昨日、J庭に行けなくてすみませんでした。
行く気満々でしたのに、
麻8時にちょっと仕事して、家に戻って来る最中に鼻と喉がおかしくなってしまいました。
花粉症の薬を飲んでも止まらず、寒気もして来てしまったので参加を断念。
花粉症に風邪がミックスされたようでした。
着物も着て、ペーパーも準備していたのに残念!
せっかく書いた無料ペーパー用の小話をとりあえずここに転載いたします。
濡れ場がほとんどなくてすみません~~~
昔、子供のない夫婦がおりました。
夫婦は熱心にご利益があるという噂のある寺や神社にお参りを続けておりました。
その日もいつものように夫婦並んで
「子供が授かりますように」
と熱心に祈っておりました。その時、どこから来たのか小さなアオガエルが社殿に登って数回跳ねました。それを目にした妻が言いました。
「たとえ、あれくらいの大きさでも良いから、子供をどうか授けて下さい」
妻は子供を授かりました。
しかし、その子供はたった一寸(約3センチ)・・・アオガエルほどの大きさでございました。
それでも、せっかく神仏にお願いして授かった子供です。夫婦は一寸という呼び名をつけ、大切にその子を育てました。
それから十五年。男の子は凛々しく逞しく育ちました。大きさだけは相変わらず一寸。それでもこの時代の普通の男の子のように夢を持っておりました。
「都に行って出世をしたい」
一寸の言葉を聞いて両親は驚きました。
小さな村の中ですら迷子になってしまうような大きさです。都に無事に行けるでしょうか。たとえ、都に着いたとしてもこんなに小さな男の子を雇ってくれる人がいるとは思えません。両親は反対しましたが、一寸の決心は揺らぎません。
「神仏に祈って授かった子だから、何処に行っても神仏が守って下さるに違いない」
両親はそう思って諦め、一寸が都に行くことを許しました。
椀の船に箸の竿。一寸は都に向かうため川を下ることにしました。危ない急流や滝を避けながら、一寸は進みました。十日余りかかって一寸はようやく都にたどり着きました。
都の大通りに立った一寸はその広さと人の多さに驚きました。通りを行く人々は皆荷物を持ったり担いだり忙しそうにしています。都につくまでは、立派な公達の家にお仕え出来ればと考えていた一寸でしたが、大通り一つ横切るだけで命がけというありさまです。公達の屋敷などどうやって探せば良いのでしょう。右も左も分からない都の真ん中で一寸は途方に暮れました。
一寸が道の中ほどにある雑草の繁みにしばらく座っていると、向こうの方からやって来る立派な牛車が見えました。
「あれだ。あんな立派な牛車なら、立派なお屋敷に戻られるに違いない」
一寸は機敏に人の波をよけ、見咎められる事なく車輪に飛び移り、上手く牛車の前板に乗り込みました。
一寸がそっと簾の奥を覗くと、高い身分と思われる少年が一人で座っておりました。年頃は一寸とそれ程変わらないように見受けましたが、田舎育ちの一寸はこんなに綺麗な人間を見たことはありませんでした。品の良い整った顔立ち、上質な絹織物で出来た装束。この少年が高貴な身分だということは明らかでした。一寸はこの少年に仕えたいと思いました。
簾の影で身なりを整えると一寸は御簾の中に進み出ました。
「お願い申し上げます」
凛とした声が牛車の中で響きましたが、姿が見えません。少年は驚いて周囲を見回しました。それでも一寸に気がつかない様子です。
「声の主は誰です?どこから話しているのですか?」
脅えたのか語尾が震えています。
一寸は思い切って少年の膝の前に進みました。小さな人影に少年は目を見開き驚きを隠せない表情をしていました。
「お願いします。私をお側に置いて頂けませんか?」
一寸は礼儀正しく頭を下げて頼みました。
少しの間のあと、少年は笑みを浮かべました。
「そなたは、この私に仕えたいというのか?」
「はい」
即答した一寸に少年は手を差し伸べました。一寸はおそるおそる少年の手のひらに座ります。目の高さまで持ち上げられた一寸に少年は言いました。
「本当に人なのだな。こんなに小さいのに。名は何と言う?」
「一寸と呼ばれておりました」
「そうか、一寸。私は先の帝の第四王子。宮廷では厄介者だと思われている」
少し唇を上げただけの微笑みは寂しそうに見えました。
「そなたは本当に私に仕えてくれるのだね」
牛車が止まりました。一寸が夢にまで見た殿上人の住まいです。一寸は四ノ宮の掌の中で運命の一歩を歩み出しました。
宮廷というのは奇妙なところでした。
一寸はその身の小ささを生かして宮廷のあちらこちらに忍び込んでおりました。
大臣たちの思惑や帝の側近の陰謀。
帝の後宮の中にさえやすやすと入り込めるので女御や更衣、それを取り巻く女房達の噂話まで耳にすることが出来ました。だが、その話を四ノ宮に報告するたびに一寸の心は痛みます。
四ノ宮は先の帝の王子でございました。母は今上の帝の母の同母妹です。
皇太后は その当時、複雑な気持ちで妹の入内を見守っていたようでした。妹でありながら同じ帝に嫁ぐことになったのですから。皇太后は他家の女に夫の関心を向けられたくはなかったのです。
