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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

おと と おと と Vol.4 小泉詠子(MS)/初鹿野剛(Bar)/朴令鈴(Pf)

2013年12月25日 | pocknのコンサート感想録2013
12月25日(水)おと と おと と Vol.4
~拝啓、ゲーテ様~ ゲーテの詩による歌曲
やなか音楽ホール


【曲目】
♪ シューマン/子供のためのアルバム~ミニヨン
♪ シューマン/「ヴィルヘルム・マイスター」による歌曲集 Op.98a
♪ ♪ ♪
♪ モーツァルト/すみれ
♪ ベートーヴェン/マーモット
♪ シューベルト/野ばら
♪ シューベルト/ガニュメート
♪ シューベルト/糸を紡ぐグレートヒェン
♪ レーヴェ/魔王
♪ シューベルト/魔王
♪ メンデルスゾーン/恋する女が書く事には
♪ ヴェルディ/誰が私に再びあの美しき日々を戻してくれるのか
♪ ワーグナー/メフィストフェレスの歌
♪ ブゾーニ/メフィストフェレスの歌
♪ ヴォルフ/アナクレオンの墓

【アンコール】
ヴォルフ/エピファニアスの祭


【演奏】
MS:小泉詠子/Bar:初鹿野 剛/Pf:朴令鈴


去年5月のvol.2以来の「おと と おと と」…と思ったら、今回はvol.4、あれ、いつvol.3があったんだろう。
いずれにしても小泉、初鹿野、朴の3氏が揃う「おと と おと と」は3回目で、回を重ねる度に充実度がアップし、今夜は今年のベストに入れたい素晴らしいコンサートだった。素晴らしい要素はいくつもある。

★テーマ設定、選曲・構成の素晴らしさ
ゲーテの詩による歌曲をテーマに、前半はシューマンの歌曲集としてはマイナーな「ヴィルヘルム・マイスター」を全曲演奏、後半に超有名どころの歌曲でゲーテの詩と、音楽の多彩さを紹介する心憎い構成。

★企画・演出の素晴らしさ
前半は、歌曲集のテキストに沿って物語と詩を朴さんが朗読し、歌と共に一つの絵巻物を鑑賞している気分。後半は作曲家達が「拝啓、ゲーテ様…」で始まるゲーテへの思いを綴った手紙を歌い手が「代読」し、歌につなげる。この手紙がユーモアに溢れ、核心を突く内容。朗読も上手くて、作曲家とゲーテを身近に感じ、気持ちが自然に歌に入って行ける。何よりこれほど多くの作曲家達を魅了し、世に残る名歌を書かしめた文豪ゲーテの大きさを実感できた。

★演奏の素晴らしさ
どんなに選曲や企画が良くても、やっぱり演奏がコンサートの最重要ポイントだ。このメンバーなら期待大だったが、それを更に上回る素晴らしい演奏に感動!

メゾの小泉さんは、国費研修員としての1年間のイタリア留学から帰国後、初めて演奏に接したが、美しい声には艶やかな磨きが増し、瑞々しく高貴な魅力を湛えていた。表現力の深まりと切れ味にも感嘆。一つ一つの言葉は命が宿っているように生き生きしていて、香り高い大人の表現力と、ドラマチックな歌唱にも心を奪われた。シューマンでの弾けるような瑞々しさと輝き、「糸を紡ぐグレートヒェン」での鬱屈から焦燥感の混じった憧れ、そしてクライマックスの「あなたの口づけ!」に至る狂気ぎりぎりの迫真の表現にトリハダ。イタリア留学でドイツ語の発音にも磨きがかかっていたが、唯一イタリア語で歌ったヴェルディのイタリアオペラチックな世界には、思わずブラーヴァ!と叫んだ。

バリトンの初鹿野さんの歌もため息が出るほど素晴らしい。いつも感心し、共感を覚える語り聞かせる歌い回しの巧みさに、今回は余裕の貫禄が感じられた。ドイツ人にも劣らぬ言葉に対する感性と、それを活かした表現力で、ドイツリートの真髄を聴かせる姿は誠に頼もしい。「野ばら」では、有節歌曲でありながら、バラードのようなドラマで聴き手を魅了。極めつけはレーヴェとシューベルトによる2つの「魔王」。4役の歌い分け、というより、それぞれの役の世界の迫真のリアリティとドラマ性に胸が押しつぶされそうになった。2つの作品を並べることで、作曲家が言葉を音でどう伝えたかったか、違いがよく分かった。シューベルトの作品の凄さを改めて感じたと共に、変化に乏しいと思っていたレーヴェの曲が、こんなにも豊かな表現力で迫って来たことは驚きだった。

そしてピアノ!朴さんのピアノには、音楽の核心にストレートに到達して響かせる冴えと的確さがある。感性が研ぎ澄まされてリアリティに富み、瑞々しいだけではなく、詩情にも溢れている。どんな曲でも、それが持つエッセンスを見事に捉えて聴かせるピアノにはただ感嘆。これには、朴さんの歌詞もひっくるめた演奏曲目への並々ならぬ真摯な取り組みが窺える。いつもながら自身のブログに歌詞対訳を載せ、企画の中心人物として演奏会の要の役目を担い、見事にそれを成し遂げて「敬具」で締めた。

★会場と聴衆の素晴らしさ
このような演奏会を100人そこそこの音楽堂で聴けるとは何と贅沢なことか。一緒に聴いた奥さんは、こんな素晴らしいコンサートはもっと大勢の人に聴いてもらいたい!と言っていた。クリスマスにちなんだユーモラスなアンコールに続いて、聴衆も一緒に「もろびとこぞりて」と「聖しこの夜(ドイツ語)」を「合唱」。みんなびっくりするほどいい声で歌に参加していた。こういう聴衆が集まる場だからこそ実現したこともあるかも。次は何をやるのか、今から楽しみだ。

おと と おと と Vol.2 2012.5.4
おと と おと と Vol.1 2011.10.16

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