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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

タン・ドゥン:ホール・オペラ『TEA』

2006年09月25日 | pocknのコンサート感想録2006
9月25日(月)タン・ドゥン:ホール・オペラ『TEA』 ~茶は魂の鏡~
サントリーホール


【配役】
聖嚮:ハイジン・フー(Bar)、蘭(唐の皇女):ナンシー・アレン・ランディ(S)、
唐の皇子:ウォーレン・モーク(T)、唐の皇帝(蘭の父):ドン・ジアン・ゴン(B)、陸:ニン・リャン(A) 他

【演出】ピエール・アウディ 【装置・舞台・照明】ジャン・カルマン 【衣装】アンジェロ・フィグス

【演奏】
タン・ドゥン指揮 N響メンバーによる管弦楽団/3人の打楽器:藤井はるか、稲野珠緒、福島優美

2002年にサントリーホールの委嘱作品として生まれたタン・ドゥンのオペラ『TEA』の再演に立ち会うことができた。何度かテレビで放映された2002年の公演を見るたびに行かなかったことを後悔し、再演を待ちわびていた。

実際にホールで体験するタン・ドゥンの「ホール・オペラ」は、テレビが伝えきれない多くのメッセージを全身に投げかけて来て、「オペラ」という範疇で単純には括りきれないこの作品に浸かることができた。

この「オペラ」は茶聖と言われた陸羽の「茶経」を巡る物語で、史実とファンタジーが入り混じった一見複雑な内容だが、筋書きそのものは実に単純明快。しかしこの作品の副題に「茶は魂の鏡」とあるように、その単純なテーマの内に秘められた奥深さが、歌、演技、音楽、演出、舞台・照明・衣装等の効果を巧みに融合させて描かれ、非常に幻想的で、幾重ものヴェールに包まれた香り高い芸術作品に仕上げられている。タン・ドゥンのいわゆる「聴き易い」音楽は、しかし陳腐なヒーリングミュージックとは明らかに別の次元にあり、研ぎ澄まされた音はすべてに「このように響くべき」という必然性を感じ、その方向性を決して見失わない厳しさがある。

この作品で大きな位置を占める「紙楽器」や、「水」、あるいは口腔で母音を変化させて響かせるといった、種々の耳への刺激は決してアイディア倒れに終わることなく、この作品を聴覚的に見事にある種の光で浮かび上がらせている。更に「紙」や「水」の音は、音としてだけではなく、その音を出す奏者や、巨大な紙や、水と器などに照明を当て、それらが放つ視覚的なメッセージもこの作品のひとつの大きな構成要素。

実際のオペラの筋書きとは何ら関係のないこれらの「楽器」や奏者にも等しくスポットを当て、造形的・美術的なパフォーマンスとして提示することで、「茶が全ての精神に通じ、またそれを司る」とでも言っているような、このオペラのテーマを更に象徴的に表していた。音と光と色彩と人間を象徴的に用い、融合・統合した、あらゆる芸術的要素を内包したような、オペラとはまた違った新しい形の総合芸術を体験した。

視覚的にも聴覚的にも非常に美しく、神秘的でもあり、また厳しさを孕んでいて、非常に新鮮で強いメッセージを放ってるこの作品は、作曲家タン・ドゥンと演出家ピエール・アウディのまさしく見事な合作と言える。同様に、ここまでハイレベルの上演を実現した全ての歌手、打楽器ソリスト達、N響メンバーにも等しく最大級の賞賛を送りたい。この作品が更に世界に広がり、その最も優れた演奏者としてN響の名前が音楽史に刻まれるかも知れない。

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