limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

New Mr DB ③

2018年12月03日 08時23分50秒 | 日記
けたたましい電子音が地下空間に響き渡った。「起キロDB!食事ノ時刻ダ。命令ニ従ワナイ場合ハ攻撃ヲ開始スル」合成ボイスはDBを叩き起こしにかかった。「うーん」DBは、身を横たえている粗末なベッドから起き上がった。レーザーに狙われているので、シーツには所々に焼け焦げた穴が空いている。およそ1か月半、時間も日付も分からない生活が続いていた。合成ボイスで起こされ、疲れて眠る。日も差さない地下空間では、推察も不可能だった。¨アメーバ赤痢¨による下痢は収まったが、依然として切れ痔は完治していないので、排便時には痛みと格闘する必要性が続いていた。¨食用蛙¨と言われた体型は、痩せ細りスリムにはなったが、目の力は最早無い。虚ろな表情で与えられた食事を黙々と胃に流し込んだ。トレーを差し入れ口へ運び、椅子に座り込むと「警告、フォークガ見アタラナイ。床ニ投ゲヨ。命令ニ叛ケバ攻撃ヲ開始スル」合成ボイスが叫んだ。「ちっ!」DBは舌打ちをすると、観念してフォークを床に投げた。2本のレーザーが瞬時にフォークを蒸発させて煙に替えた。「画像認証と重量計で監視してやがる」これで3回目の失敗だった。何とか物品を“くすねて”脱走を試みようとするDBの策は、ことごとく阻止された。「おい!シャワーを使わせろ!」「シャワーノ使用時期ハ、マダ先ダ。勝手ナ要求ニハ応ジラレナイ」「ならば、トイレットペーパーをよこせ!」「今ティシュペーパーヲ与エル」天井からティシュペーパーの袋が5個バラバラと降って来た。「これでは衛生上の問題がある!もっとよこせ!」「要求ハ却下スル。オ前ニハ選択権ハナイ。コレ以上、理不尽ナ要求ヲ行ウト攻撃モードニ切換ヲ行ウ」「何が理不尽だ!ケツの痛みで血が出るんだぞ!それが・・・」と言った途端、レーザーがダンボール製の机に穴を開けた。焦げた匂いが漂う。「レーザー出力50%アップ。ターゲット追尾モードニ切換。黙ラナケレバ攻撃ヲ開始スル」「ちっ!」DBは舌打ちをすると、観念してベッドへ横たわった。体力が落ちている現状では、相手にすれば焼けコゲだらけになるだけだ。「これ以上の消耗は避けるべきだな。だが、俺は諦めんぞ!」小声で呟くと、尻に文字通り火が付いた。レーザーが左の尻を直撃したのだ。「うわぁー・・・!」DBはベッドから落ちて床を転がった。「叛ク事ハ許サヌ。大人シクスルガイイ。オ前ノ声ハ全テ録音サレテイル。小声デアロウト聴キ逃ス事ハナイ」“今に見て居ろ!盛大に反撃してやる!”火を消し止めたDBは、床に伏せて心の中で言った。さすがにそこまでは聴こえては居ない様だった。

運命の電話会議が開かれた朝、ミスターJは¨スクランブル出動¨の指令を発していた。リーダーを中心に、各員へ¨召集¨が伝えられたが、前回の作戦から僅か1ヶ月半である。¨本業¨の都合上、何名が応じるか?は未知数であった。「時間も切迫しているが、大事なのは¨人材¨だよ。1人でも多くのベテランが欲しい。医療、コンピューター、機械電子工学、ドライバー、どれも欠かせない人材だ。今回は特に急を要する事態だ。動ける者は総動員をかけて欲しい」ミスターJは無理を承知でリーダーに指示を出した。「出来る限りの事はやって見ますが、1度に戦力を整えるのは難しいでしょう。先遣隊の指揮も含めて¨動員数¨がまとまり次第、順次出発させるしかありませんね」「仕方あるまい。戦力は逐次増強で構わん!本日の夕方までに出発出来る¨人材¨のピックアップからかかってくれ!」「はい、大車輪でかかります!」リーダーは早速、緊急メールの打電から手を付けた。¨緊急事態発生!¨基地¨へ集まれる者は、午後0時までに集合せよ!¨「果たして何人が集まれるか?ともかく¨基地¨を開けて待つしかあるまい」リーダーは¨基地¨へ急いだ。
