limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

New Mr DB ④

2018年12月05日 08時38分14秒 | 日記
黒塗りのバンは、時速80キロを保つのが精一杯だった。「おい、次の下りで多少はスピードアップできねぇか?」N坊が希望を込めて言う。「多少はな。だが、あまり無理はできねぇ!これだけ重いんじゃ限度ってものがある」ハンドルを握るF坊が冷や汗まみれで返す。“ミセスAのボストンバック”さえなければ、2人がこんなに苦労するハメにはならなかった。積載量ギリギリの状態で、無理矢理の高速走行である。前を行った連中に比べれば這い進むも同然では、テンションも下がる。「この分だと、夜中に着けるかも怪しい。天気が急変しない事を祈るしかねぇ」F坊がボヤく。「仕方あるまい。次のSAで交代するぜ。夜食を調達して、先に食ってくれ」「ああ、アクセルは騙し騙し踏んでくれよ!荷崩れなんざ御免だ!」士気の上がらぬ事は致し方なかった。

2人が高速を這い進んでいた頃“司令部”には、“車屋”が到着して荷下ろしに必死になっていた。“シリウス”は既に自分専用のPCの設置を完了し“初動調査”に着手していた。「うーん、コイツは厄介だな。“侵入”には手こずるかも知れん」R女史の自宅兼事務所は、割と大きな通りに面していて周囲に“防犯カメラ”も多数設置されていた。死角になるエリアは限られていた上に、夜になっても人通りが多い。警備会社の防犯システムを黙らせて、忍び込むには時間帯を慎重に選ぶ必要がありそうだ。「この32インチモニターは何処に降ろします?」“車屋”が聞いて来た。「台座を組み立てて、こっちへ設置してくれ。それとコイツはどうした?」“シリウス”は“ミキサー”を指さしている。「ミスターJの指示で急遽積んだものです。なんでも“音声記録の合成”に使うとか言ってました」“車屋”が汗を拭きながら答える。「ふむ、それならコイツも組み立てる必要があるな!荷物はこれで全部か?」「とりあえず、これで全部です。後は、トラックを地下へ押し込むだけです」“車屋”が言う。「よし、とにかくトラックを片付けて来い!パソコンシステムを組み立てるだけでも一仕事ある。まずは、ネットワークを組まなきゃならん」「はい、直ぐに戻ります」“車屋”が地下駐車場へトラックを押し込みに出て行くと、“シリウス”は別のパソコンを開梱して設置を開始した。「とりあえず、使える状態にしとかないと、ミセスAの仕事に影響するな」32インチモニターは、とりあえずこのPCに接続される。「ネットワークの確立だけでも一仕事だ。おっと、プリンターも開梱しとかなきゃ。ともかく印刷出来なきゃ話にならん!」“シリウス”は機器の設置に忙しかった。“車屋”が戻ると2人がかりでの設置が本格化し始めた。“シリウス”の専用機を中心に、PC、モニター、ブリンターのネットワークが整然と組み上げられていく。「N坊とF坊が到着次第、高速通信網へのアクセス工事をしてもらおう。今の速度では到底使いモノにならない」“シリウス”はケーブルを繋ぎながら言う。「そんなに遅いんですか?」“車屋”が聞くと「一般の人にとっては気にならないレベルだが、より高速な通信網が目の前にぶら下がってるんだ。使わない手は無いだろう?」“シリウス”はランドマークタワーを指さして言う。「ここに“司令部”を置くのはその為か?!」「ああ、それと女史の事務所兼自宅から半径2キロ以内って事もある。“目”と“耳”を設置できる限度が“ここ”なのさ!」“シリウス”がにやけて言う。「後は“ミキサー”だけですね」と“車屋”が言うのと同時に部屋のチャイムが鳴った。バイク便で荷物が届いたのだ。「ICレコーダーだ。差出人から推察するとY副社長の声らしい」“シリウス”が言う。「“音声記録の合成”ってY副社長とDBのヤツですかね?」「“台本”が無いとどうにも分からん。だが、声の抽出だけはやって置かなくてはならんようだ。“車屋”、ミキサーが組みあがったら一仕事頼む。ICレコーダーの中身を転送して声の抽出と分析にかけてくれ!手順はこれだ」「分かりました。ミセスA、遅いですね。上手く“データー”を手に入れてるのかな?」“車屋”が心配する。「女性のお喋りは長いからな。まあ、気長に待つとしようや。リーダーと“スナイパー”の到着とどっちが早いか賭けるか?」「ミセスAが遅くなる方に賭けますよ。井戸端会議の長さは、母でコリてますから」“車屋”はため息交じりに言う。「それは、ある種“正論”だな!」“シリウス”もため息を漏らす。2人の予感は正しかった。ミセスAが到着したのは、夕闇が迫りくる頃だった。