幸いなことに妹姫は若さと美貌で周囲に嫉妬されるほどに帝の寵愛を受けました。同母姉という立場で皇太后は妹を庇う態を装いながら、帝の信用と権力を着実に手に入れておりました。同母妹が病で亡くなった時、四ノ宮の将来を託されたのも皇太后でございました。帝が亡くなるときも未だ幼い四ノ宮のことを気にかけ、皇太子の次に四ノ宮を帝位につけるよう言い残されたとか噂されておりました。
しかし今、皇太后は四ノ宮が皇太子になることを阻んでおりました。それどころか出家させようと画策していたのです。
その理由をすぐに一寸は知りました。
未だ成人していない四ノ宮は後宮の一画に住んでいました。夜半過ぎ一人の女官が帝の使いとして文をもってやって来たのです。慌ただしく侍女たちは四ノ宮に姫君のようななりをさせました。
その姿で四ノ宮は数人の侍女達とともに帝のもとへと向かったようでした。
四ノ宮が留守の間、侍女達は噂話に興じておりました。侍女達の話をつなぎ合わせると帝は皇太子の時分から四ノ宮にご執心。おそらく初めてのお相手も幼い四ノ宮に違いないということでした。
明け方、四ノ宮は侍女に手を引かれながら戻って来ました。侍女達は女性ものの装束を片付け、沸かしておいた湯で四ノ宮の身体を清めたりと忙しく立ち回ります。その手慣れた様子からも侍女達の話は真実であることが汲取れます。そう考えた時に、一寸の胸の中に苦いものがこみ上げてきました。だが、お仕えする四ノ宮のお相手は帝。一寸は何か言えるような立場ではありません。侍女達からも人間扱いされていない下人。玩具のようなものだと思われているのです。珍しい小さい姿だからこそ内裏の中まで入れてもらえているのです。
床に入った四ノ宮の横で、一寸はその綺麗な寝顔をずっと見守っておりました。
一寸の諜報活動のおかげで、皇太后の画策は全て失敗に終わりました。皇太后の地位と財力のおかげで帝の耳に入る前に陰謀があった事実はもみ消されました。しかし、四ノ宮が帝に何か囁いて事実を暴かれれば・・・と考えると皇太后は落ち着きません。
そして、皇太后も四ノ宮への内通者が内裏のあちこちにいるのではないかと疑い始めました。
皇太后の実家の左大臣家の者たちは、帝が他家の姫に執心して世継ぎの御子をもうけるよりも、左大臣家の末娘の産んだ四ノ宮が跡継ぎになってくれた方が都合が良かったのです。
皇太后が頼んだのは最近とみに勢力を伸ばして来た僧でした。荒行を旨とする僧達は貴人の保護を求めていました。皇太后もまた「御世継の誕生祈願」と称して援助を約束出来ました。皇太后は僧の中でも信頼出来そうな人物を選び、ゆっくりと確実に四ノ宮を内裏と朝廷から追放する計画を内裏ではなく参拝先で練っておりました。
皇太后が内裏内では謀を巡らせなくなった頃、十七歳になった四ノ宮は帝に元服願いを申し出ました。成人男子は後宮から出なければならない決まりのため、帝が理由を付けては延期なさっていたのです。本来は十二歳から十六歳頃に行べきことなのです。いくら帝でもこれ以上 四ノ宮の元服を延期することは難しくなっておりました。
「元服したあとも、内裏に毎日顔を出すのだよ。それから、度々お前の屋敷を訪ねるからね」
元服の日取りが決まった日から帝は何度も四ノ宮をお呼びになり、約束をさせました。
帝自ら冠親となり元服した四ノ宮は後宮を離れ、新しい屋敷に移りました。
「これで、皇太后も私を目の敵にしなくなるだろう」
ようやく自分の屋敷を手に入れた四ノ宮が一寸だけに話し出しました。
「兄上は嫌いではないけれど、帝であることを時々お忘れになる。左大臣家、右大臣家、大納言家・・・。それぞれの家から入内された姫君を大事にしなければ」
一寸は頷きました。帝が彼女達を顧みないから四ノ宮への風当たりが増々厳しくなるのです。
皇太后と違って嫉妬と軽蔑と願望が入り交じった感情を
向けるのです。四ノ宮が男だから懐妊はしないという安心感と男のくせに帝を誑かしているという軽蔑。そして、自分が寵愛される立場になりたい入れ替わりたいという願望。
「ようやく、あの後宮から離れることができた」
一寸は大きく頷きました。
都に来たときは立派な家、殿上人に憧れを持っていたけれど、今は仕えているこの四ノ宮が幸福になってくれることを願うばかりです。
「一寸、お前が私と同じ大きさになったとしたら、きっと逞しい青年になるのだろうな」
四ノ宮の爪先が一寸の胸に触れました。
「・・・っ!」
その夜、一寸は四ノ宮の掌の上で散々弄ばれ、悦びを覚えました。
帝の度重なる催促をかわし、四ノ宮は自由な生活を楽しんでいました。侍女達は何かと忙しい宮中の方がやりがいも楽しみもあったようで、元服して屋敷に移った時について来たのは古参の者だけでした。おかげで静かに過ごすことが出来ました。一寸もこの屋敷の中の口の堅い侍女達の前では隠れたり脅えたりする必要がありません。
侍女の一人が端切れで着物を誂えてくれたり、針で刀を作ってくれたりもしました。立派な武者姿になった一寸は小さくても四ノ宮様をお守りしたいと心に決めました。
帝からの使者が幾度も訪れ、ようやく帝が訪問されたのは屋敷に移ってから半年後のことでした。皇太后に言い包められた陰陽師たちは、帝が訪問したいと希望を言い出すと、日が悪い、方角が悪いと難癖を付け、なかなか思う通りには運ばなかったためです。
