映画食い倒れ。

~映画は人生のデザートです~

個人的覚え書きのため、たまにネタばれありです。

『サイダーハウス・ルール ~The Cider House Rules~』

2016年01月24日 | 映画~さ~
1999年 アメリカ映画


最近、昔見たことのある映画を見返すことが多くなりました。というのも、当時の印象と今の年齢(30代後半)になって感じるものが大きく異なっていること、そして若いころにはよくわからなかった作品の深さなどをしっかりと味わいたいというのが理由です。

今回の『サイダーハウス・ルール』もその一つ。
恐らく、初めて見たのは2000年代前半、2001年ごろだったのではないかと思います。これを初めてみた時の印象は「自分勝手な金髪女に振り回される可哀想な孤児院出身の男」という非常に単調なものでした。当時大学生か大学を卒業したばかりの年齢の私には、この話の本当に表面しかわからなかったんだと思います。世の中は、すべてが黒白はっきり分かれているものと疑っていなかった若かりし頃の自分と、あの時よりはもう少し世間を学んだ今の自分とのギャップを、いろいろな映画を通して楽しんでいる最中です。




主人公ホーマー(トビー・マグワイヤ)は孤児院で育ち、父親代わりの医師ラーチのもと医学を学ぶ。医師免許を持っているわけではないので、ホーマーが医療行為に携わるのは違法行為。それでも、彼の腕の良さから孤児院ではラーチの右腕として生活をしていた。その孤児院では、違法ながら堕胎も行っており、望まない妊娠をした女性が数多く訪れていた。ある日、若いカップルが中絶のために孤児院を訪れる。それがキャンディーと恋人のウォリー。彼らとの出会いに、常に胸に持ち続けていた外の世界への憧れを刺激されたホーマーは、彼らとともに孤児院を出ることを決意。ウォリーの実家の家業であるサイダー醸造所で働くことになる。


さて、映画の感想ですが、いつものことながら完全に忘れていた部分が多く驚きました。まず、一番驚いたのは、キャンディー(シャーリーズ・セロン)の恋人役が、ポール・ラッドだったということ!以前『40男のバージンロード』の感想の中で触れたアメリカの俳優です。最近はアメリカのコメディー映画では彼が出ていない作品を探すほうが難しいのではないかというほどの売れっ子ですが、1999年の作品でソコソコ重要な役を演じるほどのキャリアがあったとは知りませんでした。ウィキペディアで見てみると、1993年から映画に出演しているとのこと(2016年1月24日現在)。キャリアの花が開くまで、結構下積みがあったんですね。ある意味初々しい彼を見て思い出したのが、1990年の『ステラ』という作品に、主人公の娘の彼氏というチョイ役で出ていたベン・スティラー。今のベン・スティラーからは想像できないほど、初々しくて青臭い感じ。それと同じ感覚を、『サイダーハウス・ルール』のポール・ラッドに感じました。個人的には、彼はコメディーよりももっと「普通の人」の方が安心してみていられるので、こういう役柄のほうがあってると思っています。


また、当時注目され始めていたシャーリーズ・セロンが、当時の私には「ただのきれいな金髪女優」でしかなく、そして恐らく…と言うか確実に映画の中での「男性依存の一人でいられない絶対悪」(当時の感想です)の印象が強かったからこそ、全然好きな女優ではなかったのです(若いって、単純…私)。これ、逆に言えば、そのくらい彼女の演技力が高かったということですよね。彼女自身と映画の中での役柄をリンクして見てしまったほどですから。そして、今の彼女の快進撃と言ったら!その後『モンスター』でアカデミー主演女優賞を受賞し、いまも新境地を開拓し続けていることを本当に嬉しく思います。あんなに好きではなかったのに、今では好きな女優の一人である彼女が出ていた作品だからこそ、もう一度見てみようと思ったのです。


主演のトビー・マグワイヤは、こういうちょっと世間ずれしている役が抜群にうまいと思います。ちょっと浮世離れしているというか。足元が地上から1.5センチ位浮いていそうなイメージを、いつも勝手に持っています。


この映画の背景は第2次世界大戦のさなか。つまり、1940年代。サイダー醸造所で働いている季節労働者たちは黒人。彼らが寝泊まりするのは母屋の離れなのですが、ここにホーマーが紹介され、彼らと共に働くことになったことを、季節労働者たちは「歴史的な出来事だ」と驚きます。舞台はアメリカ東海岸北部。南部とは異なり、黒人に対する差別意識は低い土地柄ではありますが、それでもどうしても職業によって人種が分かれているような状況下で、白人のホーマーが彼らと一緒に生活をし、同じ労働をするというのは、労働者の彼らにとっては衝撃だったのだと思います。逆に、そのことが大きな意味を持つものという認識をしていなかったホーマーやウォリー、キャンディーや彼らの家族たちは、本当に差別意識が殆ど無かったのではと思います。


やがて軍人であるウォリーに出兵命令が下り、彼がいない間一人の孤独に耐えられないキャンディーはホーマーと親密に。また、季節労働者たちも様々な問題や、暗い現実を抱えており、ホーマーは孤児院の外の「本当の世界」をここでの生活を通して学んでいきます。


15年以上前に見た時には、キャンディーは完全に「悪」だったのですが、今回見なおしてみて、正義でないにせよ悪とは言えないよなぁ…と、自分の見方、感覚、意見が年令によって変わっていくことの面白さを感じました。また、ラーチの死をきっかけに、孤児院へ戻る決断をするホーマー。外の世界を見て帰ってきた彼にも精神的変化がもたらされます。世の中の法律に照らし合わせればそれは完全に違法ですが、ラーチの医師を引き継ぎ、医師として孤児院で生活することを選んだホーマー。もしかしたら、私がこの15年と少しの間に学んだ「世の中とは完璧ではないことで溢れている」ということを、彼は孤児院から離れた1年の間に学んだのかもしれません。彼は孤児院で生活する子どもたち、看護婦たちに暖かく迎えられます。彼には帰る場所があったということ。そしてそれは、そこで生活する子どもたちにも一つの「希望」になったのではないかと思います。


最後になりましたが、ラーチ役のマイケル・ケインは、あの役柄が自然すぎて彼がそこにいて当然としか思えないほどで、他の俳優陣とは「肩の力の抜け具合」が完全に異次元レベルでした。これがキャリアがなせる技なのでしょうか。この役で、彼はアカデミー賞助演男優賞を受賞も、もちろん納得です。


何を正解とするのではなく、世の中や人生の、白と黒の間のグレーの濃淡を描いている素晴らしい作品でした。


この作品を楽しむには、ある程度の年齢と人生の経験が必要かもしれませんが(少なくとも私にはそうでした。苦笑)、静かで丁寧に作られた作品が好きな方はぜひ!



おすすめ度:☆☆☆☆★





画像はこちらより:http://www.imdb.com/media/rm512537088/tt0124315

『Amy』

2016年01月09日 | 映画~あ~
2015年 イギリス映画


2011年に27歳で亡くなった、歌手エイミー・ワインハウスのドキュメンタリーです。

とても評判がよい映画で、いつか絶対に観たいと思っていた作品です。昨日、BAFTA(イギリスアカデミー賞)で2部門にノミネートされたとの発表があったばかりで、同日にテレビでも放送されていたので観てみました。

本当によく出来たドキュメンタリーでした。まず一番驚いたのが、彼女が歌手として成功する前の映像が多数残っていたこと。友人たちと撮ったプライベートの映像で、エイミーはどちらかと言うとシャイな、本当にどこにでもいる「普通の」女の子なのです。ただ普通でないのは、彼女の歌声。16歳、17歳の時に撮られたその映像の中で友人のためにバースデーソングを歌っているのですが、見た目の若さと彼女から発せられる歌声のギャップに一瞬頭が混乱するほど。完全に成熟し、深みを増した歌声なのです。

18歳でレコード契約を結び、本格的に歌手としてのキャリアがスタートします。この時期に撮られたインタビューでは、当然といえば当然ですが、本当にしっかりと自分の意見を話し、音楽へのこれ以上ないほどの純粋な愛が溢れ出ています。私が彼女を目にし始めた2005、2006年あたりにはほぼ完全にいわゆる彼女へのイメージ…大きな髪型、痩せた体、ドラッグ、アルコールの問題にまみれ、ボロボロの格好でロンドンのカムデン地域を歩いている…が確立していたので、普通に話せる彼女を見たのは、もしかしたらこの映画が初めてだったのかもしれません。


「今溢れている音楽は、私にとっては音楽じゃない。…だから私は自分で本当の音楽を見つけてきて、それを聴いてそこから学んでいるの」(意訳)と10代の彼女が答えていたのが印象的でした。彼女が魅せられた音楽というのがジャズで、「ジャズを聴いている私、カッコいい」というセルフイメージのための言葉ではないことは、彼女の歌声を聞けは誰も疑わないでしょう。ジャズが好きになったのは、父親の趣味も大きく影響していたようです。

