桶狭間忠国が悪魔の尻尾を砕いた。それによって悲鳴を上げた悪魔。もう悪魔ってことでいいだろうと野々野足軽は思ってる。なにせ……その見た目はもう殆ど悪魔そのものだからだ。
かといっても、実際に野々野足軽が悪魔を見たことがあるわけじゃない。けどこれまでの人生で触れてきた物語、ゲームで想像された姿とたしかに今見えてる彼女は酷似してると言っていい。
角は生え、羽……はないけど、尻尾まで生えてる。これで羽まで生えてたら完璧だっただろう。でも十分にきっと彼女をみたら大抵の人はいうだろう――
「悪魔だ」
――と。それくらい今の彼女は悪魔っぽい。だからもう悪魔が憑いた女性……というよりももうほぼ『悪魔』と認識を改める。きっとますます彼女は中に住まう悪魔と一体化をしてしまってる。
どうにかして野々野足軽は中の悪魔だけをどうにかするすべを考えてたわけだが……ますますこれは難しくなったと思ったほうがいい。そうなると、この問題をどうするのか……どこに着地させたらいいのか……頭を悩ませる野々野足軽だ。
「くっ……離せ!!」
そう言って悪魔は尻尾を強引に振って桶狭間忠国を吹き飛ばす。ゴロゴロとアスファルトの地面を転がる桶狭間忠国。悪魔の尻尾は砕かれたといっても、その部分は一部だけだ。そこから赤い血が滴ってる。
(血が……でるんだな)
そんな事を野々野足軽は観察しつつ思った。だっていきなり生えてた尻尾である。まさかちゃんと血肉として生えてるとは……ちょっと予想外だった。まあけど考えたら悪魔は悲鳴を上げた。つまりは痛覚があるってことだ。それは神経が通ってるわけで、血流だって通ってて何ら不思議じゃない。
いや人間の頭から角が生えて尻からは尻尾が生えるのが不思議じゃない……なんて普通なら言えないが、野々野足軽は最近ドラゴンをみた。だからこういうこともあるか……と思える。
いやもっというとそういうことじゃない。野々野足軽はこう思ってるんだ。
(そんな世界の方が面白い)
――とね。もちろんそんな事を言える状況じゃないが、力を得ても何も起こらなかったからちょっと落胆してたのだ。けど今は色々と起き出してる。世界はやっぱり未知に満ちてる。悪魔だって最初見つけたときはこんなものか……程度だった。でも今や、その姿は確かに想像上の悪魔へと近づいてる。
これは実際予想外だが、たのしくもなってた。
「なんで効かない? ただの人間のくせに……」
悪魔はなんとか立ち上がろうともがいてる桶狭間忠国にそんな声をかける。警戒してるのか、自分からはしかけない。さっきの尻尾を砕かれたのが相当痛かったんだろう。とりあえず声が通らないように、周囲の空気を野々野足軽が操ってるから、悲鳴は誰にも届いてないだろう。
流石にこれ以上誰かがきたら野々野足軽のフォローも大変になるからその処置をとった。けど実際、悪魔の疑問は野々野足軽の疑問でもあった。だって感覚的には野々野足軽の桶狭間忠国へと施してた防御は突破されたのだ。
けど何故か桶狭間忠国は悪魔の催眠に抵抗してみせた。理由は野々野足軽にだってわからない。なんとか起き上がった桶狭間忠国はなんか「くくくく」と意味深にわらった。
そしてそのかなりボロボロの体でも笑みをつくってこう応える。
「確かに自分はただの人間だ。けど信じる心がある! 神や仏とかそんな曖昧なものじゃない。その方は実在してて、そしてかのお方の力がこの身を守ってるんだ!! だから貴様の力なんて効かない!」
そう堂々と宣言した。そこに一片の曇りなんてない。けど野々野足軽は思った。
(あ、えっと……ごめん)
ってね。だって突破されてたもん。なんか申し訳なくなる野々野足軽だった。
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