私とマイちゃんが復活して1週間が過ぎた。マイちゃんの「仮退院」は先送りとなり、喫煙所は「多少は秩序が維持された」雑談所に戻っていた。その日、私は検温が遅れて延着となったが、女性陣は早くも盛り上がりを見せていた。「遅かったね、〇ッシーって“セイラ派”?それとも“ミライ派”?どっちだった?」マイちゃんが言う。「機動戦士ガンダムのかい?丁度、中学生の真ん中だったからなー」「番外で“フラウ・ボゥ派”“マチルダ派”も居たけど、男子はやっぱりセイラ派”か“ミライ派”の2大派閥に別れたよね?!」マイちゃんは再々再放送ぐらいで見ているはずだが、よく覚えてるものだ。「そーだな、強いて決めるなら“セイラ派”だろう。“ミライさん”も捨てがたいけれどね」と私が言うと「やっぱりね!“セイラさん”の方がエロいシーンが多いからでしょ!〇ッシーもやっばりスケベなんだ!」とすかさず彼女達が茶化す。「男がスケベで無かったら、国は亡びるよ!子供が生まれなくては、未来を担う者が居なくなるだろう?」真面目に返すと「あー、話をすり替えて逃げに入った!絶対に小学生の頃“ボインタッチ”とかもやってたヤツだ!やらしいー!」とあくまでも“スケベ路線”で攻め立てるつもり様だ。「誰ですか?スケベな路線で話を押し通すのは?」私が周囲を見回して聞くと、「あたしです」とOさんが控え目に言った。普段から話の輪には加わるが、積極的に話題を提起する事は少なかった彼女が、路線を主導するとは“珍しい”事だ。「何かあったの?」と私がOさんに聞くと「あたし、いつも触られる側だったから、触る側の男の子の気持ちを聞いてみたかったの。子供の頃には面と向かっては聞けないでしょう?」と言った。「それで、Oちゃんとしては、男子代表の〇ッシーに答えて欲しかった訳。少しは付き合って答えてくれないかなー?」他の子達がフォローを入れる。うーむ、意外に真面目な答えが求められる難しいテーマだ。本日のお題は繊細な答えを求められる反面、正直に話す必要もある。手強い相手だ。
「〇ッシーは、小学生の頃“ボインタッチ”とかしたの?」Oさんがおずおずと聞く。「やったよ。最初は“正面攻撃”だったけど、女の子達や先生達もいつまでも無防備じゃない。フェイントをかけて掻い潜っての攻撃をかけるのには知恵を絞ったなー」「知能犯だったんだ!今の〇ッシーの礎になってない?いつも予想外の手を繰り出せる理由が分かった気がする!」Aさんが納得した様に言う。「SKさんをかわす絶妙な手は、スケベが生んだ産物なのね!」マイちゃんも同じように言い「どんなフェイントを仕掛けたの?」と問い詰めに来る。「例えば、ターゲットの先生の後ろから、2人が廊下を走って気を逸らす。先生は前の2人に注意するよね“走るな!”って、その隙に後ろから2人がタッチ攻撃を仕掛ける。振り向いている隙に前の2人もタッチに加わる。ヒット&アウェイ攻撃の完成って寸法」「そう言えば、あたしもやられた記憶ある!他には?」マイちゃんが更に踏み込んで来る。「1人が先生に質問に行く。結構真面目に。そこへ背後から3人がタッチ攻撃を敢行するとか、階段の下から2人がスカートを覗く振りをして、気を逸らして上から2人がタッチ攻撃を敢行する挟み撃ち作戦、全校集会の帰りのゴタゴタを利用して、タッチ攻撃するドサクサ紛れ作戦とかね。勿論、担任には知られない様にあくまでも軽く触るだけ。相手も選んでたよ。あまりヒステリックにならない先生を選んでやってた」私は覚えている限りの事を話した。「全部やられた手口だわ!結構脈々と受け継がれてるのね。男の子のスケベなやり方って!」マイちゃんが遠い目をして言う。「あたしも覚えがある。これって男の子の伝統?」Oさんも昔を思い出しつつ言う。「スカートめくりのやり方とも共通するわね。〇ッシー、誰かに教わったの?」Aさんも問い詰める。「ガキの頭脳に最初からインプットされてるモノじゃないかな?