10月10日(月)ズービン・メータ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
~ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン2016~
サントリーホール
【曲目】
1.モーツァルト/交響曲第36番ハ長調 K.425「リンツ」
2.ブルックナー/交響曲第7番ホ長調 WAB107(ノヴァーク版)![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/kirakira.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/face_heart.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/ee_2.gif)
去年の9月、ベルリンで聴いたメータ指揮イスラエル・フィルによるマーラーの9番の、あまりに素晴らしい演奏を体験した身にとって、今回の来日公演は大枚をはたいてでも聴かねば!と決めていた。長年愛聴するブルックナーの7番に、大好きな「リンツ」をやるプログラムを選び、席は狙っていたRDブロック前方が取れて(B 席27000円)、曲目も場所も申し分なし。ウィーン・フィルは、ウィーンでは最近も聴いているが、日本では1994年のショルティとの公演で、S氏のあの遅刻事件にかち合って以来一度も聴いていなかったので、実に22年ぶりに聴く来日公演となった。去年は膝の手術の影響で椅子に座って指揮していたメータだが、今日は元気そうに登場し、ずっと立って指揮をした。
まずはモーツァルト。ウィーン・フィルで聴けるモーツァルトということで期待が膨らんだ。弦は、ウィーン・フィル持ち前の高級なシルクを思わせる光沢と肌触りが感じられて耳を引くし、落ち着いたテンポで堅実に進める歩みと、充実した響きにも好感を持てたが、モーツァルトならではの歌心や遊び心、ワクワク感を得られないまま終わってしまった。これなら日本のオケの方がもっといい演奏することがあるぞ、と大枚をはたいた身としては思ってしまう。
しかし後半で、そんなぼやきなんて完全に吹っ飛んでしまう、去年の感動を追体験するような演奏が待っていた。
冒頭の弦のトレモロによる、この上なくデリケートな響きは、薄明かりの風景にできる淡い影のよう。そこには仄かな色彩や香りが感じられる。そこへ立ち現れるチェロとホルンのユニゾンによる息の長い旋律の、深く親密に語りかけ。
やがてトゥッティで迎える最初の山で、何とも鮮やかな光彩に満ちた瑞々しさ。朝の光を受けた生命の力強い息吹が伝わってきて既に全身トリハダ。それは朝もやが徐々に晴れてくるようなフィルターの調節による効果ではなく、弱音の時も澄んだ空気の中でじっと息を潜めて、夜明けを待つクリアな覚醒が支配し、曖昧さがない。それぞれの楽器が自らの役目を明確に主張し、他のパートと交感しあい、響きを、表現を作って行く。そこから語りかけてくるメッセージはクリアで深くて真摯だ。これらが一緒になって盛り上がり築き上げられる更なるクライマックスもそうした線上にある。
ブルックナーの音楽でイメージしがちな、地の底から沸き上がる得体の知れぬ熱いエネルギーの放出や、霧もやに包まれた幻想美はここにはなく、全てのパートが自分と互いの役割を明確に感じ、どんな響きを作り、どんな表現でどこへ向かうかを迷うことなく提示してくる。その音は、目映いほど鮮やかで輝かしく、まさに今この瞬間に生まれ出たように新鮮な生命力に溢れている。そして強烈なリアリティー。
メータはがっちりと力強い構造を用意した上で、時にはテンポに大きな変化を付けつつ声部を歌わせ、語らせ、高みへと導いて行った。 80歳を迎えたメータだが、そこに老いの影は微塵もない。その上で、年齢を重ねた大家にこそ表現できる「歌」「語り」を心に刻み付けて行く。
どんな演奏が「ブルックナーらしい」と言うのかよくわからないが、この演奏を「ブルックナーらしくない」と思う人はいるかも知れない。しかし、 小細工を重ねて「それらしく」作り上げられる響きとは対極にあるような、ピュアそのものゆえに神々しささえ感じるこの響き、この表情は、これまで体験したことがないような稀有のもの。「こんな音、他では聴けない」と言うような音を聴かせるウィーン・フィルのオーケストラとしての底力も改めて思い知った。
一瞬たりとも気持ちを逸らせることなく、寄せては返す波が満潮に向かって高くなってくるように、緊張と弛緩を繰り返しながら徐々に徐々に、しかし確実にエネルギーを蓄えて最後に到達した鮮やかで力強いフィナーレに身も心も洗われる思いがした。
メータは余韻を引き延ばさず、早々と両手を下して「終わり」を告げると、ホールは万雷の拍手とブラボーに包まれた。一般参賀はコンマス(ライナー・ホーネック)も連れて現れた一回だけ。もっともっと拍手を送っていたかった。