さらに、「自分が経験したことしか書けないけど、私は私なりに本当の音楽を生み出すための挑戦をしている」とも。確かに彼女の歌の歌詞は、痛々しいほどにどれもリアルで、彼女を知っている人であれば、どの歌で誰との関係を、その時どんな状態だったかが手に取るようにわかるほど、まるで誰かの日記を読んでいるのではと錯覚するほど、包み隠さずに出しきっていることがわかります。これが、彼女の音楽に対する真剣さ、嘘偽りのない本気の愛で真っ向勝負をしていたことの現れでもあり、「私は歌手でない。ジャズシンガーなの」と他のアイドルやポップ歌手とは一括りにするなという強い意志が感じられます。それと同時に、あまりに純粋で強すぎるからこそ、自分の体を守るための鎧さえ身につけず、裸一貫ですべてを音楽に投げ出していった彼女の強さと弱さは、感動するとともに悲しくもあります。


子供の頃から家庭内に問題を抱えていたというバックグラウンドを持つエイミー。特に父親との関係は複雑です。小さいころに母親を捨てて出て行った父親。ほとんど会うこともなかったのに、成功してからは、常に父親をそばにおき、一緒にツアーにも同行されています。しかしこの映画の中でも、その関係の危うさが随所に露見しており、つい先程(2016年1月9日)、その父親が「この映画に描かれていることは全く持って嘘だ」とツイートしたことがニュースになりました。


また、2006年ごろに後の夫となるブレイクとの出会いを機に、それまで問題を抱えながらもなんとか保っていたバランスが完全に崩されます。また、ずっと仲の良かった幼なじみたちとの間にも溝ができ始めたのもこの頃です。


実はわたくし、彼女のステージを見たことがあります。2008年のイギリス、グラストンベリー・フェスティバルで、その時に、一緒に参加した人たちと冗談交じりに「彼女が亡くなる前に見ておかなきゃね」といいながら、彼女のステージに向かった覚えがあります。2008年時には、すでにアルコール、ドラックの問題が取り沙汰されており、「エイミー=クレイジー」というイメージが定着していました。実際、そのステージでも、常にフラフラとしており、立っているのがやっとという状態。そんな彼女をカバーすべく、バックシンガーたちが本来ならばスターの後ろでひっそりとコーラスをするという役割のはずなのに、それはもう必死になって踊り歌い、ステージをなんとか成立させようといった、完全に「普通ではない」状態でした。

ただ、若いがために、そして彼女のどうしようもない程の歌唱力の高さのために、どんなに彼女自身の状態が悪くとも、それなりに声は出てしまう。それが果たして良いことなのか否か。拒食症、そしてドラッグの使用、常に酩酊状態という問題山積みので私生活の失態を晒しても、テレビや舞台にたてば完全でなくとも歌が歌えてしまうからこそ、彼女を完全に休ませることなく、どんな状態でも仕事を続けさせてしまったのではないかと思いました。


このドキュメンタリーを見ながら思い出したのは、ブリトニー・スピアーズ。彼女が元バックダンサーと結婚し二児の母親になり、更に離婚。あの当時のブリトニーは誰から観ても完全におかしく、最終的には頭を剃り上げるまでに。でもそこまで状況が悪化して、それが誰の目にも明らかだったからこそ、少しの間仕事から離れることができたのではないか。逆に、髪の毛が伸び、一件普通に見える状態にまで戻ると、どんなに精神が病んでいても表舞台に立たされてしまう。使い古された言い方だけど、まさに「操り人形」。ブリトニー・スピアーズは商品であって人間でないという扱われ方。『Gimme More』というシングルをリリースした時は、ショウビズ界の恐ろしさを感じたのを覚えています。しかし、現在のカムバックを見ていると、その業界で生き抜いていく強かさが彼女には培われていたのだなと感心します。



彼女が亡くなる数日前、疎遠になっていた幼なじみに電話があり、この時はここ数年では珍しくドラッグも泥酔もしていない状態で話していたとのこと。そしてその内容は、それまで彼女がしてきた無茶により、友人たちを悲しませてしまったことに対する謝罪だったといいます。そして、新しいアルバムの制作に向けて動き出し、最悪の状態からやっと抜けだしたかのように見えた矢先の突然の死。


これまで、どんなに彼女の曲が好きだったとしても(実際、今も聴いていたりしますが)「ドラッグに大量飲酒にやりたい放題やっての結果なのに、どうして彼女を神格化しようとするのか」という意識が少なからずありました。今も彼女が住んでいたロンドンのカムデンには、数あるストリート・アートのなかに彼女の顔をいくつか見つけることもできます。しかし、このドキュメンタリーを見て、彼女がたまたま抜群に音楽のセンスに恵まれた、生まれ持ってのクレイジーなドラックジャンキーという印象から、「音楽が好きで好きでたまらなかった、一人の若い女性」という見方に変わり、そして痛々しいほどに純粋さを持ち続けた彼女を愛おしく感じます。


一番印象的だったのは、アメリカのグラミー賞で彼女のアルバムが年間ベストアルバムにノミネートされ、その発表がされる直前の様子。彼女は別会場におり、モニターから賞の会場の様子を見ています。その舞台上にプレゼンターであるトニー・ベネットが現れた瞬間の彼女の顔。ずっとずっと憧れてきた歌手が、モニターを通じてはいますが目の前に現れ、その時の彼女の純真無垢な、小さな子供のような表情。作ろうと思って作れる表情ではなく、ただ好きで好きで仕方がない、そのあこがれの人への視線が本当に愛おしく、これこそがタブロイド上を賑わせていた泥酔写真からはわからなかった、本当の彼女の素顔の一面だったんだと胸が熱くなりました。


もちろんエイミーへの愛情はこの上ないのですが、彼女を被害者として涙をさそうのではなく、とても中立な立場で作られている作品だと思います。

日本での公開は、2016年の夏頃になるとのこと。音楽ファンの方は必見です!




おすすめ度:☆☆☆☆☆




画像元:http://www.express.co.uk/entertainment/music/578637/Amy-Winehouse-unseen-footage

『x+y』

2016年01月02日 | 映画~あ~
2015年 イギリス映画


2016年の映画初めは、『x+y』でした。これ、大満足の作品です。

ネイサンは、幼少期に自閉症の一種であると診断される。そのため人とのコミュニケーションが上手く取れず、特に母親のジュリーは息子との関係に常に悩む。同時に、ネイサンの数学に対する能力はずば抜けており、9歳にして中学校レベルの数学を勉強すべく、数学教師をしているハンフリーの特別講習をうけることになる。後に数学オリンピックのイギリス代表に選ばれたネイサンは、自分以上に数学のできる個性豊かなチームメイトや他国代表の学生たちと出会い、人の感情やかかわり合いを少しずつ学んでいく。


まず、とにかくリアル。登場人物たちのそれぞれの立場、感情、キャラクターが、本当に上手く描かれていて、一人ひとりの人格がしっかりしています。個人的には、母親ジュリーの気持ちに寄り添って映画を観ていました。というのも、同じではありませんが、似たような状況になったことがあり、ネイサンや彼のチームメイトのような「人間とのコミュニケーションが苦手な人達」に囲まれ、苦労した経験があるからです。

以前、IT系企業のエンジニアが集まる部署に数年務めていたことがあるのですが、彼らがまさにネイサンや数学オリンピックの代表達のようなタイプでした。人により程度の差はありますが、目を合わせられない、挨拶ができない、会話の中で適切な言葉選びができないから相手を怒らせたり傷つけたりするということが多々ありました。最近よく聞く「アスペルガー症候群」も軽度自閉症の一つです。数字のように、正解不正解がはっきりしているものに関してはいいのですが、そうでないもの、例えば人の気持ちを考えること、表現をオブラートに包むこと、TPOに合わせた話題を選ぶことが上手くできなかったりします。


それでも、職場は変えればなんとかなります。結局は他人ですから。でも親子の関係は選べない。更に、パイプ役であった父親が亡くなってしまったことで、母親はどうにか歩み寄ろうと努力するも諸刃の剣。よくわからない数学の方程式でうめつくされたノートを目にして、「これは何?私にも教えて」と小学生の息子に聞いてみても、「お母さんは賢くないからわからないよ」と相手にさえしてもらえない。学校への見送り時のハグも拒否され、数学オリンピック合宿の為台湾に旅だった息子からは、無事に到着したという電話の一本さえない。母親を馬鹿にしている、というよりはどうして無事を伝える電話をしなくてはいけないのか、どうして握手やハグをしなくてはいけないのかが純粋にわからないわけです。

