マンゴが旬だ。
アコに送るマンゴを買いに出かけた。
手頃なのをみつけた。
いざ、送る段になって住所をメモして来なかったことに気付く。
「後から電話で連絡してもいいですか」
店員はできない訳を並べる。駄目らしい。
アコの携帯に電話すれば済むのだが躊躇する。
離婚することも、したことも一言も言ってない。
盆や正月には帰ってきているから知っているはずだ。
しかし、何と切り出せば良い、何と云うだろう。
想像するが錯乱してまとまらない。
黙って送るつもりだった。
1週間前、由布子とモコには送った。
でも、なんとも云って来なかった。
ほっとした。
今度もそうするつもりだった。
思い切ってダイヤルした。
「ただいま、電話に出ることはできません。ご用件をどうぞ」
と機械的な声が流れた。
どうしよう、ますます、途方にくれた。
思案しているとき携帯が鳴った。
着信名を見る。アコだ。
電話を取る。
「アコか、元気にやっているか、心配かけてすまん」
息もつかずに一気にしゃべった。
「マンゴが安く手に入ったので送りたいから住所を教えてくれ。メモを忘れた」
「買って食べたからいらない、おとうさんが自分で食べて」
「おとうさんはいつも食べているからいい、住所を教えてくれ」
「いらない、友達にでもあげたら」
「送るような奴はいないよ」
「もう払ったの、買ってしまったの」
「もう返せないよ」
「でも要らないもん」
押し問答が続く。
「お母さんのところには1週間前に送ったから送るところないよ」
「おかあさんに送ったの?」
「うん」
「じゃあ、住所言うわ」
住所をメモる。
「おとうさんは元気なの?」
「元気だよ。アコは変わりないか」
「変わりないよ。それよりそっちはどうなの」
「がんばってるけどね」
「ふうーん、おとうさんこそからだに気をつけてね」
「健康でピンピンしてる」
「からだに気をつけてよ。こっちはいいからーーー」
「ああ、アコもな。じゃあ」
話したいことは山ほどあった。
何もいえなかった。
帰りのバスの中で、久し振りの娘の声が何度もよみがえった。
「よかった」
「アコありがとう」
何だかわからないが、そんな言葉を何度もつぶやいた。
真っ黒な雨雲の空の下、それでも心は弾んだ。
家族っていいなあ。
いまでも、アコの声が聞こえてくる。
アコの好きなカンナの花だよ。