8月27日(土)杉山洋一指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団
第32回 芥川也寸志サントリー作曲賞選考演奏会
サントリーホール
【第30回芥川也寸志サントリー作曲賞受賞記念サントリー芸術財団委嘱作品】
♪ 小野田健太/『綺羅星』2台のピアノとオーケストラのための(2021~22) (1983/84)
Pf:秋山友貴、山中惇史
【第32回芥川也寸志サントリー作曲賞ノミネート作品】
1.波立裕矢/『失われたイノセンスを追う。Ⅱ』オーケストラのための(2020~21)
2.根岸宏輔/『雲隠れにし 夜半の月影』オーケストラのための(2020)
3.大畑 眞/『ジンク』(2021)
【公開選考会】
酒井健治、福士則夫、山根明季子/(司会:沼野雄司)
「サントリーホールサマーフェスティバル」の一環として毎年行われる「芥川也寸志サントリー作曲賞選考演奏会」。ここでは、前年に初演された日本人作曲家の管弦楽曲作品からノミネートされた作品が演奏され、公開で受賞作が決められる。
最初は2020年の受賞者、小野田健太氏が、受賞の特典としてサントリー芸術財団から委嘱を受けた「綺羅星」。2台のピアノが並びステージは壮観だが、断片的なモチーフが飛び交うデリケートな音楽。どこかの星で、無表情な人形たちが儀式を執り行っているような不思議感がある。ただ、ピアノを2台使うわりには音響的な効果が希薄な気がしたし、タイトルの「綺羅星」からイメージするキラキラした光彩が飛び交う音楽というわけでもない。終始大人しめで、何かエモーショナルなもの、抑えきれない感情の爆発なんかが欲しかった。受賞で得た新作発表の機会では、もう少し挑戦的になってもいいのでは?
この後は今回のノミネート3作品の演奏。「マーラーの巨人交響曲の第4楽章を徹底的に編集する方法で作曲した」という波立裕矢氏の作品は、緻密なテクスチュアが響き合い、オーケストレーションの冴えを聴かせたが、リズムや音色は変えながらも、あまりにマーラーの原曲が随所に聴こえてくるばかりか、気だるさとか夢想など、マーラーの作品が醸し出す味わいまで同質で、僕にはオリジナリティが感じられなかった。最高潮に盛り上がって終わる原曲に対して、こちらは穏やかな終わり方。それが新しいメッセージ性を持っていればいいのだが、何かが起こることを期待し何も起こらないまま終わってしまった、というのが正直な感想。
根岸宏輔氏の「雲隠れにし 夜半の月影」は、序盤はハーモニーの美しさやデリケートなテクスチュアによる陰影から醸し出される官能的な表情が、タイトルの和歌の情景を思い起こさせた。そこからは微弱な光が発せられ、体温を伴った静かな呼吸が伝わってくる。ただ、聴き進むうちに、序盤の描写があまりうまく内的な発展に至らず、冗長な印象を持った。こういう音楽に「発展」は不要であるとすれば、それとは異なる変容を聴きたかった。この作品は昨年、東京オペラシティの「武満徹作曲賞」で審査員のパスカル・デュサパンによって1位に選ばれた作品とのことだが、僕にはその良さを聴き取る感性が足りなかったかも。
最後に演奏されたのは大畑眞氏の「ジンク」。宮城県登米市に伝承するお囃子を素材に、アルゴリズムを利用して作曲したという作品は、前の2作品とは別次元のステージに到達していると感じた。同じリズムと抑揚が連続し、その一部分だけ切り取っても斬新さや個性は聴こえてこないが、これが連続して積み重ねられて行くことで強烈な熱いエネルギーと高揚感、メッセージ性を獲得する。モチーフが連続するなかで、瞬時に空気が変わる場面が何度もあり、それが異次元へ呼び込まれるように気持ちを高揚させ、やがてお囃子の響きの内面から、こうした文化・芸能を育んできたスピリチュアルな魂の叫びが聞こえてくるよう。最終盤では3名の男声ヴォーカルが加わり、否が応にも高揚感を高め、神々しささえ感じられた。独創的で圧倒的な作品だと思った。SFA総選挙と称して、3作品から1つを聴衆が選ぶ投票では迷わずこの曲を選んだ。
杉山洋一指揮の新日フィルは、緻密に掘り下げ、かつエモーショナルで熱い演奏を繰り広げ、作品の真価を最良の形で伝えていたと云える。この作品に限らずどの曲でも、演奏は精巧でレベルが高く、杉山氏と新日フィルがそれぞれの作品をしっかり受け止め、いかに表現すべきかを明確にイメージして演奏していることが窺えた。
引き続き、3人の選考委員と司会者による選考会が公開形式で行われた。各選考委員がそれぞれの曲について講評したあと、どれを受賞作に推薦するかをそれぞれ発表するという流れ。その結果、山根氏が大畑作品を選んだ一方、他の2人は波立作品を選び、波立作品が受賞作品に選ばれた。選考の所要時間は約90分。
講評ではそれぞれの作品の長短両面について3人が述べたあと、最後に短いコメントと共に1作品を推挙するやり方。これでは各選考委員の推挙の思いが十分伝わらず、3人の議論も深まらず、最初から結論ありきのようにも思えた。
僕が推した大畑さんの「ジンク」が受賞を逃したのは残念だったが、聴衆による投票結果は「ジンク」が他の2作品を圧倒してほぼ半数の票を獲得。聴衆に感銘を与えることは音楽にとって大切な要素である。聴衆賞のような賞も設けるべきではないだろうか。
サントリーホール サマーフェス2021 ~アンサンブル・アンテルコンタンポラン~(2021.8.24)
サントリーホール サマーフェス2020 ~オーケストラ スペース~ (2020.8.26)
サントリーホール サマーフェス2020 ~室内楽~ (2020.8.23)
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最新アップロード:「村の英雄」(詩:西條八十)
~限定公開中動画~
「マーチくん、ラストラン ~33年乗った日産マーチとのお別れシーン~」
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サントリーホール
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【第32回芥川也寸志サントリー作曲賞ノミネート作品】
1.波立裕矢/『失われたイノセンスを追う。Ⅱ』オーケストラのための(2020~21)
2.根岸宏輔/『雲隠れにし 夜半の月影』オーケストラのための(2020)
3.大畑 眞/『ジンク』(2021)
【公開選考会】
酒井健治、福士則夫、山根明季子/(司会:沼野雄司)
「サントリーホールサマーフェスティバル」の一環として毎年行われる「芥川也寸志サントリー作曲賞選考演奏会」。ここでは、前年に初演された日本人作曲家の管弦楽曲作品からノミネートされた作品が演奏され、公開で受賞作が決められる。
最初は2020年の受賞者、小野田健太氏が、受賞の特典としてサントリー芸術財団から委嘱を受けた「綺羅星」。2台のピアノが並びステージは壮観だが、断片的なモチーフが飛び交うデリケートな音楽。どこかの星で、無表情な人形たちが儀式を執り行っているような不思議感がある。ただ、ピアノを2台使うわりには音響的な効果が希薄な気がしたし、タイトルの「綺羅星」からイメージするキラキラした光彩が飛び交う音楽というわけでもない。終始大人しめで、何かエモーショナルなもの、抑えきれない感情の爆発なんかが欲しかった。受賞で得た新作発表の機会では、もう少し挑戦的になってもいいのでは?