台湾合宿では、同じくイギリス代表候補に選ばれた仲間や、中国代表たちとの交流から、これまで出会ったことのない人々と接する機会に恵まれます。ネイサンのように相手を気遣った言葉選びができないがために友人ができず、孤独に苛まれてしまうチームメイト。自分の賢さから天狗になってしまうもの。他のメンバーの自己顕示欲の強さに煩わしさを感じる者。また初めて自分を異性として見てくれた人。数学に長けているという一つの共通点で集まったメンバーにも、本当に様々な違いがあり、ここでもコミュニケーションや人間関係構築の難しさが浮き彫りに。そういう、現実社会で本当に問題になっている、でもあまり表面には出てきにくい微妙な葛藤を、繊細に、そして的確に描いています。

特に印象に残っているのは、ネイサンのチームメイトのルークの自傷行為が発覚するシーン。「ただ数学が人よりできるから数学をやっているだけ。別に好きでもなんでもない。でも数学で人より優れていなければ、ただの変わり者になってしまう」…代表から外れてしまったあとの彼の言葉には、はっとさせられます。人に対して無神経な口の聞き方をすることから彼らには感情がないように思えてしまうのですが、他人と人間関係を築けないことのストレスからうつ病になる人も多くいるのも事実です。それがこのシーンに集約されていて、胸がつまりました。


とにかく、どの俳優さんもとにかく素晴らしくて、正直一人ひとりに賛辞を送りたいところなのですが、出来るだけかいつまんで行きます。

ネイサンの母親ジュリーを演じたのは、大好きなサリー・ホーキンス。もうもう、わたくし彼女が大好きで、彼女が出ているとその映画への安心感が増すほど。この映画でも抜群のうまさで、言葉としてセリフには起こされていない母親の孤独感や誰かに頼りたいという心の叫びが彼女の演技からにじみ出てきます。

ハンフリー先生役のレイフ・スポールは、どうやらこれまでに幾つもの映画で彼を観ていたようなのですが、私がはっきりと覚えているのは『I Give It a Year』という作品のみ…。これ、イギリスのコメディー映画なのですが、B級寄りの作品(にしてはキャストは豪華)で、これを見ただけではこんなにうまい俳優だったのかとは気づきませんでした。レイフさん、素晴らしかったです。もちろんスクリーンライターによるセリフがそもそも素晴らしいのでしょうが、このハンフリー先生の人格が、彼の演技によってしっかりと輪郭が現れています。この人がその辺の学校に務めていても驚かないくらい、とてもリアル。

もう何度も言っていますが、イギリス映画の良さって、人物像のリアルさだと思うのです。この映画も例外ではなく、この加減が絶妙です。


そして、ここ1、2年感心しつづけていること。それはイギリスの若手俳優たちの台頭と演技力の高さ。本当にどんどんと新しい才能が出てきています。この映画もメインは10代(役柄)の学生たちなのですが、見事にみんながうまい。主演のエイサ・バターフィールドはもちろんですが、個人的イチオシは、彼のチームメイト役だったアレックス・ローサー(Alex Lawther)。最近では、カンバーバッチ主演の『イミテーション・ゲーム』にも出演しているようですが(未見)、実は今年の夏に彼の舞台を見たのです。と言っても、彼の存在を知っていたわけではなく、たまたま誘われて観に行った舞台が彼主演の『Crushed Shells and Mud』という作品で、これがもう、興奮して眠れなくなるほど素晴らしかったのです。こちらも10代の3人の若者が主役の作品なのですが、この3人の演技力と言ったら。後に出演者を調べてみたところ、皆テレビドラマや映画の経験が長く、きちんとキャリアを積んできている俳優さんたちだったのですが、まだ二十歳前後の彼らの演技力の高さ言ったら!イギリスは本当に音楽と演技の才能に溢れてた国だと身を持って実感しています。


映画の感想に戻りますと、気になったのが中国代表でネイサンに好意を抱くチャン・メイ(多分こういう読み方。英語ではZhang Mei)。彼女は映画の中では、自閉症的な疾患はない人物として描かれていると思いますが、彼女のあまりに突飛な行動にイライラ。大事な数学オリンピック本番前日に、好意のある人のベッドに潜り込むって一体どんな神経をしているのか!翌日中国チームの監督であり伯父(もしくは叔父)にそれが発覚し、当然ながら怒られるのですが、彼女の理屈では「どんなに頑張っても、自分が選ばれたのは伯父がいるからこそのコネだと言われ、女だからと対等に見てもらえない」と数学オリンピックをボイコットして飛び出します。


全然理屈になっていない。


他の出場者のベッドに潜り込むのことは全く持って別のこと。性差別を訴えるのなら、そこで女を使うな、と。映画としては、彼女のこの猪突猛進な愛情表現?のおかげで、ネイサンは人を愛するという感情や悲しみといった感情を徐々に理解し始めることになるので、お母さんとしては結果オーライなのでしょうが、この役柄が中国人でなく他のヨーロッパ人という設定だったら、話の設定としてこういう行動を取らせていたか?という疑問を正直持ちました。そこに、作り手の特定の人種や国に対するステレオタイプなイメージがあったのではないか、という印象を受けました。

また、この当たりからエンディングにかけて一気に話が動き始めるのですが、それまでがいいペースで来ていたのに一気に飛ばし過ぎな印象も。映画としてこのエンディングに持って行きたいという気持ちはわかるし正解なんでしょうが、それまでと全く異なるスピードに切り替わってしまったことで、このエンディングの良さを受け入れたいという気持ちを強く持ちつつも、ちょっと白けてしまったのも事実です。


ちょっと残念だと思ってしまう部分はあるものの、とても丁寧に繊細に作られた素晴らしい作品です。


最後に、イギリスチームの監督役にエディー・マーサンが出ているのですが、彼はどこでもしっかりと良いスパイスを加えて、作品をしめてくれます。今回の役柄も、チームの10代の子供同様に、典型的「数学はできるけど言葉のチョイスがいつも間違っている」タイプで、チョイ役ですが絶妙です。



どうやら日本での公開は未定なようで、日本版のタイトルは今のところ見つけられませんでした。
それでも機会があればぜひ!



おすすめ度:☆☆☆☆★



画像はこちらのサイトより:http://macbirmingham.co.uk/event/x-y/

2015年ベスト。

2016年01月01日 | 年間ベスト
皆様、明けましておめでとうございます。

イギリスもどんよりとした曇天のもと、新年を迎えました。本年も、よろしくお願い致します。



さて、2015年のわたくし個人の映画ベストランキングです。
2015年のランキングと言っても、2015年に公開された映画ではなく、私個人が見た映画なので、公開、製作年はバラバラです。それ以前に、去年は2回しかこのブログを更新していないというのに、ベストの発表。2014年に引き続き、この適当さ。すみません、てきとうで。お時間のある方だけお付き合いください。


それでは、まずは昨年見た作品一覧から。

- This is Where I Leave You (2014 アメリカ)
- ホットロード (2014 日本)
- 六月燈の三姉妹 (2013 日本)
- Love is Strange (2014 アメリカ、フランス)
- 柘榴坂の仇討 (2014 日本)
- ゴーン・ガール (2014 アメリカ)
- バックコーラスの歌姫たち (20 Feet from Stardom, 2013 アメリカ)
- ラビット・ホール (Rabbit Hole,2010 アメリカ)
- A Long Way Down (2014 イギリス)
- 奇跡の2000マイル (Tracks,2013 オーストラリア)
- Girl Most Likely (2012 アメリカ)
- Day of the Flowers (2012 イギリス)
- プリンセスと魔法のキス (The Princess and the Frog,2009 アメリカ)
- はじまりのうた (Begin Again,2014 アメリカ)
- Fat, Sick and Nearly Dead (2010 アメリカ)
- Fat, Sick and Nearly Dead2 (2014 アメリカ)
- 私が愛した大統領 (Hyde Park on Hudson, 2012 イギリス)
- シェフ 三ツ星フードトラック始めました (Chef,2014 アメリカ)
- アドバンスト・スタイル そのファッションが、人生 (Advanced Style, 2014 アメリカ)
- ファーゴ (Fargo,1996 アメリカ)
- セッション (Whiplash, 2014 アメリカ)
- マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章 (The Second Best Exotic Marigold Hotel,2015 イギリス)
- It Follows (2015 アメリカ)
- ジヌよさらば〜かむろば村へ〜 (2015 日本)
- Re:LIFE~リライフ〜 (The Rewrite,2015 アメリカ)
- ディオールと私 (Dior and I, 2015 フランス)
- 紙の月 (2015 日本)
- マッドマックス 怒りのデス・ロード (Mad Max: Fury Road, 2015 オーストラリア)
- おみおくりの作法 (Still Life,2013 イギリス、イタリア)
- 007 スペクター (Spectre,2015 イギリス)
- 用心棒 (1961 日本)
- オレンジと太陽 (2011 イギリス)
- Papadopoulos & Sons (2012 イギリス)
- 新宿スワン (2015 日本)
- A Very Murray Christmas (2015 アメリカ)
- アリスのままで (Still Alice,2014 アメリカ)
- インサイド・ヘッド (Inside Out,2015 アメリカ)
- The Inbetweeners 2 (2014 イギリス)




