「引っ越し,引っ越し,さっさと引っ越し」などと騒ぐなど連日騒音を続けることによって隣人住民み心因的障害を与えたとして起訴されたいわゆる「騒音おばさん」の判決が奈良地裁であり,懲役1年の実刑判決となったようです。
なお,被告人は判決を不服として大阪高裁に控訴しました。
livedoor ニュース
近隣住民の不安はまだまだ続くでしょう
この判決,いろんな争点や問題点などがあります。簡単に整理します。
1 この裁判の争点はなにか?
被告人は「音を出したこと」という事実自体は認めています。そこで,裁判では次の点が争点となりました。
(1) 騒音を出して隣人の人の体調が悪くなったことが,傷害罪でいう「傷害」となるか。
(2) 傷害になるとして,被告人には隣人の体調を悪くさせようという「故意」があったか。
そして,(1)については,簡単にいえば2年以上の長時間,昼夜を問わず騒音を流していることで精神的ストレスを与え,それによって体調を崩すことは因果関係ありとして「傷害になる」と指摘しました。
(2)については,自分は騒音を出していないし,隣人に迷惑をかけている認識はないといっても,隣人が高血圧であることを知っていたことや,警察等の注意を無視し続けたことから,「いずれ隣人が体調崩しても仕方がない」という認識があった(これを「未必の故意」といいます)として,故意を認定しました。
この判決をふまえて,この事件や類似事件について注意したいことは,「騒音を出した=傷害罪」とは必ずしも言えないということです。騒音と体調不良との因果関係が立証できること,騒音を出している側に近隣住民の体調が悪くなっても仕方ないかという認識があったことを立証できなければ傷害罪が成立しないということになります。
したがって,「これで近所の工場やカラオケボックス経営者も傷害罪で逮捕できる」と早合点しないよう注意してください。
2 未決勾留日数に注意
被告人は去年4月から1年以上勾留されており,それに対して判決は「懲役1年」となっています。
この場合,裁判官は裁量で,裁判中の勾留期間を刑期に参入することができると規定されています。これは,未決勾留といえども自由を奪われておりその限りで懲役刑と変わらないと言う考え方から生まれたものです。
そして,多くの裁判官は,起訴後の勾留期間を算入するという考えを持っているようです。
ところが,今回の判決では,起訴後の期間すべてではなく,その一部である250日を算入しました。
この計算の是非はなんともいえませんが,確実に言えることは,懲役1年の刑が確定したとしても,実質3ヶ月ちょっとで出所できるということです。
つぎに注意しなければならないのは,被告人が控訴して高裁で審理が進められるということです。ここで,仮に懲役1年が確定したとしても,審理に3ヶ月以上かかってしまった場合,この期間も未決勾留の算定基準となることから,実質的には裁判終了により釈放,という可能性が極めて高いことになります。また,高裁判決が例えば「懲役8か月」などとなった場合は,確実に即日釈放になります。
更にいうと,高裁の裁判が半年とか長期化した場合,裁判所は勾留更新をしないで,被告人を釈放することになる場合があります(刑罰より長い間拘束してしまうと,あとで刑事補償しなければならない可能性も出てくるため)。
つまり,近隣住民にとっては,どっちにしても去年4月から1年ちょっとしか平和な期間がなかった,ということになるわけです。
ちなみに,今回の判決を聞いて,「未決勾留日数を刑罰に入れるなんておかしい」なんて思われる方もいると思います。ただ,これはいつも言っているように「自分が起訴された場合はどうか」という視点から考えてみてください。もっというと,懲役1年の刑罰を与える罪のために,裁判所という国家機関がわざと裁判を20年かけて審理していたとしたら,あなたはどうしますか?という視点を忘れないようにしてください。これが無条件に許されたら,刑法に書いてある懲役刑なんて大半が無意味なものになってしまいます。
3 検察が控訴していない?
被告人が控訴しましたが,検察庁の動きが分かりません。
そもそも,検察官は懲役3年を求めていたために,判決に不服があると思われます。
したがって,検察庁も控訴することが可能であり,仮に検察庁が控訴すれば,高裁では1年以上の懲役刑となる可能性も出てきます。
一方,検察庁が控訴しない場合,懲役刑が1年以上になることは絶対にありません。控訴したのに不利になる,というオチを防ぐためです。
したがって,検察側の動きも注意しておく必要があります。
4 おまけ
ネット上では,いろんな情報が飛び交っていましたが,ちょっと面白かったのは「エバンゲリオンと被告人の言動をコラボレーションした映像」でした。
リンクして紹介しようと思いましたが,一方で被告人の名誉を汚すおそれがあること,映像自体に著作権法上の問題が懸念されることなどから,リンクはしませんでした。
興味のある方は,検索してみてください。
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TB先一覧
http://tetorayade.exblog.jp/4448993/
http://blog.livedoor.jp/yswebsite/archives/50804613.html
http://blog.so-net.ne.jp/g1a2k3a4n5/2006-04-22
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http://blog.goo.ne.jp/oyaji-hagechabin/e/a1f28dddd2070895d375390d6f2e3bbb
http://blog.livedoor.jp/cydle/archives/50616170.html
http://ameblo.jp/kokkeibon/entry-10011719671.html
http://blog.livedoor.jp/kimagure416/archives/50306364.html
なお,被告人は判決を不服として大阪高裁に控訴しました。
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近隣住民の不安はまだまだ続くでしょう
この判決,いろんな争点や問題点などがあります。簡単に整理します。
1 この裁判の争点はなにか?