秘書課長は、ベトナム出張から戻るとデスクへトランクを置くのも早々にY副社長の部屋へ向かった。ドアをノックすると「Y副社長、只今戻りました」と言って、デスクの前に進み出て直立不動の姿勢を取った。「休んで良し。ご苦労だったな。DBの様子はどうだった?」「はい、大人しくはしておりますが、依然として油断ならない状況です。しかし、幽閉は完璧に行われております。Y副社長、それよりも喫緊の課題は、女弁護士の件です。どうやって対処されるのですか?」秘書課長は報告方々、早速課題を問うた。「うむ、ミスターJが精鋭部隊を差し向けてくれた。目下、水面下で活動を開始している。そちらは、彼らに任せるとしてだ、社内的な手続きをどうやって済ませるか?を思案しなくてはならない」Y副社長は苦り切った表情で言った。「DBをベトナムへ送り込む際、問答無用で眠らせた事がネックになっている。私とDBが対面した“証拠”を作り上げねばならんのだ」「しかし、今となっては不可能です。作り上げるにしても、辻褄が合いません!」秘書課長は唇を噛んだ。「通常、犯罪に加担した場合、社内的には懲戒解雇になるはずだな?」「はい、余程の事情が無い限りはそうなります。DBもその限りではありません。そうか・・・、Y副社長“誰かがDBに申し渡した”と言う記録もしくは根拠がいるのですね?」「そうなんだ。それも、顧問弁護士を納得させられるに足りる“正当な証拠”が必要だ!」「そうしますと、厄介な事になりました。総務方にせよ、役員にせよ、DBの顔を拝む間もなく連行したのですから、口裏合わせも不可能ですし、書類の後追いも無理があります」秘書課長は当惑した。「そこでだ、ミスターJに依頼して“私とDBがやり合った音声記録”を作成してもらう“奇策”を取る。“DBと対峙して、私が特段の配慮を行った”と言う筋書きのな」「そんな事ができるのですか?肉声でなくては誰も本物とは信じません!」「“藁をも縋る”思いだが、ミスターJに賭けるしかあるまい。“音声記録”があれば、役員も弁護士も抑え込むことは出来よう」「確かにその通りですが、果たして上手く行くのでしょうか?」「現時点では、何とも言えない。だが、座して事を悪化させる事は避けねばならない。“奇策”の他に手があるとすれば、DBが釈放される以前に、私が懲戒解雇と引き換えに“ベトナム配流”を決定したと言う書類を作り上げて、決済をして置く事ぐらいだろう。書類の起案は人事部か?」「人事部名義で作成する事は、私共でも出来ます。“秘密”を知る者を安易には増やせません。しかし、仮にその手を用いるとすれば、人事部長には“事の真実”を明かさなくてはなりません!」「そうなるな。だが、止むを得ん場合は打ち明けて置く事も想定しなくはならん。当面は、ミスターJに任せるが、最悪の場合を想定して“稟議起案”を進めてくれ!人事部名義でな!」「分かりました。本件は、私が処理に当たります。他の者には悟られたくありませんから」「悪いが頼む。極秘の内に処理してくれ」「承知しました。ベトナム出張の報告書と同時に、秘密裏に作成します」秘書課長は背筋が凍る思いで言った。「ともかく、女弁護士に噛みつかれる前に、社内を整えて置きたい。君に負担をかけて済まんが、宜しく頼む」「はい、直ちにかかります」秘書課長は一礼すると部屋を辞した。難題だが、切り抜けなくては道がない。秘書課長は決死の覚悟で仕事に取り掛かった。

