ニュージーランド移住記録「西蘭花通信」

人生の折り返しで選んだ地はニュージーランドでした

アンティークショップは宝の山

2002-05-23 | 移住まで
ニュージーランド移住の師と仰ぐレディーDはのたまう。
「他人が見ればただのガラクタ、でも自分にとっては素敵なお宝が見つかる(かもしれない)のがアンティークショップという所なんです」
と。そして
「まるで宝探しでもするみたいに、一歩店内に足を踏み入れてからは、前に進むのを勿体なげにゆーっくりゆーっくり右左物色しながら、背の高い陳列棚の上にまで目をやって進んで行き、ひとつの掘り出し物も見逃すことのないように隅から隅までズズズイーっといくんです。」

嗚呼。さすがレディーDわかってらっしゃる!そうなんです、NZではアンティークショップということになっている偉大な古道具屋はお宝の山!実際はアンティークショップと言うほどカネ目の物はないし、リサイクルショップというほど軽いものでもなく、しっかりと人々の生活に根ざした由緒正しい庶民の店なのです。9年前に初めてダニーデンで足を踏み入れたのが、私のアンティークショップのデビューでした。

ごちゃごちゃ並んだ脈略のない古いものたち。「少しでも見栄え良く」というささやかな希望は数年前に断念された様子で、ただただ持ち込まれるものを隙間無く並べただけの店。突然入ってきた客にもほとんど注意が払われず、その無関心をいいことに、こちらは片端から面白そうなものを吟味するお楽しみにどっぷりと・・・。一気に古道具屋の虜になってしまいました。

「一体何に使うんだろう?」
と首を傾げるしかない、農機具の一部らしい錆びて曲がった鉄だの、素人が描いた油絵、どう見ても何かの景品だった物や、本人しかわからない無名の観光地の写真がはまった灰皿・・・。持ち込む方も持ち込む方なら、並べてしまう店も店です。そこに「もしかしたら売れるかも」という、商売を営む者にとっての最後の望みがあるのかさえも疑問です。

レディーDは続けます。
「意外なほどのアンティーク屋の賑わい。地味な家業と思いきや、老若男女、国籍問わず常に多くの人の興味を惹きつけています。お店巡りをしていて、まだまだ答えの出ないほのかな疑問。それは"アンティークと中古の定義はあるのか?"と言うことです。」

僭越ながら、私はあると思います。昔、株のお客さんにくっついてクリスティーズだか、サザビーズだかの下見会に行ったことがあります。
「確かにステキだけど、なぜこんなにゼロがいっぱい???」
と、いくら目をひん剥いて見ても信じられないような金額・・・。ちょっとした茶碗だの宝石だのが、車1台、家1軒というお値段なのです。実際の競売でも競っている人はその場におらず、代理人が携帯で連絡を取りながら競り落としていくそうですが、こんなに高価というか高額なものを姿も見せずに、電話一本で買うというのも不思議な世界でした。

やはりアンティークは古い物の中のブランド品で、人々が価値を認め、それに値がつくという取引市場が成立するものでないとだめなのでしょう。いくら家に代々伝わる古い物でも第三者が値をつけなければ、商品としてのアンティークにはならないのだと思います。

そこへいくと、古道具は気楽です。古けりゃいいのです。いつか、どこかで新品だったそれを使っていた人がいて、何かの事情で手放し、その間にヘタをすれば何人かを経由して今、私の目の前にある・・・という平凡なストーリーがもれなくついてくる中古品、それが古道具です。価値があろうとなかろうとそんなこたぁお構いなし。自分が気に入っているか、必要としているか、というだけで十二分に存在意義があるお手軽で、身近なものです。

それが個人の思い入れに上手く合うとお宝になり、そうでなくても「ちょっと懐かしい使い勝手のいいものが、こんなに安く手に入った」いうささやかな喜びを、使うたびに思い起こさせてくれる愛用品という、そこそこの地位に収まります。そこには他人の介在はなく、誰もが認める価値は不要。そして道具だからまず使うこと。使わなくても持っていることを積極的に楽しむこと・・・これに尽きるのではないでしょうか。

ダニーデンで買ったのは2客のティーカップでした。

ソーサーは華やかな絵柄のボーンチャイナなのに、カップはスーパーに色違いでズラッと並んでいるような安物でした。でもソーサーの絵柄の黄色に合わせた色です。これを店に持ち込んだ人は、お気に入りのボーンチャイナのカップを割ってしまい、泣く泣く似たようなカップを探してきたものの一瞬の慰めにしかならず、割れる前の姿が思い起こされて、とうとう手放してしまったんでしょうか。

私は見知らぬその人のささやかな努力とその後の虚しさの双方を喜んで引き受けるべく、そのカップを買い、一目で見破れてしまうちぐはぐを楽しみなながら、今でも大切に使っています。

いつかこのカップたちも、海を越えて里帰りさせます。



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編集後記「マヨネーズ」   
初めて行ったエステで「顔がくすんでいる」と言われ、コレを使え、アレを買えと散々言われて、とうとう「試しに」と、そばかすもどきのシミを勝手に2、3個取られてしまいました。

「ひょっ、ひょっとして、コレって、プチ整形っていうヤツ?」
ベッドの上に寝かされた私は何が起きたのかわからないまま、痛みに顔を歪ませながら
「????」

「一体どういう手入れしてるの?えぇ、普段からエステに通ってない?アンタいくつ?考えなさいよ。」
敬語のない中国語の気楽さで、年季の入ったエステシャンは質問攻め。
「いつも1日何時間寝てるの?」
「えっと、4時間くらい・・・」
と小さい声で答えると、
「っぇえええええ?ダメよう。8時間は寝なくちゃ。その顔見てみなさいよ!」
と、渡された手鏡には見慣れた自分の顔。

「あのぉ、これじゃいけないんでしょうか?」


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後日談「ふたこと、みこと」(2021年1月):
このメルマガを配信してから18年が経ち、今のNZからはアンティークショップがすっかり姿を消しています。代わって台頭しているのが、OPショップ(オポチュニティー・ショップの略)と呼ばれる、慈善団体や教会が運営する寄付の品を売るチャリティーショップ。

移住早々にOPショップでボランティアを始め、私のボランティア歴も15年目に入りました。なんだかんだとアンティークや古道具とつかず離れずの生活をしています。

件のカップは香港から再びNZに捲土重来。その後も長らく持っていましたが、16年経って2009年にOPショップに寄付しました。


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