limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

DB 外伝 マイちゃんの記憶 ⑧

2018年11月20日 10時35分31秒 | 日記
朝がやって来た。午前6時。「うーん、珍しく寝坊か・・・、だがギリで“許容範囲”に起きられたのは、幸いだな」私は、急いで洗面台へ向かった。顔を洗い、ヒゲを剃っていると「〇ッシー、おはよう!“例の件”考えてくれた?」マイちゃんが笑顔でやって来た。「ああ、あらゆる角度から考えたよ。詳しい事は朝食の時に話すよ」小声で言うと「OK!じゃあ一緒に食べようね!」と彼女は目を輝かせて言った。「かなりの“難題”だ。一筋縄ではクリア出来る訳じゃないよ!」と言うと「分かってる。でも、それを上回る手を用意してるんでしょ!」「追い詰められた僕らには、まだ“奥の手”が残ってるだろう?って言うから捻り出したまで。“上手くいったらご喝采”だよ」私はため息交じりに言う。「そう来なくっちゃ!〇ッシーの“本領発揮”愉しみに聞かせてもらう!」マイちゃんは既にノリノリだった。

事の発端は、前夜の“グチ”から始まった。「何で売店に“新商品”が無いの?仕入れがマンネリ化してると思わない?」Aさんが切り出した。「そうね、半月遅れるのは当たり前だね。でも、こればっかりは仕方なしだよ!」マイちゃんが、なだめにかかる。「旦那に言っても“俺に言われても分からん”って言うし、何か手はないの?〇ッシー?!」Aさんが諦めきれずに無茶を振る。「こればっかりは、打つ手なし!逆立ちしても無理は無理です!」私も諦めさせる方向へ向かせようと、断固拒絶する。「ねえねえ、その話、本当に無理なの?」「あたしも“禁断症状”になっちゃいそう。マイちゃん!〇ッシー!横綱格の2人なら、何か思いつかない?」女性陣がわらわらと集まって、私とマイちゃんにすがり付いてくる。「そう言われてもねー、これだけ警戒が厳重だと“脱走”も難しいなー」マイちゃんが、つい口を滑らせてしまった。「“脱走”ってどういう意味?抜け出してコンビニへ行ってたって事なの?」女性陣の目に希望の光らしきモノが宿る。「うん、前は結構“脱走”とか出来たのは事実。でも、今は相当難しい技だよ!〇ッシーをお供に連れて何度も決行したのは、初夏の頃までかな?〇ッシーそうだったよね?」「ああ、この“腕輪”が導入される前は、まだ“それなりの手”はあったし、マイちゃんと何度も行ったのは確かだ」私は左手首の“腕輪”を指して答えた。ビニール製の“腕輪”には、患者番号のバーコードとカタカナで氏名が印刷されている。患者と見舞に来る人々とを区別したり、専用の機械にバーコードを読み込ませると、X線や各種検査が優先的に受けられる仕組みになっているヤツだ。8月から導入されており、ハサミで切る以外、外す手は無い。「ねえ、何とか“脱走”する手はないの?マイちゃんと〇ッシーなら何とかならないかな?!」「神様、おねげぇしますだ!私達にお慈悲を!」「お代官様!どうかよしなに御取り計らいを!」女性陣は必死にすがり付きだした。拝む子も出始めた。だが、厳重な警戒網をどうやって誤魔化せと言うのだろう。「〇ッシー、本当に無理かな?“奥の手”は浮かばない?」マイちゃんが遂に根負けした。「うーむ」私は考えを巡らせた。天井を見据え可能性を探る。“追い詰められた俺達には、奥の手があるだろう。ここは、1つ代官署名物の引っ掛けをお見舞いするか!”テレビドラマのセリフが無意識に流れた。だが、それには“役者”と“小道具”と“段取り”が欠かせない。1つでも欠ければ、事は失敗に終わりかねないし、師長さんのカミナリが炸裂するだろう。「ひとつ確認だけど、みんな協力してくれるよね?“役者”と“小道具”と“段取り”が揃えば、何とかなるかも知れない。危険を承知で決行するからには、みんなの手と協力が必要だ。やってくれるかい?」私は女性陣を見渡して行った。「やる!」「協力は惜しまないよ!」「分かった。やろうよ!」みんなが目を輝かせて言ってくれた。「〇ッシー、何か浮かんだの?」マイちゃんも前のめりで言う。「ああ、ある程度まではね。細かい事は、今夜考えて置く。1つ1つクリアして行けば、道は開けると思う。とにかく時間をくれ!明日か明後日には決行できる様に考えてみる!」「〇ッシー、“代官署名物の引っ掛け”でしょ!“俺達には、まだ奥の手が残っているだろう”って言うヤツ!」「それだよ、ともかく今晩は寝よう。明日、みんなに話せる様に努力する」そう言って私が事を引き取ったのだ。

