この秋、よく行く園芸店にウメバチソウとホトトギスが売られていたので思わず買ってしまいました。育ててみて分かったこと、それはウメバチソウは育てるのが難しい山野草ということ。9月14日に つぼみが多い株を購入して様子を見ていたのですが、花弁や萼片、葉までもが褐色がかってきてしまいました。そして咲かずに萎れたつぼみも多数出てしまいました。後日、買った園芸店を訪れて売れ残りのウメバチソウを見てみたら同じような症状に・・・。プロが管理してもうまくいかない植物のようです。10月22日現在でも生きてはいるのですがね。別冊趣味の山野草「一から育てる山野草」という本では、「低地から高山まで生育し、湿地にも適湿草原にも育つ適応範囲の広い植物ですが、作ってみると意外に気難しい貴公子で・・」だそうです。夏ごしが難しいんですね。今年の9月はいつまでも暑かったですから。800円台後半もして高かったのは育てるのが難しいからなんでしょうね。一方ホトトギスは200円弱でした。
山歩きを趣味にしていたときは野生のウメバチソウに何回か出会ったことがあり、その時はたくさんの株が群落を作って元気に咲いていました。やはり山野草は育てるより野生で見たほうがイキイキしていいようです。
- ウメバチソウ(ユキノシタ科ウメバチソウ属)
花の構造と咲き方がとても興味深いのですよ。花弁は5枚で梅の花のよう。萼片も5枚で花弁と同じくらいの大きさです。雄しべと花粉を出さない仮雄しべも同じく5本ずつあります。仮雄しべは薄緑色をしていて先は12-22本の糸状に分裂し、先端に小さい球状の腺体が付いています。仮雄しべは独特で面白い構造ですよね。これは何のためにあるの?ポリネーターにアピールするために花を飾っているという意味でしょうか。
5本の雄しべは開花当初は雌しべに張り付いていて未成熟な状態です。その後1本ずつ順番に花糸が伸びて雌しべから離れ葯から花粉を出すようになる・・・はずなのですが、購入株では花粉が見つけられませんでした。理由はよく分かりません。元気がないからか?観察した時期が悪かったのか?
以下は野生のウメバチソウを観察した時に記録したメモです。
日当たりの良い湿地に生える多年草です。先に成熟した葯は最後の一本が成熟する前に花糸から落ちてしまいます。雄しべを一本一本順番に成熟させることにより花粉の出している期間を長くして受粉のチャンスを高めていると考えられます。最後の雄しべが雌しべから離れてしばらくすると柱頭が4裂して開き始めます。柱頭が開く頃には雄しべは花粉を出し終えていてほとんどの葯は落ちているので雄性先熟の植物と言えます。やがて花弁も落ちて種子成熟に向けて子房が大きくなっていきます。その時でも仮雄しべとがく片は落ちずに子房と一緒です。
- ホトトギス(ユリ科ホトトギス属)
以前の山歩きでホトトギスの仲間であるヤマジノホトトギスとタマガワホトトギスに出会ったことがあります。これらの花の構造も興味深いものです。
以下は野生のホトトギスを見た時のメモ。
6本の花糸は花の中心で花柱と密着し上方に伸びたあと噴水のように中心から放射状に垂れ下がっています。花柱は3裂した後、それぞれがさらに2裂し、同様に放射状に外を向いています。単独で見ると奇妙な形でも、送粉者であるマルハナバチが訪花した時を観察するとその理由に納得できます(下の写真・ヤマジノホトトギス)。蜜腺は基部の膨らみの中にあります。蜜を求めてやって来たハチが花被片の上を歩き回ると、葯がハチの背に触れて花粉が付きます。写真のように雄性期では柱頭が下に下がり切っていないのでハチには触れません。この数日後に雌性期になると花柱が下に曲がり、柱頭が葯よりも下の位置となるので花粉を背に付けたハチが訪花すると受粉できるようになるのです。
・・というようにこの植物も雄性先熟で自家受粉を避けています。
この花の構造に似た園芸植物があるのでそれを紹介しておきますね。
- トケイソウ(トケイソウ科トケイソウ属)
トケイソウは中南米原産のつる植物です。この花の構造は外側から3枚の包葉、10枚の花被、色鮮やかな糸状の副花冠、5本の雄しべ、濃紫色の3裂した花柱からなっています。子房は花被より上位にあり、雄しべより上に付いているという独特で複雑な構造をしています。そしてほぼ一日で花を閉じてしまいます。これらの特徴を見ても、ユリ科ホトトギス属とは近縁ではありません。しかし、花被、雄しべ、雌しべの位置関係がホトトギス属の花と類似していることに驚かされます。遺伝的に遠い種でも形態的に類似する事を収斂(しゅうれん)といいます。花の大きさはヤマジノホトトギスが2cm前後なのに対してトケイソウは10cm近くにもなるので当然送粉者は異なります。しかし、日本にはトケイソウに適したポリネーターがいないようで、効率よく結実させるためには人工授粉をしなければなりません。原産国ではどんなポリネーターが関係しているのかは知りませんが、ホトトギス属と同様に、訪花した虫(または鳥?)が副花冠上を動き回ることで受粉をすることは想像できます。ポリネーターの行動が似ていると、全く別の科でも類似の花の形に進化する収斂の見本と言えると思います。
最後に、これから花被片が開き始めようとしている花の写真を載せておきますね。
ユリ科なので、萼片にあたるものは花弁と同じ色形をしており、まとめて花被片といいます。細かな毛も美しい!花の一番下にある花被片の膨らみの中に蜜が溜まっています。どれくらい溜まっているか確かめたいのはやまやまなのですが、こんなに美しく咲いている花を壊して調べてみるのは気が引けてできませんです。