ズービン・メータ指揮 イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団(2015.9.6 ベルリン・フィルハーモニーホール)
CDリリースのお知らせ
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サントリーホール
【曲目】
1.モーツァルト/交響曲第36番ハ長調 K.425「リンツ」
2.ブルックナー/交響曲第7番ホ長調 WAB107(ノヴァーク版)
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去年の9月、ベルリンで聴いたメータ指揮イスラエル・フィルによるマーラーの9番の、あまりに素晴らしい演奏を体験した身にとって、今回の来日公演は大枚をはたいてでも聴かねば!と決めていた。長年愛聴するブルックナーの7番に、大好きな「リンツ」をやるプログラムを選び、席は狙っていたRDブロック前方が取れて(B 席27000円)、曲目も場所も申し分なし。ウィーン・フィルは、ウィーンでは最近も聴いているが、日本では1994年のショルティとの公演で、S氏のあの遅刻事件にかち合って以来一度も聴いていなかったので、実に22年ぶりに聴く来日公演となった。去年は膝の手術の影響で椅子に座って指揮していたメータだが、今日は元気そうに登場し、ずっと立って指揮をした。
まずはモーツァルト。ウィーン・フィルで聴けるモーツァルトということで期待が膨らんだ。弦は、ウィーン・フィル持ち前の高級なシルクを思わせる光沢と肌触りが感じられて耳を引くし、落ち着いたテンポで堅実に進める歩みと、充実した響きにも好感を持てたが、モーツァルトならではの歌心や遊び心、ワクワク感を得られないまま終わってしまった。これなら日本のオケの方がもっといい演奏することがあるぞ、と大枚をはたいた身としては思ってしまう。
しかし後半で、そんなぼやきなんて完全に吹っ飛んでしまう、去年の感動を追体験するような演奏が待っていた。
冒頭の弦のトレモロによる、この上なくデリケートな響きは、薄明かりの風景にできる淡い影のよう。そこには仄かな色彩や香りが感じられる。そこへ立ち現れるチェロとホルンのユニゾンによる息の長い旋律の、深く親密に語りかけ。
やがてトゥッティで迎える最初の山で、何とも鮮やかな光彩に満ちた瑞々しさ。朝の光を受けた生命の力強い息吹が伝わってきて既に全身トリハダ。それは朝もやが徐々に晴れてくるようなフィルターの調節による効果ではなく、弱音の時も澄んだ空気の中でじっと息を潜めて、夜明けを待つクリアな覚醒が支配し、曖昧さがない。それぞれの楽器が自らの役目を明確に主張し、他のパートと交感しあい、響きを、表現を作って行く。そこから語りかけてくるメッセージはクリアで深くて真摯だ。これらが一緒になって盛り上がり築き上げられる更なるクライマックスもそうした線上にある。
ブルックナーの音楽でイメージしがちな、地の底から沸き上がる得体の知れぬ熱いエネルギーの放出や、霧もやに包まれた幻想美はここにはなく、全てのパートが自分と互いの役割を明確に感じ、どんな響きを作り、どんな表現でどこへ向かうかを迷うことなく提示してくる。その音は、目映いほど鮮やかで輝かしく、まさに今この瞬間に生まれ出たように新鮮な生命力に溢れている。そして強烈なリアリティー。
メータはがっちりと力強い構造を用意した上で、時にはテンポに大きな変化を付けつつ声部を歌わせ、語らせ、高みへと導いて行った。 80歳を迎えたメータだが、そこに老いの影は微塵もない。その上で、年齢を重ねた大家にこそ表現できる「歌」「語り」を心に刻み付けて行く。
どんな演奏が「ブルックナーらしい」と言うのかよくわからないが、この演奏を「ブルックナーらしくない」と思う人はいるかも知れない。しかし、 小細工を重ねて「それらしく」作り上げられる響きとは対極にあるような、ピュアそのものゆえに神々しささえ感じるこの響き、この表情は、これまで体験したことがないような稀有のもの。「こんな音、他では聴けない」と言うような音を聴かせるウィーン・フィルのオーケストラとしての底力も改めて思い知った。
一瞬たりとも気持ちを逸らせることなく、寄せては返す波が満潮に向かって高くなってくるように、緊張と弛緩を繰り返しながら徐々に徐々に、しかし確実にエネルギーを蓄えて最後に到達した鮮やかで力強いフィナーレに身も心も洗われる思いがした。
メータは余韻を引き延ばさず、早々と両手を下して「終わり」を告げると、ホールは万雷の拍手とブラボーに包まれた。一般参賀はコンマス(ライナー・ホーネック)も連れて現れた一回だけ。もっともっと拍手を送っていたかった。
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