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映画「台湾人生」鑑賞記

2009年09月02日 | おもしろすぎる台湾

8月27日(木)

映画「台湾人生」をポレポレ東中野で観た。6月から上映されていて、新聞の紹介記事なども読んで気になっていたが行きそびれていたところ、定期的にメールレターを頂いている中学時代の恩師の澤村先生からこの映画の鑑賞レポートが届いて、台湾と台湾の人々がこんなに好きな自分がこの映画を見逃すことはやっぱりできない、という気持ちになった。

映画は日本統治時代に日本人として青少年期を生きた5人の台湾人へのインタビューで綴られたドキュメントだ。台湾の日本統治やその後の国民党の支配による戒厳令の時代、その中を生きた人達の日本への愛憎入り交じった複雑な気持ちについては折に触れて本やネットで読んでいたが、台湾のいろいろな場所でそれぞれの人生を歩んできた5人が自らの口から語る体験や日本への思いは重く心に迫ってきた。

この映画に登場する5人の方々から共通して感じたのは、穏やかな中に貫かれた芯の強さ。時代に翻弄されながらも、決して人生を無駄に生きてはこなかった、という自負と信念がその言葉や表情から滲み出てくる。そんな彼ら彼女らが、時に感極まって目に涙を浮かべながら激しい口調で訴える言葉は、余計に胸に突き刺さってくる。

それは、彼らが受けた喪失感がいかに大きかったかを物語っているように思われた。同化政策によって皇国思想を叩き込まれ、日本人として教育を受けて生きて来たにもかかわらず、厳然と立ちはだかる差別の壁にぶつかり、それを乗り越えて人生を切り開こうと日本人以上に日本人らしく生き、日本のために尽くしてきた彼らが、敗戦と同時にそれまで育んできたもの、信じてきたもの全てを失い、新たな支配者、しかもそれまでの敵国の人間から辛酸を舐めさせられる。

戦後、国民が一致団結して復興に取り組み、高度経済成長を築き上げ、自信を取り戻すことで敗戦による喪失感を克服して行った日本人に対し、敗戦と同時に日本から切り離され、取り残されてしまった「元日本人」の喪失感は計り知れなく大きく、また戦後の日本の台湾軽視政策のために余計に長く尾を引くものとなったに違いない、ということを再認識させられた。彼らの心の一部は日本統治の時代に置き去りにされているのではないか。そしてそれは裏返せば、彼らがどんなに真剣に統治時代を生きてきたか、そうせざるを得なかったかという証でもある。

酒井充子監督の「台湾の日本語世代のみなさんにお会いするたびに、背筋がピンと伸びる思いがし、自分が日本人であるということについて考えさせられます。」というメッセージは僕もいつも感じるものだ。日本に熱い思いを寄せる台湾の日本語世代の人達の多くは、現代の日本人が殆ど忘れてしまっているような「日本精神」と言えるものをその当時と変わらず持ち続けているのもそうした彼らの生き様の表れではないだろうか。

こうした日本に熱い思いを寄せる人達や、やはり映画にも登場するようなそれを引き継ぐ若い世代の人達に接して「台湾は親日的」と思うのはいい。世界にそんな親日国家があったとしたらそれはとても素敵なことではないか。でもそこには根深くて複雑な歴史や言葉では表せない台湾人の思いがあることを知らなければ、日本人は思い上がりを助長させて行ってしまうだろう。この映画にはそんな台湾人の心の奥底からのメッセージが詰まっている。

映画を一緒に観た奥さんが「三峡で会ったあのおじいさんにまた会いたくなった。」と言った。あのおじいさんもこの映画に出てきた方たちと同じものを持っていた。

「台湾人生」は台湾が好きな人、台湾に興味がある人、日本の近代史に肌で触れたい人には必見の映画だ。


「台湾人生」公式サイト

「日本に捨てられた日本人・・・?」三峡で出会ったおじいさん

おもしろすぎる台湾


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