facciamo la musica! & Studium in Deutschland

足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

芸祭2009 ~1日目~

2009年09月04日 | pocknのコンサート感想録2009
9月4日(金)

藝祭 声楽科3年によるオペラ:モーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」 
~奏楽堂~

毎年楽しませてもらっている3年オペラ、学生の歌い手のなかから近い将来プロのオペラのステージでも活躍しそうな才能を発見できるのも楽しみのひとつだが、今回の「コジ」は舞台全てが大変充実していて、記憶にある3年オペラ(E年オペラの時代から)の中でも最も素晴らしい公演だった。

終始耳を引いたのは田中祐子さん指揮の器楽科有志オーケストラ!序曲の最初のトゥッティを聴いた途端、その濁りのない清々しい響きにドキッとし、ソロオーボエの甘美な歌に聴き耳を立て、軽やかに波打つ弦のさざ波の瑞々しさ、表情の豊かさに心踊らされ、このオペラの世界に誘う序曲がまさにその役割を見事に演じた後も、オケの奏でる歌と息遣いに常に魅了された。

「甘美さ」は全幕を通してオーボエ以外の管楽器でも、弦楽合奏においても随所で惚れ惚れさせてくれたし、鼓動を感じさせる息遣いは歌い手達が加わったアンサンブルで益々息づき、モーツァルトのオペラに欠かせない「歌」と「躍動感」に満ちていた!田中祐子という指揮者の名前、覚えておこう。

歌手達もそれぞれの役に真摯に取り組み素晴らしい歌と演技を披露した。1幕ずつ役を分けあった歌い手達のレベルがみんな高かったのがこの公演のレベル全体をぐんと引き上げた。中でも素晴らしいと思ったのは1幕でドラベッラを歌った脇園彩さんと、2幕でグリエルモを歌った深瀬廉さん。脇園さんには一声を発しただけで衆目を集めるソリストとしての魅力がある。ふくよかで優美な大人の魅力に溢れ、知的な頼もしさも持ち合わせている。深瀬さんは潤いと艶のある声と豊かな表現力で安定した歌を聴かせてくれ、ドラベッラを口説き落とす場面も貫禄十分だった。

その他、貞節な気高さを感じた2幕フィオルディリージ役の松下美有紀さん、愛憎交錯する揺れる気持ちを見事な美声で表現した2幕フェルランド役の佐藤直幸さん、色っぽい魅力を放った2幕デスピーナの關さや香さん等々名前はあげきれない。

それに加えて高森弘明さんの演出も光っていた。ステージ両側に布に描かれた2階建ての家屋は実際に2層として機能し、その家屋と共にシンメトリーの人物配置を多く使用したのは見栄えもスッキリしていたしとても分かりやすい。人物の動きも明瞭で無駄がなく、登場人物の状況や心情を過不足なく表現していた。序曲の終わり”Cosi fan tutte”のメロディーに合わせてアルフォンが講釈する様子を見せたり、変装して登場した男達にいきなりドラベッラ(フィオルディリージだったっけ…)がうっとりした表情を見せたりなど、楽しい仕掛けも散りばめられ、とても好感が持てた。

この公演、「学生にしては」という前置きなしに絶賛したい。出演者だけでなく、裏方のスタッフを務めた学生達も字幕スクリーンで名前を紹介されてステージに登場して製作者達が勢ぞろいするのを見ていたら何だかじーんときた。これをステップに更に大きな舞台を目標に、皆さんの近い将来の活躍をお祈りします。

Sinfonia Concertante Es-Dur KV297
~第6ホール~

モーツァルトの木管のための協奏交響曲を木管9重奏の編曲版で聴いた。原曲のソリスト達に同じ編成+弦バスが加わるかたち。オーケストラで聴き慣れた曲で、とりわけ弦が歌うメロディーを木管がどのように表現できるものかと思ったが、響きが豊かで柔らかく、原曲がもっているほんわりした質感がとてもよく出ていた。みんなとても積極的に曲に取り組み能動的で活き活きした演奏を楽しませてくれた。この曲を聴いていると夢見心地になってしまうことが多いのだが、今回もやはり気持ちよくなって時々うとうとしてしまった。モーツァルトの魔法か、それともやっぱりこれは美しい曲だがモーツァルトの真作ではないせいだろうか…

