11月27日(金)小菅 優(Pf)
~Four Elements Vol.4 Earth~
東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル
【曲目】
1.ベートーヴェン/バレエ「森の乙女」のロシア舞曲の主題による変奏曲 WoO71
2.シューベルト/幻想曲 ハ長調 D760 「さすらい人」
3.ヤナーチェク/ピアノ・ソナタ「1905年10月1日」
4.藤倉 大/Akiko‘s Diary
5.ショパン/ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 op.58
【アンコール】
♪ ショパン/ノクターン ロ長調 op.62-1
古代より世界の構成要素とされていた「四元素」を、毎年一つずつテーマとして取り上げてきた小菅優の壮大なリサイタルシリーズの最終回。水、火、風を経て、今回のテーマは「大地」。小菅は、これまでのテーマを全て結び付けて「人間の世界すべてに焦点をあてたい」とプログラムノートに綴った。
前半は、小菅のプログラムノートによれば「既に早熟さを発揮した若きベートーヴェン」のヴァリエーションと、言わずもがなの名曲、シューベルトの「さすらい人幻想曲」。2人の巨匠の作品から小菅はどんな世界を見せてくれるだろうと期待したが、正直よくわからなかった。小菅のピアノが、いつものように心の琴線に触れてこない。どこかに迷いがある?そんなわけないとすると、これは僕の心のコンディションの問題かも知れない。いずれにしても前半についてはこれ以上の感想は控えたい。
これに対して後半のプログラムからは強いメッセージが伝わった。チェコ人に深い悲しみをもたらした事件に由来するヤナーチェクのソナタの最初の和音が鳴った瞬間から、鈍い痛みが伝わってきた。その痛みは脈拍に合わせるようにズキンズキンと繰り返し襲ってきた。もがき苦しんでいる姿、不安を訴える目を感じつつ、今度はどんな痛みが襲ってくるかという恐怖と共に音楽は進み、最後には安息にたどり着いた。でもこの安息は死だろうか。小菅がピアノから生み出す音はそれほどまでに深刻で、痛みに対する鋭い感覚を有していた。
続く藤倉大の作品も、広島の原爆犠牲者への追悼の音楽だが、こちらからは慰めや光が伝わって来た。純粋で永遠に続くような安らぎは、犠牲者への鎮魂が込められているのを感じた。透明感のあるピアノ、最後の高音域の音の無数のカケラは、天から降り注ぐ光のようで、魂が昇華するように感じられた。
最後はショパン。この作品はブリリアントで華麗で力強いイメージがあるが、小菅の演奏からはそうしたものとはかけ離れた、深刻なショパン像がひしひしと伝わってきた。第1楽章のロマンチックな第2主題も、憧れとは異なる心の底にある痛みを訴えかけているよう。第3楽章も安らぎではなく、孤独で哀しいモノローグとして聴こえてきた。そして第4楽章では、苦しさに立ち向かい、痛みを感じながらも乗り越えて行こうとする強さ、というよりは苦しさを感じた。それほど重くて深刻なショパンだった。
小菅のこうした演奏は、世界を恐怖と絶望に陥れ続けている状況と無縁ではあるまい。「人々の歴史を振り返ると、私たちは想像を絶するような苦しみや葛藤と戦ってきました、(中略)現代の葛藤も絶対乗り越えられる・・・そう私は心から信じています。」とプログラムノートの最後に小菅が綴ったメッセージが、この演奏に反映されている。それは、プライベートな思いを超えて、もっと大きな苦悩と向き合い、高みへ昇ろうとしている姿にも見えた。
アンコールのノクターンからは、そんな「闘い」の最後に「自分の原点に戻る故郷」にたどり着いた集大成のような悟り、普遍性を感じた気がした。
小菅 優 ピアノ・リサイタル Four Elements Vol.3 Wind ~2019.11.29 東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル~
小菅 優 ピアノ・リサイタル Four Elements Vol.2 Fire ~2018.9.21 東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル~
小菅 優 ピアノ・リサイタル Four Elements Vol.1 Water ~2017.11.30 東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル~
