6月10日(金)ジュリアード弦楽四重奏団
~クァルテットの饗宴2016~
紀尾井ホール
【曲目】
1.モーツァルト/弦楽四重奏曲 第19番ハ長調「不協和音」K.465
2.ワーニック/弦楽四重奏曲第9番(2015)(日本初演)
3.ドビュッシー/弦楽四重奏曲 ト短調 Op.10
【アンコール】
1. ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第16番ヘ長調 Op.135~第3楽章
2. シューベルト/弦楽四重奏曲第12番ハ短調D.703(四重奏断章)
ジュリアード弦楽四重奏団は、今年で結成70周年を迎える老舗中の老舗の弦楽四重奏団だ。メンバー交代を重ねつつ、長年に渡って育んできた精緻でかつ熟成されたアンサンブルの妙技を堪能した。
最初のモーツァルトは、細部まで丁寧で彫りの深い演奏。アンサンブルがじっくりとよく練られ、発酵した香りと味わいを醸し出していた。2013年にジュリアードのメンバーにヴィオラの今井信子が加わって聴いたモーツァルトの五重奏曲のアグレッシブな演奏とは随分趣を異にした落ち着いた演奏。
続くのワーニックの作品は、このカルテットのために書かれた作品の本邦初演。2楽章構成で、第1楽章は一昔前の模範的「ゲンダイオンガク」といった感じだったが、第2楽章は宙をエンドレスで漂うような不思議な感覚の音楽。4人のプレイヤーによって柔らかくて壊れやすい泡が、ふわりとふくらんでは消えて行くようなデリケートで美しい響きや、3次元的な遠近感が印象に残った。
休憩を挟んで演奏されたドビュッシーは文句なしの名演。アンサンブルは精緻にして滑らか、そして沸き上がるテンションが音楽に伸びやかで躍動するムーブマンをもたらす。ファースト・ヴァイオリンを受け持つリンのほどよい粘りけが施されたスウィングする伸びと躍動、チェロのクロスニックは、音楽全体の方向性を柔軟かつ雄弁に示して行く。タッピングのヴィオラのふくよかで奥深い響きは、アンサンブルに一層の芳香を加える。セカンド・ヴァイオリンはパートとして目立つ場面は少ないが、コープスは随所で「心の声」を奏でていると感じさせた。
4人のプレイヤーはそれぞれが豊かな個性を持っているが、互いに融合し、連携し、或いは対峙しつつ一つのアンサンブルを作り上げて行く。丁寧に裏ごしして長い時間コトコトと弱火で仕上げた極上のグリーンピーススープのような滑らかさと木目細かさ、そして香り高さを聴かせた第3楽章。そして第4楽章は、毛細血管に至るまで身体中の血管を新鮮な血液が勢いよく巡っているよう。身体の部位によって流れる方向は様々だが、全てが連携仕合い、命を保つことに精力を結集しているような脈々とした生命力を感じる演奏に、まさに血湧き肉踊った。
そんな興奮を穏やかに鎮め、温かいもので満たしてくれたアンコール1曲目のベートーヴェン最晩年の作品、そして「断章」でありながら、人生の様々なシーンが凝縮されたようなシューベルトの作品を聴けたのも大きなプレゼントだった。シューベルトの優しくも哀愁を帯びたリンによるファースト・ヴァイオリンの旋律を、そっと包み込むように輪郭を紡いで行くクロスニックのチェロの味わい深い存在感。間もなく退団するクロスニックのチェロを心に刻むことができた。
こうしてメンバーが交代しても、ジュリアード弦楽四重奏団は常に「最高」に心に残る演奏を目指しつつ成長を続けることだろう。
ヴィオラスペース2013(ジュリアード弦楽四重奏団出演) 2013.5.29 石橋メモリアルホール
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1.モーツァルト/弦楽四重奏曲 第19番ハ長調「不協和音」K.465
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3.ドビュッシー/弦楽四重奏曲 ト短調 Op.10
【アンコール】
1. ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第16番ヘ長調 Op.135~第3楽章
2. シューベルト/弦楽四重奏曲第12番ハ短調D.703(四重奏断章)
ジュリアード弦楽四重奏団は、今年で結成70周年を迎える老舗中の老舗の弦楽四重奏団だ。メンバー交代を重ねつつ、長年に渡って育んできた精緻でかつ熟成されたアンサンブルの妙技を堪能した。
最初のモーツァルトは、細部まで丁寧で彫りの深い演奏。アンサンブルがじっくりとよく練られ、発酵した香りと味わいを醸し出していた。2013年にジュリアードのメンバーにヴィオラの今井信子が加わって聴いたモーツァルトの五重奏曲のアグレッシブな演奏とは随分趣を異にした落ち着いた演奏。
続くのワーニックの作品は、このカルテットのために書かれた作品の本邦初演。2楽章構成で、第1楽章は一昔前の模範的「ゲンダイオンガク」といった感じだったが、第2楽章は宙をエンドレスで漂うような不思議な感覚の音楽。4人のプレイヤーによって柔らかくて壊れやすい泡が、ふわりとふくらんでは消えて行くようなデリケートで美しい響きや、3次元的な遠近感が印象に残った。
休憩を挟んで演奏されたドビュッシーは文句なしの名演。アンサンブルは精緻にして滑らか、そして沸き上がるテンションが音楽に伸びやかで躍動するムーブマンをもたらす。ファースト・ヴァイオリンを受け持つリンのほどよい粘りけが施されたスウィングする伸びと躍動、チェロのクロスニックは、音楽全体の方向性を柔軟かつ雄弁に示して行く。タッピングのヴィオラのふくよかで奥深い響きは、アンサンブルに一層の芳香を加える。セカンド・ヴァイオリンはパートとして目立つ場面は少ないが、コープスは随所で「心の声」を奏でていると感じさせた。
4人のプレイヤーはそれぞれが豊かな個性を持っているが、互いに融合し、連携し、或いは対峙しつつ一つのアンサンブルを作り上げて行く。丁寧に裏ごしして長い時間コトコトと弱火で仕上げた極上のグリーンピーススープのような滑らかさと木目細かさ、そして香り高さを聴かせた第3楽章。そして第4楽章は、毛細血管に至るまで身体中の血管を新鮮な血液が勢いよく巡っているよう。身体の部位によって流れる方向は様々だが、全てが連携仕合い、命を保つことに精力を結集しているような脈々とした生命力を感じる演奏に、まさに血湧き肉踊った。
そんな興奮を穏やかに鎮め、温かいもので満たしてくれたアンコール1曲目のベートーヴェン最晩年の作品、そして「断章」でありながら、人生の様々なシーンが凝縮されたようなシューベルトの作品を聴けたのも大きなプレゼントだった。シューベルトの優しくも哀愁を帯びたリンによるファースト・ヴァイオリンの旋律を、そっと包み込むように輪郭を紡いで行くクロスニックのチェロの味わい深い存在感。間もなく退団するクロスニックのチェロを心に刻むことができた。
こうしてメンバーが交代しても、ジュリアード弦楽四重奏団は常に「最高」に心に残る演奏を目指しつつ成長を続けることだろう。
ヴィオラスペース2013(ジュリアード弦楽四重奏団出演) 2013.5.29 石橋メモリアルホール
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