¨ドクター¨が打電を受け取ったのは、滞在先のニューヨークのホテルだった。「これはいかんな!帰り道を至急探さねば」成田への直行便は、満席でどうにもならず、やむなくパリ経由の便に乗り込んだ。シャルル・ド・ゴール空港で待ち時間があるが、その間に¨薬剤¨を買い込むつもりだった。現地の友人が品物を用意して待ってくれている。実験のためのサンプルだが、この薬剤が後々大きな影響を持つとは、本人も思ってすらいなかった。 追っての指示は“横浜の司令部へ直行せよ”であった。ホテル名が記されていた。
N坊とF坊は、起き抜けに打電を受け取った。「おい、またまた¨呼び出し¨だぜ!」「まあ、今は¨本業¨が閑散期だ。また¨侵入¨か?¨電子作戦¨だろう。俺達の出番だろうよ!」「よし、直ぐに¨基地¨へ行くぜ。朝飯は交代で済ませよう」2人は直ぐさま車を発進させた。
ミセスAは“講演会”を済ませた帰りタクシーの中で打電を受け取った。「あーあ、また女子会は延期ね。でも、NちゃんとFちゃんも来るはずだから、2人と遊んであげましょう!添い寝もしちゃおうかしら?!」運転手が呆れ顔で見ている中、彼女はキャイキャイとはしゃいでいた。
“シリウス”が打電を受け取ったのは、1週間の出張から帰ってマンションの部屋へ戻った直後だった。「やれやれ、事件発生か。どうやら“ハッキング”の本領発揮が求められる様だな」彼はそのまま部屋を出ると、車庫へ直行した。「“装備”はこのまま持ってくか」彼も直ぐに車を発進させた。
“車屋”と“スナイパー”は、ノートパソコンの画面に釘付けになっていた。「原因は燃料噴射量のズレだね」「2番と4番の噴射量が少ないな。希薄燃焼レベルだ。おい、これがマフラーを腐食させた原因か?」「元々、薄肉設計だから、NOxの値が上がれば、腐食の一因にはなるね。溜まった水と反応すれば酸性の液体が出来る訳だから。“スナイパー”のEGIだと僅かなズレでも悪影響は出やすいし」「1代後のLEジェットロニックに替えるか?」「そうした方がトラブルは減るね。問題は“個体”を見つけることだなー。モノさえあれば交換は難しくは無い・・・」「おい、打電が来たぞ!」“スナイパー”が携帯に見入っている。「僕の処にも来てる。緊急招集みたいだ!」“車屋”も見入っていた。「おい、俺の車は動かせるか?」「調整が済めばOKだよ。交換は終わってるし、データーをいじれば15分くらいで完了できる。僕は親父に許可を取って来る!待っててくれ!」「俺も行こう。親父さんとミスターJは古い付き合いだ。今度こそ、息子に“晴れ舞台”へ参加させてもらわなくちゃ!」2人は工場奥の事務所へ向かった。

「諸君、新たな危機が差し迫っている。相手は新手の¨女弁護士¨だ!手強い相手だが、何としても阻止しなければならない。忌憚の無い意見を述べて欲しい!」Y副社長は、積極的な発言を求めた。「法の達人を相手に、真正面から立ち向かっても勝ち目はありません。余程の¨奇策¨を行使しなくては、歯が立ちません!」I氏が口火を切った。「弁護士に¨ストップ¨をかけられる人物。それは医師だけでしょう。病院へ送り込む以外に手はありません。病院で¨釘付け¨にしている間に、事を片付ける。これしかありませんな」ミスターJは静かに言った。「ミスターJ、何かしらの策はあるのか?」「彼女の経歴を調べた過程で浮かんだモノですが、仕事一筋、一匹狼、親の跡を継いだ等の条件から、¨健康診断¨を疎かにしている形跡が考えられます。がむしゃらに走り続けた体に何らかの異常を見いだせれば、逆転の余地はあると見ていいでしょう」「自覚症状があるだろう。大病なら尚更に」Y副社長は、懐疑的だった。