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エマニュエル・パユ SOLO Vol.3

2022年07月14日 | pocknのコンサート感想録2022
7月11日(月)Fl:エマニュエル・パユ
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル


【曲目】
♪ テレマン/無伴奏フルートのための幻想曲第3番 ロ短調
♪ ブーレーズ/メモリアル(1985)
♪ テレマン/無伴奏フルートのための幻想曲第4番 変ロ長調
♪ モンタルベッティ/Memento Emmanuaile(2019)
♪ テレマン/無伴奏フルートのための幻想曲第8番 ホ短調
♪ マヌリ/なおのうごめき(2020)
♪ テレマン/無伴奏フルートのための幻想曲第9番 ホ長調
♪ デスプラ/エアラインズ(2018)
♪ テレマン/無伴奏フルートのための幻想曲第11番 ト長調
♪ ジャレル/点は、万物の始原であり…(2020)
♪ テレマン/無伴奏フルートのための幻想曲第12番 ト短調

【アンコール】
1.デスプラ/エアラインズ
2.ドビュッシー/シランクス(パンの笛)

東京オペラシティコンサートホールでのエマニュエル・パユによる「SOLO」を聴くのは2度目。初回を聴いて大きな感銘を受けたが、2回目は都合で聴けなかった。パユはこのホール「タケミツメモリアル」の音響がいたく気に入り、ここでのソロリサイタルを続けているそうだ。今回もバロックと現代曲を交互に並べ、休憩なしで11曲をたった一人で演奏し通した。バロックは全てテレマンの無伴奏フルートのための幻想曲から選ばれ、現代曲は1曲ずつ異なる作曲家の作品が演奏された。ブーレーズの作品以外はどれもパユのために書かれた曲とのこと。

“SOLO”と題されたこのリサイタルには、単なるソロリサイタルとは異なる独特の空気がある。それは静寂に支配されたなかで神聖な「舞」が行われるような空気だ。音楽が静寂のなかから静かにスッと立ち現れ、変幻自在の舞いを披露して、再び静寂のなかへ静かに消えてゆき、次の「舞」へと引き継がれていく。

パユが奏でるフルートは、無限の空間に浮遊する無数の音から、瞬間ごとに最も相応しい音を選んで並べ、そこに命を吹き込み、また空間に放っているよう。テレマンの音楽と現代曲はスタイルも音使いも大きく異なるが、それを交互に聴いていると、両者は時代の垣根を難なく超えて、能舞台のような精神世界で繋がっているようにも聴こえた。

絹糸のような美しい微音から、虫の羽音のような細かなフラッター、そして稲妻の眩い輝きを放つ強音まで、フルートからありとあらゆる音を難なく生み出して自在に操ったり、ppppppppp… といくつ”p”を並べても足りないような微弱な音が、淀みも揺れもなく真っすぐに伸びていったりするフルートの妙技は驚異的だし、こんな多種多様な音楽を全て通して演奏するのは、パユがそれぞれの楽曲を一つ上の次元から俯瞰して、一つの大きな作品として捉えているからではないかと思う。これはパユにしかできない神業と云ってもいいのではないだろうか。

休憩を入れず、途中で舞台袖に下がることもなく11曲を通して演奏するのは、こうしたコンセプトに基づいた行為に違いない。そうだとすると尚更、曲間で拍手が入ってしまったのは残念だった。7曲目のテレマンの後、またパラパラと入り始めた拍手を制止するように次の「エアラインズ」を始めたのは、パユの「拍手はしないで」という意思表示だったに違いないのに、この後にも拍手が入ってしまった。パユのこの気迫を感じたら、拍手なんてできないと思うのだが…

それをやっと感じてくれたのか、その後の2曲は拍手は入らず、最後のテレマンが終わったあとは短い時間ながら静寂が支配して、割れるような大喝采となった。パユが稀有な体験をまたひとつ与えてくれた。

エマニュエル・パユ&安楽真理子 2022.7.7 王子ホール
ニールセン:フルート協奏曲(F:パユ/P.ヤルヴィ指揮 N響)2019.9.26 サントリーホール
エマニュエル・パユ SOLO 2017.11.28 東京オペラシティ
パユ/ポーランド放送室内合奏団 2012.11.28 東京オペラシティ

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