(問)
私は先日、「もっと遠く!もっと広く!」展の
サイン会で、最後に無理やり先生にサインをしていただいた者です。
あのとき、私の足はふるえ、
周りの空気は私に重くのしかかっておりました。
先生のサインをいただいたときはホッとしたのですが、
先生はサインをなさるとき、どのようなお気持ちなのでしょうか。
ぜひ教えてください。(現王園敏伸)
(答え)
すごい名字だね、君は。
君の名前は私の名前よりはるかに特異であるから、
こんな名前を漢字でサインしたかぎり、
きっと覚えていなければならないのだけれども、
覚えていなかったのは
君の前によほどの美女がいたのか、
君の後ろに税務署がいたのか、
それでワクワク、ドキドキしているうちに
忘れてしまったのか__まことに申し訳ない。
お詫びする。
サインをするとき、どういう気持ちなんだと
おっしゃるけれど、サインをしてほしい人の名前を
書いたカードをせっせと写すことに一生懸命で、
香水の匂いがしてときたま10人に1人くらい顔をあげて、
それがガールフレンドであるかどうかだけを見て、
またうつむいてせっせとサインをしていかなければならないんだ。
一つの苦役だと私は思うナ。
しかし、小説家という者は、
書斎にこもったままで批評家にはバカにされ、
女房にはなめられ、子どもにはそっぽを向かれ、
自分で自分に向かって
傑作だ、傑作だとつぶやいているしかない存在なので、
たまにはサイン会などに出て読者の顔を直接、
見たくなるんだ。
一寸の虫にも五分の魂という気持ち。
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