寅次郎。寅ちゃんや 元気かい?
あの世は常春だろうねぇ。惰眠をむさぼっとるかね?
二月もとうとう 昨日で終わってしまったよ。
寅ちゃんと会ったのは 二月半ばの日曜だった。
ヒノキさんの部屋の前に 痩せこけて亡霊のように座り込んでたね。
しかも何だ?その尻の怪我 腐臭がしてた。
でも逃げた
逃げるか。じゃあ私が帰ってきて お前がもしまだその辺に居たら
これも縁だから 必ず死に場所くらい提供してやる
嫌なら消えろ。車にひかれるなよ~と言って バーゲンに行った
で 戻ったら まだ家の前に居る。その後うちの庭に逃げ込む。参ったね。
「あっお帰りなさいまし」
さては 負け猫で縄張りもないんだなと。 フーテンの寅次郎と即命名したもんだ。
「あのぅ近づくと怖いです…」
元気な時に うちの睡蓮鉢の水を こっそり飲みに来ていたのかも。
鼻っパゲみどりさんも そんな野良だった
いまや 大名一のデブ姫だってんだから
たいしたもんだよ蛙のションベン見上げたもんだよ屋根屋のふんどしってね
メダカが越冬してます
寅ちゃんは 飲もうと寄ってはみたものの もう何も喉を通らずうずくまっていたんだろう。
もしくは 上からヒノキさんが ずっと鳴き交わしてたからか。
「使用人が面倒みるから休んでいけば~」
この妖怪め…
無責任な家猫姐さんに素直に従うほど 衰弱していたんだね。
その後 30分ほど説得したら 観念してケージに入った。
されるがまま
食欲なし…
「えっもう埋めるとですか」
一応病院に運ぶんだよっ ばかやろう
成猫なのに2キロ弱の鶏ガラ。重度の腎不全に脱水症状。
毒が回って 肝臓も壊滅状態。吐く物さえ無し。結論は いわゆる末期だ
ご愁傷様
塗り塗り
お薬塗って 軽く抗生物質と点滴だけ打ってもらい そのまま看取ることにした。
カイロでぬくぬく ねんねんよ~
寅ちゃん まだ若くて喧嘩に負けたか? 外猫の寿命は短い。野良の爪は毒針。
ちょっとした傷が化膿して 溜まった膿は体を巡り 弾けて破れる。
こんな大穴になるころには 虚弱な奴は死ぬしかない。あーどんくさいねぇ。
いつかまた猫に生まれ変われたら 次は早めにうちに来い
「ぬっくい寝床ですなぁ」
「臭くてすんません」
すりすり
すりすり~
体を拭いてやってたら ぎこちなく頭をこすりつけてきた。
やめてよね。 超泣かせる大技だけど ほだされないよ
あんた蚤や虱がいるでしょーが。ひとりで納屋で暮らしてもらうよ。
毎日 おしっこシーツとフリースとカイロを 出勤前と夕食後に取り換えて
辛いだろ~そろそろお逝き と撫でてやった
「もうあと少しっす…」
寅ちゃんの最後の寝顔は 私だけが覚えておくね
ただ ここに記録だけはしておきたいなと。
死ぬ三日前にわざわざやって来て 得難い感動をくれた寅次郎のこと。
しかしうちに来る雄猫はほんと 皆ヘタレだね… おやすみなさい 良い夢を。