おかあさんのうた

どこをどう歩いてきたんだろう。
おかあさん、子供たちよ。
あのぬくもりはもう帰っては来ないのだろうか。

帰るところのない大晦日

2009-12-31 16:01:33 | 随筆
 おかあさん、
きょうは寒いんだ。
そっちも寒いんだって。川面に靄がたってるかな。

 アコは帰ったかい。
モコは相も変わらず仏頂面してるかな。
あれから半年。
俺のこと忘れて、なんてことないよね。

 もう何年も帰ってない。
どう言い訳しようかと正月が近くなる度
辛かった。
思いあぐねていた。
帰りたくても帰れなかった。
どんなに文句言われてもいい、
帰りたかった。

 もう迷うことも
考えることもなくなってしまった。
 ことしから帰れない。
帰るところがなくなった。

 刺身セットを買ってきた。
仏壇にあげて、父や母に詫びよう。
由布子よ
勝手な俺だった。
後悔している。

 往く年来る年、
年は往くんだね。
もう還らないんだ。
 今年が最初からやり直せるといいね。
そしたら、そしたら、
こんな馬鹿なこと
決して、しないのに。


ありがとうって云えなかった

2009-12-05 17:54:19 | 随筆
 仏壇を買わなきゃね。

 昼下がり、あたたかな陽射を背に受けて
バス停にたたずんでいると
「あれ、お前ここで何している」
あの人もこの人もお前に見えてくる。

 「単身赴任のものだから小さい仏壇でいい」
繕いながら、愛想のいい店員に案内してもらった。

 いつ、父や母の仏壇を揃えるたのか知らなかった。
仕事を持ち、小さな子供たちを世話しながら、
愚痴ひとつ言わず懸命に家族のために尽くしてくれたね。
いつの間にか仏壇が座敷にあった。
あの時、
「ありがとう」
と言っただろうか。
すまないと思っただけだったような気がする。

 先日ね、
姪っ子が東岸寺にお参りに行った。
「兄ちゃん、お姉さんはよくお参りにきてくれるよ、ってお寺さんが言ってた」
「そう、あいつらしいさ。おれにはもったいないよ」

 押し付けるようなことは一言も言わなかった。
「機会があったらできるだけお参りしなさい」
と、それだけだった。

 帰りの道に咲くトックリキワタがきれいだった。
<お前に見せたい>
叶わぬ夢を見る。
なぜ、あの時、あの日、あの時代気がつかなかったんだろう。

 もうすぐ冬だ。
ひとりの冬はいやだ。
「一緒に住む気はありません」
あの一行が胸を刺す。

 葉を数枚残した冬枯れの樹がポツンと立っていた。