「もし、無かったらどうでしょう?すい臓や肝臓、硬膜外血腫、骨折や靭帯断裂等の¨予測不可能¨な症状や事故は無いとは言い切れません。可能性がゼロでなければ、賭ける価値はあります」ミスターJは堂々と反論した。「誰か他に意見はあるか?」Y副社長は誰何した。誰も持論を展開する者はいなかった。「ミスターJ、そこまで言うのならば、手は打ってあるのか?」「既に部下達を横浜へ向かわせています。前回の作戦から1ヶ月半、動員出来る人数に限りはありますが、最も信頼の置ける者7名を本日中に派遣します。当面は情報収集と偵察に留めますが、初動で遅れが生じていますから、糸口が掴めれば¨攻勢¨に転じる用意はさせてあります」「よし!いいだろう!存分にやってくれ!」Y副社長は決断した。「真正面から突撃しても事態が動くとは限らん。搦め手から突けば予想だにしない展開もあるだろう。¨奇策¨が正着と言う場合もある。正面は我々で固める。ミスターJ、相手の弱点を探り出して¨ゲリラ戦¨で対抗してくれ!」「では、今夕から、早速手を打ちます!」ミスターJは早速、携帯で指示を出した。「IとX、君達は協力してKへ¨目眩まし¨を投げて欲しい。収監されているとは言っても、疑いを持たれるのはマズイ。葉書の返信をして様子を見るんだ」「はい!直ちに取りかかります」I氏はXに目配せを送った。「ミスターJ、もう一手を打ちたい。DBと私が¨やり合い¨をした¨音声記録¨を作る事は可能か?」Y副社長は¨奇手¨を口にした。「それには、Y副社長の音声記録が必要になります。それも¨出来る限り長い¨記録がです。DBの音声記録は手中にありますので問題はありません。後は、¨台本¨ですね。¨猛烈にやり合いをした¨なら、それなりのセリフを考えなくてはなりません」「不可能では無いのだな?」「ええ、合成には時間が必要ですが、肉声データがあれば作れない事はありません。テープでもICレコーダーでも加工の手間は一緒です」「済まんが、至急かかって欲しい。顧問弁護士を納得させるには、我が手にも¨武器¨が必要だ。私の音声記録は、今晩にでも¨司令部¨へバイク便で送る。¨派手にやり合った¨ヤツを作ってくれ!」「分かりました。ご希望に添うモノを作ってみましょう。追加装備品の手配を指示して置きます」ミスターJは急いで携帯を操作した。「諸君、座して待つのではなく、守りを固めつつ攻めの姿勢を取る!これは¨賭け¨でもあるが、敢えて火中の栗を拾う!大胆かつ細心の備えを取ってくれ!」「はい!」「では、これで解散とするが、各方面とも連絡は密接に取り合って行動してもらいたい。以上だ」「回線を閉じます」I氏がコンソールを操作して、電話会議は終わった。「ミスターJ、音声記録の作成なんて本当に出来るのか?」I氏は不思議そうに言った。「本人の肉声から50音と濁音と半濁音を抽出出来れば、後はパソコンとミキサーで合成すればいい。厄介なのは台本に¨感情¨をどう乗せるか?ですよ。抑揚や声の高低などは調整さえすれば、イジるのは自在に出来ますよ」「にわかには信じられんが、俺も聞いて見たい衝動に駈られるな!」I氏は本音を漏らした。「ミスターJ、今夕に¨出陣¨するのか?」「私は、当面¨居残り¨ですよ。まだ、完全に部隊が集結できてません。行くとすれば、1週間後くらいになるでしょう」「先遣隊だけで、どこまでやれる?」「正直、分かりません。駒落ちの上に後手番。形勢は不利ですが、送り込んだ部下は¨最強¨の精鋭達です。逆転の目は何処かに必ずやあるはず。それを探り当てるのが彼らの使命ですよ」「そう、あって欲しいな。さて、Xよ、我らは¨目眩まし¨を仕掛けるぞ!」「はい、仕掛けは¨あぶり出し¨で行きますか?」Xが問う。「Kに習うなら同じ手で返そう。怪しまれるのは、願い下げだ!」I氏は肩をすくめた。3人は会議室を後にした。