牛車から降りるなり、帝は四ノ宮の手を取り、肩を抱きました。
「未だ妻はいないのだろう?」
帝は頷く四ノ宮の唇を奪いました。久しぶりの情熱的な口付けに酔ったようにしなだれかかる四ノ宮を帝は嬉しそうに抱きかかえました。
気を利かした古参の侍女が寝所へと案内に立ちました。
帝が留守の間、皇太后は女御の一人と話していました。
「私はそなたが気に入っているから言っているのだ。そなたは帝の御子を産みたくはないのか?」
「それは・・・産みたいですが・・・皇太后様・・・」
「行者様が仰っているのだ。山中の寺まで赴き、阿弥陀様をお参りした者だけが懐妊出来るとな。そなたが厭なら他の女御に話をしてもよいのだ」
「皇太后様・・・」
女御は皇太后の提案を他より先んじて受け入れ、山寺へ参拝に行くことを決めました。
宮中からの使いが四ノ宮のもとにやって来たのは帝の訪問の翌日でした。
「女御殿の懐妊祈願の付き添い・・・明後日とは急なことですね」
「急ですが陰陽師がまれに見るほど良い日と・・・これを逃すとあと一年はここまでの吉日がないと申しておりました」
「断る時間もないというわけですか。何故私が女御殿の付き添いに?」
「それも陰陽師が女御様と一緒に御祈願するのに相性の良い付き添いをということで・・・」
「帝とご一緒した方が良いのではないか?」
「そんな、四ノ宮様。帝はご多忙の身。滅多なことをおっしゃいますな」
「だが、昨日遊びに見えた。こんなところに来るくらいなら、世継ぎの懐妊祈願に行かれたほうが国のためになるであろう」
「私は使いにきただけです。これは宮中で決まったこと。四ノ宮様はお受けにならなければなりません」
使いは気を悪くして帰りました。
「どう思う、一寸?」
四ノ宮が言わんとしていることが一寸にも分かりました。帝がこのことを聞けば絶対に反対するでしょう。昨日秘密裏に急いで決められたこととしか思えません。しかも断る時間さえ与えられていないのです。
「とにかく用心いたしましょう」
一寸は侍女に頼んで針で矢を揃えてもらいました。庭にあった藤の弦で弓をつくりました。侍女たちは面白がって似合うような狩衣まで作ってくれました。
山寺に詣でるのは二日がかりの行程でした。女御は牛車で、四ノ宮は馬で、供を連れての道のりです。山道に差し掛かり、牛車では進めなくなると輿が用意されました。山寺といっても貴族が参拝に訪れることが出来る程度の険しさです。四ノ宮は馬に乗ったまま道を進みました。袖の中には一寸が隠れています。
やがて、立派な山門を通り大きな寺が現れました。
拝殿に入り、阿弥陀様を拝み、読経をすませます。
帰路につこうとしたときに、一人の年老いた僧が女御に話しかけました。
「女御様はお世継ぎの懐妊祈願とか。ならば、なぜ奥の院の子宝を授けてくださる仏様にお願いに行かれないのですが?」
「そのような仏様があるのですか?」
「皇太后様はそのことを仰っていらしたのでしょう」
話を聞いた女房達がこぞって女御に奥の院への参拝を薦めます。
もともと神仏に興味のない四ノ宮はそのまま残り、女御は女房たちと奥の院に向かいました。
日が傾き始めても女御達は戻りません。奥の院はそれほど遠い場所ではなく、読経の時間が伸びたにしても長過ぎました。四ノ宮に厭な予感が過りました。
「四ノ宮様。何かおかしいです」
一寸も囁きました。
「読経の時にも思ったのですが、これだけ大きな寺なのに人影が少ないです。女御殿がお参りに来るというのに花の一つも生けていない」
いざとなれば、警護の武者と女御の輿を担いできた屈強な男達がいます。
四ノ宮は木々の間から覗いている奥の院の屋根を目指して走り出しました。
屋根の大きさから素晴らしい建物を想像していたのに、扉の閉じられた奥の院は荒んだ様子をしていました。
「こんなところに秘仏などあるのか?」
戸は硬く閉じられていましたが、虫穴がいくつも空いていました。
「私が見て参ります」
一寸は穴から建物の中に入りました。
薄暗い奥の院の中では女御と女房達が手を縛られ、猿轡をされた状態で僧たちに犯されていました。
「子宝が欲しいのだろう」
「いっぱい入れてやるからな」
「さすがに女御様だ。具合がいい」
「宮中のお高い女房殿もこんなにたくさんの男を一遍に銜え込んだことはないだろう」
猿轡を嵌められて舌をかむことすら出来ない高貴な女性達に卑猥な言葉をかけることで楽しんでいる僧達。
一寸はそっと虫穴から這い出て四ノ宮に状態を伝えました。四ノ宮は不快な顔を隠しもしませんでした。
「これはもちろん表沙汰に出来ることではないな。私と一寸で何とか女御殿を助けることは出来ないか?」
「中は薄暗く、あの僧達は私を見つけることは出来ないでしょう。こんなに小さな人間がいるとも思っていないでしょうし。私が潜入してまずこの弓矢で奴らの目を狙います。多分毒虫だと思われるでしょう。ほとんどの者達が着物を脱いでおりますので何処を刺しても痛がるはずです。四ノ宮様は騒ぎが起こってから女御殿を助けにきて下さい」
そう言って一寸はまた建物の中に入っていきました。
しばらくして、一寸の言った通りのことが起こります。
「毒虫だ。腫れて来るぞ」
「痛い痛い」
「水だ、水で早く洗わなければ・・」
建物の中はパニックになり、手や足、顔を押さえながら
