2009年に行なわれた衆議院議員選挙について,議員一人当たりの有権者格差が最大2.3倍となった区割りは,投票価値の平等に反するとして選挙無効を求めた訴訟について,最高裁は選挙無効の請求は棄却したものの,現行の区割り制度が違憲状態であり,直ちに是正すべきと言及しました。
これにより,国会は,区割りを含めた選挙制度の見直しを求められるのは必至の状態となりました。
09年衆院選は違憲状態=1人別枠方式「平等に反する」―廃止要請・最高裁大法廷(時事通信) - goo ニュース
最高裁はいよいよマジで警告した
これまで,一票の価値に関する裁判はいくつも行われており,違憲判決も出ているものの,いずれも「事情判決」にとどめ,国会での早期是正を期待する程度の判決内容になっていました。
しかし,今回は,一歩進み,「今度こそやらないと次は選挙無効にするかもしれないぞ」という強力な内容になったのです。
判決内容ですが,ざっくり言うと次の通りです。
1 衆議院議員選挙小選挙区の区割りは,まず各都道府県に1議席を配分したうえで,残りを人口割りするという「一人別枠方式」を採用している。この趣旨は,人口の少ない県に居住する国民の意思も十分に反映させることを目的としている。
だけど,議員は「地域代表」ではなく「全国民の代表」だから,地域性を理由に一票の格差をゆがめる理由はない。むしろ,この制度が,一票の格差を2倍以上に広げる要因となっている。
2 この一人別枠方式は,そもそも中選挙区から小選挙区に移行する際に,急激に議員が減少する地域を避けるための措置だったので,あくまでも一時的なものに過ぎない。とすれば,新制度が定着すれば,もはやこの制度は合理性を失う。
3 前回の訴訟(2005年の選挙についての2007年最高裁)時点では,まだ新制度の移行期であり合理性があるといえるので,合憲としたのは理由があるが,2009年の選挙では,それから十分検討する時間もあり,選挙もある程度やったから,もはや合理性がある制度とは言えない。
4 ただし,2007年に合憲判決がでていることを踏まえると,合理的期間内に是正されなかったとまでは言えないので,選挙無効にはできない。
5 だけど,一票の価値を平等にするため,これから合理的期間内に,一人別枠方式を廃止し,速やかに是正すべきである。
こんな感じです。
ものすごく分かりやすく言うと,「選挙制度変えるので移行措置として一人別枠方式を採用したのは悪いとは言えないが,もう移行期間終了したから,さっさと直せ」ということなのです。
そして,今までの判決との違いは,「合理的期間」に制限を付けたことです。これまでは,「合理的期間」というキーワードを使いながら,それがどの程度なのか明確にしませんでした。しかし,今回の判決では,「今からできるだけ速やかに」という点を明確にしたのです。すなわち,合理的期間のストップウォッチのボタンは押されたということになります。
だとすると,場合によっては,次回の選挙までに是正されなければ,今度こそ本気で「選挙無効判決」を出すかもしれないと最高裁は警鐘を鳴らしたと言えます。
さてさて,国会は,いよいよ本気にならなければいけません。
今,メインは震災復興関係の議論だとは思いますが,だから選挙制度の議論はやらなくていいっていう問題ではありません。一票の価値は民主主義の根幹にかかわるテーマですし,震災復興を本気で進めるとしたらなおのこと「有権者の声を忠実に反映する国会」にしなければなりませんから,これは同時並行的に処理しなければならないテーマとなります。
選挙無効にされないためにも,下手な党利党略による選挙区割りを考えるのではなく,ある程度客観的,機械的に区割りをして一票の価値を平等にしなければならないでしょう。
判決でも歌っているように,憲法の大原則は,「国会議員は全国民の代表」なのですから,ある程度地域制は希薄になっても仕方がないでしょう。
ちなみに,この裁判ではあまりニュースになっていませんが,もう一つの論点があり,それは「政党所属の候補者と無所属候補者とでは,選挙運動の範囲が異なるので不平等だ」という点ですが,これについては,「政党政治を基本とすれば,合理的理由はある」として請求棄却されました。
とはいえ,やはり選挙制度はある程度抜本的見直しが必要な時期に来ていると言えます。今回の統一地方選挙でも,震災の影響から選挙カー自粛などをしていますが,選挙カー自体がもはや時代錯誤な代物ですし,今の選挙制度では,実は「政策を訴えにくい」という選挙の根幹を揺るがしかねないものですから,「もっと政策を訴えやすくする」という方法に転換していくべきと言えます。
国会において区割りを検討するのであれば,こうしたそもそも論も含めてきちんと,かつ早急に見直しをするべきです。
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TB先一覧
http://itoh-blog.at.webry.info/201212/article_18.html
これにより,国会は,区割りを含めた選挙制度の見直しを求められるのは必至の状態となりました。
09年衆院選は違憲状態=1人別枠方式「平等に反する」―廃止要請・最高裁大法廷(時事通信) - goo ニュース
最高裁はいよいよマジで警告した
これまで,一票の価値に関する裁判はいくつも行われており,違憲判決も出ているものの,いずれも「事情判決」にとどめ,国会での早期是正を期待する程度の判決内容になっていました。
