幻想小説周辺の 覚書

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読書レビュー ぜんぶ本の話

2022-09-08 03:36:00 | 書評 読書忘備録
ぜんぶ本の話 池澤夏樹 池澤春菜(語り下ろし対談)

この本の出版は某ラジオ番組でこの二人の出版記念対談(番宣)で知った。
その番組のほうが、語り下ろしのこの本書よりも二人の距離感とか興味とかのライブな呼吸がつかめて面白かったと思い返す。
なんたって 娘が「ザリガニの鳴くところ」を意気揚々とプレゼンしてると横から父親が、もっとその本とか背景について深い蘊蓄とか評価をする始末。
場をさらってしまう父親に、娘から「わたしの プレゼン本を 盗らないでよッ!!(怒)」と ブチ切れられる場面など、なかなかこの二人ならではの場面だった。

実際のこの本では、さすがに親子ゲンカは収録されず、しっとりと、親和的に対談が進められる。
最初読んだ児童書の話、からSF、翻訳もの、自分たちの書いた本、と順序たてて語り合われる。
その都度、膨大な量の本の名前や作者の情報が出てくるが、この対談はきっと彼らの本棚がいっぱいの自宅で行われたからだろう、本を採り上げてはその本と周辺の関連本を棚から一掴み手に抱えてきて、また対談に戻る・・といった光景が目に浮かぶ。

このような親子、家族の関係、実にうらやましい。
そして買わなくても勝手に本が届き、増えてゆく、そのような環境も実にうらやましい。笑
垂涎の的であります。

【もくじ】
まえがき
Ⅰ 読書のめざめ 児童文学1
Ⅱ 外国に夢中! 児童文学2
Ⅲ 大人になること 少年小説
Ⅳ すべてSFになった SF1
Ⅴ 翻訳書のたのしみ SF2
Ⅵ 謎解きはいかが? ミステリー
Ⅶ 読書家三代 父たちの本
エッセイ〈父の三冊〉
「福永武彦について」「ぜんぶ父の話」
あとがき

【登場する作家と作品(一部)】
E・ファージョン『ムギと王さま』、E・ケストナー『エーミールと探偵たち』、サンテグジュペリ『星の王子さま』、
R・アームストロング『海に育つ』、K・ヴォネガット・ジュニア『スローターハウス5』、
W・ギブスン『ニューロマンサー』、A・マキャフリー『歌う船』、松本清張『点と線』、
C・オコンネル『ゴーストライター』、J・ル・カレ『スマイリーと仲間たち』、福永武彦『死の島』、
『マチネ・ポエティク詩集』......






読書レビュー 装画 イラストレーター しらこ

2022-09-08 03:33:00 | 書評 読書忘備録



しらこ イラストレーター、画家
今一番推しの作家さんです

今読んでる本の装画がこの女性の手によるものでした
Google検索すると 鱈の白子居酒屋メニューばっかりで途方にくれるが ひらがなでしらこ あるいは しらこ 装画で探すとご本人の丁寧に作られたWEBサイトかtwitterにあたり この本以外の彼女の仕事を見ることができる

水彩画のような色合いなのに油彩?
よく近寄って観察すると荒目のタッチなのに写実的で繊細な表現
どれも物語性を持っていて 奥行きが感じられ 
画面から水音のような環境音が聴こえて来るような雰囲気
小説の装画にはピッタリの作品であり作家だ

若いのにいい作品をたくさん作っているようで 
これからギャラリーとか個展を追いかけてみたいと思っている












読書レビュー その2 ザリガニの鳴くところ

2022-09-08 03:29:00 | 書評 読書忘備録
ザリガニの鳴くところ ディーリア・オーエンス
レビューその2

前回のレビューで御歳70で初の小説家デビューのことに触れたが、読書マニア父娘で
有名な池澤夏樹春菜、父娘の対談でこれに関連することを語り合っていた。

いわく ”初めて世に出す本は傑作じゃなくてはならない病”の話題である。

読んでそのまま意を得たり、の名コピーであるが、特に親が著名な作家、とか、この業界に長いのに小説を一冊も出さないまま20代半ばを過ぎてしまった人に、この法則、病状は顕著に現れるらしい。
他にも類語として”デビュー作にはその作家の全てが詰まっている”なんてのがあり、益々重圧を感じるはずだ。