サックス科牧場
~第6ホール~

丸場慶人/運動会ファンタジー
オーリック/三重奏曲
アルベニス/セビリア
長生淳/カルメンラプソディー


サクソフォーン専攻生によるサックスのアンサンブル。多彩な曲目でサックスの魅力を堪能、楽器の表現力と音色の豊かさを再認識した。「運動会ファンタジー」ではプレイヤー達が運動着姿で登場して組み体操や短距離走をやりながらの離れ業演奏を聴かせ、オーリックの三重奏曲ではピカチュウの被り物が登場したりと、視覚的な楽しみも加わった。

「運動会ファンタジー」の軽快さ、オーリックのチャーミングで活き活きとした演奏も良かったが、「セビリア」と「カルメンラプソディー」はとりわけ充実。表情が濃く、アンサンブルがよく練られて、リアルで臨場感に溢れる演奏が胸に迫ってきた。

邦楽科大演奏会より
~奏楽堂~

牧野由多可/春の海幻想
長唄「勧進帳」


「春の海幻想」は有名な「春の海」をモチーフに尺八と箏の独奏と、大所帯の箏のために書かれたコンチェルトグロッソのような作品。友常聖武さんの多彩な音色によるしなやかな尺八の演奏がとりわけ印象に残った。竹一本からこのような豊かな表現ができるというのは驚きだ。コンチェルトのトゥッティのように大編成の箏が合奏するのは圧巻だが、和楽器がこれだけ集まって西洋音楽顔負けの一糸乱れぬアンサンブルを聴かせるとどことなく居心地の悪さを感じてしまう。

それに比べると、伝統的な歌舞伎音楽の「勧進帳」はいい。唄の節回しはスーッと胸に沁みてくるし、聴かせどころで鼓や笛が総動員して盛り立てるあたりは、「粋」という言葉がぴったりで、演奏と気持ちが共振して気持ちが昂ぶってくる。音楽の作りは西洋音楽とは違うし、邦楽は全く詳しくないのにこれほどまでに共感してしまうのは、見事な演奏のおかげはもちろんだが、日本人の「血」が自分に流れていることを感じずにはいられなかった。唄は全て女性が担当していて、ピッチは男性が歌う時と同じでも声の質は聞き慣れている長唄とは違ったのも新鮮だった。

忘れられた作曲家コルンゴルト
~第1ホール~

バレー=パントマイム『雪だるま』より「イントロダクション」
歌劇『死の都』Op.12より「ピエロの踊りの歌」
子供のための4つの小さな風刺画Op.19
弦楽四重奏曲第3番ニ長調Op.34より第4楽章
ウィーンに捧げるソネットOp.41


最近再評価の機運が出始めているコルンゴルトは20世紀始めから半ばにウィーンとアメリカで活躍した作曲家。これまで殆んど顧みられなかった作品のいくつかを時代に沿って取り上げ、スライドつきの解りやすい解説を加えながら紹介するという興味深い企画。コルンゴルトの置かれた境遇や生い立ちが作風や作品に与えた影響について話を聞きながら作品に触れ、これまで殆んど触れたことがなかった作曲家を身近に感じることができた。

紹介された曲はどれも興味を引いたが特に感銘を受けたのは2つの歌。心のひだに入り込んでくるようなとても深い感情表現をもつロマンティックな音楽だ。田中俊太郎さんのバリトンは作品を大きく捉えた上でとても丁寧に深い表情を歌い上げ、ドイツ語の発音にも奥行きがあって良かった。

今回の企画はコルンゴルトに傾倒し、少しでも作品を世に紹介したいという楽理科の中村伸子さんの熱意に賛同して演奏仲間が集まって実現したそうだ。中村さんはまだ日本でまだ舞台上演されていないオペラ「死の都」の初演に関わりたいと意欲を語っていた。ウォルフの歌曲の世界にも通じるものを感じたコルンゴルトがどんなオペラを作ったのか、シュトラウスとはまた違ったロマンティックな側面に接することができそうでとても興味が沸いた。近い将来の初演に向けて、中村さんを始めとする若い世代の奮闘を期待したい。

芸祭2009トップへ

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 検証「日本の常識」 ~キッ... | トップ | 芸祭2009 ~2日目~ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

pocknのコンサート感想録2009」カテゴリの最新記事