数えてみると、2014年よりは少し増えて新しく見た映画は38本。気に入った映画は何度も見るのですが、それは数えていません。映画館には数回足を運んだのですが、予告編を観ていても心惹かれる作品が、個人的には今年もとても少なかったです。


それでは、2015年わたくしベストです。


1位 ディオールと私

これ、ドキュメンタリーです。ディオールのオートクチュールのデザイナーに抜擢されたのは、ベルギー人デザイナーのラフ・シモンズ。メンズコレクションのイメージが強い彼に、華やかなディオールのドレスを作り上げられるのか?伝統あるブランド、引き継がねばならないデザイン性、高い注目度、世界最高の腕を持つお針子達、内気な彼の性格…デザイナー就任からパリコレクションの本番はたったの8週間。ディオールのチームへの初めましての挨拶から映画は始まります。大きな名前を背負うことへのプレッシャー、人間関係、迫り来る納期・・・わざと大げさに、ドラマチックに仕上げるわけではなく、きちんと距離をとって淡々とその風景を映し出していて、非常に優れたドキュメンタリーでした。だからこそ、彼らの心の揺れや緊張がダイレクトに伝わってきます。そして、ディオールが作り上げてきたデザインの(ラフ・シモンズのデザインも含む)、時代に媚びない強さ、美ししさ、繊細さと言ったら!きっと今後、何度も見返す作品です。


2位 マッドマックス 怒りのデス・ロード

うちの旦那は公開を心待ちにしていて、一人で映画館に行きました。そう、わたくし、全く興味がなかったのです。むしろちょっと毛嫌いしていたといったほうが妥当。だって、もともとはメル・ギブソンの出世作。わたくし、メル・ギブソンがとても好きではないのです。その彼のイメージがものすごくこびりついている、繊細さなんてかけらも感じられなさそうな、ただ暴れまわっているだけの映画。そう思っていたんです。それが、旦那は絶賛し値引きになる前にブルーレイを購入。信頼しているサイトや新聞でも、この映画を絶賛。どうしたら、砂漠をただ爆走しているだけのトラック映画をこうも絶賛できるというの?という、逆の意味での興味が湧いてきて、ブルーレイを鑑賞したところ、ものの見事にハマりました(苦笑)。最初から最後まで止めどなく続く、心地悪いゾワゾワ感。これ、褒めてます!ただ残虐なシーンを盛り込んでいるとかではなく、なんというか神経に直接効いてくるような居心地の悪さ。それなのに目を離せないというある種の美しさが映画全編。これほど良さを説明するのが難しい映画って、もしかしたら出会ったことがないかもしれません。上手くいえませんが、もしかしたら「中毒」と言い換えられるかもしれません。英語で言う「Addict」です。俳優たちも素晴らしく、ニコラス・ホルトの配役に一番驚かされました。『アバウト・ア・ボーイ』に出ていた冴えない小学生が、あんな肉体派な役をこなせるようになるとは!あの、よくわからない、説明の付かない美しさを堪能するためにも、きっともう一度観ます。


3位 インサイド・ヘッド

これも、自分では予想しなかったランクインです。観ようとも思っていなかった作品の一つ。ほんの数日前に鑑賞したのですが、こんなに奥深い作品だったとは。わたくし、どこかで「どうせ子供向けなんでしょ」と高をくくっていたのですが、反省です。もちろん子供も楽しめますが、大人だからこそ心に沁みます。とにかく、話の内容がとても巧妙。人間の感情に関した話なのですが、はっとさせられます。当たり前といえば当たり前の内容かもしれませんが、あらためて映画を通してみてみると、まさに目からうろこです。


4位 用心棒

三船敏郎主演の黒澤映画です。ここ数年、何作か黒澤映画を観ているのですが、三船さんの存在感って本当にすごいです。…と私が言葉にすると安っぽく聞こえますが、何と言いますか、誰も彼にはなれないんです。もちろん共演者も皆トップレベルの素晴らしい役者さんたちばかりなのですが、三船さん演じる役柄が別の俳優だったら、映画自体が全く別のものになってしまう。私個人的には、実は一般的に古い映画って苦手なのです。正直これを認めてしまうのは、映画が好きと公言しておきながら恥ずかしいのですが。その年代によって台詞の言い回しや発声方法、良しとされる演技って異なると思うのです。どちらが良い悪いではなく、ただそういう年代が全面的に出ている感じが気になりすぎて、話に入っていけないことが多々あります。それが、三船さんのセリフ回し、声のトーン、演技、しぐさ、どれをとってもその時代に支配されていないのです。すべてが時空を超えているというか。40年前でも21世紀でも、そんなの関係なく、ずば抜けて雰囲気があってかっこいいのです。それが顕著に出ている作品ではないかと思います。


5位 おみおくりの作法

『フル・モンティ』の監督の作品ですが、ウィキペディアを見るまでこの監督がイタリア人だとは知りませんでした。『フル・モンティ』も『おみおくりの作法』も、イギリスらしさがとてもうまく出ている作品だからです。この映画、静かに話が進んでいきます。このまま終わってしまったら、観ている方が耐えられない…というところに素晴らしいエンディング。悲しく辛い状況には、とことん救いようがなく、それでも無駄に涙を誘うような作り方をしないところがイギリス映画の良い所だと思っているのですが、この映画も例外ではありません。




2015年のがっかり映画もついでに行っときましょう。


- ファーゴ

知ってはいたけど、やっぱり良さがわからなかった。カルト映画ランクには必ず名前が上がるこの映画、これまでも何度かチャレンジしたのですがなかなか最後まで見ることができず。やっとの思いで見たのですが、やっぱりわからない。2015年に新しいテレビシリーズとしても放送されていたのですが、そちらも全然面白さがわからず。去年の『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』に続き、やっぱりコーエン兄弟の作品の良さがわからないままです。


- バックコーラスの歌姫たち

世界の有名歌手のバックコーラスを務めている女性たちのドキュメンタリー。すぐそこに自分が目指す立ち位置があるのに、そこには行けないもどかしさ、悔しさを語ることに終止していて、バックコーラスだからこその面白さとか、ポジティブな面にはあまり触れられていなかったのが残念。歌で生計を立てるものとして、ステージの中心に立ってスポットライトを浴びることを目指すのは当然の事で、もどかしさ、悔しさに終止するというのが本当の現実の姿なのかもしれませんが、なんだかそれでは本当にそのままで、それを映画にする意味はあるのか、と思ってしまった作品。


- 紙の月

個人的には、日本映画が全然元気がなかった時の日本映画の典型のような作品に思えました。原作の本をなぞっているだけで薄い。そして余計なところに手を加えて、尻切れトンボな印象。キャストは良かったのに。


- マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章 

わかっていたけど、やっぱり期待せずにはいられず、そして案の定のがっかり。1作目が素晴らしすぎて、2作目でがっかりしたくなくて、映画館にも足を運べなかったのですが、好きだからこそ2作目も見届けねばとの思いで見てやっぱりの結果。シリーズ物ってやっぱり難しいですね。


- The Inbetweeners 2

こちらも『マリーゴールド・ホテル…』と同じく、シリーズ2作目。『The Inbetweeners』はイギリスのドラマシリーズで、イギリス人なら知らない人はいないヒット作。映画1作目は本当に面白くて大成功だったのですが、2作目は…。こちらもわかってはいたけど、観ない訳にはいかないという勝手な理由で見たのですが、勝手にがっかり。ある意味予想通りだったのですが、好きなシリーズだからこそ、良い作品であって欲しかったという期待により、裏切られ感が増幅してしまった結果です。



2016年、皆様の映画ライフが充実した1年となりますように!

『007 スペクター ~Spectre~』

2015年12月06日 | 映画~さ~
2015年 イギリス・アメリカ


日本でもこの週末から公開が始まった、007の最新作です。
あてくし、「スペクトル」だと思い込んでいたのですが、「スペクター」が正解なんですかね?ヤフーやグーグルで見てみたら、「スペクター」表記が多いようなので、それに倣ってみようとおもいます。

私がこの映画を見たのは1ヶ月ほど前なのですが、本国イギリスでも「ダニエル・クレイグの007史上、最高の出来」と大絶賛されての公開でした。もちろん映画館も大入りで、現在も絶賛公開中。


でも、「ダニエル・クレイグの007史上、最高の出来」かどうかと言われると、正直なところ意義ありと言いたい!