ザリガニ作家のディーリアもこのプレッシャーを感じたに違いない。それはこの本の構成や中身を読めばわかる。
誰が殺した、何故、どうやって?のミステリーがあると思えば、黒人、貧困白人差別の人種問題があり、湿地の生き物や環境を生き生きと描写する自然小説の魅力深い描写があり、育児放棄家庭暴力の悲劇と少女が自らの資質と数少ないメンターの手で一流の学者に育つ成長小説の高揚感がある。

きっと作者が70年間溜め込んだ、あれも書きたい、これも外せない、の全てが思い入れたっぷりの
宝物のような(カイアが大切に集めた鳥の羽のような)品々なのだろう。

この、全部のせラーメン、てんこ盛り感に、この作品に品がない、とか統一性に欠ける、とかいった
批判、減点要素として上げる批評がごくたまに見受けられるが、以上のディーリアの初作への思いを
考えれば的はずれなものだと知れる。

書く者の立場に立ってみたまえ、初作であるからこそ、初作を世に出すためには、全部のせ、にせざる
負えなかったのだし、世にだせなかったのだ。
むしろ、これだけ盛り込んでも、破綻の無い骨格を作り、きちんとラストには物語をまとめ上げた
作者の苦労と、編集者たち協力者の確かな仕事ぶりをほめたたえるべきだ。
おそらく、本書の修正、校正、推敲には、とんでもなく時間と労力がかかったに違いない。

読者は知らず知らずのうちに、本書に込められたエネルギー、熱、を感じてこの本に惹かれ、
のめり込み、感動するのである。
本とか、映画とか、音楽というものはきっとそういうものに違いない。






読書レビュー ザリガニの鳴くところ

2022-09-08 03:25:00 | 書評 読書忘備録
ザリガニの鳴くところ Where the crawdads sing
著:ディーリア・オーエンズ Delia Owens
訳:友廣純 装画:しらこ 早川書房 
2020年3月 511頁 1881円

この本に語るにはそれなりの準備が必要だ。
なぜなら、すでに多くの先輩本読みや、批評家、各界の名うての読書レビュアーたちが激賞賛しているからだ。 
本書のネタバレこそ注意深く言及されずいるが
(それもこの本の読者のマナーの良さ、この本に寄せる愛情の表れだ)おおよそのストーリーやこの本は何について書かれた本かがわかる。
だから自分の場合はこの部分は割愛して別の視点からレビューさせていただくことにする。

主人公が棲む湿地が昼と夜で、また天候や季節によって様々な貌を見せて魅惑するように、本書でもまた別の視点で愛でることが出来る。
準備とはその、他の視点で本書を語るための準備ということだ。

そんなわけで、また僕の語りたい病が発動してしまうのだが、膨大なボリュームになりそうなので、小出しに、今回は一つだけにする。

作者ディーリア・オーエンスについての視点がその一つだ。
彼女は70歳のアメリカ人女性、生態科学者で、科学雑誌や自然雑誌に多くの発表を寄稿しており、ノンフィクションの著作もあるが、小説の出版は作者の今までの強い継続的な情熱にも関わらず世に出ていない。

本作が言うならば御年70歳の処女作・デビュー作である。
(日本ではおらおらでひとりいぐもの若竹千佐子が63歳デビューだが7歳も若い)
彼女の年齢にも、そして文藝とも異なる生業にも驚くが、その彼女が書いたデビュー作がデビュー作らしからぬ小説としても面白さと、格調高さを有していることに読者は更に驚くに違いない。

きっと、本書の面白さと同レベルの、この本のメイキングにはドラマがあったに違いない。
作者が70年間持ち続けた書くことへの情熱、家族の励まし、編集者の協力、
最初のプロットを編集者に語るときの作者の目の光、
編集者が喰いつく鼻息、

モデルとなった登場人物(とりわけジャンピン)におずおずと文章を手渡し、じっと反応を待つ作者のたたずまい、
或いは、表紙を選んで見本の初摺りを手にした感動に流す彼女の涙、

それらが実にありありと僕の脳裏に浮かぶ。
是非既読の皆さんもそんな空想を楽しんでほしい。

そう、優れた本には、その内容だけではなく、存在そのもの、意義、それが生まれた経緯さえも読者の感動の源泉となる。

そんなことを思った。