルで待っている。今度こそケリを付けようじゃないか!じゃあ宜しく頼む」電話を切ったDBは気持ちを必死に抑えて座席へ戻った。「今度こそ、決着だ!首を洗って待っていろ!!」高揚感が疲れを吹き飛ばしていた。KとDBは横浜へと急いだのだった。

「ミスターJ、XがKの自宅から戻りました。貴方に話があるそうです!」Kの自宅を監視している監視員からミスターJへ連絡が入った。「すぐに換わりたまえ!X、聞こえるか?Kはどうだった?」「はい、Kは満足そうにブツを受け取りました。そして、明日の朝には出発すると言ってました。宿泊先は、横浜市伊勢佐木町のPホテルです。決着が付くまで自宅には戻らない様です。それと、ここから先は手を引けと言われました。KはDBの援護を受けて、単独で事を起こす気配です!」Xはやや緊張気味だった。「了解した。Xよ、Kの言う通りに君達はもう手を引くんだ!これ以上関わってはならん!ただ、Kから接触があった場合は、私に知らせて欲しい。連絡先は、そこに居る私の仲間から聞いてくれ。後は私達の手で間に合う」「ミスターJ、本当に大丈夫なんですね?」Xが不安そうに尋ねた。「もう、心配はいらない。大丈夫だ。Y副社長は約束を必ず守る方だ。君達は別にやることがあるだろう?本業に専念するのだ。Nデジタルの量産化こそ最大の恩返しになる。君はもう帰りなさい」「分かりました。ミスターJ、成功を祈ります」Xは連絡先を確認すると引き上げて行った。「監視員、君達も引き上げていい。Kの足取りは掴めた。追跡部隊、聞こえるか?Kの行先は聞いた通りだ。君達は、今夜中に出発だ。先回りしてPホテルのラウンジで待機せよ。Y副社長達の部隊との合流については、追って指示する。くれぐれも気付かれることはするな!遠巻きに監視するんだ!」「追跡部隊、了解。追っての指示を待ちます」ミスターJは、各部隊に指示を出し終えると、振り返り別の仲間に声をかけた。「I氏に連絡を付けてくれ。私はAと横浜での部隊展開の打ち合わせがある。Y副社長にも至急知らせなくてはならん!」「分かりました」仲間はすぐにI氏宅へ電話をかけた。ミスターJは、Aとの協議を急ぐべく別の受話器を取り上げた。

「Iか、なに、Kの宿泊先が分かったのか?!伊勢佐木町のPホテルだな。裏は取れているのか?XにKが漏らしたのか。それなら間違いはあるまい。ミスターJの追跡部隊は先行して今夜出るのか?ホテルのラウンジで合流だな。承知した。お恥ずかしい話だがウチが動員できる部隊は3名だ。貧乏所帯なのでな・・・、これ以上の人員は裂けない。ミスターJの協力を是非とも仰ぎたい。そうか、既に手配にかかっているのだな。ミスターJに礼を伝えておいてくれ!ウチの3名は、全員青いネクタイに黒の折り畳み傘を持って行かせる。パスワードは“アバダンへ行け”だ。そう伝えてくれ。そうだな、DBにも紐は付けておくか・・・、寮の連中に出入りを監視させよう。いよいよ、お出ましか・・・、歓迎会?!明日、社長室で開いてもいいが、君が来ないと意味は無いよ。分かった。後は任せてくれ!直ぐに吉報を届けられるだろう。うむ、ご苦労だった」電話を切ったY副社長は、ぬるくなったコーヒーを飲みながら椅子にもたれかかった。「遠方からの客人が、いよいよお出ましか。盛大に歓迎はしよう。だが、タダでは帰さぬ!縛に付くのはK、DB、お前達だ!」カップを置くとY副社長は背広に袖を通し、官舎へと引き上げて行った。