理屈じゃなくて“本能”だと思う」「本能か、男の子がある時期になると、急にスケベになるのはそのせいだって言う訳?」Aさんが首を捻る。「興味が先行するんだろうよ。ある時期までは女の子の方が体の変化が早いからね。背丈にしても男が後から追い抜く様に」「そう言われれば、分からなくもない。男の子の思考回路は結構単純に出来てるし、理性が芽生えるまで時間がかかる。男子対女子で喧嘩になると、冷静に論理的に対処するのは女子の方。男子は感情むき出しで、扱いは楽だったよね」マイちゃんが指摘すると「そうだね、操縦は楽だった気がする」とAさんも同調する。「嫌だと言っても触られたのは、どう言う理由かな?」Oさんがポツリと言うと「それはOちゃんが“気になる存在だったけど、素直に言えない”って言う男子の単純な考えから来てる照れだよ。そうでしょ!〇ッシー!」マイちゃんが、やおら話を振り回す。「うーん、それは否定出来ない。言いたくても照れくさい。茶化されるのが一番恥ずかしいから、つい嫌な事をやってしまう。男子特有の思考が生んでしまう悲劇なんだろうね。優しさを見せるのが出来ない、恥ずかしいんだよ。高校受験が迫ると、ようやく落ち着くんだけど・・・」「そっかー、やっと分かった気がする」Oさんが頷く。「〇ッシー、もう慣れてると思うけど、これだけの女の子達と真っ向から話すなんて想像した事ある?しかもたった1人で!」Aさんが聞く。「無い!ガチでやってる自分を想像すらしたことない!自身でも不思議に思うけど、性を超越して色々話してるから、違和感も無い!」「隣にOちゃんとかが居ても、臆する事無く平気で居られる〇ッシーの存在は貴重だね。大抵の男の子なら、とっくに逃げ出してるよ!」Aさんが言うと「あたしが教育したんだから、間違いはないわ!」とマイちゃんが自慢する。「〇ッシーは、あたしが唯一認めた“人畜無害”の男子!並みの子じゃないわ。マイ先生の眼力が厳しいのは、折り紙付きでしょう!でなきゃ私達に着いてこないし、親身になって話もしないはず。今日みたいな話題なら尚更だわ」「そうね、臆面もなく落ち着いて話せる男子は“ここ”には居ないね。〇ッシー以外」Aさんも頷く。「さて、皆さんそろそろ“お買い物”の時間ですが、行きますか?」「行くー、〇ッシーも行くよね?」「ああ、洗剤を買わないと洗濯が出来なくなる。財布を取って来るか」私達はゾロゾロと病室へ向かった。「〇ッシー、ちょっと待って!」マイちゃんがランドリーの陰に私を引っ張り込む。「カメラ借りっぱなしだけど、もう少しいい?」「ああ、構わないよ」「それと、Oちゃんなんだけど、やっと〇ッシーにも慣れてくれたから、気にしてあげて!彼女、ずっと1人で居たから気になってたの。私の世話+Oちゃんの世話、頼めるかな?」「彼女、SKさんが大の苦手だろう?見てれば分かるよ。ガードを固めればいいんだな?」「そう!流石に良く観察してるね。あたしの事もちゃんと見ててくれてるの分かってる。宜しくお願いします!」「了解、さあ、出かけよう」「うん!」彼女は嬉しそうに身を翻すと病室へ駆け込んだ。
売店に着くと、Oさんが私の後をずっと着いて来るので、自然に話しながら買い物をする事になった。「自分で洗濯する男の人、初めて見たの。操作とか教えてもらったの?」と聞くので「見れば分かりますよ。俺、機械モノは得意なんで。洗濯機より制御の難しい機械を30台1人で操ってましたから」と言うと「30台も!たった1人で!食事とかどうやって食べるの?」と驚きを隠さなかった。「昼間は交代の人と換われるけど、夜はマシンのご機嫌を取りながら、合間を縫って食べてましたよ。24時間生産は続くので、おにぎり片手にね」と笑って返した。「夜中に故障とかあったら、自分で直すとか?」「そう、簡単な修理くらいは出来る様に教育されたし。夜中に停電になって、全設備停止になっても、朝までに完全復旧させましたし。とにかく現場で色んな事を学んでましたね。