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東京二期会オペラ劇場「カヴァレリア・ルスティカーナ」&「パリアッチ(道化師)」

2012年07月13日 | pocknのコンサート感想録2012
7月13日(金)東京二期会オペラ劇場
~二期会創立60周年記念公演~

東京文化会館


【演目1】
マスカーニ/「カヴァレリア・ルスティカーナ」
【配役】
サントゥッツァ:渡辺絢子、トゥリッドゥ:岡田尚之、アルフィオ:小川裕二、ローラ:富岡明子、ルチア:栗林朋子
【演目2】
レオンカヴァッロ/「パリアッチ(道化師)」
【配役】
カニオ:大野徹也、ネッダ:嘉目真木子、トニオ:桝 貴志、ベッペ:小原啓楼、シルヴィオ:塩入功司

【演出】田尾下 哲
【装置】幹子 S.マックアダムス 【衣裳】小栗菜代子 【照明】沢田祐二

【演奏】
パオロ・カリニャーニ指揮 東京フィルハーモニー交響楽団/二期会合唱団

東京二期会による名作オペラ2本立て公演。どちらもとても楽しめた。これら2つの作品はヴェリズモオペラという点で共通し、規模や上演時間の関係でカップリングされることが多いが、両者の間にはもちろん何ら関係性はない。しかし、セットものとして同一の指揮者、スタッフは演出家をはじめ同一、舞台装置の大枠の構造も同じで上演されることで、却って作品としての両者のコントラストが明確になる。今夜の上演も2つの作品のそれぞれの特徴が鮮やかに具現され、印象深いステージとなった。

♪♪♪

「カヴァレリア・ルスティカーナ」では舞台はモノトーンが基調で、登場人物の行動や心情を第3者の目で凝視したような冷静さに支配されていた。ここで効果を発揮したのが様々に配置を変えるたくさんの椅子と、そこに座る群衆の扱い。彼らはいつでも物語の証人であり、衆人環視の役割を担う。序曲の演奏中から、トゥリッドゥとローラの情事を環視していたのが印象的だったが、陪審員裁判を思わせるような厳しい目の存在が、全体の空気を引き締め、統一感があたえられていた。

歌手でとりわけ光っていたのがサントゥッツァを歌った大山亜希子さん。芯のある美声でトゥリッドゥへの思いを貫き通す姿が、健気なだけでなく、気丈で気高い女性として伝わってきた。声も一番よく通っていて、存在感も抜群だった。トゥリッドゥ役の岡田尚之さんのベルカントなテナーも聞き応えがあった。

舞台や衣装が現代の設定なのはいいが、今風の格好をして昔の物語を演じるのにはいささか無理を感じるところもあった。一番それを感じたのが、このオペラのクライマックスとも言える決闘の前の場面。いくらサントゥッツァが一途な娘でも、まだ結婚前の自由な身。トゥリッドゥがもし死んだら、自分の母親に「彼女の母として面倒を見てくれ」なんて、現代人のサントゥッツァにとってはありがた迷惑に違いない。そもそもトゥリッドゥはすがるサントゥッツァに全く取り合わなかったではないか。

♪♪♪

「パリアッチ」も時代を現代(少し前のアナログ時代?)に移し変えていたが、モノトーンが基調だった「カヴァレリア・ルスティカーナ」と比べると、色彩豊かでポップな舞台だった。そして、オペラ自体がよりエモーショナルなものであることが伝わってきた。劇中劇が演じられるというオペラのシチュエーションからして、群衆の存在が重要で、実際群衆が巧みに扱われていたが、ここでさっきの「カヴァレリア」でも群衆が証人として巧みに扱われていたことを思い出した。2つのオペラがこうした演出で結び合わされているのが面白い。

ここでの群衆の扱いでとても印象に残ったシーンがある。それは「衣装をつけろ」の場面で、客席に陣取った観衆が、無音のスローモーションで拍手喝采を送るシーン。映画的な効果を狙ったこの演出は、パリアッチの孤独感、無情感が増幅してリアルに胸に迫ってきた。

カニオ役、大野徹也さんの歌と演技はこの場面に限らず、異様なほどの存在感を放っていた。第1幕でカニオが「滅多なことを口にするな」とトニオをたしなめて歌う場面から、殺気だった迫真の歌唱に身震いがするほどだったが、劇中劇での血迷った末の悲劇の結末に至るまで、聴衆をオペラの中に引きずり込んだ。他の歌手達も健闘し、合唱も迫力があり、幕切れに向かい最高潮までテンションを高めていった。

♪♪♪

カリニャーニ指揮の東フィルには、「カヴァレリア」でも「パリアッチ」でも感心した。ソロやデュオを繊細に色づけ、合唱を景気づけ、実に雄弁でしなやかに物語を表現していた。とりわけ「カヴァレリア」での香り高いハーモニーの美しさが心を捉えた。カリニャーニは歌心のある指揮者のようだ。

オペラに行く回数はコンサートよりはるかに少なく、更にイタリアオペラは滅多に観ないが、予習をしっかりやらないとちゃんと楽しめないシュトラウスやワーグナーのオペラと違って、こういうイタリアオペラは勉強しなくても楽しめていい。それも今夜のように質の高い上演に接すると、また二期会のオペラ公演に出かけたくなる。

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