翌朝、Pホテルのラウンジに3名の男性社員が派遣された。指揮を執るのはY副社長の秘書課長であった。前夜、Y副社長から突然電話で指示を受け、取るものも取り敢えず駆け付けたのである。「青いネクタイに黒の折りたたみ傘を持っていけ!」と言う事と、「“アバダンへ行け”」のパスワードと「ミスターJの部下に会え」だけが手がかりだった。他の2名も「詳しい事は知らない」と言っていた。「誰と会えばいいんだ?」秘書課長は困惑していた。すると、グレーのスーツを着た小柄な目立たない男に声を掛けられた。「すいません、ライターを貸して頂けますか?」男は言った。「ああ、誰かライターを・・・、」と言うと男は小声で「パスワードを教えてください」と囁いた。秘書課長が「アバダンへ行け」と半信半疑で言うと、男は「付いて来て下さい。ここでは話は出来ません。キョロキョロしないで、前だけを見て!部屋へご案内します」と言って、秘書課長達をエレベーターへ乗せた。4階でエレベーターを降りて、ホテルの一室へと案内すると、男は鍵を掛けて慎重に廊下の気配を伺っていた。「貴方は誰です?」秘書課長が誰何すると、男は話始めた。「私の名前は知っていただく必要はありません。私はミスターJの部下です。Y副社長からお聞きになっていると思いますが、みなさんが初動部隊ですね?」「ああ、そう言うことになるのかな?何しろ私達は詳しい事は一切聞かされていないんだ。何をどうするのかね?説明をしてくれないと何も分からない」秘書課長は困惑を隠さない。「それでいいのです。皆さんは詳細を知らなくてもいいのです。私達3名の手助けをしていただければ、それで十分です。まず、皆さんはこの男を知っていますね?」男はDBの写真を配った。「知っている。DB課長だ」「そうです。次にお配りする写真は皆さんが知らない人物です」男はKの写真を配った。「誰なんだね?」「Kと言う悪人です。これから数時間後に、ここへ到着します。皆さんと私達3名の任務は、KとDBがここで合流して、どこへ行くのかを調べ監視する事です。そして、今日の2人の行動について、Y副社長に細大漏らさず報告をしていただく事です」男は事も無げに言ったが、秘書課長達は肝を潰した。「にわか探偵をやるのか?!」「そうです!DBにだけ気を付ければ、そんなに難しいことではありませんよ。ただ、私達は土地勘がありません。地下街や鉄道の駅のホームなど分からない事だらけです。そこで、急遽合同チームを組んで任務を遂行するんです」「つまりこう言う事か?KとDBについては君達がよく知っている。私達は、横浜の街を知り抜いている。水先案内人として君達を誘導し、その結果はY副社長に一から細大漏らさず報告する。そういう事かい?」秘書課長は怪訝そうに尋ねた。「そうです。にわかには信じていただけないのは承知の上です。私達のボス、ミスターJの予想を超えて、Kが素早く行動を始めてしまったために起こったミスマッチですが、何とか切り抜けてY副社長に情報を届けなくてはなりません。これから起こる大事件を食い止めるための第一歩として」男はそう言って地図を広げ始めた。「これから起こる大事件とは何だね?」秘書課長が男に尋ねた。「それは、私も知りません。私の任務は初動の捜査を命じられただけで、事件の詳細を知っているのは限られた人、ごく一部の人々だけです。申し訳ありませんが、お答えしようにも知らない事までは答えられません」「分かった。Y副社長が話さなかったのは、機密が漏れるのを防ぐためだろう。事は私達の想像を超えた事件で、それをY副社長達が全力で阻止するつもりなのだろう。2人共聞いてくれ。我々の働きが事を左右するかも知れないとしたら、大変だがともかくやるしか無い。ミスターJの部下と協力して事に当たろう!Y副社長に選ばれたと言う事が何よりの証拠だ」秘書課長は、事の重要性に気付いた。他の2人も頷いた。「まず、何からかかる?Kとやらの到着の確認か?」「他の2名が既に下でやってますよ。ヤツが着いたら携帯で知らせてきます。それまでに、まずここの周辺の地理を教えてください。中華街へ向かうとしたら、何処を通って行くのですか?」男が問いかける。「そうだな・・・、鉄路ならここからか?車で移動するとしたら、駐車場はここか?」少しづつ地図に書き込みやシールが貼られ、駅の構造や駐車場の位置と構造なども書き込まれていった。新横浜やみなとみらい地区も、次々と同じようなシュミレーションが検討され地図に書き込まれていった。4人の男たちは懸命に検討し、想定し、予測を試みた。ルームサービスで軽食が運ばれてきたところで、少し休憩を取っただけで3時間半はあっという間に過ぎた。そして4時間になろうとする頃、男の携帯が鳴った。「俺だ。来たか!直ぐに写メを取れ!気付かれるなよ!」男はそれだけ言うと携帯を切った。「Kが現れました。いよいよ本番です!」部屋は一瞬にして緊張に包まれた。果たしてこの「にわか探偵チーム」は何を目撃するのか?決死の追跡が始まろうとしていた。