それが、後々企画や開発への参加に繋がって行ったんですよ」Oさんはポカーンとしてしまった。「停電から朝までに全部元に戻す?どんな勉強してたんです?」彼女は興味津々の様子だ。「病棟へ戻ったら教えますよ。体調は大丈夫?」「何があったか知りたい!話してくれます?」「では、戻ったら順を追って話しますよ」私は彼女に約束をした。「ふーむ、これの“ミックスベリー”が出たはずなんだけど、ここには無いのかな?」あるお菓子の新商品が見つからずに居ると「どこでそんな情報仕入れているの?」とOさんが不思議そうに聞いた。「みんなの話をよーく聞いてると、自然と耳に入って来るから。女の子の話は色んな情報を集めるには最適なんでね。つい、気になる訳」「あたしの話もそう?」「さっきの“嫌なのに触られる”とかは、男としては知り得ない事だから、大いに参考になるね。これからの人との接し方について気を付けろ!って反省したよ」と言うと彼女は嬉しそうに笑った。「あたしも、マイちゃん達みたいに“〇ッシー”って呼んでもいい?」「いいよ、みんなそう呼ぶから、許可も何もないから、ご自由に」と言うと「〇ッシー、そこの上のペットボトル取ってくれる?」と早速注文が飛んで来た。「はいよ、他には?」「コーヒーはブラック派?」と聞かれるので「ミルク味に飽きるから、自然とブラック派になりました。缶取ろうか?」「うん、1本取って」と彼女が言った。取っ掛かりとしては悪くない。また、新たな“信頼関係”を作る上では上々の滑り出しだ。「〇ッシー、どう?Oちゃんと上手く行けそう?」レジを待つ間に、マイちゃんが確認に来た。「そうだね、取っ掛かりは出来たと思う。彼女について注意する事ある?」小声で聞くと「疲れやすいから、ゆっくりさせてあげて。SKさんとは話させない方がいい。Oちゃんの緊張をほぐしてあげてね」とマイちゃんから指示が来た。「分かった。細心の注意を払いましょう」「宜しくね」そう言うと、マイちゃんは少し距離を保った。Oさんの会計が済んだからだ。一連隊を引き連れて病棟へ戻ると、三々五々病室へ買い物した物品を運ぶ。Oさんとの“約束の話”は午後に入ってから始まった。
喫煙所の席順には「暗黙のルール」があった。私の“指定席”は奥のシートの中央、やや右側と決まっていた。そして、私の右手側は、基本的に「空席」で左手側がマイちゃんの“指定席”であった。人数が多い場合は、マイちゃんが右手側へ移って来る。私の両脇を占められるのは、マイちゃんだけの特権だった。例の一件以来、マイちゃんは私の右手側に座る事が多かった。異変を感じた際、直ぐに対処が出来るように考え、話し合って決めた事だった。「変には思われないよね?」マイちゃんは心配したが「隣に座るのが慣例だろう?右でも左でもいいから、不安にならない位置を取ればいいさ!」私は、ともかく彼女の些細な変化も見逃さない事を優先した。一応の安定は見ているが、いつまた急変するか分からない。不安になれば、手を握ってシグナルを出す事も取り決めた。今の所はそうした変化は見られないが、万が一を考慮した末の決断だった。その日、午後2時になってから、私は“指定席”に陣取った。洗濯に手間取り服を畳むのにも思いの外、時間を取られた。「綿埃にまみれるとは、誰だ?!化繊を乾かしたのは?」1人、まどろんで居るとOさんが静かにやって来た。「〇ッシー、話聞かせてくれる?」と言うので「いいよ!とにかく座って」と言うと「マイちゃんがね、〇ッシーの横に座れって言ったの。“指定席に座っていいよ”って言うの。右か左のどっちに座ればいいの?」と聞いて来た。マイちゃんが“指定席”を開放するとは、意外な事だった。誰よりも自己に妥協しない彼女が“自分の席を明け渡す”様なマネは、今まで絶対にしなかった事だ。だが、裏を返せば“ちゃんと面倒を見てあげて!”と言うメッセージに違いなかった。「どちらでも構わないよ。好きな場所に座って」と言うと、彼女は右隣りに座った。