男。
女ではない、俺は男だ。
平太は夜更けの坂道を千鳥足で家路を辿る。
急ぐのではない、辿っている。
梅雨中休みのような暗い空は町の灯りに明るい。
今夜もまた彷徨い出た。
俺は男だ。
平太はまたつぶやいた。
平太の顔を打つ初夏の風は彼を奮い立たせた。
この風はどこかで、いつだったか俺の身体を吹き抜けて行った。
平太は懐かしさに訳もなく瞼を熱くした。
さわやかなこの夜風。
いつだったかな。
どこだったかな。
酔いどれ平太の老いぼれた足取りは急に軽やかになった。
そうだ、俺には青春があった。
あの頃は未来があった。
青空もあった。
俺は男だった。
突然、平太は自己嫌悪に陥った。
なに愚痴ってんだ、老いぼれ奴!
男を忘れた野郎が街燈の下を千鳥足。
みっともないってもんじゃない。
平太、
嘯いて鼻歌まじりで家路を歩む。
男だろう、
そうだろう、甲斐性なし。