しかし,今回は,一歩進み,「今度こそやらないと次は選挙無効にするかもしれないぞ」という強力な内容になったのです。
判決内容ですが,ざっくり言うと次の通りです。
1 衆議院議員選挙小選挙区の区割りは,まず各都道府県に1議席を配分したうえで,残りを人口割りするという「一人別枠方式」を採用している。この趣旨は,人口の少ない県に居住する国民の意思も十分に反映させることを目的としている。
だけど,議員は「地域代表」ではなく「全国民の代表」だから,地域性を理由に一票の格差をゆがめる理由はない。むしろ,この制度が,一票の格差を2倍以上に広げる要因となっている。
2 この一人別枠方式は,そもそも中選挙区から小選挙区に移行する際に,急激に議員が減少する地域を避けるための措置だったので,あくまでも一時的なものに過ぎない。とすれば,新制度が定着すれば,もはやこの制度は合理性を失う。
3 前回の訴訟(2005年の選挙についての2007年最高裁)時点では,まだ新制度の移行期であり合理性があるといえるので,合憲としたのは理由があるが,2009年の選挙では,それから十分検討する時間もあり,選挙もある程度やったから,もはや合理性がある制度とは言えない。
4 ただし,2007年に合憲判決がでていることを踏まえると,合理的期間内に是正されなかったとまでは言えないので,選挙無効にはできない。
5 だけど,一票の価値を平等にするため,これから合理的期間内に,一人別枠方式を廃止し,速やかに是正すべきである。
こんな感じです。
ものすごく分かりやすく言うと,「選挙制度変えるので移行措置として一人別枠方式を採用したのは悪いとは言えないが,もう移行期間終了したから,さっさと直せ」ということなのです。
そして,今までの判決との違いは,「合理的期間」に制限を付けたことです。これまでは,「合理的期間」というキーワードを使いながら,それがどの程度なのか明確にしませんでした。しかし,今回の判決では,「今からできるだけ速やかに」という点を明確にしたのです。すなわち,合理的期間のストップウォッチのボタンは押されたということになります。
だとすると,場合によっては,次回の選挙までに是正されなければ,今度こそ本気で「選挙無効判決」を出すかもしれないと最高裁は警鐘を鳴らしたと言えます。
さてさて,国会は,いよいよ本気にならなければいけません。
今,メインは震災復興関係の議論だとは思いますが,だから選挙制度の議論はやらなくていいっていう問題ではありません。一票の価値は民主主義の根幹にかかわるテーマですし,震災復興を本気で進めるとしたらなおのこと「有権者の声を忠実に反映する国会」にしなければなりませんから,これは同時並行的に処理しなければならないテーマとなります。
選挙無効にされないためにも,下手な党利党略による選挙区割りを考えるのではなく,ある程度客観的,機械的に区割りをして一票の価値を平等にしなければならないでしょう。
判決でも歌っているように,憲法の大原則は,「国会議員は全国民の代表」なのですから,ある程度地域制は希薄になっても仕方がないでしょう。
ちなみに,この裁判ではあまりニュースになっていませんが,もう一つの論点があり,それは「政党所属の候補者と無所属候補者とでは,選挙運動の範囲が異なるので不平等だ」という点ですが,これについては,「政党政治を基本とすれば,合理的理由はある」として請求棄却されました。
とはいえ,やはり選挙制度はある程度抜本的見直しが必要な時期に来ていると言えます。今回の統一地方選挙でも,震災の影響から選挙カー自粛などをしていますが,選挙カー自体がもはや時代錯誤な代物ですし,今の選挙制度では,実は「政策を訴えにくい」という選挙の根幹を揺るがしかねないものですから,「もっと政策を訴えやすくする」という方法に転換していくべきと言えます。
国会において区割りを検討するのであれば,こうしたそもそも論も含めてきちんと,かつ早急に見直しをするべきです。
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ここが、判決のポイントであると同時に
憲法学的ポイントでしょう。
ただし、この判決を読んで違和感を覚える国民も少なくないでしょう。
単に、行政の効率性を考えての選挙区制度という観点に立てばこの判決も合点がいくのでしょうが、国民はそうではなく
てきわめて身近な視点で「政治」を感じることが多いからです。
中選挙区制がその現実と憲法が掲げる理想を埋める折衷案としての役割を果たしていただけに、今後とも論議の的となりそうです。
一方でもう一つの観点である
「合理的期間」についてある程度踏み込んだ発言をしたことについては立法府が
「さぼらない」ように警告を鳴らしたという点で評価できるでしょう。
今回の判決では,改めて「国会議員は国民の代表」と明言しましたが,世間の感覚は,まだまだ「おらが村の代表」というイメージが強いため,そのあたりに違和感を感じている点も多いかもしれません。
もちろん,全国民の代表といえども,大都市の代表だけでなく,過疎地域からの代表がいなければ真の意味での民意を反映しているとは言えませんから,地域代表という観点をないがしろにすることもできませんが,だから一票の価値を歪めるというのはいかがなものかという最高裁からのメッセージだったのかもしれません。
合理的期間については,おっしゃるとおり「さぼるな」という最後通告といえるでしょう。もはや,国会も私利私欲に走る場合じゃないですね。