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漫画レビュー 荒木飛呂彦 岸辺露伴ルーブルへ行く

2022-06-29 16:06:00 | 書評 読書忘備録
#荒木飛呂彦  #岸辺露伴ルーブルへ行く

ジョジョ4部の岸辺露伴のスピンオフの更にスピンアウト作品です 
どうスピンアウトかっていうと この話だけコミックス未収録 A4サイズ単行本全編オールカラー愛蔵版のみでしか読めないというもの

この本の企画は巻末にあとがきがあるが ルーブル美術館のジャパンポップカルチャー展覧会に合わせてバンドデシネのスタイルでフランスでも人気の高いジョジョアラキに一冊作ってもらい 原画を展示しようというもの。 
モナリザやニケと同じ屋根の下にジャパンマンガが展示されるわけだから、感無量であります

さて肝心の物語。 岸辺露伴のデビュー前の初の女性経験の相手の謎めいた人妻との挿話から始まるが、 彼女が語る、この世で最も黒い色で描かれた絵、を訪ねてルーブルの見捨てられた13番倉庫で露伴が体験した恐怖、ホラー談に話は移り 意外な因果的結末を迎えるもの。
なるほど、 荒木飛呂彦ファンにも、パリの美術愛好家にも ズキュンと刺さる スリリングでアンニュイでメルシーなスピンアウトストーリーでござった。












漫画レビュー 荒川弘 銀の匙

2022-06-29 15:59:44 | 書評 読書忘備録


「銀の匙 1巻」  荒川 弘   192頁

このシリーズ読み直し中ですが 初めて読んだ時とだいぶ感想が変わってきた
最初は「鋼の錬金術師の作者が意表をついて農業高校のユーモア漫画を持ってきた!」と思い、週刊サンデー連載で毎回呑気に笑わせていただいていた

だがこの物語も主人公八軒も実はハガレンのエドワードエルリックとなんら変わることなく、真剣に(と書いてマジ、と読む)闘っているように見えてきた

そりゃあそうだ、自分だって高校ボーイズの頃は毎日が一杯一杯で、いつもなにかに苛立ち、なにかをぐるぐると探し回り、
常に愚にもつかない真理めいたことを考え求め続けていた
自分だって八軒だって、いや全世界の若者はその時、闘っているのである
相手がホムンクルスか?勉強か?人間関係か?自分の人生か?が異なるだけなのだ

高校受験前に両親の期待に過剰に応えようとして燃え尽き症候になってしまった主人公は逃げるように寮付きの蝦夷農高校に入学する。
体力測定で一周20kmあるキャンパスを走り、世紀末覇者が乗るような巨大な馬に遭遇し、モビルスーツもかくやというような多機能コンバインが往来している。
このテーマパークのような高校の環境であるが授業は生き物の生死に直面する畜産酪農のシビアな世界であるし、集まった級友たちも多くは斜陽の家業の後継者であった。自ずから彼らは将来や自分の目標や仕事に常に直面してゆくのだ。

気が付けば私の家の長女も早いもので中学三年生の1学期が終わろうとしている
日々の勉強や部活に邁進しながらも、進むべき行き先の学校を絞り込まなければならない時期になってきてしまった。
父親として自分も数多ある高校の中から彼女の人生にとってベストな選択は何処か?について色々調べることを始めた。

成績や偏差値ももちろん良いに越したことはないが、このシリーズの八軒のように良い出会い、良い学びが出来る場所を探してやりたいと思う。
できれば本人とも時間を取って、現地に行ってみて、この人生の選択について話し合ってゆきたいと思う。
学校での勉強以上に彼女にはこの選択には時間をかけ、考えを巡らす必要があると思うからだ。
内緒であるが自分としてはビブリオバトル部のモデル校になっていそうな国際色豊かな某都立高に進んでもらいたい、と思っている。
だがこればっかりは本人次第なので、これから徐々に見学なり視察を重ね彼女のモチベーションを高めてゆきたい。

今年受験なさる皆さんのご家庭はいかがだろうか?
一緒にあと半年、頑張りましょう。


読書レビュー  米澤穂信  満願

2022-06-29 15:55:54 | 書評 読書忘備録


満願  米澤 穂信著   読みましたよ★★★★ 
2022年の6月の終わりにこの本のレビューをいたします。
ハイ。遅まきながらです、いまさらです。でも面白かったです。

なんの予備知識もなくて、本屋大賞候補作に入ってた、賞もずいぶん貰っていて大層評判がいい、という噂と、
なんとなくですが、美しい表紙の灯篭の写真から、これは昭和初期の情緒豊かに紡いだ中年男女の愛情物語とか、
小津監督の撮る映画みたいに日常生活の機微を丁寧に描いた渋い佳品、みたいなイメージで読み始めてしまいましたが、全然外してしまって良い意味で裏をかかれました。
実体は既読の皆さん御存知の通りの奇妙なミステリ、またはプチホラーなのでした。

「夜警」から始まり「柘榴」「万灯」を経て「満願」で締めるいずれも暗示的な短い漢字のタイトルで表される物語。
それぞれが微妙にシチュエーションも事件も、人物像さえも
様々で、読み手はいつの間にか日常から登場人物の視点に同化して奇妙な事件に巻き込まれ、そしてそれぞれの章でその奇妙な事件の真相が判明します。
(解決ではありません。あくまでも真相がわかるだけで、
或る物語については、まだまだ悲劇が続いたりもします)