R女史は下腹部に違和感を感じていた。「なんだろう?この痛みはなに?」激痛ではない。物凄くゆっくりと波打つ鈍痛だった。女史は、クスリ箱から痛み止めの薬剤を引っ張り出して、2錠を飲み込んだ。「今日は、DBの尋問記録や取り調べ記録と睨めっこなのよ!」下腹部をそっと摩ると着替え化粧を済ませて、事務所へ“出勤”した。女史の自宅は事務所の上、3~4階部分にある。1階はガレージスペースと玄関、2階が事務所スペースだった。数年前に新築した「事務所兼自宅」だった。生まれ育った自宅は、その際に更地にして駐車場として活用している。両親共に他界し、1人娘として父の事務所を引継いで何年になるだろうか?事務所のスタッフは、父の代から勤めてくれている女性2名のみ。小さな所帯だが、依頼は多く評判も良かった。特に地元とは繋がりが深い。父の代から引き継いだ顧客の多くは地元の企業経営者や議員など名士が多い。「お嬢様、どうされました?」「何か変?」「汗が出ておられますよ!どこか痛い所はありませんか?」「どうってことはないわ。それより汗がにじんでいるの?」女史はコンパクトを取り出すと額を見た。うっすらと化粧が浮いていた。鈍痛の波が心なしか強くなっていた。「大丈夫よ。今日の来客予定は?」「夕方に1名。*△社の社長がお見えになるだけです。後は、お言いつけ通り予定を入れておりません」「地裁からDBの尋問・取り調べ記録を借り受けて、検討・検証をしなくては。ともかく地裁へ行って来るわ」「お嬢様、それは私共が参ります。お休みになられてください!」「大丈夫よ。自分で行く!」「ダメでございます!熱を測って下さい!ここの所、ずっとお休みを取られておられません。“些細な事も疎かにしない事”が御父上の御信条ではありませんか!」古参のスタッフに言われると父に言われている様な感覚がある。女史は止む無く熱を測った。「え!38.5℃!お嬢様!直ぐに病院へ!」「待ちなさい。解熱剤で充分よ!地裁には代わりに行ってもらう。それでいいでしょ?!少し座って休めば熱は下がるわ」そう言うと女史はソファーへ座り込んだ。「おクスリを」解熱剤を服用すると、女史は別の資料を繰りながらソファーへもたれかかった。「DBは何処に居るのか?何をされているか?ワトソン君、答えは如何に?」女史は知らず知らずの内に眠りこけてしまった。気付いたのは、地裁から記録類が持ち帰られた後だった。「お嬢様!お嬢様!」スタッフに揺り起こされると、女史はようやく我に返った。「えー!1時間も寝てたなんて、何たる不覚!」慌てて記録類を受け取ると、直ぐに目を通す。だが、鈍痛の波は治まるどころか確実に強さを増していた。鎮痛剤を飲み干し、仕事に没頭する。危険なサインはひたひたと女史の背に迫っていた。彼女はまだ気づいていなかったが・・・。

“基地”で待機していたリーダーの元へ、続々とメンバーが馳せ参じた。“ドクター”は「24時間の延着」になると言って来たが、N坊、F坊、ミセスA“シリウス”“スナイパー”“車屋”の6名は、指定時刻より前に相次いで“基地”へ到着した。「私を含めて7名だが、先遣隊を組織するには充分だ。恐らく他のメンバーは数日遅れになるだろう」とリーダーは切り出した。「今回のターゲットは誰なんです?」“シリウス”が代表して聞いた。「Kの国選弁護人を務めた、R女史だ。彼女は、DBの居場所を特定して“救出”を目論んでいる。今回は、それを阻止するために再び横浜へ向かう」リーダーは彼女の経歴の書かれたペーパーを配りながら言った。「女弁護士が何故そんな目論見を?」F坊が首を傾げて聞く。「収監されているKが泣き付いたらしい。正義感に燃える女史としてはだな、“会社が社員を不当に拘束している”と断じて、揺さぶりをかけようとしている訳さ。水面下では“救出チーム”の結成を急いでいる」「弁護士が相手となると、厄介至極ですよ。