裸同然のだらしない恰好をした男達が飛び出して来ました。
頃合いを見計らって四ノ宮は建物の中に入りました。僧達は皆逃げ出した様子でした。四ノ宮は女房達の縄と猿轡を取り外しました。そして、年配の女房に言い含めました。
「女御殿にもしものことがあれば皆同じ罪になる。私も、下で待機している武者達や牛追い童までもだ。女御殿の猿轡を外すが自害など絶対になさらぬよう注意するのだ。いいか、女御殿が舌を噛んで自害したらそなたも私も皆死罪だぞ!」
常時なら、四ノ宮様に限ってそんなことはないと軽口を叩くような女房も、このときばかりは頷きました。
女御の猿轡を解いてもしばらくの間は放心していましたが、不意に舌を噛もうとなさいました。女御の口に指を入れて止めたのは年配の女房でした。
「姫様、姫様おやめ下さいませ!」
そして四ノ宮に言われた通りのことを女御に申し上げました。
「私も死にたくありませんし、警護の者も四ノ宮様も困ります!」
「でも私は・・・どうすればよいのでしょう。こんな事帝にはとても申し上げられません」
泣きじゃくる女御に四ノ宮は言いました。
「帝には黙っていれば良いのですよ。女御殿は誰に言われてここに来たのでしょうか?」
「皇太后様・・・・皇太后様が・・・謀ったのでしょうか・・・」
「そう、女御殿は皇太后のやり方を知ってしまった。私も知っている。私たちどちらかが帝に囁いたらどうなるか」
「では、帝に黙って・・・」
「そう、黙っていれば良いのです。いざという時の切り札になる。それに子宝を願って女御殿はここまで参られたのだから良いのですよ」
「四ノ宮様・・・」
「さあ、早くここを出ましょう」
女御を促して四ノ宮は建物から女性達を外に連れ出しました。しかし、扉の前で毒虫の治療を終えた僧が立ち戻って来ておりました。
「ふん、お前が四ノ宮か。高貴なお方には好きにしても良いと言われたんだが、俺たちは男には飽きているんでね」
「女御殿もここから先へは戻さないよ」
品の無い僧達がじりじりと女性達を囲みます。
「騒ぎをこれ以上大きくすれば、帝に対する反逆罪でこの寺は取り潰し。ここにいるお前達は皆死罪。そうなりたくなければわれわれを無事に都に戻すことだ」
「皇太后様がこんなことをしたお前達を庇うと思うの?あの方は自分の身を守るためにお前達に毒を盛ることも厭わない方だわ」
女御が僧達を睨みつけた。
「ここから声を出せば待機している武者や侍者が駆けつけて来るだろう」
「声など届かぬ」
「試しに叫んでみろ」
この地を熟知した僧達がはやし立てます。四ノ宮は先に人を頼んでおくのだったと後悔しました。
その時、奥の院の建物からふわりと煙が立ち上りました。やがて、めらめらと赤い火が建物の内部から外の壁を焦がします。
「火事だ!」
本殿の方から消火のため大勢の人が駆けつけて来ました。
「早く!」
一寸が四の院の袖に潜り込んできました。
「そなたが火をつけたのか?」
「一番人に気づいてもらえる方法です」
燃え盛る奥の院をあとに女御と四ノ宮は拝殿で待つ従者達のもとへと急ぎました。
「あの寺で不思議なものを見つけたんですよ」
屋敷に帰った四ノ宮に一寸が見せたのは細工が施された槌でした。一寸が手にしてちょうどいい大きさです。
「奥の院で朽ちかけていた阿弥陀様が握っていたものです。燃えるものを探してて・・・触れるとこんな大きさになりました。不思議だと思いながら、あの時これを振って火が熾ってくれないかなと願っていたんです」
そう言いながら、一寸は槌を四ノ宮の指先に置きました。するとどうでしょう。槌は四ノ宮の握りよい大きさに変化しました。
「確かに不思議なものだな」
異国風の彫刻で飾られた槌を軽く振って四ノ宮は言いました。
「一寸が大きくなってくれれば良いのに」
すると一寸の身体は弾かれたように宙に浮かびました。侍女が作ってくれた着物が飛び、逞しい青年が現れました。
「一寸?」
「四ノ宮様」
大きくなった一寸はいつも願っていたように四ノ宮を抱きしめました。安心出来る腕に抱き上げられ四ノ宮は頬を染めました。
「ずっと、四ノ宮様をこうして抱き上げてみたかった」
四ノ宮は腕を回し、一寸の唇に唇を合わせました。長衣口付けのあと、一寸は蓮かしげに四ノ宮を見つめました。
「一寸、私もお前と同じ気持ちだよ」
四ノ宮は笑みを浮かべながら片手で一寸の雄を撫で上げました。
「奥に参りましょう」
小槌の力は一日ほどで一寸はすぐにもとの大きさに戻りました。大きくなった一寸が屋敷内を歩きまわり、たまに現れる帝に嫉妬されても困ると、四ノ宮は寝所でだけ一寸が大きくなることを望みました。
女御と四ノ宮が都に戻ってから三日後。
あの寺は火事にあいました。昼間の火事だったというのに、不思議なことに僧侶たちは全て焼け死んだと伝えられています。
その日、女御のご実家では、お抱えの武士達がどこぞで狩りをして来たとかで賑わっておりました。
行く気満々でしたのに、
麻8時にちょっと仕事して、家に戻って来る最中に鼻と喉がおかしくなってしまいました。
花粉症の薬を飲んでも止まらず、寒気もして来てしまったので参加を断念。
花粉症に風邪がミックスされたようでした。
着物も着て、ペーパーも準備していたのに残念!
