おかあさんのうた

どこをどう歩いてきたんだろう。
おかあさん、子供たちよ。
あのぬくもりはもう帰っては来ないのだろうか。

真夏の後悔

2009-10-31 15:46:11 | 随筆
「じゃあ行ってくるね」
電車通りの左端に車を停めて、妻と二人の子供を降ろした。
コンクリートの路面と線路に灼熱の太陽が降り注いでいた。
日曜日。朝から2キロほど先の門司港にある山城屋デパートまで買い物に出かけた帰りである。
 「明日、マージャンやろう」
と先輩の田岡が切り出したのは昨夜のことだった。薬河も大高も賛成した。
田岡と薬河は2つ、大高はひとつ上だった。
「明日は家族と約束がある」
と渋ったが許してもらえるはずがなかった。家族でデパートに買い物に出かける事になっていた。
妻の由布子の顔を思い浮かべた。せめてと夕方からにすることだけは認めさせた。
 両手にショッピングした大きな品物を下げて坂道を重たげに上る妻の手に次女の小さな手がすがりつく。長女は妻の荷物に手を添えているが、邪魔になりこそすれ助けにはならない。
照りつける夏の太陽の下を黙々と由布子の後姿に車を降りて、自宅まで一緒に行こうかと迷った。
止めた。
ごまかしのやさしが何になる。自分に腹が立った。
 思いっきりアクセルを踏んだ。
涙が停まらなかった。

 明世が五歳、智美が二歳の夏であった。
きょうのような青く澄んだ空を見るたびに目頭が熱くなる.
もう数十年も前のことなのに、いつも想い出しては取り返しの日々を後悔する。





かあさんのうた ~公園~

2009-10-08 17:23:50 | 随筆
 台風は北へ去って行った。

昨日まで降り続いた雨はあがった。

公園へ行ってみよう。ずいぶんと行ってないなあ。


 どこまでも、どこまでも広がる蒼い空が果てしなく誘う。

公園の丸太で作ったベンチで缶コーヒーを飲む。

秋風が通り過ぎてゆく。もう秋だ。


 自分はここで何をしているのだろう。

何をするためにこの公園に来たのか。

なぜ、この町にこんなに長くいるんだろう。

 
 公園の傍の大通りを走り抜けてゆく車の音が、遠い世界からのように流れている。

葉を繁らせた大きな赤木は、灼熱の夏の太陽を凌いできた自信を誇らしげに、いきいきとしている。

夏の間、枝いっぱいに花をつけていた百日紅は実となり、葉を落とし始めている。

公園で遊ぶ子等の声が、透き通って懐かしい。


 かあさん、おいでよ。

おまえの好きな風景だよ。

やめてたタバコを今、買ってきた。

おいでよ。

タバコは捨てるから。


平成21年10月8日(木)晴れ