「よし、完全に眠ったな!レーザーシステム解除!」「はい、レーザーシステム遮断」「ドアロック解除!」「ドアロック解除しました。電流カット、鉄格子開けます」ベトナム工場の地下空間に男達が入ろうとしていた。開設以来のメンテナンスの為だった。DBは、睡眠薬で眠らされて担架に横たわっていた。この¨高級リゾート¨に外部の人間が入るのは、初めてであった。今回の目的は、大きく分けて2つ。レーザーシステムの改修及び増設と、内部の徹底的な捜索であった。DBは、実に巧妙な手口を用いて、プラスチック類や麻紐を隠し持っている疑いが見られた。例え僅かであろうとも、それらの所持を見過ごせば、脱走を許しかねない。室内のありとあらゆる場所に、捜索の手が入れられたのは言うまでもない。それと平行して、レーザーシステムの大改修と増設が、急ピッチで行われた。レーザーの出力増強、増設、精度の向上が主な内容だ。モニタールームのメインコンピュータも、バグの修正やアップデートが施された。レーザーシステムの増設は、設置と調整だけでよかった。配線や架台は、増設を見込んで既に設置されており、DBの姿勢の変化に応じて、柔軟に対処できる仕組みになっていた。レーザーシステムの出力は、200%アップ、命中精度は100分の1㎜単位で調整可能となり、より高度かつ脅威的威力を持つものに生まれ変わった。「室内に不審なモノは、無かったか?」事業所長が問うと「はい、こんなモノを押収しました」と言って、プラスチックの破片と麻紐を男達が差し出した。「やはりな、何処にあった?」「ベッドの隅に隠されていました」事業所長は眉を潜めた。「狡猾かつ老獪なヤツとは聞いていたが、予想以上に手強い相手だな。作務衣をほどいて紐を作り出すとは・・・、他にはあるまいな?」「はい、室内は全て洗い出しました。監視システムの目を盗んで、隠し通せる範囲内にはありません!」「ならば、いい。これらは始末して置け」「はい」男達は押収物をゴミ箱へ放り込んだ。「事業所長!医者が話したいと言っています」「そんな暇は無い!睡眠薬が切れる前に事を終わらせなくてはならんのだ!」苛立たしげに却下しようとすると「火傷の痕について説明を求めています!」「現地人の医者にかまけて居る時間は無い。適当に誤魔化して置け!それより、DBの方に問題はあるのか?」「無い様です。ここで何があったのかを執拗に問いただしてます」「¨手当てを倍にする¨と言って黙らせろ!何なら更に上積みしても構わん!」「分かりました」現地人の医者は、3倍で納得して引き揚げた。「ふー、今回限りだな。コストがかさむのは、避けなくてはならん。DBの診察結果はどこだ?」「これです」部下から受け取ったペーパーに目を通す。「体重が50㎏以下にならんのは何故だ?」「DBが意図的に消耗を避けているのでは?」「うむ、そうか!ならば搾る以外に無いな。赤痢アメーバを投与しよう。下痢でへたばらせるしかあるまい」「しかし、再び切れ痔になりますよ。先程、縫合したばかりですが?」「私達が切れ痔になる訳じゃないだろう?多少の痛みは止むを得ん。食事の経費がこれ以上かさむと、我々が“誤魔化せる”範囲を逸脱してしまう!経理上の不正処理ともなれば、業務監査の対象になるし、後々に厄介な事になりかねん!」事業所長は苦々しく言った。「全て完了しました。いつでも密閉できます!」「よし、古くなった椅子は残して置け。“デモンストレーション”の標的にしよう。DBをベッドへ寝かせたら密閉作業に入れ!」入り口は閉ざされ、鉄格子も閉められた。地下空間は“無敵の要塞”として生まれ変わったのだ。それから1時間後、けたたましい電子音がなり響いた。「起キロDB!食事ノ時間ダ!」合成ボイスがDBを叩き起こす。「うっ、うーん」気怠い身体を起こして、周囲を見回したDBは“異変”に気付いた。「何だこりゃ?」ベッドを始め室内の物品が、新調もしくは補修されていた。「クソ!寝ている間に何かしやがったな!」ベッドの隅に隠し持っていた“物品”も取り上げられている。ふて腐れて食事を済ませると、トレーを差し入れ口へ戻す。「警告、フォークノ歯ガカケテイル。クスネタモノヲ床ニ出セ!」