「何か、緊張する。マイちゃん以外の子は、座った事が無い所だし、あたし男の人と話すの苦手なの。でも、マイちゃんが“人畜無害”って言ってたから、思い切って座って見ました。意外と眺めがいいのね」Oさんは、ガチガチに緊張していた。「そうか、ここは“交差点”みたいな場所。病棟全体の動きが良く見えるから、座っているだけでも飽きないよ。僕のお気に入りの場所だ。人の出入りも多いけれど、普段見えないものが見えるから“穴場的隠れ家”だって思ってる。過行く人からは、案外見えにくいのもこの場所のいい点だよ」Oさんは、タバコに火を点じると一息吸ってしはらく黙り込んだ。少し表情がほぐれて来た。「僕も最初は、度胸が必要だったな。マイちゃんに引っ張り込まれるまでは!後は、なし崩し的におもちゃにされてるけれど。女の子ばっかりにも慣れたと言うか慣らされたようなモノだし、お昼前の話にしても案外真面目に議論してるの分かるよね?」頃合いを見計らって話し始めると「〇ッシーが真面目に答えてるのが、すごく意外だった。いつもあんな感じなの?」と彼女は聞いて来てくれた。「そうだね、僕はなるべく女の子の話に真面目に答える様にしてるな。そうしないと収拾が付かなくなるし、果てしなく脱線し続けるだけになるし、オチを付けるのが僕の役割かな?って思ってるんだ」「だから“聞く側”に居るの?」「基本的にはそう言う役目。だから、みんな色んな事を持ち込んで来る訳」「私的な事も含めて?」「そう、でも聞いても誰かに喋る訳じゃないよ。私的な事は、原則他人には明かさない!それが僕のやり方」「疲れない?嫌にならない?〇ッシーが潰れる事はないの?」「1度だけある。でも、みんなが助けてくれるから、気にはならないし、みんなで方法を考えて切り抜けて来たから、続いていると思う。みんなで持てば軽くなる。だから僕も救われているのだと思うよ。男だから、女の子だからって区別はしないよ。だから、僕も平然としていられるし、冷静な答えが出て来ると思う。誰も言わないけれど、ここでは“自由に言う”事が基本だから」「嫌なら嫌って言っていいの?」「勿論、あまりにも外れたことなら、僕も否定することはある。幽体離脱とか出来るって言われた時は“そんな事できるか!”って怒った事もある」「〇ッシーなら出来そうだけど。無理なの?」「マイちゃんと同じ事を言うね。どこからそんな事を思い付くの?」「だって、出来そうな気がするから」彼女は笑って言う。どうやら、緊張の糸は緩んだ様だ。「その発想の原点は、一体なに?誰に聞いても答えてくれてない疑問だけど?」「〇ッシーだから!」「またそれかー、答えになってない!」私はまたしても撃沈の憂き目にあった気分になった。Oさんは横で笑っている。気分はどうあれ、信頼は得られたと思った。その時「愉しそうだね!あたしも混ぜてくれる?」マイちゃんが顔を出して来て、私の左隣に座った。「Oちゃん!〇ッシーと話して見てどうだった?正直な感想を聞かせて!」マイちゃんが笑って問いかける。Oさんは、少し間を置いてから「こんなに真面目に話を聞いて、答えてくれる男の子に初めて会った。優しくて、暖かい人だね」と照れながら言った。「〇ッシーの右手を握ってみて!こんなふうに」マイちゃんが私の左手を握って自身の膝に置く。Oさんは戸惑いながらも私の右手を握った。冷たい小さな手だった。そして、そっと自分の膝に乗せてくれた。「暖かいよね!〇ッシーの心もそう。あたしも不安になると、〇ッシーの手に触れて安心をもらってるの。Oちゃんもどんどんやっていいよ!怖くなったら、〇ッシーの手から安心をもらったらいいの。どう?恥ずかしがらなくてもいいよ。あたしが教育した子だから、変な事は絶対しないから!」「うん、でも本当にいいの?」「Oちゃんだから特別に許可する!でも、あたしとOちゃんだけだからね!〇ッシー、そこんとこ、くれぐれも宜しく!」「分かった。2人限定の“特別メニュー”だな。