作者の文章力、描写力、心象の説得力は実に大したもので、実際だったらまず遭遇もしないし、動機づきもしないこれらの物語の設定に読み手はいつの間にか取り込まれてしまうのでした。ブラックで悲劇的なオチにも思わず、これしかないだろうな、と納得してしまうのです。

ですが、読み終えてしばらくすると、なんとも居心地が悪く、暗くにがい感覚が胸を這い登ってくるのです。
「この人たちは切実だし、真摯に切羽詰っている。
だけど何処かがいびつだ。歪んでいる。。。」と
事件モノやミステリとはそういうものなのかもしれません。
しかし書きこみがリアルで上手であればあるほど、読み手は登場人物たちが自分とは違うことに違和感と安心感という異なった感想を重ねるものなのでしょう。
そして良くできた作品ほど、その振り幅というか色相の違いが際立つのだと思うのです。

この作品のスピンオフを考えてみました。
映像化は。。ダメですね。世にも奇妙な物語、みたいになってしまいそうです。

朗読は。。結構イケるでしょう。「関守」なんか白石佳代子さんの百物語にぴったりです

そしておススメは漫画化!! あの萩尾望都先生に「柘榴」を描いていただきましょう。
トーマの心臓、残酷な神が支配する、のようなあの筆致、あの雰囲気。そしてこの物語。
どこかのマンガ雑誌編集者の方。無料でいいからこの企画、立ち上げちゃってくださいな。




読書レビュー おちび エドワードケアリー

2022-06-29 15:45:41 | 書評 読書忘備録
おちび Little 
作:文エドワード・ケアリー 
挿画エドワード・ケアリー
邦訳:古屋美登里 東京創元社 
2019年11月刊行 598頁 4400円


この本をお勧めするにはあまり紹介者はアツくならない方がよかろう、と思った。
なにせ分厚い・600頁近くある・だから重い・そして高い・他の本2冊分だ・・!
これだけの本を読もうと手に取ってもらうには、自分の勝手な思い入れや価値観を押し付けてはならぬ、
この本に何が書かれていて、どう評価(面白いと思ったか?)を補足するにつとめようと思う。

主人公は冴えない容姿と貧弱な体躯と背丈の少女、アンネ・マリー・グロショルツ。
後にロンドンに伝説的な興業館マダム・タッソーの館を創設した実在の女性である。

1761年フランスストラスブールで産まれ1850年90歳でロンドンで没する。
作者エドワード・ケアリーは「望楼館追想」で作家デビューする前に、マダム・タッソー蠟人形館の人形監視人をしていた経歴を持っている。
その縁から彼女の数奇な生涯を、他の小説を創作するかたわら、実に15年の歳月をかけて書き上げた。

マダムタッソーは彼の元の職場の創業者であるから資料も伝聞もそれなりにあっただろう、だが200年前、
日本なら江戸時代、かの国ではフランス革命の時代である。
筆者は残っている書簡や印刷物を原資料としながら、足りない部分(彼女自身の情動や人間同士のドラマ性など結構多いはずだ)を見事に補填し一つの大河物語に組み上げた。

文章は終始、おちび、マリーの視点で語られ、要所要所にエドワード・ケリーによる雰囲気のあるペン画が挿入されている。
小説家でありながらこのペン画も結構達者で超絶に上手い、というわけではないが不気味で実に味がある。
この本の見どころだ。








本は随時彼女の居場所が変わる5~10年毎に各章に分けられ記述される。
幼女時代の両親と死別し天涯孤独となり、人嫌いの蝋型医療技師の義父と出会う章から幕開けする。
やがて彼女はパリに義父と移住し、蝋人形作成を生業とする。
二人の住居の家主の業腹な未亡人に迫害されながらも自分も蝋人形の手業を身に付け、奇妙なめぐりあわせから自分の容姿とよく似たフランス国王ルイ16世の妹エリザベートに出逢う。

そして彼女の美術教師兼女中として召し出されベルサイユ宮殿で暮らすことになる。
さらに時代は激動し、パリは王制打倒フランス革命の嵐に雪崩れ込み、おちび、マリーもその家族、周辺の者たちも血と銃煙の濁流に巻き込んでゆく・・・

自分が読む時に脳内スクリーンに映る映像はベルばらの舞台で、おしん・かちびまる子が必死に前向きに生き抜いてゆく、といった(ミもフタもない)ものだった・・?他の読者のご意見を拝聴したいものです。

終始 ゴシックでともすれば暗く、血生臭い時代であり、不幸で不運な少女の物語なのだが、それでいて奇妙なユーモアとバイタリティーに自分も彼女の時代にトリップ(旅行 & 酩酊)させられる気がした。
読み終えたときは、結構な達成感と、遠い放浪の旅からようやく自分の居所に帰ってきて、畳の上に寝転がったような気になったものだ。

斯様にこの本は、万人に受け入れられブームとなる本ではないが、この本のどこかに引き付けられ巡り合わざる負えない運命の読書人にとっては、スタンド使い同士のように、濃密で忘れられない読書の数日間を与えてくれる本だと思う。
わかる人にだけオススメする、
いわくつきの本、である。