早速、感想に移らせていただきますが、わたくし個人的には断じて最高ではなかったです。もう、断然に前作『スカイフォール』の圧勝。

映画として観ている間は楽しめるんです。でも、スカイフォールが素晴らしかったのでどうしても比べてしまう。ダニエル・クレイグ以外のボンド映画は数本しか見たことがないので(ショーン・コネリーのもの)、いわゆる「007の形式美」(美女との絡みとかサービスシーン満載的な)をあてくしがどこまで理解しているかは正直なところ甚だ疑問なのですが、多分今回はいわゆる007映画の王道がいつもに増してふんだんにつめ込まれているんだと思います。もっとはっきり言うと、安っぽいシャレやわかりやすいサービスシーン(本編に全く関係のない美女たち)がとにかく多い。前回のスカイフォールでは、その配分が抑え気味で調度良かったんですよ(あくまで私個人の感想です)。それが、今回は胸焼け。

ただ、一般的なイギリス人にとっては、こういうわかりやすいお色気やシャレがあってこその007。決してただかっこいいだけのスパイ映画ではなく、しょうもないバカバカしさとか、世界中の美女をはべらすというわかりやすい「全世界の男の夢」を具現化することこそが007という映画の位置づけなので、胸焼けにはならないとのこと。ただ、ダニエル・クレイグの007の中で最高傑作かと言われると、同じく意義を唱えるひとも多く…いや、多いというか、私の周りで見た人たちは全員口をそろえて「前作のほうがいい」といいます。


そして、もう一つイマイチだった要因は主題歌!
今回はサム・スミスが主題歌を担当しているのですが、何度聞いても耳に残らない…。すいません、また前作と比べてしまいますが、アデルが歌ったスカイフォールのテーマ曲は、もう本当に、皆が口ずさんでいたくらい浸透していたんですよ。例えばスーパーの有線でこの曲がかかろうものなら、買い物客が自然と口ずさんじゃうくらいに。しかし、今回のテーマ曲はそこまでの市民権は得られていないのが現状。というのもね、難しすぎるんだと思うのですよ。スカイフォールが一度聴いたらサビの部分くらいはすぐに認識できるほど覚えやすかったのですが、今回のはもう何度聴いても覚えられない。良くも悪くも、引っかからないんです。更にぶっちゃけると、作曲したサム・スミス本人も「ちょっと音域を高くしすぎて、歌うのがしんどい」と認めているほど。本人もわかってるのなら仕方ないわよ…、と全く持って一般人な私も思うわけです。


それにしても今回の007は、いわゆる「お色気要員」の存在が個人的には目立っていたように思うのですが(モニカ・ベルッチ含む)、これが20年前なら多分そんな感想は持たなかったんだろうな、と自分のことながら思ったりもしました。時代の流れというのでしょうか。フェミニズムの台頭を感じた次第であるわけですよ。こんな適当な映画ブログでフェミニズムを語るのもどうかと思いますが(苦笑)、例えば20年前なら、ただのお色気要員、ボンドとのベッドシーンのためだけの「ボンドガール」を、なんとなくすっきりしない気持ちを持ちながらも「まあ、そういうもの」と流せたと思うのですが、2015年ともなるとそう簡単にも流せない風潮が強くなって来ているような気がします。これこそ個人的感想ですが、ダニエル・クレイグの007はそれ以前のものと比べると、こういうサービス要素って結構少なめだったと思うんです。でも、今回はサービス増量(もしくは以前の通常レベル)だったために胸焼け…というか、観ていてあまり気持は良くなかったというか。それも、私が前作ほど楽しめなかった原因の一つです。


関係ありませんが、「ボンドガール」ってボンド映画に出ている女性キャスト全員を指す言葉だってご存知でしたか?あたくし、「ボンドガール」=「映画の核心の握るメインの女性」だと思っていたのですが、違ったのです!女性キャスト全員というくくりなので、M(エム)を演じていたジュディ・デンチも、ただのお色気要員も全員がボンドガールのくくりなんですって!公開に先駆けてボンド映画特集がテレビで組まれていたのですが、ジュディ・デンチが言っておりました。

「『ボンドガールである』というのは、年齢に関係なくすべての男性を惹きつけるのよ。10歳の男の子でさえ、『007に出ている』というと、態度が変わるの!」と。

今回出演していたモニカ・ベルッチでさえ、ほぼ本編に関係のないチョイ役だったにも関わらず、ものすごく喜んでいましたし、話題にもなっていましたしね。「ボンドガール」力、恐るべしです。そういえば藤原紀香が以前から「夢はボンドガールになること」と言っていたような…本当にどうでもいいですけど。



ということで、12月4日から日本で公開の『007 スペクター』。
最高傑作では決してないと思っていますが(しつこい)、映画としてはもちろん楽しめます。特にダニエルのボンドを観ているひとはぜひ。



おすすめ度:☆☆☆ 


*画像はRotten Tomatoより

『ゴーン・ガール ~Gone Girl~』

2015年04月25日 | 映画~か~
2014年 アメリカ映画


毎度の事ならが、というか以前に増して更新スピードが遅くなっているこのブログ。あまりに更新しないからなのか、知らないうちにブログのテンプレートが変わってました。

さて、『ゴーン・ガール』です。
一言で言うと、「なんじゃこりゃーっ!?」でした。良くも悪くも、予想を裏切られました。


一番の驚きは、物語が想像の斜め上を行っていたこと。話の内容はいつものことながらできるだけ耳に入れないようにしていたので、どんな物語かは知りませんでしたが、「どうせありふれた家族愛(夫婦愛)を描いたアメリカお得意のお涙頂戴ものでしょ?」と思っていたのです。予想を裏切られてよかったかどうか…ありがちなベタベタの夫婦愛の物語でなかったのは確かに良かったです。そうでなければ最後までこの映画を見れたかどうかわかりません。ただ、この物語がワタシ好みだったかどうかはまた別の話でして。ショッキングだし、見るものを惹きつけるのは確かなのですが、気持ちのよい話でもなく…。いや、まぁ、観てよかったんですけどね。


どうして観てよかったかというと、一番の理由は主演のロザムンド・パイク。私が住んでいるイギリスでは、この映画結構な注目度でした。彼女がイギリス人であることも理由の一つかもしれません。イギリス映画では結構よく出ていて、しかしいつも優等生的な役柄だったのです。だからこそ、この映画での彼女の役柄、そしてこれまでとのギャップ、はっちゃけぶりは本当に驚きました。私の中で特に印象が強かったのが、好きな映画の一つである『Made in Dagenham(本題:メイド・イン・ダグナム)』で、自動車会社フォードの重役の妻で、オックスフォード大学出身の才女なのに男女平等ではない時代背景から専業主婦をしているという役柄でした。しかもロザムンド・パイク自身も本当にオックスフォードの英文科出身で、映画の中で「私は世界最高峰と言われる大学で、世界の成功者たちの話をいつも読んでいたの(意訳)」という台詞もあり、もう完全に「インテリ」「上流階級」的なイメージが私の中で出来上がってしまったのです。その彼女が、完全にキレまくっている女性(中身が)を演じていて、それが本当に見事で。彼女の演じることのできる役柄の幅広さと演技力の高さを楽しめただけでも、この映画を観た甲斐があったというものです!



そしてもう一つ、観てよかった理由があります。それは、ベン・アフレックの役柄が彼にぴったりだったこと!


個人的には、気になるには気になるのだけど、映画館に行くほどは興味をそそられない…という映画でした。恐らく、というか8割型、どうして興味をそそられなかったのか、というか特に観たいとも思わなかった理由には気づいているのです。それが彼、ベン・アフレックだったのです。


わかってます。彼が才能あふれる業界人であるということは。わかっていますとも。あえて業界人と書いたのは、彼が監督業、脚本家としてものすごく成功しているから。でも俳優としては正直うまいと思ったことがなく、個人的には彼の役柄はいつも彼自身というか彼の通常時のイメージよりも「格好良すぎる」と思っていたのです。やたらできる男だったり、ヒーローだったり、2枚目役だったり…。そこでものすごく演技力が高ければそのギャップも埋められるでしょうし、逆に言えばそのギャップによりより格好良く見えるという相乗効果だって期待できたのでしょうが、私にはそうは映らず(あくまで私個人の感想です!)。彼の俳優としての最高傑作は、いまだに『グッド・ウィル・ハンティング』だと思っています。普通の若者。それ以上でも以下でもない普通の人具合が良かった。