席順はこれで決まりかい?」「そうだね。新しい“指定席”は、この並びで決定!」明るい声でマイちゃんが言った。「Oちゃん!部屋でウジウジしてないで、〇ッシーやあたし達と遊ぼうよ。結構気に入ったみたいじゃん!〇ッシーの右手!」Oさんは真っ赤になったが、私の手は離さずにいた。「さて、〇ッシー!Oちゃんとの約束の話、そろそろ始めてよ。あたしも興味あるし、〇ッシーがどんな活躍をしたか教えて欲しいな」マイちゃんがねだる様に言う。「それ程の事ではないけど、夜中に停電を喰らってから、朝までに復旧を言い渡されてね。手探りでやり遂げた事故の話だ。その結果、評価は上がったけどね。余計なオマケも付いて来るハメになった忘れられない事故だったよ」私は静かに話し始めた。Oさんは私の右手を膝に置いたままで聞いてくれている。会社人生最大のピンチだった「ブラックアウト事故」。昨夜の事のように、思い出しながら話は続いて行った。
「〇ッシーは、小学生の頃“ボインタッチ”とかしたの?」Oさんがおずおずと聞く。「やったよ。最初は“正面攻撃”だったけど、女の子達や先生達もいつまでも無防備じゃない。フェイントをかけて掻い潜っての攻撃をかけるのには知恵を絞ったなー」「知能犯だったんだ!今の〇ッシーの礎になってない?いつも予想外の手を繰り出せる理由が分かった気がする!」Aさんが納得した様に言う。「SKさんをかわす絶妙な手は、スケベが生んだ産物なのね!」マイちゃんも同じように言い「どんなフェイントを仕掛けたの?」と問い詰めに来る。「例えば、ターゲットの先生の後ろから、2人が廊下を走って気を逸らす。先生は前の2人に注意するよね“走るな!”って、その隙に後ろから2人がタッチ攻撃を仕掛ける。振り向いている隙に前の2人もタッチに加わる。ヒット&アウェイ攻撃の完成って寸法」「そう言えば、あたしもやられた記憶ある!他には?」マイちゃんが更に踏み込んで来る。「1人が先生に質問に行く。結構真面目に。そこへ背後から3人がタッチ攻撃を敢行するとか、階段の下から2人がスカートを覗く振りをして、気を逸らして上から2人がタッチ攻撃を敢行する挟み撃ち作戦、全校集会の帰りのゴタゴタを利用して、タッチ攻撃するドサクサ紛れ作戦とかね。勿論、担任には知られない様にあくまでも軽く触るだけ。相手も選んでたよ。あまりヒステリックにならない先生を選んでやってた」私は覚えている限りの事を話した。「全部やられた手口だわ!結構脈々と受け継がれてるのね。男の子のスケベなやり方って!」マイちゃんが遠い目をして言う。「あたしも覚えがある。これって男の子の伝統?」Oさんも昔を思い出しつつ言う。「スカートめくりのやり方とも共通するわね。〇ッシー、誰かに教わったの?」Aさんも問い詰める。「ガキの頭脳に最初からインプットされてるモノじゃないかな?理屈じゃなくて“本能”だと思う」「本能か、男の子がある時期になると、急にスケベになるのはそのせいだって言う訳?」Aさんが首を捻る。「興味が先行するんだろうよ。ある時期までは女の子の方が体の変化が早いからね。背丈にしても男が後から追い抜く様に」「そう言われれば、分からなくもない。男の子の思考回路は結構単純に出来てるし、理性が芽生えるまで時間がかかる。男子対女子で喧嘩になると、冷静に論理的に対処するのは女子の方。男子は感情むき出しで、扱いは楽だったよね」マイちゃんが指摘すると「そうだね、操縦は楽だった気がする」とAさんも同調する。「嫌だと言っても触られたのは、どう言う理由かな?」Oさんがポツリと言うと「それはOちゃんが“気になる存在だったけど、素直に言えない”って言う男子の単純な考えから来てる照れだよ。そうでしょ!〇ッシー!」マイちゃんが、やおら話を振り回す。「うーん、それは否定出来ない。言いたくても照れくさい。茶化されるのが一番恥ずかしいから、つい嫌な事をやってしまう。男子特有の思考が生んでしまう悲劇なんだろうね。