迂闊に手は出せないでしょう?逆にこちらが訴えられちまう」N坊が言った。「確かにその通りだ。それは認める。迂闊には手は出せない。だが、ある職業なら止められる」「それって、医者の事よね?」ミセスAが飛びつくように言う。「そう、医師であれば弁護士も止められる。逆に言えば医師しか止められる人は居ないって事ですよ」リーダーは苦々しく言う。「先遣隊の目的は?」“スナイパー”が聞く。「まず、R女史の身辺を徹底的に洗ってマークする事。特に病歴や治療歴は詳細に調べ上げる。目的は女史を“病院送り”に導くため。何としても医療機関に送り込むんだ!彼女の“掛かりつけ病院”は近くの□病院だ。ミセスA、先発隊として□病院に潜り込む事は可能ですか?」リーダーが問うと「□病院の総師長は、看護大学の同期生よ。Z病院から医師の派遣も受けているから、真正面から出入りできるわ!」「ならば話は早い。直ぐに発って下さい。“シリウス”、専用PCを積んで、ミセスAと共に先発だ!“初動調査”に当たって欲しい。特に、女史の事務所兼自宅周辺の状況調査、“侵入”の可否、通信状況の確認、勿論“ハッキング”の可否も調べてくれ!」「了解、32インチモニターなどの必要装備は、運んでもらえるんですよね?」「夕方までに手配するトラックに乗せよう。“司令部”は、みなとみらい地区に置く。ホテルはここだ」リーダーは2人に簡易地図を手渡す。「ほう、有名処じゃないですか!いいんですか?」「お食事もコミコミでしょ?」「心配は無用です。経費は依頼者が持ってくれますよ。では、準備出来次第、発ってくれ!」「了解」2人が合唱した。「“車屋”、リストを渡すから必要装備をピックアップしてトラックに乗せてくれ」「Nちゃん、Fちゃん、あたしの“ボストンバック”をよ・ろ・し・く!」それぞれに伝言を残すと、2人は出発準備にかかった。「次は、N、F、今回の作戦では、“侵入”は勿論、通信機器全般や“モニター”の設置などの工事が多岐に渡る。装備の準備にどの位かかる?」リーダーが問うと「フル装備を詰め込むには、3~4時間あれば」「ミセスAの“ボストンバック”とは、たっぷり30分は格闘しなきゃなりませんから、どうしても時間は必要です」N坊とF坊がそれぞれに答えた。「よし、これからかかれば、午後3時には出られそうか?」「一旦戻って作業するとなると、ギリギリですが間に合わせますよ!」「ミセスAの“ボストンバック”さえ押し込めば、時間は詰められる。行けるんじゃないですかね?」「よし、直ぐに戻れ。出発は午後3時だ!」「了解!」2人は“基地”から飛び出した。車を回して全速で自宅へ戻る。「次は“車屋”、2tトラックに必要な装備、物品を積み込んで出発準備だ!」「はい」「“スナイパー”も手伝ってくれ!準備が完了したら、“車屋”は先行して出発だ。“スナイパー”は、ギリギリまでミスターJからの指示を待って、私と共に横浜へ急行だ。2人共直ぐにかかってくれ!」「了解です」「リーダー、今回は発砲をしないよな?」“スナイパー”は改めて問う。「ああ、今回は平和的に行くつもりだ。抗争に巻き込まれる心配はない。法的抗争は起こるかも知れんが・・・」リーダーは慎重に答えた。「一応、用意だけはして置く。使わずに済めば万々歳だがな。万が一の事を考えると、必要だろう?!」“スナイパー”は念を押す。「分かった。任せるよ。さて、装備品のピックアップと積載に掛かろう。梱包だけでも容易じゃない!」リーダーは2人と共に“基地”内部の倉庫へ出向いて行った。矢は弦を放れた。持ち時間は既に4分の1を消費している。3人は黙々と梱包と積載を続けた。