朝食の時刻、マイちゃんが目立たない場所を確保して待っていてくれた。差し向いに座ると、AさんとOちゃんもやって来た。4人がテーブルを囲んで落ち着いたのを見計らってから話は始まった。「まず、“脱走”して買い物に出るのは、僕とマイちゃんの2人だ。僕達なら“脱走”に慣れてるし、どこが重点警戒ポイントか?も熟知している。抜け出すとしたら、2人で行くしかない!」「えー!あたしも連れてってくれるんじゃないの?なんでー?!」Aさんがムクレるが「団体行動は、始めから無理なの!最小限の人数にしなきゃバレバレだろう?それにAさんには“やってもらわなくてはならない事”が山の様にあるの!共同戦線を張らないと元も子もないんだよ!」と言って黙らせる。「行くのは、南にあるセブン。距離があるのと時間がかかるのが難点だけど、確実に“新商品”をゲットしなくちゃならないから、敢えて目をつぶって行く。マイちゃん!Kさんのシフト、今週はどこ?」「準夜勤だよ。あっ、そうか!Kさんに尻尾を掴まれたらマズイもんね」「そう、彼女には“見破られた”苦い経験があるからね!そうすると、看護師さん達を誤魔化すのはクリア出来るな!」「〇ッシー、行くのは今日?明日?」Aさんがじれて聞いた。「行くのは明日だ!時間は午前10時20分から、11時20分までの1時間以内。2班に分かれて行動する。Aさんには“居残り班”を指揮してもらう。“居残り班”には色々と工作を手伝ってもらうから、覚悟しといて!」「どうして明日なの?今日はどうしてダメな訳?」Aさんが更にじれて言うが「後で説明するつもりだったけど、SKさんを忘れないでくれ!彼女をここに“釘付け”にしとかないと、厄介な事になる。彼女のお母さん達が来るのは、1日おきだろう?昨日は来たから今日は来ない日。明日になれば、自然と病室に留まるはずだろう?それに、彼女のクセで午前11時にはシャワーを浴びるはず。そうなれば、病棟で監視していれば、彼女は封印出来るって寸法なんだけど」「そうか!そこまで計算してたのね。確かに、今日はSKさんが“漏れなく着いて来る日”だわ。〇ッシー、よく観察してるのね」「些細な事も見逃さないのが鉄則だからね。時間を区切ったのにも理由はあるんだぜ!Aさん、“深夜勤”の看護師さんの帰宅時刻は?」逆に問いかけると「遅くて午前9時台の前半から30分までの間位かな?あー!そこを避けてるんだ!」「その通り。帰り際に見つかりましたじゃ笑うに笑えない。お帰りを見送ってから出る。Aさんが指揮する“居残り班”が先に出て、僕とマイちゃんは5分遅れで病棟を出る。Aさんがまず、帰り間際の彼女達が居ないかを確認して、僕らに通報をする。携帯を鳴らすのがいいと思う。3回コールしたら切って!それを確かめてから、僕とマイちゃんが外来棟の南玄関から“脱走”を開始する。Aさん達は、いつも通りに売店で買い物をして、先に病棟へ戻ってもらう。その際に僕らの“外出先マグネット”を2階のデイ・ルームに張り替えておいて欲しい。そして、いつもの如く話を盛大におっぱじめて居て欲しいんだ。さも、僕らが居る様にしてね」「デイ・ルームに張り替えるのはなぜ?」「突っ込まれた時の逃げ道だよ。Aさんの誕生日、来週だったよね?そのお祝いの打ち合わせって事で、“隠れて相談してます”って誰かに答えてもらうのさ!当り障りのない理由として」「〇ッシー、よく覚えてるね。あたしも忘れてた!誕生日もう来週かー、猫の手も使うってか?!」「使える手は多いに越したことは無い。それで切り抜けられれば文句ないだろう?無事にセブンから戻ったら、僕らも合流する。ただ、不測の事態が起こった場合は、携帯を鳴らすから必ず出て欲しい。対策はその時に考える。だから、Aさんには携帯を手放さないで持っててもらう必要がある」「不測の事態ってどんな事が考えられる?」「マイちゃんが“足をねん挫”とかね。実際にあった事だけど」「思い出した!確か〇ッシーに背負われて、えーと、誰だっけ、もう1人の子に袋持ってもらって、ダッシュして帰って来たヤツだよね?」