説明が長くなりましたが、この『ゴーンガール』でのニックという役柄は、彼にピッタリ!!!
もうね、全然完璧じゃないんですよ、このニックという男が。若い学生と浮気していたり、失踪した妻を探すためにテレビでアピールするも写真撮影で笑顔を見せてしまったり。ドラッグ容疑で逮捕された後、報道陣の前で思わず癖でアイドルスマイルを見せてしまったのりピーを思い出してしまったほど。なんというかものすごく人間的で不完全で。その洗練されてなさがある意味すごくリアルで、ベンにぴったりだったのです!彼は絶対にダメ男役が合うと思っていたのですが、やっと彼の本領が発揮されたと思っています(褒めてます!)。


ここ10年位でよく思うのが、アメリカ映画のトレンドというか視点が変わってきたなということ。以前は、「アメリカ最高!家族愛、友情は(上辺だけでも)美しい!」と言うのが根底にあって、何がどうしたって私達が正解!という話が多かったと思うのです。それが、アメリカ社会の中の矛盾とか、口には出せないけど心の何処かで感じている上辺だけの美しさや正義への違和感とかを物語の軸にしている作品が多いように感じます。『ゴーンガール』でも、本当に意図してそうしているのか、勝手に私がそう受け取っているのかはわかりませんが、そういうシーンが見受けられたり。例えば行方不明になった娘を探すためにテレビで協力を訴えている両親の姿やその中の彼らの態度だったり言動だったり。これからのアメリカ映画の方向性にはものすごく興味があります。



それでも、映画館で高いお金を払わなくてよかったとの気持ちは変わらず。DVDで十分です。そして、スッキリ、気分爽快映画ではありませんが、ロザムンド・パイクの突き抜けぶりは見る価値があると思います。(ベンのだめ男ぶりも!)




おすすめ度:☆☆☆★


画像はこちらより。
http://www.indiewire.com/article/nyff-made-david-fincher-want-to-puke-and-9-more-things-we-learned-at-gone-girl-event-20141010

2014年ベスト。

2014年12月02日 | 年間ベスト
*皆様、こんにちは。

この、ほとんど更新のされないブログに一体どのような方々がお越しくださっているのかはわかりませんが、大変ご無沙汰しておりました。前回の更新が、1年4ヶ月前の2013年8月。この時観た『パシフィック・リム』は、仕事の面接失敗で打ちのめされた時の気分転換に観た映画でした。その後なんとか職にありくことができ、引っ越しをし、さらに職場が3回も変わりましたが、なんとか元気です。

とりあえず、今回は今年これまで観た映画の一覧でも貼っておこうと思います。(劇場、DVD、再見含む)

- Grow Your Own(2007 UK-邦題が見つからず…日本未公開のようです)
- マレフィセント (Maleficent 2014 US)
- それでも夜は明ける (12 Years a Slave, 2013 US)
- インターステラ- (Interstellar, 2014 US)
- ワン・チャンス (One Change, 2013 UK)
- アメリカン・ハッスル (American Hussle, 2013 US)
- なんちゃって家族 (We're the Millers, 2013 US)
- ライク・サムワン・イン・ラブ (2012,日本・France)
- ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅 (Nebraska, 2013 US)
- マッド (Mud, 2013 US)
- イカとクジラ (The Squid and the Whale, 2005 US)
- めぐり逢わせのお弁当 (The Lunchbox, 2013 India)
- カムバック!(Cuban Fury, 2014 UK)
- あなたを抱きしめる日まで (Philomena, 2013 UK)
- ブルー・ジャスミン (Blue Jasmine, 2013 US)
- インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌 (Inside Llwyn Davis, 2013 US)
- デンジャラス・バディ (The Heat, 2013 US)
- ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!(The World's End, 2013 UK)
- フライト・ゲーム (Non-Stop, 2014 US)
- アイルトン・セナ 音速の彼方へ (Senna, 2010 UK, FR)
- オール・ユー・ニード・イズ・キル (Edge of Tomorrow, 2014 US)
- 風立ちぬ (2013 日本)
- Gozilla ゴジラ (2014 US)
- ウォールフラワー (The Perks of being a Wallflower, 2012 UK)
- グランド・ブダペスト・ホテル (The Grand Budapest Hotel, 2014 US)
- リミットレス (Limitless, 2011 US)
- ダラス・バイヤーズ・クラブ (Dallas Buyers Club, 2013 US)
- ゼロ・グラビティ (Gravity, 2013 US, UK)
- アキラ (1988 日本)
- そして父になる (2013 日本)
- LIFE! (The Secret Life of Walter Mitty, 2013 US)
- パーフェクト・ブルー (1997 日本)


例年に比べて本数はかなり少ないです。2014年は個人的には観たいと思う作品が少なく、やや不作な年ように思いました。予告編を見ていても、「あ、これ観たいなぁ」と思うものが本当に少なかったです。

が、こうやって観た作品を比べてみると、意外と大きな当たりも多かったのかも・・・。というのも、とにかくバタバタの一年だったので、「これは見逃せない!」とかなり強く興味を惹かれたものしか見ていないからかもしれません。だから外したものが少ないというか。

まだ12月に入ったばかりですが、今年中には観てもあと数本だろう、ということで勝手ながら2014年の私個人のベストです。


1位『グランド・ブダペスト・ホテル』。

個人的にはダントツ。他を寄せ付けないくらいの一人勝ち。ウェズ・アンダーソンの世界が炸裂した一本。彼の作品には多分初出演のレイフ・ファインズが、もうもうどうしようもなくいい!登場人物のキャラだけでなく、映像のどこを切り取っても好き。


2位 『アキラ』

誰が予想したか。まさかの、いまさらの『アキラ』。これの公開時、私小学生だったと思います。
ほんと、いまさらなんですけど、ジャパニメーションってやっぱりすげぇ・・・と。これ、実写化の話が何度も何度も出ては消えていますが、どうなるんでしょうね。もうむしろ、下手に手を付けるなとも思いますが。その時はやっぱり、監督はクリストファー・ノーランなのかしら。


3位 『ゼロ・グラビティ』

映画うんぬんよりも、「やっぱりサンドラ・ブルックすきだわ」と再々再確認した映画。最近の『インターステラ-』も同じく宇宙を扱ったSF映画でしたが、サンドラとアン・ハザウェイの演技力の差と言ったら比べようもないほど歴然。アン・ハザウェイは大好きな女優なのですが、ここはサンドラの圧勝だったと思います。


4位 『ブルー・ジャスミン』

ケイト・ブランシェットがこれまで演じた役の中で、一番はまってた!切れっぷり、精神の病み具合が抜群にリアルだったので。大抵ナチス・ドイツのエリートとか意外とステレオタイプな役が多いイメージだったのですが、「ああ、こんなのもいけるのか」と。共演のサリー・ホーキンスのはすっぱぶりも見事。


5位 『なんちゃって家族』

ジェニファー・アニストン主演の映画で、初めて面白いと思ったかもしれない、個人的にはある意味記念すべき作品。私の中の「ジェニファーはこうあるべき」という像と役柄がぴったり当てはまっていたこと(何様?)。そして、ウィル・ポールター!彼には今後どんどん活躍してほしい!


6位 『ダラス・バイヤーズ・クラブ』

『マジック・マイク」当たりから、年齢と自分の立ち位置に見合った役柄を演じるようになったなぁ…と路線を変更し始めたマシュー・マコノヒーへの印象を変えてくれた映画。今もやっぱり好きにはなれないし、『インターステラー』では独特の訛りというか話し方で正直何を言っているのか全然わからなかったけど、この映画は素晴らしかった。ジャレット・レトもなんだか久しぶりに映画で観たような気がするけど、俳優魂を感じました。



その他

『あなたを抱きしめる日まで』

すでに泣かせようとしている邦題が好きではないけど、描かれている問題の深刻さのみに集中してスポットを当てるのではなく、映画の中でジュディ・デンチが演じた母親のキャラクターとのバランスが「さすがイギリス映画」と思える絶妙さでした。


『ウォールフラワー』

話の内容もちょっと衝撃ですが、それ以上に衝撃だったのがエマ・ワトソン。ハリーポッターのファンではなくとも、「エマ・ワトソン=ハリー・ポッターの子」、ただの子役と思っていたのが、「この人、こんなに演技うまかったのか」と印象がガラリと変わりました。



逆に個人的がっかりは…

風立ちぬ

 前評判が良すぎて、期待しすぎたんでしょうね。

インサイド・ルーウィン・デイヴィス

 コーエン兄弟の作品のペースがどうも私には合わない。

デンジャラス・バディ

 いくらサンドラが好きでも、20分以上耐えられなかった。

ライク・サムワン・イン・ラブ

 何がいいたいのか全く持ってわからず、山場も見つけられず。



ということで、勝手に私のベストを発表させていただきました。
ここの映画の感想は、またそのうち。

『パシフィック・リム ~Pacific Rim~』

2013年08月08日 | 映画~は~
2013年 アメリカ映画



イギリスでは一足お先に公開された『パシフィック・リム』。普段、SFとかロボット関係の映画は苦手でほとんど見ないのですが、この日はなんだか色々とありまして…気晴らしが必要!しかも純粋に、何の小賢しさなく楽しめるものがいい!と思っていたところ、この映画の公開を思い出したわけです。