優しさを見せるのが出来ない、恥ずかしいんだよ。高校受験が迫ると、ようやく落ち着くんだけど・・・」「そっかー、やっと分かった気がする」Oさんが頷く。「〇ッシー、もう慣れてると思うけど、これだけの女の子達と真っ向から話すなんて想像した事ある?しかもたった1人で!」Aさんが聞く。「無い!ガチでやってる自分を想像すらしたことない!自身でも不思議に思うけど、性を超越して色々話してるから、違和感も無い!」「隣にOちゃんとかが居ても、臆する事無く平気で居られる〇ッシーの存在は貴重だね。大抵の男の子なら、とっくに逃げ出してるよ!」Aさんが言うと「あたしが教育したんだから、間違いはないわ!」とマイちゃんが自慢する。「〇ッシーは、あたしが唯一認めた“人畜無害”の男子!並みの子じゃないわ。マイ先生の眼力が厳しいのは、折り紙付きでしょう!でなきゃ私達に着いてこないし、親身になって話もしないはず。今日みたいな話題なら尚更だわ」「そうね、臆面もなく落ち着いて話せる男子は“ここ”には居ないね。〇ッシー以外」Aさんも頷く。「さて、皆さんそろそろ“お買い物”の時間ですが、行きますか?」「行くー、〇ッシーも行くよね?」「ああ、洗剤を買わないと洗濯が出来なくなる。財布を取って来るか」私達はゾロゾロと病室へ向かった。「〇ッシー、ちょっと待って!」マイちゃんがランドリーの陰に私を引っ張り込む。「カメラ借りっぱなしだけど、もう少しいい?」「ああ、構わないよ」「それと、Oちゃんなんだけど、やっと〇ッシーにも慣れてくれたから、気にしてあげて!彼女、ずっと1人で居たから気になってたの。私の世話+Oちゃんの世話、頼めるかな?」「彼女、SKさんが大の苦手だろう?見てれば分かるよ。ガードを固めればいいんだな?」「そう!流石に良く観察してるね。あたしの事もちゃんと見ててくれてるの分かってる。宜しくお願いします!」「了解、さあ、出かけよう」「うん!」彼女は嬉しそうに身を翻すと病室へ駆け込んだ。
売店に着くと、Oさんが私の後をずっと着いて来るので、自然に話しながら買い物をする事になった。「自分で洗濯する男の人、初めて見たの。操作とか教えてもらったの?」と聞くので「見れば分かりますよ。俺、機械モノは得意なんで。洗濯機より制御の難しい機械を30台1人で操ってましたから」と言うと「30台も!たった1人で!食事とかどうやって食べるの?」と驚きを隠さなかった。「昼間は交代の人と換われるけど、夜はマシンのご機嫌を取りながら、合間を縫って食べてましたよ。24時間生産は続くので、おにぎり片手にね」と笑って返した。「夜中に故障とかあったら、自分で直すとか?」「そう、簡単な修理くらいは出来る様に教育されたし。夜中に停電になって、全設備停止になっても、朝までに完全復旧させましたし。とにかく現場で色んな事を学んでましたね。それが、後々企画や開発への参加に繋がって行ったんですよ」Oさんはポカーンとしてしまった。「停電から朝までに全部元に戻す?どんな勉強してたんです?」彼女は興味津々の様子だ。「病棟へ戻ったら教えますよ。体調は大丈夫?」「何があったか知りたい!話してくれます?」「では、戻ったら順を追って話しますよ」私は彼女に約束をした。「ふーむ、これの“ミックスベリー”が出たはずなんだけど、ここには無いのかな?」あるお菓子の新商品が見つからずに居ると「どこでそんな情報仕入れているの?」とOさんが不思議そうに聞いた。「みんなの話をよーく聞いてると、自然と耳に入って来るから。女の子の話は色んな情報を集めるには最適なんでね。つい、気になる訳」「あたしの話もそう?」「さっきの“嫌なのに触られる”とかは、男としては知り得ない事だから、大いに参考になるね。これからの人との接し方について気を付けろ!って反省したよ」と言うと彼女は嬉しそうに笑った。「あたしも、マイちゃん達みたいに“〇ッシー”って呼んでもいい?」