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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

ジョナサン・ビス ピアノリサイタル

2008年02月13日 | pocknのコンサート感想録2008
2月13日(水)ジョナサン・ビス(Pf)
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
【曲目】
1. ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番ハ短調op.13「悲愴」
2. ヤナーチェク:ピアノソナタ変ホ長調「1905年10月1日、街頭にて」
3. ベートーヴェン:ピアノソナタ第15番ニ長調op.28「田園」
4. シューベルト:ピアノソナタ第20番イ長調D.959

【アンコール】
シューマン/子供の情景~詩人は語る

アメリカの若手ピアニスト、ジョナサン・ビスを知ったのは、去年NHKBSでバレンボイムが講師を務めるベートーヴェンのソナタのピアノレッスンで生徒として出ていたのを見たとき。その入魂の演奏姿勢に感銘を受けた記憶がまだ新しいときに、リサイタルのチラシを見かけたので是非生を聴いてみようという気になった。渋い選曲にも興味が湧く。

最初に演奏されたベートーヴェンの「悲愴」は抑制の効いた感情表現と控えめな音色で深さを追求した思索的なアプローチ。甘いメロディーで有名な第2楽章などでもロマンティックな表現をむしろ背景に押しやって、ベートーヴェン自らが「悲愴」と命名したこの曲のシビアな面をあぶりだしているよう。その真摯な演奏は好印象。

続くヤナーチェクは初めて聴く曲だが、民族楽器をかき鳴らすようなリアルな第1楽章も、鈍い痛みが生々しく伝わってくるような第2楽章も、音楽の真髄に迫ろうという姿勢が窺える。

再びベートーヴェン、「田園」の穏やかな曲想でもやはり「歌う」というよりも瞑想的。音楽が常に「問い」を発している。そしてその「問い」への答えがみつからないようなもどかしさを少々感じる。

後半はシューベルト晩年の大作。ダイナミックで開放的な印象が強い第1楽章もビスのピアノにかかるとむしろ地味で、やはりそこには「問いかけ」が聞こえる。第2楽章はこの曲の中で、そして恐らく今夜の演奏会の中で最も強烈な「気」を発した。前後のモノローグ的な部分は「冬の旅」の「辻音楽師」を想わせるような、打ちひしがれたような孤独感がひしひしと伝わり、中間部の激しい部分では、その孤独に独り抗おうとする緊張感が走る。結局力尽き、前半部分の再現では「涙」を思わせるような装飾音が痛々しさを助長する。

明るい輝きを聞かせる第3楽章も、慰め・癒しのある第4楽章の温かなメロディーも、この第2楽章の強烈なイメージにかすみ、つかの間の明るさや慰め、或いは手の届かないような遠方で静かに浮かべる微笑みの表情としてしか聞こえてこなかったのは、ビスの意図するところなのかも知れない。

これはこれでシューベルトの大切な一面に光を当てた演奏なのだろう。シューベルトだけではない。べートーヴェンも、ヤナーチェクも、そしてアンコールで弾いたシューマンの「子供の情景」でも、ビスの演奏からは音楽に潜む孤独感や悲壮感がじわりと伝わってくる。決して非情な姿ではなく、そこに「情」という温かみを伴うのが救いだが、もっと明るい光を当ててくれてもいいのに… と感じた人が他にもいないかなぁ…

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