この後は今回のノミネート3作品の演奏。「マーラーの巨人交響曲の第4楽章を徹底的に編集する方法で作曲した」という波立裕矢氏の作品は、緻密なテクスチュアが響き合い、オーケストレーションの冴えを聴かせたが、リズムや音色は変えながらも、あまりにマーラーの原曲が随所に聴こえてくるばかりか、気だるさとか夢想など、マーラーの作品が醸し出す味わいまで同質で、僕にはオリジナリティが感じられなかった。最高潮に盛り上がって終わる原曲に対して、こちらは穏やかな終わり方。それが新しいメッセージ性を持っていればいいのだが、何かが起こることを期待し何も起こらないまま終わってしまった、というのが正直な感想。
根岸宏輔氏の「雲隠れにし 夜半の月影」は、序盤はハーモニーの美しさやデリケートなテクスチュアによる陰影から醸し出される官能的な表情が、タイトルの和歌の情景を思い起こさせた。そこからは微弱な光が発せられ、体温を伴った静かな呼吸が伝わってくる。ただ、聴き進むうちに、序盤の描写があまりうまく内的な発展に至らず、冗長な印象を持った。こういう音楽に「発展」は不要であるとすれば、それとは異なる変容を聴きたかった。この作品は昨年、東京オペラシティの「武満徹作曲賞」で審査員のパスカル・デュサパンによって1位に選ばれた作品とのことだが、僕にはその良さを聴き取る感性が足りなかったかも。
最後に演奏されたのは大畑眞氏の「ジンク」。宮城県登米市に伝承するお囃子を素材に、アルゴリズムを利用して作曲したという作品は、前の2作品とは別次元のステージに到達していると感じた。同じリズムと抑揚が連続し、その一部分だけ切り取っても斬新さや個性は聴こえてこないが、これが連続して積み重ねられて行くことで強烈な熱いエネルギーと高揚感、メッセージ性を獲得する。モチーフが連続するなかで、瞬時に空気が変わる場面が何度もあり、それが異次元へ呼び込まれるように気持ちを高揚させ、やがてお囃子の響きの内面から、こうした文化・芸能を育んできたスピリチュアルな魂の叫びが聞こえてくるよう。最終盤では3名の男声ヴォーカルが加わり、否が応にも高揚感を高め、神々しささえ感じられた。独創的で圧倒的な作品だと思った。SFA総選挙と称して、3作品から1つを聴衆が選ぶ投票では迷わずこの曲を選んだ。
杉山洋一指揮の新日フィルは、緻密に掘り下げ、かつエモーショナルで熱い演奏を繰り広げ、作品の真価を最良の形で伝えていたと云える。この作品に限らずどの曲でも、演奏は精巧でレベルが高く、杉山氏と新日フィルがそれぞれの作品をしっかり受け止め、いかに表現すべきかを明確にイメージして演奏していることが窺えた。
引き続き、3人の選考委員と司会者による選考会が公開形式で行われた。各選考委員がそれぞれの曲について講評したあと、どれを受賞作に推薦するかをそれぞれ発表するという流れ。その結果、山根氏が大畑作品を選んだ一方、他の2人は波立作品を選び、波立作品が受賞作品に選ばれた。選考の所要時間は約90分。
講評ではそれぞれの作品の長短両面について3人が述べたあと、最後に短いコメントと共に1作品を推挙するやり方。これでは各選考委員の推挙の思いが十分伝わらず、3人の議論も深まらず、最初から結論ありきのようにも思えた。
僕が推した大畑さんの「ジンク」が受賞を逃したのは残念だったが、聴衆による投票結果は「ジンク」が他の2作品を圧倒してほぼ半数の票を獲得。聴衆に感銘を与えることは音楽にとって大切な要素である。聴衆賞のような賞も設けるべきではないだろうか。
サントリーホール サマーフェス2021 ~アンサンブル・アンテルコンタンポラン~(2021.8.24)
サントリーホール サマーフェス2020 ~オーケストラ スペース~ (2020.8.26)
サントリーホール サマーフェス2020 ~室内楽~ (2020.8.23)
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