マイちゃんが記憶をたどる。「そう、梅雨の晴れ間だったかな?実際にそう言う事も有り得るからね。後は出たとこ勝負になるから、その都度対処するしかない。ザックリと説明したけど、計画はこんな感じ。検温が終わったら、みんなを集めてもう1度確認しながら話すよ」私は、3人に昨夜考えた計画を話し終えた。「うーん、さすが〇ッシー!久々に外の空気が吸えそうでワクワクするなー!」マイちゃんは、既に心ここにあらずの様だ。「本当によく思い付くものだわ!この手の図り事は〇ッシーに敵わない」Aさんも納得した様だ。「Oちゃん、悪いけどこの話内緒にしてくれるかな?」私は一応確認をする。「うん、分かった。あたしも協力する」と彼女は頷いてくれた。「下見もしなきゃならないし、みんなの意見も聞かなきゃならない。検温が終わり次第、集合する様に言っておいて!」「了解!」私達は片付けを済ませると、各部屋へ散って行った。

検温が終わり、私は“支度”にかかった。今回の為に取って置いた無地のレジ袋を3枚、細かく折り畳みズホンのポケットへ入れる。薄手の上着を羽織り、財布の中身を確認する。昨日の内にATMから現金を引き出してあるので、足りない事はなさそうだ。時計の校正も確認した。今回は、1秒のズレも事に影響しかねない。「一応は、これでOKか」一通りの準備を終えて、病室から出ようとすると、いきなり思いっ切り腕を掴まれランドリーの陰に連れ込まれた。倒れ掛かりそうになるのを堪えて見ると、マイちゃんが深刻な顔で下を向いている。「どうしたの?」私が言うと「マズイ事になったわ、〇ッシー」といつになく深刻な声でマイちゃんが言う。「実は、OちゃんとAさんが“一緒に行く”って言いだしたの。あたしは“危険だから任せて欲しい”って言って止めたんだけと、2人とも“〇ッシーにお願いしてくれ”って言って聞かないのよ。“あたし達も協力したい。足手まといにならないから”って言うんだけど、どうする?〇ッシー?あたしではもう手に負えないのよ!」「言い出したのはOちゃんで、援護してるのがAさんだろう?」「そう、Oちゃんは是が非でも〇ッシーに着いて行くつもりよ!」「他の子達に招集はかけちゃったかい?」「それはまだよ。まず、〇ッシーに聞いてからと思って連絡は回してないわ」マイちゃんの表情から事の深刻さはひしひしと伝わって来た。緻密に組み上げた計画を変更するのは、容易ではない。僕とマイちゃんが組む事が、今回の計画の“前提”なのだ。その“前提”が崩れた以上、計画を実行するにはリスクが大き過ぎる。5分5分が3分7分になったと言う事は、1から計画を修正するしかない。すなわち、データーを入れ替えて計算し直す必要があるのだ。「やむを得ない。今回の計画は一旦棚上げだ!計画を中止する!」私は断を下した。「やっばり、無理だものね。私も賛成。〇ッシー、もう1度計画を組み直すのにどれくらいかかりそう?」「明日の決行を取り消すんだから、3~4日はかかるよ。ナースステーションの顔ぶれとSKさんの動向、天気も加味するから簡単には決められない。とにかく明日の計画は“白紙撤回”にする。1から考え直すから時間をくれ!」「分かった。残念だけど仕方ないわね。あたしから2人に“〇ッシーが白紙撤回にする”って宣言した事を言って置くわ!」マイちゃんも心なしか悔しそうだ。「マイちゃん、何を言われても“作戦中止”で押し切ってくれ!そうしないと・・・、」「みんなに迷惑がかかる。そうよね!あたしと〇ッシーだけならまだしも、メンバー全員を外出禁止には出来ないわ」マイちゃんも腹を括った様だった。「クソ!俺はアメーバーじゃないんだ。1人で女の子3人を助けるのは不可能だ。それがなぜ分からん!」私は壁を叩いてやり場のない怒りをぶつけた。「〇ッシーのせいじゃないよ!仕方ないじゃない!」マイちゃんが肩に手を触れて、なだめにかかるが「無い知恵絞った挙句がこれじゃ、やり切れない!まあ、また考えるしかないか・・・、俺は2階のデイ・ルームに行く。静かに考えをまとめ直したいんだ。後でいいから来てくれ」そう言うと私は歩き出した。「2階のデイ・ルームね?こっそり抜け出して後から行くわ。〇ッシー、あんまり怒らないでね。OちゃんもAさんも悪気があって言ってるんじゃないんだから」「そうなら、なぜ分かってくれない?!ともかく考え直しだ!」私は憤然としながらデイ・ルームへ向かった。マイちゃんが心配そうに見送っているのも気付かなかった。「手損の上に駒損か。どうやって逆転に持っていくんだよ?新手でも見つけない限り不可能だ!」盤上に並んだ将棋の駒を思い出しつつ、私は階段を下りて行った。

