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ホルショフスキ・トリオ

2018年11月12日 | pocknのコンサート感想録2018
11月10日(土)ホルショフスキ・トリオ
~Vn:ジェシー・ミルス/Vc:ラーマン・ラマクリシュナン/Pf:相沢吏江子~
ハクジュホール


【曲目】
1.シューマン/ピアノ三重奏曲 第1番ニ短調 Op.63
2.ウォリネン/ピアノ三重奏曲(1983)
3.ショスタコーヴィチ/ピアノ三重奏曲 第2番ホ短調 Op.67  
【アンコール】
♪ メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲 第1番ニ短調 Op.49~第2楽章

今日は絶好の行楽日和となり、アウトドアしたい気分。全く知らないトリオのコンサートチケットをどうして買ったんだろう…、とちょっと恨めしい気持ちでハクジュホールへ。でも、そんな多少のネガティブな気分を忘れる素晴らしい演奏会だった。

100歳の長寿を生きたピアノの巨匠、ミエチスラフ・ホルショフスキの名を冠したアメリカの「ホルショフスキ・トリオ」。メンバーのピアニスト、相沢吏江子がホルショフスキの最後の弟子だったことに加え、3人のメンバーは、ホルショフスキの演奏や人柄から強いインスピレーションを受けていることが、この名の由来だという。1人の芸術家の名の下に価値観を共有して結成されたトリオの演奏からは、強い結束力が伝わってきた。

まず、最初のシューマンを聴いて感じたのは、3人が目指す音楽の方向性が一つに収束されていること。それぞれが毛色の異なる個性を競わせるピアノ・トリオも面白いが、彼らは同じ方を向き、音色や表現を聴き合い、同じ呼吸で一つの明確なイメージを作り上げて行く。ヴァイオリンのミルスとチェロのラマクリシュナンも、パート譜ではなく、スコアを見ながら演奏しているかのようなアンサンブルの緻密さ。それでいて柔軟さがなくなることはなく、常に自然な呼吸で音楽を前へ進めて行くダイナミックな指向を感じた。音楽から一歩下がって全体を俯瞰した、悠然とした息遣いを感じる充実したシューマンだった。

続くウォリネンは、名前も知らない。演奏の前に、相沢さんが作曲家と作品について短くMCを入れた。作品については、「現代音楽は、やる方も聴く方も苦労が多いけれど、この曲には歌う部分や踊りもあって、魅力いっぱい」と紹介したので、リラックス系の楽しい曲かと思いきや、「新ウィーン楽派の隠れた逸材」とでも言いたくなる煌めきと緻密さ、厳しさを具えた音楽だった。実際は、ウォリネンはアメリカの作曲家で、80歳の今も元気で活躍しているとのこと。ホルショフスキ・トリオの3人は、パート同士で敏感に呼応し合いながら、アンサンブルの緻密さを一層発揮させ、アクロバット的なやり取りを展開し、音による美しい造形を聴かせた。「ピアノ三重奏曲」という曲名から多楽章構成だと思って聴いていたら、「1楽章」で終わってしまった。もっと続いて欲しいと期待してしまう曲、そして演奏だった。

最後はショスタコ。相沢さんがMCで、「第1次大戦への反戦が込められた、厳しく痛々しい音楽」と紹介。ラマクリシュナンのチェロによる冒頭の一糸乱れぬ長いハーモニクスによる歌が、全曲に貫かれた透徹とした精神を物語るかのように始まった。「反戦の音楽」と言っても、火曜日に聴いたファジル・サイのソナタのようなアグレッシブ一点張りではなく、押し殺した痛み、嘲笑、疑念、回想など、様々な要素が内在し、音楽の幅と奥行きを広げている。第3楽章は、相沢の弾くピアノの、胸に突き刺さるような和音の一撃一撃から始まる重く悲痛な歌。そして第4楽章では、熱を帯びた劇的な相沢のピアノと、弓の毛を度々切りながら激しく挑むミルスとラマクリシュナンの弦とが渡り合って作り上げる、焦げ付くような熱くて緊迫した圧巻のシーンが、このトリオの実力を見せつけた。

♪ブログ管理人の作曲♪
金子みすゞ作詞「さびしいとき」
金子みすゞ作詞「鯨法会」
以上2曲 MS:小泉詠子/Pf:田中梢(YouTube)
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美(YouTube)

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