御年35歳。一般的日本人として、ロボット漫画や実写に親しみながら大きくなった者として、これらを題材にした映画となれば親しみもわくというもの。というか、深い物語を追う必要はなく、とにかく映像として脳味噌を使わずに楽しめそうというのが、この日は大事だったわけです。さらにいうと、この作品の監督が、パンズ・ラビリンスの監督だったというのも追い風となり、さっそく観に行ってきました。



一言で言いましょう。ロボット漫画や実写で大きくなった人は、間違いなく楽しめます。


そしてもう一言。昔見た実写、アニメ、そのままです。



もうはじめから、ずっと轟音鳴りっぱなし。戦いっぱなし。子供のころに見たあのアニメや実写ってこうだったよね、とちょっと懐かしくなったり。それを心より愛した有名監督が、それなりの予算を使って本気で作るのだから、面白くないわけがないんです。正直、ここまで楽しめるとは思っていませんでした。

あ、面白いと言っても、本当に…深みとか、映画化の意味とか考えないでください。昔のあの懐かしさが現代版になって戻ってきたという面白さです。もう、最初から最後まで、隅から隅まで、懐かしのアニメ・テレビの実写番組のエッセンスが満載!私世代なら、どのロボットや怪獣が、どの漫画や番組から影響を受けて作られたかというのも分かるはず。


ゴジラとかウルトラマンとか、日本にいたらいつでもテレビでやっていて、それが子供番組の基本だと思って当たり前に見ていたから何とも思わないかもしれませんが、こういうものを作り出すことって本当に偉大だ、と映画見ながら感心しました。イギリスに住んでかれこれ6年ですが、こういう子供番組ってイギリス、ヨーロッパにはないんですよ。だからこそ日本の番組がそのまま放送されて、そして日本と同じように子供たちを虜にしているわけです。

一応、一般的な日本人(中年)としてこういうたぐいの番組を見ていたとはいえ、大して詳しいわけでもない私ですが、例えば「このロボット、○○に似てる」、「この怪獣のデザインは、この番組から影響を受けてるようにみえるなぁ」というものが盛りだくさん。鑑賞後に日本で発行されているネットの記事やインタビューを見ていたら、ビンゴ!あのデザイン、監督の大好きな○○から影響を受けているのね~、と一人納得&満足させていただきました。



日本の子供向け番組から影響を受けて作られた映画って沢山ありますよね。『ロボコップ』、『トランスフォーマー』、『インセプション…この中だと、この『パシフィック・リム』はロボット系として『トランスフォーマー』と同じ系列と見ることができるかもしれませんが、私個人的にはもう10倍くらい『パシフィック・リム』の方がお勧め!というのも、この映画、すごく純粋なんです!!!

観客を楽しませるため(と言われている)唐突で意味のないラブシーンとか、本編に関係のない無理やりな色恋沙汰とかが全くもってない。(←これが『トランスフォーマー』嫌いの一因。)

子供向けロボット実写番組を、大人がそれなりの予算を使って本気で作った。日本人にとっては目新しさも驚きも何にもないんです。だっていつもテレビで見ていたものそのままだから。「『へ~んしんっ!』とか言ってないで、その間にさっさと攻撃しなさいよ!!!」といい大人としてはヤキモキしたりするのですが、そういうところもそのまんま。本当にそれ以上でもそれ以下でもないんです。本当に本当にそのまんま。でもそこがいい。すがすがしいほど飾り気なし!!!見ていて気持ちがいい!!!


あえて残念なところを上げるとしたら、菊池凛子さんの髪型(カラー)でしょうか。真黒なおかっぱ頭に青のハイライト…『バベルで女子高生演じた時も、こんな感じの髪型でしたよね。凛子さんは決して悪くはないんです。でも、これってアジア人以外の外国人が考える「日本人のおしゃれ」なんですかね?なんか、「またこれかよ」感を感じてしまいました。まぁ、いいんだけど。


映画の内容とは関係ありませんが、数ヶ月前にヤフージャパン(元はアメリカで発表された記事の翻訳版)に俳優についての考察が掲載されていました。それはここ数年、イギリス人俳優たちの台頭が目覚ましいというもの。アメリカ映画でアメリカ人役なのに、イギリス人俳優がそれを演じているというケースが増えている、というもの。『パシフィック・リム』も例外ではなく、主役ローリーを演じるチャーリー・ハナム、司令官役のイドリス・エルバはイギリス人でした。




『パシフィック・リム』、監督の日本への愛が溢れています!一日本人として、ここまで猛烈で純粋な愛を表現されて、嫌なわけがありません。

クールジャパンって正直どうなの?という声も聞きますが、日本のアニメ、おたく文化は私達が頭で考えている以上に絶大で強烈で、日本が誇るべき文化の一つであることは間違いない!…と外国在住の私は日々感じるのです。


日本では、2013年8月9日(明日)公開です。





おすすめ度:☆☆☆☆


注:子供のころ、戦隊ものや怪獣ものに全く興味がなく、見たこともない、という人には不向きです。

『パリ20区、僕たちのクラス ~The Class~Entre les murs~』

2013年07月08日 | 映画~は~
2008年 フランス



パリ20区にある学校での日常を描いた作品。中学校のあるクラスで、国際色豊かな学生たちと彼らの担任であるフランソワの、毎日の「真っ向勝負」が描かれています。

フランス語(国語)教師のフランソワは、とにかく個性豊かな子どもたちといつも真摯に向き合ってきた。しかし、そこは思春期の子どもたち。どんなに真摯な姿勢を貫こうとしても、なかなか一筋縄ではいかないこともある。さらに生活環境や人種、国籍など様々な要因が入り組んでくるのが、パリ20区という地域の特徴。

この作品、「驚き」や「新しさ」、「斬新さ」を映画に求めている人は、物足りなさを感じるかもしれません。話の流れとしては、「中学での生徒と教師の日常風景」としか説明ができないほど、本当にそれだけ。しかしそのおかげで、概要を表面的になぞりインパクト勝負の作品では表現しきれない深さ、丁寧さが散りばめられています。


映画の中で描かれているエピソードは、基本的にはすごく些細なことで、大人である私たち(注:わたくし、35歳でございます)にしてみれば問題にすらなりようも無いほどのことだったりします。しかし、中学生達にはそうは行かないらしいのです。たいていは感覚の違い、知識の違い、言葉の認識の違い、年齢の違い、思春期ゆえの不安定さから発生するものなのだけど、生徒たちにしてみればきっとこれらの1つ1つが大事件なのでしょう。小さな勘違い、思い違いも、大人同士なら少し話をすれば解決できるものも、中学生相手ではそうはうまくいかない。間違いや勘違いを説明をしようとしても、理論より感情が勝ってしまう。感情的に本編からずれたところに論点を移動させてしまい、結局分かり合えない。例えば、フランソワが例え話のなかで使用したある言葉が、学生たちの反発を招いてしまい、焦点がそもそもの問題から、ある言葉を「言った・言わない」に完全にシフトされてしまったり。


この映画の何が面白いかって、とにかく学生と先生がリアルなんです。この映画のキャスティング担当者、本当にいい仕事してます!一体どこでこの子たちを探してきたの?と聞きたくなるほど。皆が皆、あまりにも上手く個性を表現していて、ドキュメンタリーを見ているような感覚になるのです。実際、出演している子どもたちは演技の経験が全くなく、これが第一作目とのこと。だからこそ「演技」と言うよりも素直な新鮮さが表現できたのかもしれません。

そしてフランソワ役のフランソワ・ベゴドーの熱くて、本当に子どもたちが大好きで、一生懸命、だけどだからこそ反発を招いてしまうという人間味あふれる演技も素晴らしい。このフランソワ役の俳優さんが、この映画の原作を執筆した本人でもあるとのこと。

このフランソワさん、若いなぁと思ったのですが、ウィキペディアを調べてみたら今年42歳(2013)とのこと。と言うことは撮影当時は30歳半ばかぁ。20代後半から30代前半くらいかと思ってました。もしくは、普段イギリス人に囲まれているから、私の年齢の感覚が麻痺していたのかも。うけけ。(注:イギリス人ってどういうわけか、他のヨーロッパ系に比べても年をとって見えるのです。)


中学生の頃の自分を思い返してみると、いつも自分は正しくて、世界のすべてを知った気分になっていたなぁ、と。映画の中の学生たちを見て、「ああ、こんなこの担任になったらきっついなぁ」と思いながらも、自分もこういう部分あったよなと。あの年頃独特の感受性の強さや怖いもの知らずな面、そして自分をコントロールできずに突っ走ってしまうところ。

