幻想小説周辺の 覚書

写真付きで日記や趣味を書く

読書レビュー 津軽百年食堂

2022-09-04 11:43:00 | 書評 読書忘備録
#津軽百年食堂 #森沢明夫 333頁 装画加藤美紀
この物語に出てくる大森食堂の津軽蕎麦のように実に真っ当で正直な物語。
サザエさんとか寅さんみたいな感触があって、いい本だということは先刻承知
だったのだが、逆にそれがプレッシャーとなってなかなか手を出さなかった。
この度、ようやく借り出してきて、ものの数時間で一気に読了してしまった。
森沢明夫さんの青森に対する愛情や思い入れ、かの地の昔ながらの食堂と店主への
入念な取材、ロケハン。
それらがきっちりと作品の土台となっているため、表面上ではよくある若者の
恋愛ストーリーを陳腐なテレビドラマから名監督のヨーロッパ映画みたいな風格を
醸し出している。奥行きを感じるのだ。

表紙で加藤美紀さんの桜の下で臨月の和服女性が微笑んでいる。
心が温かくほのぼのとなる表紙で内容にも実にマッチしている。
美人画家の加藤さんが見事にこの物語のために描き下ろしたベストな表紙画だ。
きっと加藤さんも流しの仕事じゃなく、きちんと森沢さんのこの物語のゲラを
最後まで読み込んで、この絵のモチーフを決めたのだろう。

物語と絵、絵と物語が相互に響き合っていい音を奏でているようだ。
文庫版でも違わずにこの絵を採用しているところをみると、出版や編集の関係者にも
この二つの創作物が大いに愛されているに違いない。

ちょっと世話がやける、出来がよくないが、妙にかわい気のある親戚の甥っ子たちを
見守るように、多くの読者から愛されている(まるで大森食堂のように)幸せな本である。
引き続き森沢さんの青森シリーズ読んでみたいと思った。