「ちっ!」DBがプラスチック片を床に投げると、レーザーが一瞬で煙に変えた。「これは・・・、レーザーを強化しやがったな!」今までにない強力なレーザーの威力にDBは恐れを抱いた。「警告、コレヨリ、レーザーノデモヲ開始スル。レーザー出力MAXマデ上昇。ターゲット、ロックオン!照射マデ20秒」DBは天井を見上げた。そして凍り付いた。“監視カメラが増えている?!”古びた椅子にレーザーは照準を定めていた。次の瞬間、眩い光が8本の剣となって椅子を瞬時に煙に変えた。「レーザーデモ完了、ターゲット消滅確認。DB、叛ク様ナ真似ハスルナ!今後ハ火傷程度デハ済マナイ。レーザー出力20%マデダウン。追跡監視モードニ切換。我々ハ欠片スラ見逃サナイ。大人シク従ウノダ!」DBの顔から血の気が失せた。“パワーも出力も格段に上がっている。画像認証も重量計も精度を高めやがった。だが、どこかに隙はある。必ず脱出してやる!” DBは心の中で叫んだ。唯一、攻撃をかわせる方法だった。

“車屋”の予感は当たった。ミセスAの“司令部”到着は、日もとっぷりと暮れた午後7時を回っていたのだ。リーダーと“スナイパー”よりも延着であった。「ごめんなさいね、あたしが一番の遅延客?」ミセスAが恐る恐る聞いた。「いえ、まだ、N坊とF坊が着いていませんから」“車屋”が言うと「NちゃんとFちゃんに何かトラブル?」ミセスAが問い返す。「“地獄のボストンバック”のせいですよ!過積載の上に、彼らもフル装備。延着は止むを得ませんな。2人は深夜に到着予定ですよ!」リーダーが苦り切った表情で言う。「それで、こちらも予定が狂ってます。通信モジュールが無いので、通信回線の高速化が手つかずのまま。出来る範囲から手を付けてますが、遅々として事が進まないって状況です」“シリウス”が諦め顔で言う。「“ドクター”は明日の早暁に成田へ着きます。俺が迎えに出る予定。全員が揃うまでに、まだ・・・、8時間はかかります。ミセスA、N坊とF坊の負担を減らしてやって下さいよ!“地獄のボストンバック”は、ちょっと酷ですぜ」“スナイパー”が苦言を呈する。「だって、どうしても必要なモノを選ぶと、ああ言う状態になっちゃうのよ!好きで増やしてる訳じゃないわ!」ミセスAは反論するが「とにかく、次回から、必要最低限に抑えて下さい!機動隊員も遊撃隊員も“悪魔の鉄塊”って恐れおののく代物は運べません!それより、R女史の“データー”は手に入りましたか?」リーダーに釘を刺されたミセスAは、無言でUSBメモリーを差し出した。「“シリウス”、画面に出してくれ。ミセスA、女史の最新の治療歴はどれです?」「ちょっと待って、ここ6年あまり治療歴はないわね。“シリウス”、10代の頃まで遡って表示して!」「了解」「あったわ!18歳と24歳の時に治療歴がある!下腹部の痛みか・・・、この抗生剤と点滴治療は何の目的なのかしら?ねえ、念のためPDFのデーター出せる?紙ベースのヤツ」「ああ、これですね。並べて表示します」“シリウス”が32インチモニターに紙ベースのカルテを出した。「ふむ、これだけか・・・、一体何の治療目的の点滴なのか抗生剤なのか?これだけだと見当も付かないわ!“ドクター”なら読み解けると思うけど・・・、どこかで見た記憶のあるモノなのよね。これは、確か・・・、何だろう?ここまで出かかってるのに思い出せないわ」ミセスAは胸まで出かかっている記憶を呼び起こすのに必死になった。「カルテってこんな暗号の様な書き方で分かるんですか?」リーダーが問う。「書いた人によりけり。最近の医師は、事細かに記載する人が多いけど、R女史の主治医は□病院の院長なの。ぱっと見て、幼児の絵と意味不明の文字にしか見えなくても、本人にすればこれでも必要十分な情報を書いてるのよ。診察しながらの記載なんだし、医師が患者に向かわずに、カルテばっかりに集中したら“ちゃんと診てくれてるのかな?”って不安になるわ!」「うーん、18歳と24歳の時の治療歴が“何か”が分かれば最善なんだが、これは“ドクター”に読み解いてもらうしかないか・・・。18歳と24歳って言うと“大学入試”と“司法試験”の時期に重ならないか?」