せっかく書いた無料ペーパー用の小話をとりあえずここに転載いたします。
濡れ場がほとんどなくてすみません~~~
昔、子供のない夫婦がおりました。
夫婦は熱心にご利益があるという噂のある寺や神社にお参りを続けておりました。
その日もいつものように夫婦並んで
「子供が授かりますように」
と熱心に祈っておりました。その時、どこから来たのか小さなアオガエルが社殿に登って数回跳ねました。それを目にした妻が言いました。
「たとえ、あれくらいの大きさでも良いから、子供をどうか授けて下さい」
妻は子供を授かりました。
しかし、その子供はたった一寸(約3センチ)・・・アオガエルほどの大きさでございました。
それでも、せっかく神仏にお願いして授かった子供です。夫婦は一寸という呼び名をつけ、大切にその子を育てました。
それから十五年。男の子は凛々しく逞しく育ちました。大きさだけは相変わらず一寸。それでもこの時代の普通の男の子のように夢を持っておりました。
「都に行って出世をしたい」
一寸の言葉を聞いて両親は驚きました。
小さな村の中ですら迷子になってしまうような大きさです。都に無事に行けるでしょうか。たとえ、都に着いたとしてもこんなに小さな男の子を雇ってくれる人がいるとは思えません。両親は反対しましたが、一寸の決心は揺らぎません。
「神仏に祈って授かった子だから、何処に行っても神仏が守って下さるに違いない」
両親はそう思って諦め、一寸が都に行くことを許しました。
椀の船に箸の竿。一寸は都に向かうため川を下ることにしました。危ない急流や滝を避けながら、一寸は進みました。十日余りかかって一寸はようやく都にたどり着きました。
都の大通りに立った一寸はその広さと人の多さに驚きました。通りを行く人々は皆荷物を持ったり担いだり忙しそうにしています。都につくまでは、立派な公達の家にお仕え出来ればと考えていた一寸でしたが、大通り一つ横切るだけで命がけというありさまです。公達の屋敷などどうやって探せば良いのでしょう。右も左も分からない都の真ん中で一寸は途方に暮れました。
一寸が道の中ほどにある雑草の繁みにしばらく座っていると、向こうの方からやって来る立派な牛車が見えました。
「あれだ。あんな立派な牛車なら、立派なお屋敷に戻られるに違いない」
一寸は機敏に人の波をよけ、見咎められる事なく車輪に飛び移り、上手く牛車の前板に乗り込みました。
一寸がそっと簾の奥を覗くと、高い身分と思われる少年が一人で座っておりました。年頃は一寸とそれ程変わらないように見受けましたが、田舎育ちの一寸はこんなに綺麗な人間を見たことはありませんでした。品の良い整った顔立ち、上質な絹織物で出来た装束。この少年が高貴な身分だということは明らかでした。一寸はこの少年に仕えたいと思いました。
簾の影で身なりを整えると一寸は御簾の中に進み出ました。
「お願い申し上げます」
凛とした声が牛車の中で響きましたが、姿が見えません。少年は驚いて周囲を見回しました。それでも一寸に気がつかない様子です。
「声の主は誰です?どこから話しているのですか?」
脅えたのか語尾が震えています。
一寸は思い切って少年の膝の前に進みました。小さな人影に少年は目を見開き驚きを隠せない表情をしていました。
「お願いします。私をお側に置いて頂けませんか?」
一寸は礼儀正しく頭を下げて頼みました。
少しの間のあと、少年は笑みを浮かべました。
「そなたは、この私に仕えたいというのか?」
「はい」
即答した一寸に少年は手を差し伸べました。一寸はおそるおそる少年の手のひらに座ります。目の高さまで持ち上げられた一寸に少年は言いました。
「本当に人なのだな。こんなに小さいのに。名は何と言う?」
「一寸と呼ばれておりました」
「そうか、一寸。私は先の帝の第四王子。宮廷では厄介者だと思われている」
少し唇を上げただけの微笑みは寂しそうに見えました。
「そなたは本当に私に仕えてくれるのだね」
牛車が止まりました。一寸が夢にまで見た殿上人の住まいです。一寸は四ノ宮の掌の中で運命の一歩を歩み出しました。
宮廷というのは奇妙なところでした。
一寸はその身の小ささを生かして宮廷のあちらこちらに忍び込んでおりました。
大臣たちの思惑や帝の側近の陰謀。
帝の後宮の中にさえやすやすと入り込めるので女御や更衣、それを取り巻く女房達の噂話まで耳にすることが出来ました。だが、その話を四ノ宮に報告するたびに一寸の心は痛みます。
四ノ宮は先の帝の王子でございました。母は今上の帝の母の同母妹です。
皇太后は その当時、複雑な気持ちで妹の入内を見守っていたようでした。妹でありながら同じ帝に嫁ぐことになったのですから。皇太后は他家の女に夫の関心を向けられたくはなかったのです。
幸いなことに妹姫は若さと美貌で周囲に嫉妬されるほどに帝の寵愛を受けました。同母姉という立場で皇太后は妹を庇う態を装いながら、帝の信用と権力を着実に手に入れておりました。同母妹が病で亡くなった時、四ノ宮の将来を託されたのも皇太后でございました。帝が亡くなるときも未だ幼い四ノ宮のことを気にかけ、皇太子の次に四ノ宮を帝位につけるよう言い残されたとか噂されておりました。
