「え? これってどういう……」
おばあちゃんは便器の前でようやく、ようやく事態を把握した。本当ならドアを開くときにでも気づきそうなものだけど、そこはなんか寝ぼけてたんだろう。おばあちゃんは慌てて踵を返す。けばその時に膀胱から信号が送られてきてブルルっと体が震える。
そもそもがトイレに来たのである。それに……だ。今や幼い体になってしまってるわけで、きっと膀胱も小さく、そして線もゆるゆるだ。このままだとやばいとおばあちゃんは判断した。年を取るとあそこも緩くなってしまうというが、まだおばあちゃんはそこまで老いてる自覚はない。
だから大人になっておもらしなんて……と思って素直にトイレに舞い戻った。
「ふう……こんなに大変だったかしら?」
そんな風に用を終えて感想を語るおばあちゃん。なんとかお手ても洗って、ふと思い出す。
「そっか、昔は和式のトイレだったものね……」
昔はあの和式のトイレの穴がどこに続いてるのか怖かったことを思い出した。ぽっかり空いた穴は、ふとしたひょうしに飲み込まれそうで、このくらいの小さな時には親に駄々を言ってついてきてもらってたなって……そんな親も既にいないが……そう思うとなんかちょっとかなしくなる。
「さて、悲しみに浸るのもここまでね。問題は……」
そういって大きな鏡がある部屋までおばあちゃんは行く。木の枠がついた全身用の鏡。そこに立つと自身の姿が映し出された。いつもはその全身鏡にすっぽりと入る自分自身。けど、今はおばあちゃんの姿はその鏡にも半分くらいにしか映らない。
「やっぱり……本当に若返ってる?」
呟くおばあちゃんはとりあえずクルクルして自分の体を確かめる。すると次第に楽しくなっていって、小さな服を奥の箪笥から引っ張り出して色々と着始めた。一人ファッションショーの開催である。
自分の子供……つまりは野々野足軽のお父さんの姉の物だ。実はお姉さんがいた。そんな彼女の昔の服は、取ってある物もあったのだ。
「ふう、若いっていいわ~」
そんな事を言いながらひとまずは満足したのか、おばあちゃんはごろんと大の字に転がった。周囲には散乱した服がたくさん。
普段はならきちんと脱いだ服は畳むんだけど……今は精神が体に引っ張られてるのかもしれない。
「そろそろ、ちゃんとこの状況をどうにかした方がいいかもね」
ふとそんな風に呟く。なにせ朝になってもこのままでは困る。とりあえずおばあちゃんはスマホでこの現象の原因を求めて検索を始めた。