ミセスAは、第三京浜に乗る前に“シリウス”と別れて単独行動を取った。上野毛付近で下車して「東急大井町線」へ乗車。自由が丘へ出てから「東横線」へ乗り換えた。“シリウス”は“司令部”設置の為に、第三京浜をひた走った。□病院へは電車で向かう予定だった。総師長を務める“友人”とは看護大学校の同期でもあり、ミスターJとの繋がりもある古くからの付き合いだ。既に携帯でアポは取って有り“資料”を用意して待っていてくれている。ミセスAは、十数年ぶりの“再会”を愉しみにしていた。「これが“任務”絡みでなければ、もっと良かったわ。でも、彼女元気かしら?」電車に乗り換えて、□病院へ向かうミセスAの心は踊っていた。最寄り駅から歩く事10分。□病院へは、文字通り“真正面”から乗り込んで、受付で「Aと申しますが、総師長さんをお願いします」と告げた。「Aちゃん!久しぶりー!」「来たわよーQちゃん!」女の子の再開は喚起の雄叫びで始まった。キャイキャイとはしゃぐ姿は女性ならでは行動だ。「さあ、部屋へ行きましょう!」Q総師長は自室へミセスAを招き入れた。「Aちゃん、まずは“仕事”から片付けましょう。こっちに来たからにはただの“私的用事”ではないはずよね。何が知りたいの?」彼女はさすがに呑み込みが早かった。「R女史の診察・検査記録の全て。出来れば画像も必要よ!」「分かった。Z病院と提携した際に、電子カルテへ移行したから“データー”には、私のパソコンからアクセス出るわ。USBメモリー持ってる?」ミセスAはUSBメモリーをQ総師長へ差し出した。「R女史の記録は、幼少期から全て残してあるわ。丸ごとコピーをかけるわよ」「ええ、お願い」「念のため紙ベースのPDFファイルも全部入れて置く。ちょっと時間がかかるから、お茶を淹れるわね」Q総師長はデスクから立ち上がると、紅茶を淹れて応接席へ運んだ。「Aちゃんは自由でいいわね。“総師長”なんて肩書は堅苦しいだけ。あたしもまだ、現場で患者さんとの触れ合いをして、看護に当たりたいものよ!さあ、コピー完了。USBメモリーを返すわ」「ごめんね、ありがとう。あたしもミスターJと飛び回るのと、看護の両立で板挟み。病棟副師長の肩書も堅苦しいだけよ!」「お互い、オペ室ナースで“機械出し”のスペシャリスト!Aちゃんまだ、腕は腐ってないわよね?」「経験が違うわ。若い子になんか、まだまだ“実力の差”ってヤツを見せつけられるわ!」2人は互いに顔を見合わせて笑う。「でも、若い子を育てなくては、これからの病院は維持できない。これは事実よ。教える側って案外難しくない?」「そうそう、下手にカミナリ落とすと落ち込んじゃうから、その辺のサジ加減が案外難しいの!」「あたし達も同じように師長さん達に“頭が痛い”って思われた口じゃない?そのしっぺ返しを今、喰らってるって感じよね」「まさか、自分達が“先頭に立つ”なんて思いもしなかっから余計にそう感じるかも」「オペ室ナースで“機械出し”もう一度やってみたいな。“どうだ!”って見せつけられれば、若い子にも睨みが利くし」「Aちゃんは、旦那さんが外科医だから“阿吽の呼吸”を体感できるでしょう?」「離れて暮らしてるから、もう何年もやってない。でも、旦那となら何となく上手く行く自信はあるよ」「ウチは内科だから、オペそのものから遠ざかってるから、やるとしたら“練習”しないとダメかも。でも、反射的に体は覚えてるもの。“火事場のなんとやら”だったら行けると思うの」「今、やらない?オペビデオと機材があれば、直ぐに出来るじゃない!執刀医はあたしで、機械出しがQちゃん。どう?」「そうね、やろうか!幸い道具は手元に転がってるし、Aちゃんが居てくれるならやってみよう!」2人は早速“仮想オペ”の支度にかかった。久しぶりの“オペ”は2人を興奮の中へ放り込むのに充分な力を持っていた。時を忘れて2人は“オペ”に没頭した。

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