しかし今、皇太后は四ノ宮が皇太子になることを阻んでおりました。それどころか出家させようと画策していたのです。
その理由をすぐに一寸は知りました。
未だ成人していない四ノ宮は後宮の一画に住んでいました。夜半過ぎ一人の女官が帝の使いとして文をもってやって来たのです。慌ただしく侍女たちは四ノ宮に姫君のようななりをさせました。
その姿で四ノ宮は数人の侍女達とともに帝のもとへと向かったようでした。
四ノ宮が留守の間、侍女達は噂話に興じておりました。侍女達の話をつなぎ合わせると帝は皇太子の時分から四ノ宮にご執心。おそらく初めてのお相手も幼い四ノ宮に違いないということでした。
明け方、四ノ宮は侍女に手を引かれながら戻って来ました。侍女達は女性ものの装束を片付け、沸かしておいた湯で四ノ宮の身体を清めたりと忙しく立ち回ります。その手慣れた様子からも侍女達の話は真実であることが汲取れます。そう考えた時に、一寸の胸の中に苦いものがこみ上げてきました。だが、お仕えする四ノ宮のお相手は帝。一寸は何か言えるような立場ではありません。侍女達からも人間扱いされていない下人。玩具のようなものだと思われているのです。珍しい小さい姿だからこそ内裏の中まで入れてもらえているのです。
床に入った四ノ宮の横で、一寸はその綺麗な寝顔をずっと見守っておりました。
一寸の諜報活動のおかげで、皇太后の画策は全て失敗に終わりました。皇太后の地位と財力のおかげで帝の耳に入る前に陰謀があった事実はもみ消されました。しかし、四ノ宮が帝に何か囁いて事実を暴かれれば・・・と考えると皇太后は落ち着きません。
そして、皇太后も四ノ宮への内通者が内裏のあちこちにいるのではないかと疑い始めました。
皇太后の実家の左大臣家の者たちは、帝が他家の姫に執心して世継ぎの御子をもうけるよりも、左大臣家の末娘の産んだ四ノ宮が跡継ぎになってくれた方が都合が良かったのです。
皇太后が頼んだのは最近とみに勢力を伸ばして来た僧でした。荒行を旨とする僧達は貴人の保護を求めていました。皇太后もまた「御世継の誕生祈願」と称して援助を約束出来ました。皇太后は僧の中でも信頼出来そうな人物を選び、ゆっくりと確実に四ノ宮を内裏と朝廷から追放する計画を内裏ではなく参拝先で練っておりました。
皇太后が内裏内では謀を巡らせなくなった頃、十七歳になった四ノ宮は帝に元服願いを申し出ました。成人男子は後宮から出なければならない決まりのため、帝が理由を付けては延期なさっていたのです。本来は十二歳から十六歳頃に行べきことなのです。いくら帝でもこれ以上 四ノ宮の元服を延期することは難しくなっておりました。
「元服したあとも、内裏に毎日顔を出すのだよ。それから、度々お前の屋敷を訪ねるからね」
元服の日取りが決まった日から帝は何度も四ノ宮をお呼びになり、約束をさせました。
帝自ら冠親となり元服した四ノ宮は後宮を離れ、新しい屋敷に移りました。
「これで、皇太后も私を目の敵にしなくなるだろう」
ようやく自分の屋敷を手に入れた四ノ宮が一寸だけに話し出しました。
「兄上は嫌いではないけれど、帝であることを時々お忘れになる。左大臣家、右大臣家、大納言家・・・。それぞれの家から入内された姫君を大事にしなければ」
一寸は頷きました。帝が彼女達を顧みないから四ノ宮への風当たりが増々厳しくなるのです。
皇太后と違って嫉妬と軽蔑と願望が入り交じった感情を
向けるのです。四ノ宮が男だから懐妊はしないという安心感と男のくせに帝を誑かしているという軽蔑。そして、自分が寵愛される立場になりたい入れ替わりたいという願望。
「ようやく、あの後宮から離れることができた」
一寸は大きく頷きました。
都に来たときは立派な家、殿上人に憧れを持っていたけれど、今は仕えているこの四ノ宮が幸福になってくれることを願うばかりです。
「一寸、お前が私と同じ大きさになったとしたら、きっと逞しい青年になるのだろうな」
四ノ宮の爪先が一寸の胸に触れました。
「・・・っ!」
その夜、一寸は四ノ宮の掌の上で散々弄ばれ、悦びを覚えました。
帝の度重なる催促をかわし、四ノ宮は自由な生活を楽しんでいました。侍女達は何かと忙しい宮中の方がやりがいも楽しみもあったようで、元服して屋敷に移った時について来たのは古参の者だけでした。おかげで静かに過ごすことが出来ました。一寸もこの屋敷の中の口の堅い侍女達の前では隠れたり脅えたりする必要がありません。
侍女の一人が端切れで着物を誂えてくれたり、針で刀を作ってくれたりもしました。立派な武者姿になった一寸は小さくても四ノ宮様をお守りしたいと心に決めました。
帝からの使者が幾度も訪れ、ようやく帝が訪問されたのは屋敷に移ってから半年後のことでした。皇太后に言い包められた陰陽師たちは、帝が訪問したいと希望を言い出すと、日が悪い、方角が悪いと難癖を付け、なかなか思う通りには運ばなかったためです。
牛車から降りるなり、帝は四ノ宮の手を取り、肩を抱きました。