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1.ベートーヴェン/バレエ「森の乙女」のロシア舞曲の主題による変奏曲 WoO71
2.シューベルト/幻想曲 ハ長調 D760 「さすらい人」
3.ヤナーチェク/ピアノ・ソナタ「1905年10月1日」
4.藤倉 大/Akiko‘s Diary
5.ショパン/ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 op.58
【アンコール】
♪ ショパン/ノクターン ロ長調 op.62-1
古代より世界の構成要素とされていた「四元素」を、毎年一つずつテーマとして取り上げてきた小菅優の壮大なリサイタルシリーズの最終回。水、火、風を経て、今回のテーマは「大地」。小菅は、これまでのテーマを全て結び付けて「人間の世界すべてに焦点をあてたい」とプログラムノートに綴った。
前半は、小菅のプログラムノートによれば「既に早熟さを発揮した若きベートーヴェン」のヴァリエーションと、言わずもがなの名曲、シューベルトの「さすらい人幻想曲」。2人の巨匠の作品から小菅はどんな世界を見せてくれるだろうと期待したが、正直よくわからなかった。小菅のピアノが、いつものように心の琴線に触れてこない。どこかに迷いがある?そんなわけないとすると、これは僕の心のコンディションの問題かも知れない。いずれにしても前半についてはこれ以上の感想は控えたい。
これに対して後半のプログラムからは強いメッセージが伝わった。チェコ人に深い悲しみをもたらした事件に由来するヤナーチェクのソナタの最初の和音が鳴った瞬間から、鈍い痛みが伝わってきた。その痛みは脈拍に合わせるようにズキンズキンと繰り返し襲ってきた。もがき苦しんでいる姿、不安を訴える目を感じつつ、今度はどんな痛みが襲ってくるかという恐怖と共に音楽は進み、最後には安息にたどり着いた。でもこの安息は死だろうか。小菅がピアノから生み出す音はそれほどまでに深刻で、痛みに対する鋭い感覚を有していた。
続く藤倉大の作品も、広島の原爆犠牲者への追悼の音楽だが、こちらからは慰めや光が伝わって来た。純粋で永遠に続くような安らぎは、犠牲者への鎮魂が込められているのを感じた。透明感のあるピアノ、最後の高音域の音の無数のカケラは、天から降り注ぐ光のようで、魂が昇華するように感じられた。
最後はショパン。この作品はブリリアントで華麗で力強いイメージがあるが、小菅の演奏からはそうしたものとはかけ離れた、深刻なショパン像がひしひしと伝わってきた。第1楽章のロマンチックな第2主題も、憧れとは異なる心の底にある痛みを訴えかけているよう。第3楽章も安らぎではなく、孤独で哀しいモノローグとして聴こえてきた。そして第4楽章では、苦しさに立ち向かい、痛みを感じながらも乗り越えて行こうとする強さ、というよりは苦しさを感じた。それほど重くて深刻なショパンだった。
小菅のこうした演奏は、世界を恐怖と絶望に陥れ続けている状況と無縁ではあるまい。「人々の歴史を振り返ると、私たちは想像を絶するような苦しみや葛藤と戦ってきました、(中略)現代の葛藤も絶対乗り越えられる・・・そう私は心から信じています。」とプログラムノートの最後に小菅が綴ったメッセージが、この演奏に反映されている。それは、プライベートな思いを超えて、もっと大きな苦悩と向き合い、高みへ昇ろうとしている姿にも見えた。
アンコールのノクターンからは、そんな「闘い」の最後に「自分の原点に戻る故郷」にたどり着いた集大成のような悟り、普遍性を感じた気がした。
小菅 優 ピアノ・リサイタル Four Elements Vol.3 Wind ~2019.11.29 東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル~
小菅 優 ピアノ・リサイタル Four Elements Vol.2 Fire ~2018.9.21 東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル~
小菅 優 ピアノ・リサイタル Four Elements Vol.1 Water ~2017.11.30 東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル~
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