幻想小説周辺の 覚書

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読書レビュー ザリガニの鳴くところ

2022-09-08 03:25:00 | 書評 読書忘備録
ザリガニの鳴くところ Where the crawdads sing
著:ディーリア・オーエンズ Delia Owens
訳:友廣純 装画:しらこ 早川書房 
2020年3月 511頁 1881円

この本に語るにはそれなりの準備が必要だ。
なぜなら、すでに多くの先輩本読みや、批評家、各界の名うての読書レビュアーたちが激賞賛しているからだ。 
本書のネタバレこそ注意深く言及されずいるが
(それもこの本の読者のマナーの良さ、この本に寄せる愛情の表れだ)おおよそのストーリーやこの本は何について書かれた本かがわかる。
だから自分の場合はこの部分は割愛して別の視点からレビューさせていただくことにする。

主人公が棲む湿地が昼と夜で、また天候や季節によって様々な貌を見せて魅惑するように、本書でもまた別の視点で愛でることが出来る。
準備とはその、他の視点で本書を語るための準備ということだ。

そんなわけで、また僕の語りたい病が発動してしまうのだが、膨大なボリュームになりそうなので、小出しに、今回は一つだけにする。

作者ディーリア・オーエンスについての視点がその一つだ。
彼女は70歳のアメリカ人女性、生態科学者で、科学雑誌や自然雑誌に多くの発表を寄稿しており、ノンフィクションの著作もあるが、小説の出版は作者の今までの強い継続的な情熱にも関わらず世に出ていない。

本作が言うならば御年70歳の処女作・デビュー作である。
(日本ではおらおらでひとりいぐもの若竹千佐子が63歳デビューだが7歳も若い)
彼女の年齢にも、そして文藝とも異なる生業にも驚くが、その彼女が書いたデビュー作がデビュー作らしからぬ小説としても面白さと、格調高さを有していることに読者は更に驚くに違いない。

きっと、本書の面白さと同レベルの、この本のメイキングにはドラマがあったに違いない。
作者が70年間持ち続けた書くことへの情熱、家族の励まし、編集者の協力、
最初のプロットを編集者に語るときの作者の目の光、
編集者が喰いつく鼻息、

モデルとなった登場人物(とりわけジャンピン)におずおずと文章を手渡し、じっと反応を待つ作者のたたずまい、
或いは、表紙を選んで見本の初摺りを手にした感動に流す彼女の涙、

それらが実にありありと僕の脳裏に浮かぶ。
是非既読の皆さんもそんな空想を楽しんでほしい。

そう、優れた本には、その内容だけではなく、存在そのもの、意義、それが生まれた経緯さえも読者の感動の源泉となる。

そんなことを思った。








藝祭  過去の記事

2022-09-06 20:43:00 | アートコラム
東京藝術大学の藝祭に行ってきた。本当は幽霊画展うらめしや~、が目的なんだけど、丁度、藝祭の時期だったので混雑を覚悟してアサイチで出かけて見た。
さて、ここの学祭の最大の見トコロは御覧いただいている創作神輿です。
毎年、専攻学部に分かれて各1体の御神輿を作成します。今年で20年になるとかで、小さいミニュチアをまず作成し、それを基にこのような巨大オブジェにするというもの。専攻学科は芸大なので美術だけでなく、音楽や建築などの学科もあるのですが各々すごい構成力で畑違いを感じさせません。
毎年関心するのですが、この異形っぷりといい、デイテールの確かさといい、(最近問題の)オリジナリテイーといい、どれもこれも一級のアート作品となっています。
これらはオープニングの際にはチーム揃いの法被を着て学内と上野の町を練り歩くらしいです。パレードも見たいですが大変な人出なので、近づいて一品一品じっくり見るには展示のときのほうが良いですね。
あまり取り上げられてませんが、知ってると来年も楽しみになってしまう、この時期しか見れない、しかも毎回一回限りのお楽しみです。












新さんまの炊き込みご飯

2022-09-06 05:13:03 | グルメ
今朝の はた迷惑な朝御飯自慢
新さんまと 新米の炊き込みご飯
しっかり焼いた秋刀魚をごぼう、おあげ、えのきの具をいれた
ご飯の上に載せて土鍋で25分
銀杏と山椒の実があればなおよろしい
あと ゆかりをふりかけるといいアクセントになります
おこげは作者の特権ですね ちょっとしょっぱくてパリパリで
おいしい