被告人は「音を出したこと」という事実自体は認めています。そこで,裁判では次の点が争点となりました。
(1) 騒音を出して隣人の人の体調が悪くなったことが,傷害罪でいう「傷害」となるか。
(2) 傷害になるとして,被告人には隣人の体調を悪くさせようという「故意」があったか。
そして,(1)については,簡単にいえば2年以上の長時間,昼夜を問わず騒音を流していることで精神的ストレスを与え,それによって体調を崩すことは因果関係ありとして「傷害になる」と指摘しました。
(2)については,自分は騒音を出していないし,隣人に迷惑をかけている認識はないといっても,隣人が高血圧であることを知っていたことや,警察等の注意を無視し続けたことから,「いずれ隣人が体調崩しても仕方がない」という認識があった(これを「未必の故意」といいます)として,故意を認定しました。
この判決をふまえて,この事件や類似事件について注意したいことは,「騒音を出した=傷害罪」とは必ずしも言えないということです。騒音と体調不良との因果関係が立証できること,騒音を出している側に近隣住民の体調が悪くなっても仕方ないかという認識があったことを立証できなければ傷害罪が成立しないということになります。
したがって,「これで近所の工場やカラオケボックス経営者も傷害罪で逮捕できる」と早合点しないよう注意してください。
2 未決勾留日数に注意
被告人は去年4月から1年以上勾留されており,それに対して判決は「懲役1年」となっています。
この場合,裁判官は裁量で,裁判中の勾留期間を刑期に参入することができると規定されています。これは,未決勾留といえども自由を奪われておりその限りで懲役刑と変わらないと言う考え方から生まれたものです。
そして,多くの裁判官は,起訴後の勾留期間を算入するという考えを持っているようです。
ところが,今回の判決では,起訴後の期間すべてではなく,その一部である250日を算入しました。
この計算の是非はなんともいえませんが,確実に言えることは,懲役1年の刑が確定したとしても,実質3ヶ月ちょっとで出所できるということです。
つぎに注意しなければならないのは,被告人が控訴して高裁で審理が進められるということです。ここで,仮に懲役1年が確定したとしても,審理に3ヶ月以上かかってしまった場合,この期間も未決勾留の算定基準となることから,実質的には裁判終了により釈放,という可能性が極めて高いことになります。また,高裁判決が例えば「懲役8か月」などとなった場合は,確実に即日釈放になります。
更にいうと,高裁の裁判が半年とか長期化した場合,裁判所は勾留更新をしないで,被告人を釈放することになる場合があります(刑罰より長い間拘束してしまうと,あとで刑事補償しなければならない可能性も出てくるため)。
つまり,近隣住民にとっては,どっちにしても去年4月から1年ちょっとしか平和な期間がなかった,ということになるわけです。
ちなみに,今回の判決を聞いて,「未決勾留日数を刑罰に入れるなんておかしい」なんて思われる方もいると思います。ただ,これはいつも言っているように「自分が起訴された場合はどうか」という視点から考えてみてください。もっというと,懲役1年の刑罰を与える罪のために,裁判所という国家機関がわざと裁判を20年かけて審理していたとしたら,あなたはどうしますか?という視点を忘れないようにしてください。これが無条件に許されたら,刑法に書いてある懲役刑なんて大半が無意味なものになってしまいます。
3 検察が控訴していない?
被告人が控訴しましたが,検察庁の動きが分かりません。
そもそも,検察官は懲役3年を求めていたために,判決に不服があると思われます。
したがって,検察庁も控訴することが可能であり,仮に検察庁が控訴すれば,高裁では1年以上の懲役刑となる可能性も出てきます。
一方,検察庁が控訴しない場合,懲役刑が1年以上になることは絶対にありません。控訴したのに不利になる,というオチを防ぐためです。
したがって,検察側の動きも注意しておく必要があります。
4 おまけ
ネット上では,いろんな情報が飛び交っていましたが,ちょっと面白かったのは「エバンゲリオンと被告人の言動をコラボレーションした映像」でした。
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