何とか理由を付けて2階の¨デイ・ルーム¨へ移動した私は、ポケットの中身を確認して、マイちゃんを待った。「どうも、味方の女性まで¨騙す¨のは、さすがに気が引けるな。だが、リスクを考えればやむを得ない」必要なモノは漏れなく持ち出して来れた様だ。後は、マイちゃんが来れば、作戦開始である。「ごめん!待った?」マイちゃんが聞く。「跡を付けられて無いよね?」「うん!OちゃんとAさん、ショボンとして、¨○ッシーを何とか連れ戻して¨って言うから¨時間はかかるけど、説得して来る。だから、悲観しないで¨って言って釘付けにして置いた。SKさんは大丈夫なの?」「もう直ぐ、お母さん達が来るはずだよ。昨日、電話してるの聞いてるから間違いない」「じゃあ、○ッシー!そろそろ出かけ様か?」「ああ、準備は整った。買い物リストは?」「リクエストはこれよ!」マイちゃんがポケットから折り畳んだメモを引っ張り出す。「はい、よし、よし、よし!かなりかさ張るが、想定の範囲内ってヤツだな。じゃあ、財布を渡しておくよ。では、行きますか?」私達は¨デイ・ルーム¨静かにを抜け出して外来棟の階段を目指した。実は、朝食時の話は¨フェイク¨で、OちゃんとAさんを病棟に釘付けにする¨理由¨を作るための¨計略¨だったのである。実は、マイちゃんと僕は5日前くらいから¨脱走¨を密かに計画していたのだ。その課程で一番懸念したのが、OちゃんとAさんの¨無茶振り¨だった。¨連れて行って!¨とせがまれるのは、明らかであり「いかにして病棟へ残して行くか?」が最大の課題だったのだ。そこで、考えたのが¨2通りの筋書き¨を用意する¨フェイク作戦¨だった。「○ッシーは、1人しか居ない。Oちゃんには悪いけど、安全面を考えたら、あたし達で行くのが最善だと思う」「何よりも、即断即決!これが出来るのは、僕ら2人しか居ない。大げさなマネは、ほころびがでやすい。みんなからの¨期待¨を反故にしないためには、やむを得ないな」毎晩、ランドリーの陰でこっそり話し合いを続け、検討を重ねた結果が¨全員を騙しにかかる¨と言う掟やぶりの策だった。各所で¨工事中¨の院内は、隙が多い。そこを突いて行けば¨脱走¨は不可能ではない。だが、瞬時に判断を下して行動するには¨慣れ¨は欠かせない。僕とマイちゃんなら¨阿吽の呼吸¨で目を見れば分かる。実際問題、抜け出すタイミングにしても、感覚が頼りであり、それを¨言葉で説明しろ¨と言われてもどだい無理な事だった。まず、私が携帯で電話をする振りをして、外へ出て素早く周囲を伺いマイちゃんに合図を送る。彼女は一気に前進して建物の陰をたどりながら、物陰へ潜む。私も周囲を伺い素早く後を追う。人目を避け、車をやり過ごしながら植え込みをまたいで、院外へ出ると少し間隔を取って歩く。五感を研ぎ澄ましてひたすら前へ進んで、目的地のコンビニへ急ぐ。今回は、川1本隔てた場所を選んだ。2日前に事前に¨偵察¨は済ませてあるから、新商品のストックは充分にある事も分かっている。コンビニへ入ると、素早く品物をピックアップしてレジへ進む。会計はマイちゃんが行い、私は外を伺う。行き交う人や通過する車に全神経を使う。しばらく間を置いて、コンビニを出ると今度は早足で病棟を目指す。スピードが事を左右するのだ。抜け出した場所から少し離れた場所の植え込みをまたいで、敷地内へ入り込み物陰へ身を寄せ合う。「袋を隠そう」コンビニの袋から、無地のレジ袋へ素早く品物を詰め替える。コンビニのレジ袋は畳んでズボンのポケットへ押し込んだ。人目が無い事を確認すると、一気に病棟の入り口まで小走りで駆け抜ける。その間僅かに25分!“脱走”は無事に成功した。2人共、何食わぬ顔をして病棟へ入ると、売店へ雪崩れ込む。「ふー!危なかったね」マイちゃんが笑って言う。「ああ!“お供”が居たらこんな短時間での往復は不可能だよ。やっばり僕らにしか出来ない芸当だ!」