5月21日(月)時々 日本の何千万もの人々みんなが、暦のなかの同じ日の同じ時間帯に「晴れ」を願うことなんて、日食のときをおいて他にはないだろう。大勢の人々の熱い「気」が集中すれば、超自然現象を引き起こすことも可能というなら、天気を変えることもできるはず。そんな何千万人もの「気」のおかげか、直前までさえない天気予報だったにもかかわらず、金環日食が観測できる地域の多くで本当は太陽を覆い隠すはずだった雲がどいて、素晴らしい天体ショーを見ることができた。 「晴れ」を願った多くの人たちのなかでも、僕の思いはかなり強い方だったと思う。日食の日の天気予報次第では天気が良さそうな場所まで遠征しようと、この日は早々に休みを取っておいた。その直前の土日は伊豆へ家族旅行に行くことにしていたので、天気予報によっては翌月曜日、子供の学校があることも顧みず、伊豆とかその近辺に延泊するつもりでいた。 日食が見れるか見れないかは、僕にとって単なる運の良し悪しというより、運命にかかわるほどの重大事だった。そして、さえない予報を聞く度に、自分はもう日食は見れない「運命」に振り分けられているのかも、と落ち込んだ。見れないなら、日食なんて最初からない方がマシだ。 前日の予報は東京も静岡も曇り。伊豆に留まる理由もなくなり旅行からは帰った。当日早朝の天気予報を聞いた後でもせめて東京近郊ぐらいには移動できるように、旅行から帰った翌日で辛かったが5時半に目覚ましをセットして寝た。けれど、なんべんも夢を見て目が覚めた。どれも日食当日の天気の夢。夢では天気は良かったが、夢だとわかる度にがっかりした。 目覚ましが鳴った。天気はどうだろう… カーテンを開けたら、雲は多いながらも太陽が出ていた。でもペシミスティックなおれは、「金環日食までまだ2時間もある。太陽が雲隠れするのも時間の問題かも…」なんて考えてしまう。山に登って山頂で日の出や夕暮れを迎えても、肝心なところで雲がかかってしまうという苦い経験を何度もしたことがあるし。 テレビの天気予報やインターネットの「みんなで投票 今の天気」を見て、ここよりもっと天気が良さそうな所沢あたりまで行っとこうか… なんて思い悩んでいるうちに太陽の右上部分が欠け始めた。青空も拡がってきたし、天気は大丈夫そうだ… と思い、地元で金環日食を見ることに決めた。そりゃあせっかくなら家族みんなで地元でこの世紀の天体ショーを観たい。太陽は刻々と食の部分が増えてくる。日食グラスは手放せない。 息子が通う近所の小学校が、日食観察のため7時15分に校庭を開放するというので出かけた。家からも太陽は見えるが、広い場所でこの自然現象を体感したい。それに大勢で盛り上がる雰囲気も楽しそう。校庭には子供たちと親がたくさん来ていた。先生が手作りのピンホール観察器具を用意していて見せてくれた。 太陽は三日月状に細くなってきたが、直接には眩しくて見れない。あたりの明るさも特に変化はない。太陽の光って強いんだなと実感する。 日食グラス越しにコンパクトデジカメで撮影したが、輪郭がにじんでしまった。 実際の太陽はもっとずっと細くなっていた。 その三日月状の太陽が更に細くなっていよいよ金環食が近づいた頃、空全体がほの暗くなってきた。光のエネルギーが明らかに弱まっている。夕方の暗さとも、分厚い黒雲が空を覆うときとも違う不思議な暗さだ。そんなクライマックス間際、黒雲ではないが、気になっていた近くの雲が太陽にかかってしまった… それでも細いリング状になりかけた太陽は頑張って光を地上に届けている。そして待望の金環食!まだら状の雲が次々と太陽を覆うが、それを透かしてくっきりとリングが空に浮かんだ! リングがつながったのは、東京で予告された7時32分より数分早かった。日食グラスでみると、リングの色がユラユラと変化しているように見えた。とうとう見たぞ!校庭では歓声が上がる。そのとき、日食グラスを通して見えていたリングの像がスウッと消えてしまった。雲のせいだ。あわてて裸眼で見ると、雲の奥からくっきりとリングが輝いていた。裸眼では絶対見るなと言われていたが、日食グラスでは見えないのだから仕方ない。反って裸眼で自然の色と光を感知できたのは雲のおかげ。 日食グラス越しに撮ろうとしても、コンパクトデジカメではまだ明るすぎてうまく撮れなったリングを、フィルターなしで撮影することができた。 露出補正は一番マイナス側にして撮影 金環食の5分の間は、雲の層の変化で眩しくなったり肉眼で見えたりの繰り返し。すっきりと雲がどいてくれなかったのは悔しい!人間は欲深い動物だ。全然見れなければ「ほんの一瞬でも見れればよかったのに」と思うのだろうが、日食の一部始終を見れたのに「雲がなければ…」と憎々しげに文句を言う。この欲が、世界に戦争の惨禍をもたらした一方で、人間が欲深い生き物であるがゆえに、人類は発展するのだろう。 7時36分~37分にかけて撮影した4ショット そんな夢想はさておいて、太陽のリングは間もなく左下が欠け、金環日食は終了した。クライマックスが過ぎてしまうと、もうさっきまでのワクワク感は消えてしまうが、まだ1時間以上続く日食は見届けたい。家に帰ってからも、太陽が元の形に戻るまで度々観察を続けた。9時2分に食は終了のはずだったが、9時には完全に元に戻っていた。狭い東京でこの時間差はなんだろうか。 夜もろくに眠れないほど興奮して天気を心配したイベントは終わった。満足度を点数化すれば、雲がかかった分をマイナスしたうえで、雲があったがゆえの効果を加えると75点というところかな… 今でも目を閉じると、瞼にはあの輝くリングが鮮明に浮かんでくる。それは日食グラスを通して見たリングではなく、雲を通して肉眼で見た金色の環の姿だ。満足度はもっと高い点をあげてもいいかな。 今日は一日休みを取っていたので、日食のあとは台北駐日経済文化代表処で開催されていた八田與一展を見て、午後は六本木の国立新美術館でやっているセザンヌ展をたっぷり2時間半かけて鑑賞した。もし日食が見れなかったら、一日フテ寝していたかも知れない。 18年後には北海道で金環日食がまた見れるという。行こう!そして23年後の2035年には、なんと東京で皆既日食が見れるそうだ!何としても生きてなきゃ!あー、でも今から天気が心配だ。。それよりはるかに差し迫っている次なる天体イベントは、来月6日の金星太陽横断だ。これも見逃せない! |
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