7月16日(日)第8回新作歌曲の夕べ
東京文化会館小ホール
【曲目】
1.高島 豊:金子みすヾの童謡による歌曲集より 花のたましい、星とたんぽぽ、積もった雪、大漁
2.清水 篤:バリトンとピアノのための5つの歌曲 (詩:銀色夏生)
3.高見富志子:喪服の蝶(詩:三好達治)
4.篠原 真:愛三章(詩:大倉マヤ)
5.鈴木静哉:うたふやうにゆつくりと・・・ (詩:立原道造)
6.森 潤子:テノールとバリトンのための組曲「君にうたう」から
夢のあと(詩:立原道造) 愛について(詩:殿岡辰雄) 君がほしい(詩:安水稔和)、眠りの誘い(詩:立原道造)
7.赤石敏夫:谷川俊太郎詩集「すこやかに おだやかに しなやかに」による3つの歌曲
8.野澤啓子:猫ばっか PartⅣ(詩:佐野洋子)
【演 奏】
S:寺島夕紗子(4,7)/MS:紙谷弘子(3)/T:小林大作(4,8)、横山和彦(1,6)/Bar: 鎌田直純(2,5)、黒田 博(6)/
Pf:亀澤奈央(7)、篠原 真(4)、清水 篤(2)、藤原亜美(3,5)、堀越夕子(1,6)、野澤啓子(8)
「第8回新作歌曲の夕べ」のトップを飾った高島豊の「金子みすゞの童謡による歌曲集から」では、テノールの横山さんがみすゞの詩を深く読みこみ、言葉に魂を与えつつ心に刻みこむように歌ったのがたいへん印象に残った。
「花のたましい」の聴かせどころ「なきがらさえも」の噛み締めるような歌唱や、「星とたんぽぽ」での「沈んでいる」や「かくれてる」の息をつめてじっと潜んでいるような忍耐の表現がとりわけ素晴らしい。「積もった雪」では雪のいろいろな表情を見事に描き分け、会場の空気が一気に引き締まり、みすゞの歌への集中度が増して会場がしーんと静まりかえった。冷たい雪にみすゞの温かさが宿ったような堀越さんのピアノの後奏も見事だった。そして無音の余韻を打ち砕くようなピアノの鮮やかな前奏に導かれて始まった「大漁」で気分は高揚。華やかでありながらどこか悲壮感の漂う横山さんの歌は、「とむらい」という言葉で葬送の音楽へと転じるその空気を的確に捉え、重苦しくもみすゞの詩の持つ孤高の品格を大変良く表現し、聴く者の心を掴み続けた。素晴らしい「みすゞの歌」を聴くことができた。
その他の作品もそれぞれが個性的でいろいろな歌を聴くことができて良かった。高見富志子の「喪服の蝶」での心のひだに入りこむような綿密な筆致は見事だったし、篠原 真の「愛三章」で聴いた、手に取るように伝わってくる二人の登場人物の間で起こる心の動きは、歌手がジェスチャーを伴ったからだけではなく、音楽そのもののシンプルな説得力を感じた。
鈴木静哉の「うたふやうにゆつくりと・・・」は詩情あふれ、細やかさとドラマ性を兼ね備えた曲だった。
森 潤子の「君にうたう」では、横山さんのベルカントが本当に滑らかで美しかった「愛について」と、恐ろしい内容の歌詞をユーモアを交えて歌った後に「君がほしい」と真剣に訴える「君がほしい」がとりわけ印象深い。最初に出てくる「君がほしい」という言葉がとても印象的なので、この歌詞を繰り返してしまうのは反ってもったいない気がした。
佐野洋子の猫の詩をシリーズ的に取り上げている野澤啓子の「猫ばっか」は今回で PartⅣ。毎回楽しみにしているが、今回は小林さんの張りと輝きのある美声で抜群の表現力のある歌唱も手伝ってとりわけ印象に残った。猫が「ゴムのようにのびる」というところのユーモラスであり少々不気味なピアノ伴奏と共に歌われる官能的な歌や、小林さんの演技も伴った鉄格子越しの抱擁の場面などが、聴き手をどんどんと詩が描く情景へと引き込んで行った。来年でこの猫シリーズは完結するとのこと。これは聞き逃せない。
8回目を迎えた「新作歌曲の夕べ」はいろいろな個性の歌が一流の演奏で聴けるということで大変興味深いシリーズ。作曲家と歌手が共同して演奏会を企画して作り上げているのが、演奏者が単に「与えられた仕事をこなす」という以上に真剣に新作に取り組みむことになり、良い演奏を生んでいるように思う。
