おかあさんのうた

どこをどう歩いてきたんだろう。
おかあさん、子供たちよ。
あのぬくもりはもう帰っては来ないのだろうか。

夏の魚釣り

2010-06-19 17:28:50 | 随筆


 おとうさんが住んでいるこの島は梅雨が明けたよ。

そちらは大雨のようだね。

川の土手は大丈夫かい?


 今朝から夏雲が眩しい。

アコが小学校3年生だったかな、モコが1年生。

あの日も暑かったね。

夕暮れ、3人で川に魚釣りにいっただろう、覚えているかい。

モコはたくさん釣ってはしゃいでいたね。

アコは竿さへ持たなかった。

 バケツに入れて、家の前の小川に放してやったら、

アコはとても喜んでいたね。


 おとうさん、あの事を思い出しながらこれを書いている。

涙が出てくる。

なぜ、もっともっと、お前たちと遊ばなかったんだろう。

仕事ばかりの所為にして、自分ばかり楽しんでいた。

「プールに連れて行って!」

休みが来ると縋りつかれてせがまれた。

仕事だといって、職場仲間のマージャンに出かけた。

おかあさん、何も言わずに家事に追われていた。

 断ることが出来たのにーーー。

マージャンしても楽しくなかった。

ひと時もお前たちの姿と

何も云わずにじっとみつめて送ってくれたおかあさんの顔が浮かぶ。


 こんな日はどうしていいかわからなくなる。

居ても立ってもおれなくなる、平穏な日であればあるほど。

アコ、

モコ、

プールに行こう!



お前たちの好きなホウセンカがもう咲いている。


アコ誕生

2010-06-15 10:27:22 | 随筆

左下にアコと過ごしたマンションが見える。


 もう直ぐ、アコの誕生日だね。

 あの頃、世間では、出産には父親が付き添えということが言われ始めていた。

お母さんが入院したと聞いて、出金したばかりだったけど、お父さんは会社の休みをとって、病院に駆けつけた。

病室に入ろうとしたら、おばあちゃん(お母さんの母)がいて、

「出産くらいで男がおたおたするもんじゃない。会社に行きなさい!」

「男は仕事がある。出張とかで不在のときにどうする。あんたがいないと娘は出産しない事だっ
てある。顔を見せちゃ駄目!」

と病室にも入れてもらえずに追い返された

その頃は、そうした時代だった。

今更、会社に帰るわけにもいかず、ひとり誰もいない家に帰った。

 あの高台から関門海峡を眺めているとひとりぼっちが淋しかった。

おまえの誕生日の歌を作った。メロディーもだよ。

“梅雨空晴れて 夏が来て

おいらに可愛い 娘ができた

おまえとパパは 恋人同士

パパとママで  How do you

how do you How do you,do”

メロディも覚えているよ。

下手だね。

あの日の海峡の姿や対岸の彦島が小雨に煙っていた。

まだ、梅雨の真っ最中なのにおかしいね。

夏が来たら、海に行こう。

公園を散歩しよう。

あれこれ、想像してとても幸せだった。

追憶

2010-06-12 18:20:20 | 随筆
 そろそろ梅雨明けだろうか。
きょうは朝から晴れているけれど、夕方の今はどんよりした曇り空。
この風に誘われて日記を繰ってみた。
この日記はお前に「別れよう」と決心していた頃の日記だ。
2009年6月20日付け。
深酒だった。


『きょうは珍しくいい天気だった。

金もない。明後日は金を振り込まなくてはならない。

「たいへんだねえ」

他人が云ってくれたって何になる。

誰にだって話せるものか。

大変なのはおれ自身で、おれが解決するしかない。

「後輩や先輩が、いい、いいって言ってくれるのはお世辞だよ」

由布子はそう言った。

そうだね、気に掛けておかないと、と思った。


 13年前に甘い言葉に魅せられたのは紛れもない自分自身だった。

今宵、したたかに酒を呑んで15分の夜道を歩いて帰った。

「由布子、お前に逢いたい。愛しているよ」

独り言しかならない夜空に向かって、何度も何度も、心に叫んだ。

そんなことが、今更何になる、くだらない。

我慢しきれずに路地の電柱に隠れて立ちションをやった。

なんてみっともないことやってんだ!

己に腹が立った。

涙も出なかった。

もうお終いか。

友も去っていった。

誰の所為でもない。己の所為だ。

この日記も、もう何ヶ月も書いてはない。


 酔いの覚めぬ内に寝よう。

おやすみ、愛し子よ。不甲斐ないこの父を許しておくれ。』