難しい年頃の子供達の姿を描く映画やドラマってこれまでにもいくらでもあったと思いますが、この映画と他との違いは何か。私の語彙力では的確に表現出来ないのがどうにも悔しいのですが(そんなもの求められてもいないでしょうけど)、やはり「リアルさ」なんだと思います。無理やりドラマ仕立てにするのではなく、本当にそのままを伝えているような。もちろん映画だし原作があるのでドキュメンタリーで無いのは確かなのですが、ドキュメンタリーのような強さを感じます。そして役者、特に子どもたちと教師のたたずまいが、どうにも演技とは思えないのです。むしろ、「このドキュメンタリー、どういうふうに子どもたちにカメラを意識させないように撮ったんだろう?」と考えたほうがしっくり来るほど。

年齢的、ドラマの背景的に見ると、『金八先生』と同系列の作品だと思うのですが、ある意味正反対のベクトルを向いた作品であるように感じます。演技臭さが無いんです。誤解されないように説明を付け加えると、私は『金八先生』は大好きで、「演技合戦」的な暑苦しさ(少なくとも私が感じる)、その強さに引きこまれていくのが魅力だと思っています。逆にこの映画は、ある意味ドライすごくなんです。誰か特定の人物に感情移入するのではなく、第三者としてその光景を見ている。常に登場人物とは一定の距離が保たれているからこそ、どの役柄に対しても平等に冷静でいられる。でも、もしかしたらこの作品を見る年齢によっても感想は変わるのかもしれません。私がフランソワ世代だからこそ、自分たちが中学生として通ってきた道と、教師という仕事の大変さという視点から見ているのであって、仮に私がまだ10代、20代初めの学生なら、映画の中の中学生の怒りや勢い、不安を痛烈に感じるのかもしれません。


大作を好む方には退屈かも知れませんが、ヨーロッパ系のドラマが好きな人にはすごくオススメの作品です。地味で小粒ですが、バランスが良く、それでいて力強さのある作品です。

また、この作品は2008年度カンヌ映画祭のパルムドール(最優秀作品賞)受賞作品だそうです。彼らの演技を見ていたら、文句なし!です。



おすすめ度:☆☆☆☆★

『北のカナリアたち』

2013年01月29日 | 映画~か~
2012年 日本映画


飛行機の中で鑑賞しました。ANAのイギリス行きだったのですが、ANAさんの映画の選択のチョイス、とても良かったです!日本行きがルフトハンザで上映作品がすっごく微妙だったので、余計に嬉しかったです!!!


そんなことはどうでもよくて、『北のカナリアたち』です。
東映創立20周年の記念作品だそうで、なるほどキャストがすごいですよね。主演の吉永小百合に、脇を固めるのが皆実力派の若手俳優たち。派手さは無いけど、東映がこの記念作品にかける本気度が伝わってくるキャスティングだなと素人ながらに感心しました。実は、ANAの機内誌を見るまでこの映画のことは全く知らなかったのですが、この「本気の実力勝負」的なところに惹かれ見てみた作品です。


北海道のある離島で小学校の教師をする川島はるは、6人の年齢がバラバラな生徒の担任。小さな教室でも問題はつきものだが、はるは生徒達の歌の才能に気が付き、子どもたちは歌を通して自信をつけ、担任とも強いつながりを築いていく。しかし、ある日おこった事故をきっかけに、歯車が狂い出した。そして20年が経ち、再び生徒たちを対面することになったはるだが…。


この映画を見たのはすでに3週間ほど前なのですが、どの場面がというよりは、それぞれの俳優の場面が同じくらいの強さで思い返されます。これ、私にはすごく珍しいことです。私の場合、通常はインパクトの強い一場面や、映像が鮮烈に脳裏に焼き付くということが多いのです。それ故に、場面や映像を覚えていても、肝心なエンディングを忘れることが多々あるというのは内緒です。


それでもこの豪華な実力派俳優たちの中で、誰が一番印象に残っているかと聞かれれば、主演の吉永小百合ではなく、もうダントツで森山未來です!この人って、「憑依型」なんでしょうね。映画の中では、「森山未來が演じている◯◯」ではなく、その役にしか見えないんです。難しい生い立ち、障害を抱えた鈴木信人の「生きることの苦しさ」が痛々しいくらいに伝わってきます。もちろん森山さんは俳優として鈴木信人を演じているわけですが、もう演じているようには見えないんですよ。

そして、鈴木信人の子供時代を演じた小笠原弘晃をいうお子さんがまた本当に演技がうまくてびっくり。昔の子役って、もっと学芸会っぽくありませんでした?いや~、最近の子役って本気ですね。この子も将来いい作品に巡りあって欲しいなぁ。



さて、実は主演が吉永小百合の映画を観ることは、大げさに聞こえるかもしれませんが私にとってはちょっとした挑戦だったんですよ。というのも、吉永小百合主演の映画って、見た覚えがあるのが『北の零年』しかないのですが…これがいまいちだったんですよ、私にとっては。

私の中では「吉永小百合=メリル・ストリープ説」(!)というのがありまして。メリル・ストリープは多分、顔の作り自体が苦手で、さらにどの映画を見ても私には「メリル・ストリープ」にしか見えないんですよ。メリルって、演技力の高さで知られていますが、うーん、ダメなんですわ。『マンマ・ミーア』を見た時の感想にも書いていますが、どうも「秘めた強さはあるのだけど表には出さず、女性的でどこか自分を押さえ込むような感じ」の役が多いように見えて、それが私の中で彼女のイメージとして固まってしまっているんです。『マンマ・ミーア』で彼女を褒めちぎりましたし、あれをきっかけにメリルへの苦手意識が無くなるかとも思ったのですが、長年かけて作られた苦手意識ってしぶといもんですね。私も妙齢なので、余計に自分の感覚を変えるのが難しいのかもしれませんが(放っておいて)。

それと同じ感覚を、私は吉永小百合さんに感じるんです。そして『北の零年』で「ああ、やっぱり…」と自分のそれまで持っていたイメージ通りの姿(役柄?)があって、そこで完全に固定されてしまったというか。


この映画の中の吉永さんは、よくも悪くもイメージ通りの吉永さんでした。でも、今回の役は、その「いつもの吉永さん」のイメージのままで映画を観ていたからこそ、「ええっ!こんなシーンまで!!!」という驚きも倍増。「吉永さん、体張ってる」ということ。年齢もそうですけど、よくぞ監督も吉永さんにここまでやらせたなぁ、と見ているこっちがドギマギしたり。

しかも旦那の役を柴田恭兵…え?吉永小百合の旦那の役を柴田恭兵がやるの?年齢が離れすぎてない(柴田さんが年下)??と思ったのですが、今調べてみたら6つくらいしか離れていないんですね。どうも私は好き嫌いを超えたレベルで吉永小百合を神格化しているのかも…。

更に言いますと、柴田恭兵の私の中のイメージも「あぶない刑事」の軟派な感じ(と言ってもこのドラマのファンでは全く無いのでほとんど見たことがない。あくまで私の中の勝手なイメージ)で固められているんですよ。この映画の中の柴田さんは全く軟派なイメージなど無く(当たり前なんだけど)、素晴らしい演技だったのだけど、あ~、ほんと難しいわ。一度自分の中で作られてしまったイメージを変えるのって。



最後に、映画の中では端役でしたが、あたくし満島ひかりさんが好きなんです。彼女が配役されていた、というのがこの映画を見てみようと思った理由の一つでもあります。2年ほど前にDVDで『川の底からこんにちは』をみて、んまぁ~びっくりしたんですよ。こんなすごい女優が出てきたのか!と、異国の地(イギリスです)で嬉しくなったほど。その後、彼女が出演していたテレビドラマ『それでも生きてゆく』を観て、どれほど心が揺さぶられたか。今後どんな映画、ドラマに出られるのか、本当に楽しみな女優さんだと思います。



映画の感想というか出演者の感想になってしまいましたが、映画全体としては凄くバランスが良くて、出演者のそれぞれが上手く個性を出し合っている面白い作品でした。湊かなえ原作の映画の『告白』は、なんだか奇抜すぎて全然好きじゃなかったのです(原作は未読)。しかし、ストーリーのインパクトの強さには惹かれるものが有ったので、『北のカナリアたち』の内容にも期待していたのですが、これには大満足。なんといっても『北のカナリアたち』というタイトルが良い!このタイトルを目にしただけでも、本やDVDなら手にとりたくなるレベルですもの。



派手さはないけれど、丁寧に作られた作品だということがひしひしと伝わってきます。話の面白さ、そして俳優たちの演技力の高さが抜群です。北海道の離島の荒々しい風景もぴったりで本当におすすめ。次回はミステリー好きのうちのばあちゃんと一緒にDVDで見たいと思います。




おすすめ度:☆☆☆☆★