エッセイと虚構と+α

日記やエッセイや小説などをたまに更新しています。随時リニューアルしています。拙文ですが暇つぶしになれば幸いです。

散歩の記憶(飯田橋)

2013-07-05 22:04:46 | 小説
長い階段だった。地下を掘り下げた大江戸線の飯田橋駅は地上に出るまでにうねるような階段やエレベーターを何回も上る必要があった。東京しごとセンターに個別面談の予約を入れている9時までの空白を埋めなくてはならなかった。歩き出して私はベーローチェの前に行ったのだが、まだ開いていなかったので信号機を渡り坂を登って行った。JR飯田橋のグリーン色の看板が見える。川を跨ぐように作られた坂道には通勤のサラリーマンやOLがたくさんいて、ジーパン姿の私は恥ずかしかった。桜が咲いている季節で、川べりの撮影する人達が何人かいて、私も1枚だけケータイの写メに収める。JR飯田橋の反対側の道路に立ち止まり見える川はやはりそんなに澄んではいなかった。忙しい朝でさえスーツ姿の紳士なサラリーマンも桜を撮影している。川は緑に濁っているように見える。はたしてそこに魚は住んでいるのかわからなかったが釣りには向かなそうだった。坂の中腹から登りきると御茶ノ水方面への道が続いている。引き返して大江戸線の飯田橋まで戻る頃には、ベーローチェは開いていた。200円のアイスコーヒーをオーダーすると段が高くなっている禁煙ルームに入りくつろいだ。何よりも地下鉄に久しぶりに乗ったことで疲れていた。

東京しごとセンターの待機用に備えられたベンチまで来ていたのは時刻が8時30分を回る頃だった。私の他に若い求職者が何人かいた。まだ30分は時間をつぶす必要があった。
エドウィンのハンドバッグから地元の役所にあったプリントを広げた。そこに東京しごとセンターの事は記載されていたから予約の電話をして今日に至っている。しおれたプリントをしまいしばらくぼぅとしていた。
9時になると求人誌の陳列棚に求職者ちは吸い寄せられるように行き。それぞれに7冊も8冊も抱えるようにタウンワークなどとは違うレアでそれなりの価値がある求人誌を持ち去っていった。それを見送ると私は2階の個別面談室でキャリアカウンセラーに就職よりも、ダイエットを勧められた。
しょげるように近代的なビルを出て大江戸線の飯田橋駅まで戻る。
私は徒労の何物でもなかったその日の就労活動を後悔はしなかった。なぜならばケータイの中にはシーズン真っ只中の桜の写真があるのだから。たとえ1枚であれたぶんその日に飯田橋でなかったら撮れなかったものに違いない。

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