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あの大学時代の、馬鹿なオレ。その3 【 イコマ 】

1年坊主、奴隷の

ザックには、

 

人参、玉ねぎ、じゃがいも、大根、キャベツ、

そして、りんご、オレンジなどの果物。

重い生(なま)のままの食糧に、

塩辛く炒めた豚のバラ肉をビニール袋に詰めたもの。

 

味噌、醤油、お酢、砂糖の調味料、瓶ごと。

インスタントコーヒーを瓶ごと。

 

非常用の燃料として、固形燃料にEPI ガスボンベ。

 

水道水を入れた2リットルの

ポリタンク「 ポリタン 」が、ふたつで4リットル。

衛生水として、自宅で10分以上煮沸して消毒した水、

ポリタンに2リットル、合わせて6リットルの水。

 

昼食用の炊込みご飯の詰まった飯盒( はんごう )。

 

背中に、鉄の使い込まれてへこんでいる、

マンホールの蓋くらいある大きさの鍋をくくり付け、

そして、旧軍隊のわさび色のテントに、鉄のポール。

加えて、

全員分のアルミの食器「 バイル 」と、

箸「 武器(ぶき) 」、

登山に立ち向かうための、

栄養補給の重要な道具で、箸を武器、と呼んだ、

そうだ。(当時、2年生の先輩に訊いても不明だった)

 

熊が出た時の武器としての鉈(なた)。

冗談です。木々や藪を切るためです。

 

ダンボールでサック状にカバーした包丁に、おたま、

千切り用にスライサー、たわし、ゴミ袋。

そして、

自分の着替えや、合羽、寝袋、

寝袋の下にひくウレタンマット、

ヘッドライト、チョコや飴などの非常食など。

 

忘れていけない地図とコンパス。

バテてほとんど見ない、けど。

 

人生の地図とコンパスは、

すでに、見失ってます。

 

 

これが、1年坊主、

奴隷の完全装備だ。

 

当然、ザックは、オレの体重より重くなり、

手で持ち上げても、背負うことは出来ない。

ザックを地面に寝かせ置き、肩ベルトに、腕を通して、

亀が裏返しに転(ころ)げた様子を

思い浮かべてください。

そこから、大きく足を振り上げ、振り子の勢いで、

降り降ろす力を利用して、オレは、起き上がる。

 

休憩の度に、毎回、

オレは、この亀の儀式を繰り返す。

 

道中は、ザックが重いため、腰を前傾姿勢に曲げ、

両腕を各々の腿(もも)で支えて、脚を前に出す。

 

周囲の景色を楽しむ余裕もなく、

オレの視線は、オレの汗で、

確実に、濡れて行くであろう、

その先の、山道を眺めているばかりだ。

苦行僧か!?

そう、苦行僧に、与えらた、もうひとつの試練は、

道中、歌を唄うことだ。


伝統はあっても、宗教性はない。

あるとしたら、

「不合理ゆえ我信ずる」という哲理だ。

 

楽しくないんだって、負担なんだって、

 

歌を唄う事なんて、そう、不合理なんだよ。

 

ピクニックじゃないんだから。

ハイキングじゃないんだから。

 

山を歩く行為は、同じかも知れないが、

ちゃんと、道ある道を歩くんじゃなくて、

藪を漕ぎ、

装備の荷物の重さが、全然、違うんだよ、

わかってんのか、「伝統という重み」さん、よ。

一歩、一歩、足を前に出すのが、

やっとなんだ。

自然の山の中、

アカペラで歌を唄う、似非(えせ)の歌手の役目は、

平民と奴隷です。

オレの十八番は、

憂歌団の『 イコマ 』

(女町エレジー)。

 

先輩たちは、オレが唄う事で、

初めて、知ったろ、この唄を、

切ない色街の女性の唄なんだよぉ。

とにかく、歌が、短いンだよ。

カタチは違えど、自分を投影しているんだよ。

 

急な坂道になり、唄う事が、キツイと、

「えっさぁ〜、こりゃさぁ〜」の掛け声に、

切り替わる。

どちらにしても、

声の発生作業は、休まない。

オレは、よく、息が上がり、疲労と反抗で、

ストライキ、だんまりを決め込み、

平民から、罵声を浴びられても、

それでも、沈黙を続ける、と、

奴らは、「 ちぇッ 」と、舌打ちして、

代わりに唄ってくれた。

優しいねぇ…、

神様、貴族の眼が、怖かったのか?

違った、耳が、怖かったのか。

 

 


そして、

この道のりは、つづく、

 

 

初出 17/09/04 05:44 再掲載 一部改訂

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