「朝霧に包まれた信濃沓掛―現在の中軽井沢―から北軽に向けての登り坂を、十八歳の少年が、リヤカーを曳いた自転車のペダルを踏み続けていた。リヤカーには、キャンヴァスで覆われた単車が積まれている。
道の左右はアカシアやブナやナナカマドの紅葉が華やかな色どりをそえていたが、曲がりくねった路面は凹凸が多かった。少年は額から流れて眼に入る汗を、色褪せたデニムのリー・ライダースのウェスターン・ジャケットの袖で拭う。昭和三十二年十月のことであった。
少年は背が高かった。細っそりした体は強靭であったが、通りすがりの女が息をとめるほどの美貌には、まだ稚さが強く残っていた。特に少年特有の淋しげな襟足には、脆さの印象が濃い。少年の名前は北野昌夫といった。」
という書き出しで始まる小説「汚れた英雄」。
最初に読んだのは高校生くらいの頃だったと思います。
友達が貸してくれたけど、最初は興味がわかなくて長い間読まずにいたのを覚えています。
気まぐれにページをめくった時に、この書き出しで引き込まれました。
以来何度読んだか。
本格的な文学を好まれる方にはただのエロ小説(笑)かもしれませんが、おぢさんスゴイ影響受けました。
その後、自分で買った本は捨てずに今でも持っています。
ボロボロで中は変色してるけど。