2009年8月2日(日)~8月6日(木) 今年の夏山は、蓮華温泉から白馬岳の北に穏やかに連なる花の山、朝日岳と雪倉岳を訪れ、白馬三山から不帰キレットを越えて唐松岳まで4泊(テント)で縦走するコースを選んだ。朝日岳と雪倉岳、それに不帰キレットは初めての道だ。 梅雨明け宣言もつかの間で梅雨の戻りのようなはっきりしない天気が続き、その後の天気予報もあまりぱっとしなかったが、週間予報の晴れマークに望みをかけて出発した。 |
8月2日(日)のち
東京から登山口の蓮華温泉までは越後湯沢からほくほく線経由北陸本線で日本海に出て糸魚川まで行き、そこから大糸線を南下して平岩からバス、という長い道のりだ。
大糸線のキハ52
糸魚川駅からはレトロな雰囲気のオレンジ色の気動車で大糸線を南下、平岩で降りてそこから蓮華温泉まではバスだ。バスを待っているあいだ駅の待合室にあった雑記帳を眺めていたら、「キハ52に会いに来ました」という書き込みがたくさんあった。さっき乗ってきたディーゼルのことらしい。来春引退するらしく、それが目当てで多くの鉄道ファンがここに撮影にやって来るのだ。
そういうことなら元鉄道ファンで現役テッチャンを息子に持つpocknとしては、バスに乗る前にやってくるキハ52をよく見ておこう、と無人駅のホームに戻る。なかなかかわいいではないか!
蓮華温泉
平岩から蓮華温泉までのバスの乗客は僕ひとり。夏山のハイシーズンなのにどうしてこんなに人が少ないんだろう…
蓮華温泉ロッジで温泉につかってから雨の中を蓮華ノ森キャンプ場へ。雨の中のテント張りはつらいし、テントがずぶ濡れになるのもイヤだ。するとキャンプ場の入口に建っている管理センターの軒先にテントを張っているやつがいた。「うまいところに張ったもんだな…」どこか他に雨が当たらない場所はないだろうか… 驚いたことにその一張以外、広いキャンプ場には1つもテントがない。屋根付きの炊事場が2箇所ある。「よし、炊事場にテント張っちゃおう!」
ちょっと反則かも知れないが、おかげで雨の心配も、テントが濡れてザックが更に重くなる心配もなく、静かなテント場で一人眠ることができた。 |
8月3日(月)時々
4時起床。山の方はガスが下りていたが、空を見上げると時折雲の切れ間から青空が覗いていた。
出発して30分足らずで出た木道の続く広々としたお花畑。上空は青空が広がってきて、お花畑の向こうには雪倉岳の山頂も姿を現した。
クリックで雪倉岳アップ
朝日岳への登山道は昨夜の雨のせいかぬかるんでいるところが多く、木道や岩も濡れていて滑りやすい。荷物も重いので慎重に歩く。
水と花の楽園
急坂を登って辿りついた「花園三角点」付近。景色が開け、たくさんの花が咲き乱れるなだらかな草原の斜面が続く。
雨は夜のうちに上がってそれからは日差しも出ているが、相変わらず木道や岩は濡れていて何度か滑ってしまった。これは雨のせいではなく、あちこちに流れる沢のせいだとわかった。昨夜蓮華温泉ロッジで水場を確かめようと訊いたら「至るところにありますよ!」と言われたとおり、本当にちょっと歩けば沢にあたる。
その水は草原を潤し、湿原状に染み渡り、アヤメやワタズゲなどの湿生植物を豊かに育んでいた。
その光景はいつもの高山帯のお花畑とは違い、あたかも水と花の楽園といったところ。黒部五郎岳に登ったとき の五郎平とも似ている。歩けど歩けど水と花の風景が続く。 |
五輪の森と呼ばれるシラビソの林を通過すると、今度は白高地という花咲くカールに出た。相変わらず沢がいく筋も流れ、花と水の楽園が続く。 山々の頂に垂れていた雲も晴れ上がり、これから登る朝日岳が全貌を現した。 |
朝日岳山頂/朝日平
キャンプ場を出てから9時間、とうとう朝日岳の山頂に到着。ハイマツに覆われた広い山頂からは旭岳、白馬岳方面の山々が見渡せた。
山頂から北側へ30分下ったところにある朝日平に小屋とテント場がある。広々として眺めもいい。
今回の山歩きではテント泊でありながら夕食は山小屋で食べた。テント泊でも夕食を出してもらえる、ということは前もって調べておいたが予約なしで申し出たら、「うちの食事はみんな手作りでやっているので実は大変なんですよー」とちょっと困っていたが、厨房に聞いてくれて「大丈夫です!」と言ってもらえた。助かった。
朝日小屋の夕食はメニューがいっぱいでとてもおいしかった。揚げたての天ぷらや良く煮込まれた肉じゃが、富山の郷土料理の昆布〆、デザートは糸魚川の「栂海新道」という銘菓とか…
食前酒には梅酒や日本酒、ワインを自由に選べる。食器も素敵で、こんなところにもオーナーの心配りを感じた。
食後、夕日の当たる雪倉~白馬岳方面をスケッチ
8月4日(火)のち時々霧
3時50分に起き、まだ星が見える薄明かりの中、テントはそのままにして再び朝日岳に登った。
朝日岳山頂で迎えたご来光(クリックで拡大)
ハイマツの向こうに雪倉~白馬岳の山並みが美しく輝いていた。
クリックで拡大
そして雪倉岳の奥に、剣・立山連峰が朝日を受けて薄桃色に浮かんでいた。
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その姿がとても神々しく印象的だったので、あまり頂上に長居もできないのだが急いでスケッチした。
映画「剣岳」を観て剣岳の険しさが印象に残っていたせいか、
実際よりも尖がった姿になったかな…?
