幻想小説周辺の 覚書

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読書レビュー おちび エドワードケアリー

2022-06-29 15:45:41 | 書評 読書忘備録
おちび Little 
作:文エドワード・ケアリー 
挿画エドワード・ケアリー
邦訳:古屋美登里 東京創元社 
2019年11月刊行 598頁 4400円


この本をお勧めするにはあまり紹介者はアツくならない方がよかろう、と思った。
なにせ分厚い・600頁近くある・だから重い・そして高い・他の本2冊分だ・・!
これだけの本を読もうと手に取ってもらうには、自分の勝手な思い入れや価値観を押し付けてはならぬ、
この本に何が書かれていて、どう評価(面白いと思ったか?)を補足するにつとめようと思う。

主人公は冴えない容姿と貧弱な体躯と背丈の少女、アンネ・マリー・グロショルツ。
後にロンドンに伝説的な興業館マダム・タッソーの館を創設した実在の女性である。

1761年フランスストラスブールで産まれ1850年90歳でロンドンで没する。
作者エドワード・ケアリーは「望楼館追想」で作家デビューする前に、マダム・タッソー蠟人形館の人形監視人をしていた経歴を持っている。
その縁から彼女の数奇な生涯を、他の小説を創作するかたわら、実に15年の歳月をかけて書き上げた。

マダムタッソーは彼の元の職場の創業者であるから資料も伝聞もそれなりにあっただろう、だが200年前、
日本なら江戸時代、かの国ではフランス革命の時代である。
筆者は残っている書簡や印刷物を原資料としながら、足りない部分(彼女自身の情動や人間同士のドラマ性など結構多いはずだ)を見事に補填し一つの大河物語に組み上げた。

文章は終始、おちび、マリーの視点で語られ、要所要所にエドワード・ケリーによる雰囲気のあるペン画が挿入されている。
小説家でありながらこのペン画も結構達者で超絶に上手い、というわけではないが不気味で実に味がある。
この本の見どころだ。








本は随時彼女の居場所が変わる5~10年毎に各章に分けられ記述される。
幼女時代の両親と死別し天涯孤独となり、人嫌いの蝋型医療技師の義父と出会う章から幕開けする。
やがて彼女はパリに義父と移住し、蝋人形作成を生業とする。
二人の住居の家主の業腹な未亡人に迫害されながらも自分も蝋人形の手業を身に付け、奇妙なめぐりあわせから自分の容姿とよく似たフランス国王ルイ16世の妹エリザベートに出逢う。

そして彼女の美術教師兼女中として召し出されベルサイユ宮殿で暮らすことになる。
さらに時代は激動し、パリは王制打倒フランス革命の嵐に雪崩れ込み、おちび、マリーもその家族、周辺の者たちも血と銃煙の濁流に巻き込んでゆく・・・

自分が読む時に脳内スクリーンに映る映像はベルばらの舞台で、おしん・かちびまる子が必死に前向きに生き抜いてゆく、といった(ミもフタもない)ものだった・・?他の読者のご意見を拝聴したいものです。

終始 ゴシックでともすれば暗く、血生臭い時代であり、不幸で不運な少女の物語なのだが、それでいて奇妙なユーモアとバイタリティーに自分も彼女の時代にトリップ(旅行 & 酩酊)させられる気がした。
読み終えたときは、結構な達成感と、遠い放浪の旅からようやく自分の居所に帰ってきて、畳の上に寝転がったような気になったものだ。

斯様にこの本は、万人に受け入れられブームとなる本ではないが、この本のどこかに引き付けられ巡り合わざる負えない運命の読書人にとっては、スタンド使い同士のように、濃密で忘れられない読書の数日間を与えてくれる本だと思う。
わかる人にだけオススメする、
いわくつきの本、である。