私も冷や汗を拭って答えた。「さて、通常の買い物も済ませるか。でないと怪しまれちまう」「でも、あたし財布持ってないよ?」マイちゃんが小首をかしげる。「財布なら持ってるだろう?まとめて買っちゃえばいいんだよ」「それって“オゴリ”でいいって事?」「まあね、そうしないと小銭がもらえないし、二度手間になるだろう?言い訳にも困るし」「ヤッター!じゃあまずは、あたしから。〇ッシー、荷物持って」マイちゃんは浮かれながら買い物を済ませた。私も必需品を買い込むとそれなりに小銭がたまった。「これでおつりが用意できた。まずは、デイ・ルームへ戻って現品とリストを突き合せよう。それから“配達”だ。100円未満は切り捨てでお金を集めていいよ!325円なら300円で構わない。そうしないとおつりが無くなりそうだ」「〇ッシー、太っ腹だね!みんなも喜ぶよ!」「だが、2人には怒られるだろうな・・・」「大丈夫!みんながカバーしてくれるよ!」マイちゃんが笑って言った。

「ズルイ!ズルイわよ絶対に!」Aさんがごねる。Oちゃんは何も言ってはいないが、目が笑っていない。その証拠に右側にぴったりと寄り添って座り、私の右手をガッチリと自身の太ももに押し付けて離さない。「だましにかかるとしたら身内から、危うい事は最小限の人数で行う。これが“負けない戦い”の鉄則!危うい橋を集団で渡るマネが出来ますかいな!」私は必死になって言い訳に努める。「マイちゃんもどうして話してくれなかったの?」Aさんは攻める方向を変えた。「実績よ!実績。〇ッシーとは、10回以上組んだもの。今居るメンバーの中では、唯一の大駒だし、攻防の両方に使えるのは〇ッシーだけだもの。手段としては最善の選択だったのよ!」「それに、関係者全員が“外出禁止”になったら、それこそ一大事だろう?みんなの意に答えつつ、危険は最小限に抑える。そう考えれば、答えは1つしかない!“抜け駆け”にはなるが、意表を突く事でリスクも減らせる。チャンスは月に数回しかない中で、今日を逃す訳には行かなかった。SKさんも上手く引っ掛かってくれたし・・・」「みんながハッピーになれるなら、多少の事は目をつぶって欲しいな!Aさんだって、Oちゃんだって目的のお菓子を手に入れられたんだから、勘弁して!」マイちゃんと2人で何とかごねるAさんを黙らせにかかる。そこへ「マイちゃん、〇ッシー、ありがとうごぜぇますだ!」「さすが横綱!はい!みんな、拍手して!」女の子達が次々とお礼に駆け付けてくれた。「AさんもOちゃんも、そんな怖い顔しないで!こんな離れ業が出来るのは、この2人を除いて誰が居るの?!美容に悪いわよ」「そうそう、折角の好意を無駄にしてたらバチが当たるよ」と援護のオマケも付いて来た。「そうねー、今回だけは許してあげよう!次回からは“抜け駆け”はダメだからね。Oちゃんもそれでいい?」Aさんが聞くとOちゃんも頷いた。ただ、私の右手を思いっ切り握りしめて“今回だけよ!”と意思を示す事は忘れなかった。「おっと、肝心な事を言い忘れてた!お菓子のパッケージを捨てるのは、分からない様に始末してくれ!そこから足が付いたら事だから」私が慌てて注意すると「了解!」とみんなが一斉に返して、直ぐに交換会を始めた。私の前にも“おすそ分け”の山が積みあがった。左手で上着のポケットへ詰め込んで一先ず隠すと、その手をマイちゃんが握って自身の太ももに押し付けた。「ちょい待ち!これだと身動きできないんですけど」と言うと「いいじゃん!」と言って左側へピッタリと寄り添って来る。Oちゃんに対抗してマイちゃんも同じ構えを取る。“〇ッシーはあたしが認めた唯一の人。貸しはするけど、所有権は手放さないよ!”マイちゃんも無言でそう言っている。「〇ッシー、食べないの?どんどん山になって行くよ」女の子達が言うが、私は身動きが出来ない。それを説明するのは、さすがにはばかられる。おいしそうなお菓子を前に、ただ座って居るしかない現実は「拷問」さながらだった。「あーあ、3つ目の策も考えて置くべきだった。けれど、これはこれで良かったと思うしかあるまい」みんなの目がキラキラしているのを見て心底そう思う様に心掛けた。

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