12月5日(金)後 まだ東京が暑いころ、上野の西洋美術館の前にでていたハンマースホイ展の大きな絵の看板を見て、その静寂に支配された不思議な光景に引き込まれた。それが気になったままそのまま過ごし、気がついたら展覧会も残すところあと3日になっていた。「やっぱり行こう」と今日行って来た。 近年再び脚光を浴びているという20世紀初頭前後に活躍したこのデンマークの画家については名前を聞くのも初めてで、とにかく美術館の看板になっていた「背を向けた若い女性のいる室内」の絵に引き寄せられてやって来た。 看板の絵のほかにも、ひんやりした室内にたたずむ背を向けた女を描いた作品がいくつもあった。女の纏う服の黒、壁やドアの白、そして家具の茶色… といった殆どモノトーンの色彩や、モノが殆ど置かれていない殺風景な室内の風景、その部屋にわずかに漏れてくる淡い光や、じっと佇む女の姿… さまざまなものがしーんとした静寂感を作り出し、沈黙が重さを増す。 描かれる部屋はどれも「ストランゲーゼ30番地」のハンマースホイの住まいだが、天井も床も入った奥行きのある透視図法の直線的な構図が、殆ど家具がないためにストレートに目に飛び込んできて住居の構造美が浮かび上がる。その風景に佇む無言の女、妻のイーダ。部屋や家具の硬質なテクスチュアに対し、黒い服を纏い丸みを帯びた女の姿の対比が妙に印象深く、構図とテクスチュアと色彩の静かな調和に目が釘付づけになる。 絵に描かれている女の表情や動きが読み取れないことは却って見る者の想像力をかき立てる。人はきっとこの絵の中の人が何をしていて、何を感じているかが読み取れない不安に駆られ、何とか解決を見い出そうとして想像力を働かせるのだ。描かれた人物から何らかのメッセージを感じ取ったとき、見る人を拒絶しているごときその絵の世界が自分だけのものになったような親近感を覚えるのではないだろうか… 「沈黙」から喚起される想像力で物言わぬものから親密なメッセージを感じ取り、その絵からある物語を感じるとき、きっと見ている人はその絵から不思議と離れられなくなる。そんな想像力を喚起する力をハンマースホイの絵は持っているような気がした。 |
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それと「殺風景」な建築物の絵にもなぜか惹かれました。人影がいないことでただ建築物の造形だけが目に飛び込んできて、とても美しいと思いました。それに人物が描かれていないことで自分がその絵の中のただ1人の主人公になったような錯覚… やっぱり不思議な体験ですね。ルネ・マグリットをちょっと思い出しました。
仰るとおり観る者の想像力を豊かにする絵画でしたね。ストランゲーゼ30番地の再現CGもありましたが、CGに頼らずとも室内の空間が頭の中に形作られていくような展示方法もとても面白く感じました。
室内の絵の質感はもちろん、「ゲントフテ湖、天気雨」の微妙な光彩が絶妙で印象深かったです。