読書レビュー 上田早夕里 夢みる葦笛

2022-06-29 06:53:00 | 書評 読書忘備録

「夢みる葦笛」 上田早夕里 325頁

「夢みる葦笛」/「眼神」/「完全なる脳髄」/「石繭」/「氷波」/「滑車の地」/「プテロス」(*未発表作品)/「楽園(パラディスス)」/「上海フランス租界祁斉路三二〇号」/「アステロイド・ツリーの彼方へ」
2009年から6年をかけてSFやホラーのアンソロジーに掲載した9本に未発表の1本を加えた短編集

表題作が一番古く書いた作品、
いきなり読者の脳髄を鷲掴みます
ある日突然町中に現れたら真っ白なヒト型の生き物
目鼻口が無く頭にイソギンチャクのような触手を揺らめかせています
遠巻きに好奇の目で見つめる人々の前でその生き物は触手の口から奇態な見た目には全くそぐわない美しい歌声と旋律で群集を魅了します
イソアと呼ばれるようになったその生き物は目的も出所も不明のまま増殖し、人々は無気力と多幸感に満ちて世界は静かに壊れてゆきます





そんな世界のなかでマイノリテイとなっってしまった女性ミュージシャン、
「イソアの歌声も、存在も、それに取り込まれた世界も
私は認めない‼ 」 
短編なのに濃密、イソアの歌声を直接脳内に注ぎ込まれたようなプレッシャーに浸れる作品です

彼女の描き出す世界はこの作品のように激しいシーンが盛られていてもどれも奇妙な静けさを孕んでいます。JGバラードかタルコフスキーの空気感に通じるものがあります
あくまでも主人公たちは、やや異能でありながらも人間でありそこには魔法も神々も存在しません

従って世界は我等のものと違っていながら別世界ではなくファンタジイでもないのです
アプローチは各作品で異なっていますが共通して感じられるのは人類の進化、世界の変様への視点です
ストーリーよりも世界観とかスタンス、視点の転換の呈示といったものに作者は重きを置いているようでした




閉塞感を味わったりこの先の展望に不安をいだいたりしている我等の現実に、
このような転換期はどうでしょうか? とか
こんなパラダイムシフトはどうでしょうか?
と次々に魅力的なウインドウを開けてくれるのです

テクノロジーによる新たな知性の創生やヴァーチャル現実に代表される知覚が進みそれをヒトの感覚器に取り込むことによって産まれる新しい世界の見え方といったもの
自分達が展望台を登ってきた階段がある地点で踊り場でくるりと向きを変えて違った視界が開けてる地点に立ったときのように、現実と繋がっていながらも一段ステージが上がったような精神的高揚感に巻かれた感覚

世界って変わるんだ、変わる可能性を持ってるんだ 
そんな明るい目線が一読静かでおとなしい彼女の短編の様々な世界の中に共通して存在しているような気になりました

思わず考えちゃう 読書レビュー

2022-06-27 23:29:00 | 書評 読書忘備録
#ヨシタケシンスケ  #思わず考えちゃう   143頁
いろいろとどうでもいいこと、とヨシタケさんは思いながらこれらのネタを書いている。
確かに、中には、いや大半はどうでも良さげなことが書かれている。
だが、ほんとうにどうでもいいか?というと、ちょっと待てよ?意外に良いことが書いて
あるじゃあないか! と思うようになり、すると気になってしまいまた最初から読み返す
羽目になってしまいます。  まあためしに、ちょいと味見してみてください






息子の髪を洗うと 必ず途中でアクビする

お熱はかり中  シャツが体温計でぴょこん

あったらいいな 謙虚さを保つクリーム
あったらいいな 心配事を吸わせるあぶらとり紙

ラーメン屋さんでアメをもらった子のうれしそうな顔
 信じられるものがあるとしたらきっとこういうことなのだろう

若い頃、別にムチャはしなかった。今も特にムチャはしないし
 この先もきっとムチャをしない

この世はすべてねむくなるまで

自分を甘やかして今日はもう寝ちゃう、ってときに便利な魔法の言葉
  明日やるよ もう すごくやるよ  と三回となえる
    さあやってみよう   ZZZ  zzzZzzzzz   ぐうぐう