「いいよ、みんなそう呼ぶから、許可も何もないから、ご自由に」と言うと「〇ッシー、そこの上のペットボトル取ってくれる?」と早速注文が飛んで来た。「はいよ、他には?」「コーヒーはブラック派?」と聞かれるので「ミルク味に飽きるから、自然とブラック派になりました。缶取ろうか?」「うん、1本取って」と彼女が言った。取っ掛かりとしては悪くない。また、新たな“信頼関係”を作る上では上々の滑り出しだ。「〇ッシー、どう?Oちゃんと上手く行けそう?」レジを待つ間に、マイちゃんが確認に来た。「そうだね、取っ掛かりは出来たと思う。彼女について注意する事ある?」小声で聞くと「疲れやすいから、ゆっくりさせてあげて。SKさんとは話させない方がいい。Oちゃんの緊張をほぐしてあげてね」とマイちゃんから指示が来た。「分かった。細心の注意を払いましょう」「宜しくね」そう言うと、マイちゃんは少し距離を保った。Oさんの会計が済んだからだ。一連隊を引き連れて病棟へ戻ると、三々五々病室へ買い物した物品を運ぶ。Oさんとの“約束の話”は午後に入ってから始まった。
喫煙所の席順には「暗黙のルール」があった。私の“指定席”は奥のシートの中央、やや右側と決まっていた。そして、私の右手側は、基本的に「空席」で左手側がマイちゃんの“指定席”であった。人数が多い場合は、マイちゃんが右手側へ移って来る。私の両脇を占められるのは、マイちゃんだけの特権だった。例の一件以来、マイちゃんは私の右手側に座る事が多かった。異変を感じた際、直ぐに対処が出来るように考え、話し合って決めた事だった。「変には思われないよね?」マイちゃんは心配したが「隣に座るのが慣例だろう?右でも左でもいいから、不安にならない位置を取ればいいさ!」私は、ともかく彼女の些細な変化も見逃さない事を優先した。一応の安定は見ているが、いつまた急変するか分からない。不安になれば、手を握ってシグナルを出す事も取り決めた。今の所はそうした変化は見られないが、万が一を考慮した末の決断だった。その日、午後2時になってから、私は“指定席”に陣取った。洗濯に手間取り服を畳むのにも思いの外、時間を取られた。「綿埃にまみれるとは、誰だ?!化繊を乾かしたのは?」1人、まどろんで居るとOさんが静かにやって来た。「〇ッシー、話聞かせてくれる?」と言うので「いいよ!とにかく座って」と言うと「マイちゃんがね、〇ッシーの横に座れって言ったの。“指定席に座っていいよ”って言うの。右か左のどっちに座ればいいの?」と聞いて来た。マイちゃんが“指定席”を開放するとは、意外な事だった。誰よりも自己に妥協しない彼女が“自分の席を明け渡す”様なマネは、今まで絶対にしなかった事だ。だが、裏を返せば“ちゃんと面倒を見てあげて!”と言うメッセージに違いなかった。「どちらでも構わないよ。好きな場所に座って」と言うと、彼女は右隣りに座った。「何か、緊張する。マイちゃん以外の子は、座った事が無い所だし、あたし男の人と話すの苦手なの。でも、マイちゃんが“人畜無害”って言ってたから、思い切って座って見ました。意外と眺めがいいのね」Oさんは、ガチガチに緊張していた。「そうか、ここは“交差点”みたいな場所。病棟全体の動きが良く見えるから、座っているだけでも飽きないよ。僕のお気に入りの場所だ。人の出入りも多いけれど、普段見えないものが見えるから“穴場的隠れ家”だって思ってる。過行く人からは、案外見えにくいのもこの場所のいい点だよ」Oさんは、タバコに火を点じると一息吸ってしはらく黙り込んだ。少し表情がほぐれて来た。「僕も最初は、度胸が必要だったな。マイちゃんに引っ張り込まれるまでは!後は、なし崩し的におもちゃにされてるけれど。女の子ばっかりにも慣れたと言うか慣らされたようなモノだし、お昼前の話にしても案外真面目に議論してるの分かるよね?」頃合いを見計らって話し始めると「〇ッシーが真面目に答えてるのが、すごく意外だった。いつもあんな感じなの?」