「未だ妻はいないのだろう?」
帝は頷く四ノ宮の唇を奪いました。久しぶりの情熱的な口付けに酔ったようにしなだれかかる四ノ宮を帝は嬉しそうに抱きかかえました。
気を利かした古参の侍女が寝所へと案内に立ちました。
帝が留守の間、皇太后は女御の一人と話していました。
「私はそなたが気に入っているから言っているのだ。そなたは帝の御子を産みたくはないのか?」
「それは・・・産みたいですが・・・皇太后様・・・」
「行者様が仰っているのだ。山中の寺まで赴き、阿弥陀様をお参りした者だけが懐妊出来るとな。そなたが厭なら他の女御に話をしてもよいのだ」
「皇太后様・・・」
女御は皇太后の提案を他より先んじて受け入れ、山寺へ参拝に行くことを決めました。
宮中からの使いが四ノ宮のもとにやって来たのは帝の訪問の翌日でした。
「女御殿の懐妊祈願の付き添い・・・明後日とは急なことですね」
「急ですが陰陽師がまれに見るほど良い日と・・・これを逃すとあと一年はここまでの吉日がないと申しておりました」
「断る時間もないというわけですか。何故私が女御殿の付き添いに?」
「それも陰陽師が女御様と一緒に御祈願するのに相性の良い付き添いをということで・・・」
「帝とご一緒した方が良いのではないか?」
「そんな、四ノ宮様。帝はご多忙の身。滅多なことをおっしゃいますな」
「だが、昨日遊びに見えた。こんなところに来るくらいなら、世継ぎの懐妊祈願に行かれたほうが国のためになるであろう」
「私は使いにきただけです。これは宮中で決まったこと。四ノ宮様はお受けにならなければなりません」
使いは気を悪くして帰りました。
「どう思う、一寸?」
四ノ宮が言わんとしていることが一寸にも分かりました。帝がこのことを聞けば絶対に反対するでしょう。昨日秘密裏に急いで決められたこととしか思えません。しかも断る時間さえ与えられていないのです。
「とにかく用心いたしましょう」
一寸は侍女に頼んで針で矢を揃えてもらいました。庭にあった藤の弦で弓をつくりました。侍女たちは面白がって似合うような狩衣まで作ってくれました。
山寺に詣でるのは二日がかりの行程でした。女御は牛車で、四ノ宮は馬で、供を連れての道のりです。山道に差し掛かり、牛車では進めなくなると輿が用意されました。山寺といっても貴族が参拝に訪れることが出来る程度の険しさです。四ノ宮は馬に乗ったまま道を進みました。袖の中には一寸が隠れています。
やがて、立派な山門を通り大きな寺が現れました。
拝殿に入り、阿弥陀様を拝み、読経をすませます。
帰路につこうとしたときに、一人の年老いた僧が女御に話しかけました。
「女御様はお世継ぎの懐妊祈願とか。ならば、なぜ奥の院の子宝を授けてくださる仏様にお願いに行かれないのですが?」
「そのような仏様があるのですか?」
「皇太后様はそのことを仰っていらしたのでしょう」
話を聞いた女房達がこぞって女御に奥の院への参拝を薦めます。
もともと神仏に興味のない四ノ宮はそのまま残り、女御は女房たちと奥の院に向かいました。
日が傾き始めても女御達は戻りません。奥の院はそれほど遠い場所ではなく、読経の時間が伸びたにしても長過ぎました。四ノ宮に厭な予感が過りました。
「四ノ宮様。何かおかしいです」
一寸も囁きました。
「読経の時にも思ったのですが、これだけ大きな寺なのに人影が少ないです。女御殿がお参りに来るというのに花の一つも生けていない」
いざとなれば、警護の武者と女御の輿を担いできた屈強な男達がいます。
四ノ宮は木々の間から覗いている奥の院の屋根を目指して走り出しました。
屋根の大きさから素晴らしい建物を想像していたのに、扉の閉じられた奥の院は荒んだ様子をしていました。
「こんなところに秘仏などあるのか?」
戸は硬く閉じられていましたが、虫穴がいくつも空いていました。
「私が見て参ります」
一寸は穴から建物の中に入りました。
薄暗い奥の院の中では女御と女房達が手を縛られ、猿轡をされた状態で僧たちに犯されていました。
「子宝が欲しいのだろう」
「いっぱい入れてやるからな」
「さすがに女御様だ。具合がいい」
「宮中のお高い女房殿もこんなにたくさんの男を一遍に銜え込んだことはないだろう」
猿轡を嵌められて舌をかむことすら出来ない高貴な女性達に卑猥な言葉をかけることで楽しんでいる僧達。
一寸はそっと虫穴から這い出て四ノ宮に状態を伝えました。四ノ宮は不快な顔を隠しもしませんでした。
「これはもちろん表沙汰に出来ることではないな。私と一寸で何とか女御殿を助けることは出来ないか?」
「中は薄暗く、あの僧達は私を見つけることは出来ないでしょう。こんなに小さな人間がいるとも思っていないでしょうし。私が潜入してまずこの弓矢で奴らの目を狙います。多分毒虫だと思われるでしょう。ほとんどの者達が着物を脱いでおりますので何処を刺しても痛がるはずです。四ノ宮様は騒ぎが起こってから女御殿を助けにきて下さい」
そう言って一寸はまた建物の中に入っていきました。
しばらくして、一寸の言った通りのことが起こります。