読書レビュー 津軽百年食堂

2022-09-04 11:43:00 | 書評 読書忘備録
#津軽百年食堂 #森沢明夫 333頁 装画加藤美紀
この物語に出てくる大森食堂の津軽蕎麦のように実に真っ当で正直な物語。
サザエさんとか寅さんみたいな感触があって、いい本だということは先刻承知
だったのだが、逆にそれがプレッシャーとなってなかなか手を出さなかった。
この度、ようやく借り出してきて、ものの数時間で一気に読了してしまった。
森沢明夫さんの青森に対する愛情や思い入れ、かの地の昔ながらの食堂と店主への
入念な取材、ロケハン。
それらがきっちりと作品の土台となっているため、表面上ではよくある若者の
恋愛ストーリーを陳腐なテレビドラマから名監督のヨーロッパ映画みたいな風格を
醸し出している。奥行きを感じるのだ。

表紙で加藤美紀さんの桜の下で臨月の和服女性が微笑んでいる。
心が温かくほのぼのとなる表紙で内容にも実にマッチしている。
美人画家の加藤さんが見事にこの物語のために描き下ろしたベストな表紙画だ。
きっと加藤さんも流しの仕事じゃなく、きちんと森沢さんのこの物語のゲラを
最後まで読み込んで、この絵のモチーフを決めたのだろう。

物語と絵、絵と物語が相互に響き合っていい音を奏でているようだ。
文庫版でも違わずにこの絵を採用しているところをみると、出版や編集の関係者にも
この二つの創作物が大いに愛されているに違いない。

ちょっと世話がやける、出来がよくないが、妙にかわい気のある親戚の甥っ子たちを
見守るように、多くの読者から愛されている(まるで大森食堂のように)幸せな本である。
引き続き森沢さんの青森シリーズ読んでみたいと思った。




騎士団長殺し 読書レビュー

2022-09-03 12:00:00 | 書評 読書忘備録
騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編512p
       :第2部 遷ろうメタファー編544p
村上 春樹
柄にもなく途中経過実況などもしてしまいましたが、
ようやく読了。所用期間1部2部で6日間。
感想はと言えば夏休みの宿題を無事終えた、とか
読書感想文の課題図書をなんとか読み終えた、という
感じでしょうか?

泪と感動にうち震えることはありませんでしたが
付箋は何十枚と貼り感心したフレーズはその都度
読書ノートに書き写しました。
長い順番待ちで手元に巡って来た本でしたが
購入して本棚に加えたいと強く希求する気持ちは
起きませんでした。
ですが、これらのレビューのメモや書き写した断章の
数々は機会を得る度に読み返されて後々の自分の人生観に
影響を与えてくれる予感がします、
そんな距離感と温度は如何にもこの方の作品らしくもあり
またノーベル賞候補らしくもあると言えるでしょうか。

気になる伏線も回収されて拡げられた風呂敷も畳まれます。
その点に不満はありませんが、
ある作家は次々と絢爛な風呂敷を拡げ続け
部屋が一杯になると別の広い部屋に行って、
また新たな模様で風呂敷を拡げ続けるという暴挙を
何十年も続けて読者もすっかりそれに馴れてしまった為に
逆に村上さんの礼儀正しさ、とか優等生らしさに
若干物足りなさを感じたのも事実でした。

イデアに始まりメタファーにて終わる
ドンジョバンニよりは
イザナギの黄泉坂遍路的な物語。
絵画、音楽、車、食べ物、哲学、(そしてセックス)
村上的視点から村上的修辞にて語られるこれらのものは
同じものを扱っていても猥雑で三流的な自分の持ち物に
比べ随分となんというか高級で上級なものに聞こえてきて
彼の言葉を咀嚼して自分の廻りに纏えば自分が一段階
上のステージに上がったような気持ちよさが味わえます。
実はこの辺の感覚がノーベル賞のポイントメイクの
優秀なアイテムになっているのかもしれないです。

さて次のノーベル賞は果たして授賞できるんでしょうか?
実はその鍵は「あらない」の英語訳の出来不出来に
かかっている、そんな気がします。
あと、四十万人(35億じゃないですよ(笑)
もやっぱり重要かな?