と彼女は聞いて来てくれた。「そうだね、僕はなるべく女の子の話に真面目に答える様にしてるな。そうしないと収拾が付かなくなるし、果てしなく脱線し続けるだけになるし、オチを付けるのが僕の役割かな?って思ってるんだ」「だから“聞く側”に居るの?」「基本的にはそう言う役目。だから、みんな色んな事を持ち込んで来る訳」「私的な事も含めて?」「そう、でも聞いても誰かに喋る訳じゃないよ。私的な事は、原則他人には明かさない!それが僕のやり方」「疲れない?嫌にならない?〇ッシーが潰れる事はないの?」「1度だけある。でも、みんなが助けてくれるから、気にはならないし、みんなで方法を考えて切り抜けて来たから、続いていると思う。みんなで持てば軽くなる。だから僕も救われているのだと思うよ。男だから、女の子だからって区別はしないよ。だから、僕も平然としていられるし、冷静な答えが出て来ると思う。誰も言わないけれど、ここでは“自由に言う”事が基本だから」「嫌なら嫌って言っていいの?」「勿論、あまりにも外れたことなら、僕も否定することはある。幽体離脱とか出来るって言われた時は“そんな事できるか!”って怒った事もある」「〇ッシーなら出来そうだけど。無理なの?」「マイちゃんと同じ事を言うね。どこからそんな事を思い付くの?」「だって、出来そうな気がするから」彼女は笑って言う。どうやら、緊張の糸は緩んだ様だ。「その発想の原点は、一体なに?誰に聞いても答えてくれてない疑問だけど?」「〇ッシーだから!」「またそれかー、答えになってない!」私はまたしても撃沈の憂き目にあった気分になった。Oさんは横で笑っている。気分はどうあれ、信頼は得られたと思った。その時「愉しそうだね!あたしも混ぜてくれる?」マイちゃんが顔を出して来て、私の左隣に座った。「Oちゃん!〇ッシーと話して見てどうだった?正直な感想を聞かせて!」マイちゃんが笑って問いかける。Oさんは、少し間を置いてから「こんなに真面目に話を聞いて、答えてくれる男の子に初めて会った。優しくて、暖かい人だね」と照れながら言った。「〇ッシーの右手を握ってみて!こんなふうに」マイちゃんが私の左手を握って自身の膝に置く。Oさんは戸惑いながらも私の右手を握った。冷たい小さな手だった。そして、そっと自分の膝に乗せてくれた。「暖かいよね!〇ッシーの心もそう。あたしも不安になると、〇ッシーの手に触れて安心をもらってるの。Oちゃんもどんどんやっていいよ!怖くなったら、〇ッシーの手から安心をもらったらいいの。どう?恥ずかしがらなくてもいいよ。あたしが教育した子だから、変な事は絶対しないから!」「うん、でも本当にいいの?」「Oちゃんだから特別に許可する!でも、あたしとOちゃんだけだからね!〇ッシー、そこんとこ、くれぐれも宜しく!」「分かった。2人限定の“特別メニュー”だな。席順はこれで決まりかい?」「そうだね。新しい“指定席”は、この並びで決定!」明るい声でマイちゃんが言った。「Oちゃん!部屋でウジウジしてないで、〇ッシーやあたし達と遊ぼうよ。結構気に入ったみたいじゃん!〇ッシーの右手!」Oさんは真っ赤になったが、私の手は離さずにいた。「さて、〇ッシー!Oちゃんとの約束の話、そろそろ始めてよ。あたしも興味あるし、〇ッシーがどんな活躍をしたか教えて欲しいな」マイちゃんがねだる様に言う。「それ程の事ではないけど、夜中に停電を喰らってから、朝までに復旧を言い渡されてね。手探りでやり遂げた事故の話だ。その結果、評価は上がったけどね。余計なオマケも付いて来るハメになった忘れられない事故だったよ」私は静かに話し始めた。Oさんは私の右手を膝に置いたままで聞いてくれている。会社人生最大のピンチだった「ブラックアウト事故」。昨夜の事のように、思い出しながら話は続いて行った。
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