「毒虫だ。腫れて来るぞ」
「痛い痛い」
「水だ、水で早く洗わなければ・・」
建物の中はパニックになり、手や足、顔を押さえながら
裸同然のだらしない恰好をした男達が飛び出して来ました。
頃合いを見計らって四ノ宮は建物の中に入りました。僧達は皆逃げ出した様子でした。四ノ宮は女房達の縄と猿轡を取り外しました。そして、年配の女房に言い含めました。
「女御殿にもしものことがあれば皆同じ罪になる。私も、下で待機している武者達や牛追い童までもだ。女御殿の猿轡を外すが自害など絶対になさらぬよう注意するのだ。いいか、女御殿が舌を噛んで自害したらそなたも私も皆死罪だぞ!」
常時なら、四ノ宮様に限ってそんなことはないと軽口を叩くような女房も、このときばかりは頷きました。
女御の猿轡を解いてもしばらくの間は放心していましたが、不意に舌を噛もうとなさいました。女御の口に指を入れて止めたのは年配の女房でした。
「姫様、姫様おやめ下さいませ!」
そして四ノ宮に言われた通りのことを女御に申し上げました。
「私も死にたくありませんし、警護の者も四ノ宮様も困ります!」
「でも私は・・・どうすればよいのでしょう。こんな事帝にはとても申し上げられません」
泣きじゃくる女御に四ノ宮は言いました。
「帝には黙っていれば良いのですよ。女御殿は誰に言われてここに来たのでしょうか?」
「皇太后様・・・・皇太后様が・・・謀ったのでしょうか・・・」
「そう、女御殿は皇太后のやり方を知ってしまった。私も知っている。私たちどちらかが帝に囁いたらどうなるか」
「では、帝に黙って・・・」
「そう、黙っていれば良いのです。いざという時の切り札になる。それに子宝を願って女御殿はここまで参られたのだから良いのですよ」
「四ノ宮様・・・」
「さあ、早くここを出ましょう」
女御を促して四ノ宮は建物から女性達を外に連れ出しました。しかし、扉の前で毒虫の治療を終えた僧が立ち戻って来ておりました。
「ふん、お前が四ノ宮か。高貴なお方には好きにしても良いと言われたんだが、俺たちは男には飽きているんでね」
「女御殿もここから先へは戻さないよ」
品の無い僧達がじりじりと女性達を囲みます。
「騒ぎをこれ以上大きくすれば、帝に対する反逆罪でこの寺は取り潰し。ここにいるお前達は皆死罪。そうなりたくなければわれわれを無事に都に戻すことだ」
「皇太后様がこんなことをしたお前達を庇うと思うの?あの方は自分の身を守るためにお前達に毒を盛ることも厭わない方だわ」
女御が僧達を睨みつけた。
「ここから声を出せば待機している武者や侍者が駆けつけて来るだろう」
「声など届かぬ」
「試しに叫んでみろ」
この地を熟知した僧達がはやし立てます。四ノ宮は先に人を頼んでおくのだったと後悔しました。
その時、奥の院の建物からふわりと煙が立ち上りました。やがて、めらめらと赤い火が建物の内部から外の壁を焦がします。
「火事だ!」
本殿の方から消火のため大勢の人が駆けつけて来ました。
「早く!」
一寸が四の院の袖に潜り込んできました。
「そなたが火をつけたのか?」
「一番人に気づいてもらえる方法です」
燃え盛る奥の院をあとに女御と四ノ宮は拝殿で待つ従者達のもとへと急ぎました。
「あの寺で不思議なものを見つけたんですよ」
屋敷に帰った四ノ宮に一寸が見せたのは細工が施された槌でした。一寸が手にしてちょうどいい大きさです。
「奥の院で朽ちかけていた阿弥陀様が握っていたものです。燃えるものを探してて・・・触れるとこんな大きさになりました。不思議だと思いながら、あの時これを振って火が熾ってくれないかなと願っていたんです」
そう言いながら、一寸は槌を四ノ宮の指先に置きました。するとどうでしょう。槌は四ノ宮の握りよい大きさに変化しました。
「確かに不思議なものだな」
異国風の彫刻で飾られた槌を軽く振って四ノ宮は言いました。
「一寸が大きくなってくれれば良いのに」
すると一寸の身体は弾かれたように宙に浮かびました。侍女が作ってくれた着物が飛び、逞しい青年が現れました。
「一寸?」
「四ノ宮様」
大きくなった一寸はいつも願っていたように四ノ宮を抱きしめました。安心出来る腕に抱き上げられ四ノ宮は頬を染めました。
「ずっと、四ノ宮様をこうして抱き上げてみたかった」
四ノ宮は腕を回し、一寸の唇に唇を合わせました。長衣口付けのあと、一寸は蓮かしげに四ノ宮を見つめました。
「一寸、私もお前と同じ気持ちだよ」
四ノ宮は笑みを浮かべながら片手で一寸の雄を撫で上げました。
「奥に参りましょう」
小槌の力は一日ほどで一寸はすぐにもとの大きさに戻りました。大きくなった一寸が屋敷内を歩きまわり、たまに現れる帝に嫉妬されても困ると、四ノ宮は寝所でだけ一寸が大きくなることを望みました。
女御と四ノ宮が都に戻ってから三日後。
あの寺は火事にあいました。昼間の火事だったというのに、不思議なことに僧侶たちは全て焼け死んだと伝えられています。
その日、女御のご実家では、お抱えの武士達がどこぞで狩りをして来たとかで賑わっておりました。