初めて訪れた朝日岳は本当にいい山だった。夏山と言えばやっぱり3000m級でしょ、なんて思っていたが、水と花で溢れた標高2418mの朝日岳はこうした雄大な眺望にも優れた魅力いっぱいの山で、繰り返し訪れたいと思った。
虫さされ!
昨日朝日平で絵を描いていたときに虫がたくさん飛んできてあちこち喰われ、指の付け根の喰われたところが寝ている間に腫れて、今朝見たら手の甲全体が腫れてしまい手が突っ張ってる。変なばい菌でも入ったのだろうか…
小屋の人に見せたら、「冷やすのが一番、白馬岳に行けば診療所があるからそれまで冷やしておくといいですよ。」と保冷剤を当ててハンカチと包帯で固定してくれた。テント泊なのに何から何までお世話になりました。 |
雪倉岳へ
白馬岳までは長い道乗りだ。朝日平からまずは水平道を進む。小屋の人が「水平道とは言っても水平じゃあないですけど…」と言っていた通りアップダウンが続いた。
水平道からは白馬岳から北へ連なる山々の眺めがいい。真ん中に位置する旭岳のピラミッド型の姿を見ると登ってみたくなる。
朝日岳山頂からの道と合わさる手前の小さな池で遅咲きの水芭蕉に出会った。
2色のキヌガサソウ
朝日岳から下ってきた道と合わさり雪倉岳に向かう。水は少なくなるが、花は相変わらず種類も数も多い。花崗岩の砂地にはコマクサも咲いていた。
天然の寄せ植え
目指す雪倉岳の山頂はガスがかかってきた。
雪倉岳に着いたのは12時25分。残念ながら山頂はガスに覆われてしまっていた。まだ先は長い。
ペースダウン。。。
雪倉岳から蓮華温泉へ下る道との分岐までコースタイムでは1時間のはずだが、1時間を過ぎても一向に分岐が見えない。すれ違った登山者に訊いたら遠くを指差して「あの山を越えたあたりですよ。」と言われた。まだ一山あるのか… 山小屋泊の荷物のときはコースタイムの3分の2程度の時間で歩けていたのでそのギャップにガックリきたと同時に、暗くなる前に着くか心配になった…
今日の目的地、白馬岳のテント場は右上の白馬岳のさらに向こうだ…
分岐に着いたのは14時47分。雪倉岳から1時間27分もかかってしまった。コースタイムの1.5倍… 体もかなりバテ気味だ。このペースではマジ暗くなるまでに着かないぞ。
「ストックを使ったら少しは楽だろうか」
雪道の転倒防止とか、足を痛めた時のために持っていたストックを使ってみた。すると、気のせいか足取りが楽になった気がした。
恐るべし!ストックの威力!
ストックの効果は抜群だった。分岐を出て1時間5分で三国境に着いた。途中で5分休憩を入れたので実質1時間はほぼコースタイム通りだ。この前の区間にコースタイムの1.5倍かかったことを考えるとストックで1.5倍スピードアップしたことになる。
今まではストックなんて年寄りの持つもので反って邪魔、なんて思っていたが、今後はストックは必携で行こう。登山の本には「ストックを使おう」と書いてあるのにそれに気も留めなかったことを反省… それともストックがこんなに役立つってことはおれも年取ってきたってことかも…
その後も足取りは順調で、三国境からコースタイム1時間の白馬岳山頂まで50分で到着。テント場には17時35分に着いた。これなら小屋のメシにありつける! | 白馬岳山頂は今回の縦走の最高地点(2932.2m) |
村営白馬小屋の夕食はいろんなおかずがバイキングで好きなだけ取れてお替りもできる。大好きなサトイモの煮っ転がしなどモリモリ食べた。 | |
同じテーブルにいた2組の老夫婦が「ストックはどうしようかしら」と話していたので、
「ストックの効果はすごいですよ!」
とさっきの経験を語ったことで山の話などで盛り上がった。
虫に刺されて腫れた手の話になり「診療所へ行ってみる」と言ったら、「やめときなさいよ。すごくお金かかるわよ。その腫れならいい薬があるから…」
なんとそのうちのお一人はお医者さんで、皮膚科用のステロイド剤「リンデロン」をチューブごと頂いてしまった。
テント泊ではなかなかこういう他の登山者との交流は持てないが、夕食を小屋で取ったおかげで楽しい時間を過ごせたうえに薬まで頂いてしまって大助かり。この方々、明日は僕と同じ不帰キレット経由で唐松岳まで行くとのこと。お互い気をつけて頑張りましょう!
白馬岳~不帰キレット~唐松岳へ