東京文化会館小ホール
【曲目】
1.高島 豊:金子みすヾの童謡による歌曲集より 花のたましい、星とたんぽぽ、積もった雪、大漁
2.清水 篤:バリトンとピアノのための5つの歌曲 (詩:銀色夏生)
3.高見富志子:喪服の蝶(詩:三好達治)
4.篠原 真:愛三章(詩:大倉マヤ)
5.鈴木静哉:うたふやうにゆつくりと・・・ (詩:立原道造)
6.森 潤子:テノールとバリトンのための組曲「君にうたう」から
夢のあと(詩:立原道造) 愛について(詩:殿岡辰雄) 君がほしい(詩:安水稔和)、眠りの誘い(詩:立原道造)
7.赤石敏夫:谷川俊太郎詩集「すこやかに おだやかに しなやかに」による3つの歌曲
8.野澤啓子:猫ばっか PartⅣ(詩:佐野洋子)
【演 奏】
S:寺島夕紗子(4,7)/MS:紙谷弘子(3)/T:小林大作(4,8)、横山和彦(1,6)/Bar: 鎌田直純(2,5)、黒田 博(6)/
Pf:亀澤奈央(7)、篠原 真(4)、清水 篤(2)、藤原亜美(3,5)、堀越夕子(1,6)、野澤啓子(8)
「第8回新作歌曲の夕べ」のトップを飾った高島豊の「金子みすゞの童謡による歌曲集から」では、テノールの横山さんがみすゞの詩を深く読みこみ、言葉に魂を与えつつ心に刻みこむように歌ったのがたいへん印象に残った。
「花のたましい」の聴かせどころ「なきがらさえも」の噛み締めるような歌唱や、「星とたんぽぽ」での「沈んでいる」や「かくれてる」の息をつめてじっと潜んでいるような忍耐の表現がとりわけ素晴らしい。「積もった雪」では雪のいろいろな表情を見事に描き分け、会場の空気が一気に引き締まり、みすゞの歌への集中度が増して会場がしーんと静まりかえった。冷たい雪にみすゞの温かさが宿ったような堀越さんのピアノの後奏も見事だった。そして無音の余韻を打ち砕くようなピアノの鮮やかな前奏に導かれて始まった「大漁」で気分は高揚。華やかでありながらどこか悲壮感の漂う横山さんの歌は、「とむらい」という言葉で葬送の音楽へと転じるその空気を的確に捉え、重苦しくもみすゞの詩の持つ孤高の品格を大変良く表現し、聴く者の心を掴み続けた。素晴らしい「みすゞの歌」を聴くことができた。
その他の作品もそれぞれが個性的でいろいろな歌を聴くことができて良かった。高見富志子の「喪服の蝶」での心のひだに入りこむような綿密な筆致は見事だったし、篠原 真の「愛三章」で聴いた、手に取るように伝わってくる二人の登場人物の間で起こる心の動きは、歌手がジェスチャーを伴ったからだけではなく、音楽そのもののシンプルな説得力を感じた。
鈴木静哉の「うたふやうにゆつくりと・・・」は詩情あふれ、細やかさとドラマ性を兼ね備えた曲だった。
森 潤子の「君にうたう」では、横山さんのベルカントが本当に滑らかで美しかった「愛について」と、恐ろしい内容の歌詞をユーモアを交えて歌った後に「君がほしい」と真剣に訴える「君がほしい」がとりわけ印象深い。最初に出てくる「君がほしい」という言葉がとても印象的なので、この歌詞を繰り返してしまうのは反ってもったいない気がした。
佐野洋子の猫の詩をシリーズ的に取り上げている野澤啓子の「猫ばっか」は今回で PartⅣ。毎回楽しみにしているが、今回は小林さんの張りと輝きのある美声で抜群の表現力のある歌唱も手伝ってとりわけ印象に残った。猫が「ゴムのようにのびる」というところのユーモラスであり少々不気味なピアノ伴奏と共に歌われる官能的な歌や、小林さんの演技も伴った鉄格子越しの抱擁の場面などが、聴き手をどんどんと詩が描く情景へと引き込んで行った。来年でこの猫シリーズは完結するとのこと。これは聞き逃せない。
8回目を迎えた「新作歌曲の夕べ」はいろいろな個性の歌が一流の演奏で聴けるということで大変興味深いシリーズ。作曲家と歌手が共同して演奏会を企画して作り上げているのが、演奏者が単に「与えられた仕事をこなす」という以上に真剣に新作に取り組みむことになり、良い演奏を生んでいるように思う。