昔、かめ吉という名のミドリガメを飼っていた。
勤めていた店(麻布十番にあった会員制のいかがわしい飲食店)の上司が
麻布十番祭りで亀すくいをした時に運悪く捕まってしまった亀で
危うく捨て亀になりそうな所を私が引き取ったのだった。
しかし、このかめ吉という奴はとことん私を嫌っており
エサをやれば指に喰らいついて離れず、しょっちゅう脱走をした。
店の厨房の片隅で飼っていたので、
全身油まみれになってひょこっと出て来た所をいつも捕まえられていた。
しかし、社長(かなりの確率でヤ○ザ)には気に入られており
社長手ずからブラックタイガーの切り身を毎日与えられ、
微妙に成長していった。もとから小さいのでよくわからない。
そんなある日、店の従業員が
「かめ吉の走るのを見た!」
と言い出した。
亀と言えば、歌でまで「どうしてそんなにのろいのか?」と訊ねられてしまうほどの鈍足、
と相場が決まっている。
しかし、噂によると走るかめ吉は
ゴキブリと見まごう程の俊足だった
というではないか。
その場の誰もが、「嘘だ~」と信じなかった。
しかし、ある日私は見た。
私が仕事を終えて、帰ろうと厨房を出た瞬間
数日前から行方不明だったかめ吉が韋駄天のように駆けていくのを。
しかも、まだ私が厨房にいるのに気づいた途端
凄まじいスピードでオーブンの下へ潜り去って行った。
その亀ならぬスピードにも驚いたが、
「そこまで嫌わなくてもいいじゃん!」
と、自分があまりにも嫌われている事にショックを覚えた出来事だった。
私のおかげで命拾いしたくせに、浦島太郎にもあるが
亀という生き物は、恩を仇で返すのだ。
亀を助けても、見返りは期待しちゃダメなのだ。
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