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東京二期会オペラ劇場「蝶々夫人」

2024年07月23日 | pocknのコンサート感想録2024
7月19日(金)東京二期会オペラ公演
~ゼンパーオーパー、デンマーク王立歌劇場、サンフランシスコ歌劇場との共同制作~
東京文化会館
【演目】
プッチーニ/「蝶々夫人」

【配役】
蝶々夫人:髙橋絵理/スズキ: 小泉詠子/ケート:石野真帆/ピンカートン: 古橋郷平/シャープレス:与那城敬/ゴロー:升島唯博/ヤマドリ:小林由樹/ボンゾ:三戸大久/神官:菅谷公博 他
【演奏】
ダン・エッティンガー指揮 東京フィルハーモニー交響楽団/二期会合唱団


【スタッフ】
演出:宮本亞門/衣装:髙田賢三/装置:ボリス・クドルチカ/証明:喜多村 貴/ 映像:バルテック・マシス/美粧:柘植伊佐夫/舞台監督:飯田貴幸/公演監督:永井和子/公演監督補:大野徹也 他


世界の3つの歌劇場との共同制作で絶賛を博しているという「蝶々夫人」を、東京二期会の公演で観た。

上演中終始心を捉えたのは美しい舞台と雄弁なオーケストラだった。場面ごとに変化する大規模な映像から、室内に掛けられた打掛などの小道具まで、どれもが優美な香りを放ち、日本的な美意識を湛えていた。1幕での髙田賢三の衣装を纏った女たちの舞いは雅の極み。人物の動きや配置にも配慮が行き届き、典雅な美しさに溢れていた。蝶々さんが寝衣に着替えるシーンをシルエットで表現したり、愛のシーンに満天の星空を映し出したり、ピンカートンの帰りを待つシーンでは百花繚乱を見せたり、どれもがそれぞれのシーンに相応しく、幻想的で美しかったし、蝶々さんが自害の場面の真っ赤な照明は衝撃的だった。プロジェクションマッピングなどのハイテクと、リアルな舞台装置が自然に調和して出来上がった稀に見る美しいステージだった。

そんな舞台で終始鳴っていたエッティンガー指揮東フィルの演奏は繊細で柔軟、滑らかな語り口で雄弁に物語を表現していた。柔らかく甘美な表現から、非情な運命を告げるドラマチックで厳しい表現まで、このオペラの魅力を十二分に伝える演奏にホレボレした。色と艶のある響きが薫り立ち、極上の音を聴かせた。アンサンブルの響きも美しいし、各ソロパートの表現も絶品。エッティンガーの表現力と共に、東フィルの劇場オーケストラとしてのレベルの高さを改めて認識した。

舞台とオケの絶好のお膳立てで歌ったソリスト達も良かった。蝶々さんを歌った高橋絵理は、清澄な美しい声で蝶々さんの純粋でひたむきな心を繊細に表現し、気高さや強さも具えていた。「ある晴れた日に」にとりわけ強い印象はなかったが、これは他の歌でも常に良い歌を聴かせたことで、この有名なアリアだけが突出しなかったと見ることもできる。

このオペラの影の立役者、スズキ役の小泉詠子は、くっきりした美声で心の奥まで届く歌を聴かせ、聡明に真っ直ぐに物事を見て、蝶々さんを陰に陽に支えた。ゴローの心無い物言いに怒りを露わにする熱さも迫真ものだった。演技の所作も自然で無駄がなく、歌っていないときの動きも上品で、スズキ役に求められるものを余すところなく聴かせ、見せ、このオペラに細やかな陰影を与える存在感を示した。

シャープレス役の与那城敬は、太い声で真摯な態度や包容力を感じさせ、ピンカートン役の古橋郷平は少々軽めではあったが、癖のない明晰な歌唱は、ピンカートンが誠実な人物だったという演出には適役だったように思う。

これまでの定石だったピンカートンのイメージを覆す演出が最大の「売り」というこの公演は、幕が上がると病院の一室で、成人した蝶々さんの息子が死の床に就くピンカートンの手紙で蝶々さんについて読む場面から始まり、オペラ全体がピンカートンの回想として描かれるという、思い切った新たな切り口が試みられた。男尊女卑的な内容で「今、最も上演が難しい」とみられていることに抗い、ピンカートンの名誉回復を狙ったという宮本亞門の演出は発想としては面白いが、何の便りもよこさず、3年後に妻を連れて蝶々さんから子供を奪いに戻り、蝶々さんを死に追いやった事実は動かしようがない。幕切れに蝶々さんとピンカートンが抱き合うシーンも含めて絵空事にしか感じられなかった。今回の「蝶々夫人」は、そうした演出の趣旨とは違うところに感銘を受けた公演だった。

東京二期会オペラ劇場「ルル」 2021.8.31 新宿文化センター
東京二期会オペラ劇場「フィデリオ」 2020.9.4 新国立劇場


♪小泉詠子さんの歌をYouTubeで聴く♪
詩:金子みすゞ「積もった雪」
詩:金子みすゞ「鯨法会」
詩:金子みすゞ「さびしいとき」
MS:小泉詠子/Pf:田中梢
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美
「紅葉」
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美

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