「そうね。時期的には重なるわ」「“シリウス”、最新の健康診断記録は何時になってる?」リーダーが問う。「えーと、4年前ですね。Z病院で人間ドックを受診した記録が残ってます」「モニターに出してくれ」「じゃあ、切り替えますよ」4年前の人間ドックのデーターが表示された。「CTとX線画像の記録もありますが、どうします?」「並べて表示してくれ」“シリウス”がキーボードを叩くと画面が切り替わった。「特に所見なしか」「血液、肝臓、尿、胃カメラもシロだわ」「画像診断の所見も異常なしか。CTとX線画像も“ドクター”に診てもらう以外にないか」リーダーが言うと「何万枚とX線を見て来ないと、異常を見つけ出す事は困難よ。医師の力量がモノを言う領域よ」「現段階での調査は、ここまでですかね?」“シリウス”が尋ねる。「そうね、私達に出来るのはここまでの様よ。いずれにしても、“ドクター”に診せないとダメみたい」ミセスAが悔しそうに言う。「それにしても、よくこれだけの“データー”を引っ張って来れましたね。ミセスA、□病院に知り合いの方がいるんですか?」リーダーが問う。「総師長は、私と看護大学校の同期生。ミスターJとも顔なじみよ。だから、彼女に言わなくても分かるの。何が必要なのかもね!」ミセスAは胸を張る。「なるほど、それは“井戸端会議”が長くなる訳だ!」珍しく“車屋”が痛い所を突く。「確かに、お喋りがチョット長くなったのは認めます。でも、必要な仕事はして来たわ!その部分は目を瞑ってくれないかしら?」ミセスAは“車屋”に鋭い視線を向けた。「まあ、許してやれ!“車屋”、“ミキサー”の方は処理を終えたのか?」“シリウス”が尋ねる。「今、終わりました。この後はどうするんです?」「これからDBの分を転送する。そっちは処理済だから、保存して置けばいい。次は“台本”の打ち込みだ。リーダー、“台本”はどうなってます?」「ミスターJが、メールかFAXで送ってくれる事になってる。まだ、届いてないか?」「まだの様です」「では、届くまで待機だ!」リーダーは時計を見る。「NとFが着くまでは、数時間ある。とりあえず食事にしよう。出来る範囲はやり尽くした。2人が来るまでは、具体的な話は進まない。“車屋”、食事をオーダーしろ!注文は各自に聞いて回れ。俺はカレーでいい」リーダーは窓辺に立って言った。「はい、みなさん、オーダーは何です?」“車屋”が聞いて回っていると、ミセスAの携帯が震えた。相手は□病院のQ総師長だった。「もしもし、Qちゃんどうしたの?」ミセスAが問うと「ごめん!Aちゃん“助っ人”をお願い出来ない?」と上ずった声が聞こえた。「どうしたの?」「入院中の患者さんの急変に、救急搬送が重なって手が足りないの!両方ともオペになりそうなんだけど、かなり切迫してるの。搬送されて来るは、R女史よ!既に腹膜炎を起こしているの!」ミセスAの背筋に冷たいモノが流れた。「まさか・・・、虫垂破裂って事なの?!」「そうよ!このままでは・・・」ミセスAの目の前が真っ暗になった。「“あの処置はそう言う事”だったのね!直ぐに行くわ!」携帯を切るのも、もどかしくミセスAはショルダーバックを手にした。「何があったんです?」リーダーが聞くと「R女史が、□病院に救急搬送されて来る。彼女、虫垂破裂の疑いがあるの!このままでは命に関わるわ!」「何ですって?!」「過去、2回の治療歴は虫垂の炎症を抑えるモノだった!摘出手術をしていないとすれば、腹の中は膿が溢れて炎症を起こしている!私、行って来るわ!」ミセスAは“司令部”を飛び出して□病院へ向かった。「虫垂って盲腸の事ですよね?」“シリウス”が静かに聞く。「ああ、そうだ。それが破裂してしまったとすると・・・」“タダでは済まない”といいかけて、リーダーは言葉を飲み込んだ。とんでもない事が現実に起こった。だが、これは単なる“幕開け”に過ぎなかった。更なる不幸がR女史に降りかかろうとしていた。

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