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清水和音「ピアノ三重奏の夕べ」 ~都民芸術フェスティバル~

2009年03月05日 | pocknのコンサート感想録2009
3月5日(木)Pf:清水和音/Vn:松田理奈/Vc:向山佳絵子
東京文化会館小ホール

【曲目】
1.シューベルト/ピアノ三重奏曲第1番変ロ長調 D.898
2. ラヴェル/ヴァイオリンとチェロのためのソナタ  
3. ラヴェル/ピアノ三重奏曲イ短調
【アンコール】
ハイドン/ピアノ三重奏曲第25番ト長調「ハンガリー風」Hob.XV~第3楽章

ベテランの域に入った実力派の清水和音と向山佳絵子、期待の若手ヴァイオリニスト、松田理奈によるピアノ・トリオの演奏会。都民芸術フェスティバルはなかなかいい演奏会を企画する(もうひとつのマロさん出演の室内楽演奏会はチケットを予約したのに3日以内に発券しそびれたら売り切れてしまった。。。)。

最初に3人が持ってきたのは通常演奏会の後半に置かれるシューベルトの大曲のトリオだったが、春を呼ぶような軽くて柔らかな演奏に心が和んだ。向山さんのくっきりとした輪郭を描きつつ柔らかで抒情溢れるチェロと松田さんの高貴な香りが漂ってくるような上品で、やはりとても柔らかなヴァイオリンが醸しだす空気に、清水和音のピアノは更に春の匂やかな風を送り込み、極上のブレンドされた香りを作り出す。自然に呼吸し、伸びやかに歌う3人のアンサンブルがシューベルトの音楽の豊かで繊細な詩情を表現しつつ優しく語りかけてきた。

ヴァイオリンとチェロの2人だけで演奏されたラヴェルのソナタは、シューベルトの和やかなムードから場面転換したように高いテンションに支えられた熱のこもったデュオとなった。研ぎ澄まされた鮮やかさと、湧き出るエネルギーにぐいぐいと引き込まれていった。

3曲目は再び清水和音が加わり、今度はラヴェルのトリオ。1曲目の柔らかな詩情と2曲目の熱いテンションが合わさり、更に高いところへと導いてくれるような素晴らしい演奏で、この曲が最後に置かれたことを納得。この演奏会のタイトルは『清水和音「ピアノ三重奏の夕べ」』となっているが、実際このピアニストの存在感の大きさを感じた。清水のピアノが入ることで、アンサンブルに単にピアノの音が加わったというより遥かに大きな影響を与えていた。清水のピアノはアンサンブルの枝葉末節まで浸潤し、それによって空気に命が宿り、アンサンブルの音色に多彩で深い色合いを与える。そのようにアンサンブルに溶け込んで中から効能を発揮することもあれば、アンサンブルの柱として主導し、強烈な光を与える存在ともなる。そんな清水を中心に3人ががっちりとスクラムを組んだ充実し切った演奏に会場からは大きな拍手が沸いた。

アンコールでも清水のイニシアチヴが光っていたほかに、ピアノのバスの動きに合わせるだけのパートを弾く向山さんのチェロがとても活き活きと躍動しているのを感じた。ここでのピアノがフォルテピアノとかだったら更にチェロの存在感が際立ったかも知れない。

この演奏会ではアンサンブルの妙に加え、松田里奈のヴァイオリンが非常に印象に残った。3年ほど前に聴いた初リサイタル以来だったが、今回シューベルトで聴かせたような自然で滑らかな語り口や、香り高い幸福感に満たされるような音色は松田さんの成長の証ではないだろうか。人並みはずれた高いテンションに更にこうした魅力が加わっているのを感じると、また是非リサイタルを聴きたいという気になった。

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2 コメント

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Re: 主に松田さんのこと (pockn)
2009-06-03 17:27:46
権兵衛さま、facciamo la musicaへのご訪問、そして貴重なご意見を頂きありがとうございました。松田さんの熱い歌心には私も大変心服していて、若い演奏家のなかでもこの先がとりわけ楽しみですね。これからも応援して行きたいと思います。
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主に松田さんのこと (権兵衛)
2009-05-30 19:15:16
 ピアノトリオについての演奏批評、楽しく拝見しました。
 この清新な顔ぶれを見れば、演奏の成功は間違いないものと思われます。
 私はアマチュアの弦弾き(Vn.Vc)で、このシューベルトの曲も経験しましたが、ヴァイオリンは(当然に難しいとはいえ)普通?程度の難易度なのに、チェロのほうは、プロもたじろぐほどの難しさです。

>>向山さんのくっきりとした輪郭を描きつつ柔らかで抒情溢れるチェロと 松田さんの高貴な香りが漂ってくるような上品で、やはりとても柔らかなヴァイオリンが醸しだす空気-------

 この批評文を拝見すると、向山さんがこの難曲を見事にクリアされたことが伺われます。流石です。
 松田さんは、CD「カルメン幻想曲」に示されたような優れたヴァイオリニストですから、御批評のような演奏をさらたことは当然のことと受け止められました。

 私は松田さんが「アンダンテ カンタービレ」(チェイコフスキー)のような抒情的な小品(技巧派なら普通相手にしないような曲)を好んでレパートリーにされている点に興味を惹かれ「カルメン」を聞き、その才能に一驚したものです。
 実は、松田さんほどの技巧を持つ人は、国際コンクールを制覇するほどの人なら珍しくもないでしょうが、松田さんのように「技」と「歌心」をともにクリアした人は絶無である点に最も心惹かれます。
 彼女は国際コンクール入賞歴がないため、あまり注目されていないようですが、貴職の評価に示されたように、その演奏の素晴しいさは群を抜いています。
 彼女の「ヴォカリーズ」(ラフマニノフ)(「カルメン幻想曲」に収録)を耳にすれは、その「歌心」の素晴しさは、どなたも了解されるでしょう。
(松田さんについては、私の拙いブログで若干触れました)。

 清水さん、向山さんの高いレベルは既に実証済みですが、私は今後松田さんは日本でも世界でも、一流のものとして評価される日が近いと確信しています。
 (比較しては畏れ多いようなことですが、アンネ ムターの「カルメン幻想曲」を聞くと、その優劣について多くのものを感じさせられます)。

 松田さんのブログを拝見していると、ピアノトリオ演奏会があること、その練習をしていること----- などの簡単な記述はありましたが、「難しい」とか「悩んでいる」とか、普通の演奏家なら本番前に考えそうな文章は皆無でした。そして、やがて「本番は終りました」とだけ。
 これは驚くべきことですね。既に大家の風貌です。

 私の希望は、折角批評にお取り上げになるのなら、弦演奏の技巧面についてもう少し具体的に突っ込んだ批評を加えて頂き、その将来の可能性についても我々素人に御教示願いたい、ということです。
権兵衛
http://d.hatena.ne.jp/e-tsuji/
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